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青葉山の新緑と、消えた足音。

1950年の東北大学で起きた「イールズ事件」の当事者である祖父が、卒寿を前に、現代を生きる孫の男の子「律」へと激動の過去を語り継ぐ物語です。

第四話:鉄筆の継承 

「おじいちゃん、手紙に、まだ続きがあるよ」

律は、茶封筒の底に残されていた和紙の手紙の、最後の一枚を開いた。

そこには、先月亡くなったという「あいつ」が、晩年に家族へ語り遺した言葉が、遺族の丁寧な筆致で綴られていた。

『あの日、俺が捕まったとき、あいつが逃げていくのが見えた。心の底から、逃げ切ってくれと願った。俺たちのうち、誰か一人だけでも生き延びて、何事もなかったかのように穏やかに、幸せになってくれなければ、

あの暗い時代に、私たちが必死に抗った青春のすべてがただの無駄になってしまう。あいつが普通に生き延びて、温かい家庭を築いてくれたことこそが、私の人生の唯一の誇りだった。お前の鉄筆を、ずっと預かっていた。これを返せて、ようやく私の旅も終わる。生き延びてくれて、本当にありがとう。』

手紙を読み終えたとき、病室には静かな涙の音が満ちていた。

おじいちゃんは目から溢れる涙を拭おうともせず、天井を見つめ、ただ深く、優しく笑った。

七十年間、胸の奥底に沈んでいた冷たい澱(おり)が、あいつの言葉によって、温かな光へと溶けていくようだった。

「そうか……あいつ、わしを恨んでなどいなかったのだな。むしろ、わしの生を肯定してくれていたのか……」

律は、壁の無機質なタッチセンサー式の照明スイッチから、完全に手を離した。

そして、手元にある「ずっしりと重く、赤錆の浮いた一本の鉄筆」を、両手で包み込むようにして強く握りしめた。

それは驚くほど冷たくて、ざらざらとしていたけれど、確かに律の指先を通じて、おじいちゃんやあいつが生きた、激動の「昭和の手触り」を伝えていた。

「おじいちゃん。俺、この鉄筆を、俺が持っていていいかな」

律の言葉に、おじいちゃんはゆっくりと首を縦に振った。

「ああ、お前にやるよ、律。その鉄筆はな、わしたちが『自分の意志で、未来を選ぼうとした』、本物の手触りだ」

その時、おじいちゃんの手が、律の暖かな手をそっと包み込んだ。

それは、お祖母ちゃんがあの日、おじいちゃんの手を包み込んだ優しさと同じ、確かな「生」の温もりだった。

「お前は、自分の意志で進みなさい。わしの後悔も、あいつの誇りも、お前がその手で未来を選ぶための力になれば、それで十分だ」

病室の二人の間に、静かで、けれどこの上なく温かい沈黙が流れていった。

(エピローグへ続く)

📖エピローグ:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n48f2bdfc83cb
📖第3話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/nf3096db76a21
🌐英語版:https://note.com/ttukumoo/n/nc198a9502656

最後までお読みいただき、ありがとうございます。💗

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