8年土産|せりふ三題噺
「ハニービーチチャイラテ8年ぶりの復活」がSNSで話題になっている。ミネさんもかつてこれにはまりまくっていた、かといって今、空港内のショップの列のすぐ前に立つ女性が彼女である確証はない,ここはあの街から何千キロも離れてもいる。けどアップにした髪の生え際、星座みたいな3つのほくろ。宇宙広しといえども、ミネさんのものでしかありえないはずだ。
出会いはレンタルビデオ店だった。映画好き大学生だった僕は、『フィッシャー・キング』と『ビフォア・サンライズ』双方の「エンディング近く、草原で主人公たちが寝転ぶシーン」を比較してみたくて(当時は腐るほど時間があったからそんなことができた)、初めて入った店。返却しに行った時、カウンターにいたのが彼女だった。すぐアルバイトに応募した……公言すると気持ち悪いが、こういうことをした人って人類史上数万人といるはず。僕のここまでの人生で最大の成功体験は、彼女と付き合うことができたことだ。
「ミネさんは、この街にとどまったまま人生終える存在じゃないから」、
僕は彼女の夢を励ました。そのアドバイスがどうだったのか、あるいは彼女との何気ない風景⸻ペンネを作って一緒に食べていて、彼女が箸でつまんだ瞬間ロケットみたいに飛んだ⸻とか、未だうじうじ考える。果たして夢のため彼女は街を出て、僕たちは逆「木綿のハンカチーフ状態」となり、終わってしまった1年後、僕も街を出た。今は設計事務所で契約社員をしている。師匠に数冊の写真集と彼の備忘録を届けに、アスタナへ向かうところだ。そこはカザフスタンの新首都で、もともと広大な草原だったところにゼロから建造された人工都市だ。
列が進み、彼女がオーダーを言う。
「ハニービーチチャイラテ、ショート……いや、グランデサイズで」
何語であれ、それはミネさんの声だ。
「8年ぶり、そのセリフ聞けたや」、
僕はもう口に出していた。
(了、794字)

アスタナについてイメージを持つ時、以下の記事が参考になりました。
大江千里の2曲、「8年土産」と「dear」に影響を受けたと明らかにしたくて、タイトルと本文の一部を変えて寝ます。
そして今は
本当は君に逢いたい
あれからぼくはいろんな街で
きみの知らない夢を 生き続けてきたけど
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