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【創作長編小説】天風の剣 第178話

第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ
― 第178話 五分の一に、賭ける ―

 従者一体が、守護軍のほうへ……!
 
 黒い点となって空の向こうへ見えなくなった黒裂丸くろれつまるを、キアランは見送ることしかできなかった。

「キアラン、花紺青はなこんじょう!」

 シルガーが、キアランと花紺青はなこんじょうに向かって叫ぶ。

「あの従者、黒裂丸くろれつまるを追え! 今、白銀しろがね黒羽くろはもこちらに来た!」

 白銀しろがね黒羽くろは――!

 吹雪の向こうの、二つのエネルギー。白銀しろがね黒羽くろはが飛んでくるのがキアランにもわかった。 
 黒裂丸くろれつまるが抜けたことにより、この場にいる敵は、四天王青藍せいらんと、狼のような従者。テオドル、ソフィア、アマリア、ダン、ライネが戦おうとしているが、シルガーと共に白銀しろがね黒羽くろはも加わるとなると、こちらが優勢であると思えた。

「急げ! 迷っている暇はないぞ!」

「私たちからも、頼む! キアラン!」

 地上から、ダンの叫び声も聞こえる。

「わかった――!」

 キアランが返事をするやいなや、花紺青はなこんじょうはシラカバの幹を操り、黒裂丸くろれつまるの後を追う。

 姿を消したオニキスのこともある……! アマリアさんや皆が気になるが、守護軍の陣営を守らなければ……!

 吹雪が、後ろへ流れていく。傷だらけの全身を容赦なく打つ、雪のつぶて。キアランがめまいを覚えるほど、花紺青はなこんじょうは速度を上げていた。
 
 あれだ……!

 前方に見える、黒い球形。雪原に勢いよくバウンドしながら、地上と空に大きな半円を描くようにして飛行し続けていた。
 そのときだった。迫る強いエネルギー。キアランは、一瞬息をのみ、そして、叫ぶ。

花紺青はなこんじょうっ!」

 叫び声に、花紺青はなこんじょうもハッと気付く。
 大きく飛行高度を下げる。
 キアランの頭上を音を立て通り過ぎる、炎の柱のようなエネルギー。
 衝撃波だった。

「おや。気付かれましたか。ご子息」

 お前は――!

 キアランは振り向き、声の主を見た。

 四天王青藍せいらん――!

 予想外だった。四天王青藍せいらんは、あの場で戦い続けているものと思っていた。それが、青藍せいらんも追ってくるとは――。

「おや。そんなに驚いた顔をされなくとも。別に、私がいつあの場を抜けてもおかしくないではありませんか。私の狙いは、四聖よんせい。戦いに付き合う義理はありません」

 青藍せいらんは、キアランたちより上空を飛行し、見下ろし含み笑いをする。

「あなたとおぼっちゃん、それからついでに黒裂丸くろれつまるも一気に片付けようと思っていましたが、残念です。まるごと全部打ち損じましたねえ」

 前方を行く黒裂丸くろれつまるも、キアラン同様、青藍せいらんの衝撃波を察知し、飛行の高度を下げていた。
 守護軍の陣営は、目と鼻の先だった。

「まあいいでしょう。これで、すべて灰になります」

 なに――。

 どす黒いエネルギーが、青藍せいらんの周りに集まる。青藍せいらんは、大きな衝撃波を放とうとしていた。通常よりも、より大きく強大なエネルギー。キアランと花紺青はなこんじょうに向けてではなく、黒裂丸くろれつまると、その先にある守護軍の陣営に向け――。

「やめろーっ!」
 
 青藍せいらんを止めなければ。考えていた戦いの作戦を試すのは、今しかないと感じた。
 人間たちの魔法の力や、魔の者たちの衝撃波などの遠隔攻撃。キアランは、それらの攻撃法を持たない。ただできるのは、腕力で剣を投げることくらいだ。
 だから、炎の剣が必要だと思った。

 炎の剣を使うのは、今しかない……!
 
 キアランは、体の中に隠していた、炎の剣に意識を集中する。

 あの、アンバーさんとの戦いのときのように……!

 きらめきを放つ、炎の剣。炎の剣は、キアランの胸元から勢いよく飛び出した。青藍せいらんの五本の腕の中の、右真ん中の腕に向けて――。

『もう、やられるわけにはいきませんから』

 先ほど、青藍せいらんはそう述べていた。
 青藍せいらんの急所はわからない。しかし、キアランは、青藍せいらんの呟いたこの言葉に賭けていた。
 キアランは、すでに青藍せいらんの右側上部の腕を切り落としている。青藍せいらんの「もう、やられるわけにはいかない」という言葉は、残り五本の腕のうちの一本が急所である、そういうことなのではないか、とキアランは考えていた。

 単なる深読みに過ぎないのかもしれない。それに、残りの腕は五本、腕が急所だとしても、確率は五分の一。しかし、少しでも可能性があるならば――、

 炎の剣が吹雪を抜け、まっすぐ突き進む。

 私は、それに賭ける――!

 青藍せいらんの鋭く細い目が、見開かれる。

「まさか! あなたの体そのものは人間だと――」

 人間の体の中から剣が発射される、そんなことがあるはずがない――、青藍せいらんは息をのみ、それから素早く剣の軌道から逃れる。
 炎の剣は青藍せいらんのいた場所を通り過ぎ、ただ空を切り裂いていく。

「うっ」 

 ゴウッ……!

 音と光、そして熱。青藍せいらんがうめき声を上げる。
 青藍せいらんの背に、衝撃波が直撃していた。

「キアランの策に気を取られ、背中が、がら空きだぞ。青藍せいらん

 シルガーだった。青藍せいらんを追ってきたシルガーが、青藍せいらんの背に向け衝撃波を放っていたのだ。衝撃波は、すぐ近くにいるキアランと花紺青はなこんじょうへの影響を考慮したのか、威力も範囲も大幅に抑えられているようだった。
 
「シルガー、さ、ま……」

 それでも青藍せいらんの体の真ん中に大穴が開き、青藍せいらんは五本すべての腕を、だらりと下げた。
 炎の剣は、大きく弧を描いて戻り、ふたたびキアランの体に入っていく。

 今だ……!

 キアランと花紺青はなこんじょうは、空を駆ける。

「同じ手は――」

 青藍せいらんは、キアランの胸元を睨みつける。ふたたび繰り出されるであろう、炎の剣の軌道を読もうとしていた。
 鈍い音がし、血が噴き出る。

「な……!」

 腕が、空を舞う。
 炎の剣ではなかった。炎の剣にすっかり気を取られ、そしてシルガーからの攻撃のダメージの影響もあり、キアランの手に握られた天風の剣への警戒がおろそかになっていた。
 キアランの天風の剣が、青藍せいらんの右真ん中の腕を斬り飛ばしていた。

「どうだ、五分の一……!」

 天風の剣を構えたまま、青藍せいらんのほうを振り返る。

 やつが卵の姿になる前に、確実に仕留めなければ――!

 キアランが目にしたのは、金の光。
 青藍せいらんの体が、光り始める。

「ば、か、な……。この私が……、あのような者に、こんな簡単で幼稚な惑わしに――」

 キアランの読みは、当たっていた。狙った腕が、青藍せいらんの急所だった。
 キアランは安堵し、そして同時に恐れた。

 私の身に流れる、魔の者の血。私が四天王になってしまう、その可能性は……?

 どくん。キアランの心臓が脈を打ち、冷たい汗が背をつたう。
 青藍せいらんは、笑っていた。キアランの密かな危惧を、見透かしたかのように。

「ふふ、あなたは、四天王のご友人や従者のご友人もいらっしゃるようですが、人間の中で生きておられるのでしょう? しかしあなたはこれで、人間のままでいられるのでしょうか、それとも……?」

 ドンッ……!

 息をのむ。光に包まれ、輪郭を失いつつあった青藍せいらんが、衝撃波を放っていた。おそらく、振り絞った最後のエネルギー。消え去る前の――。

「私が、新しい世界の王となる、大それた夢……。掴めるかと思ったのですが――」

 青藍せいらんは、夢見るように目を細めた。

「ふふ……。もう、私は――。あなたが四天王になるかどうかすら、見届けられそうもなく、残念です。それでも、私の、生きた証、刻んでみせましょう――」

 青藍せいらんの放った衝撃波は、先ほど目標としていた黒裂丸くろれつまる、そしてその先にある守護軍の陣営に向け、飛んで行く――。

「みんな……!」

 キアランは、絶叫した。届くはずも遮ることもできないのを知りながら、手を伸ばす。ルーイたちのいる守護軍の陣営に向け――。

「すべて、灰になれば、いいのです、よ……」

 青藍せいらんはかすかな笑みを浮かべ、そして背から剥がれ落ちた四枚の翼と共に、地上へと落ちていった。

◆小説家になろう様、pixiv様、アルファポリス様、ツギクル様掲載作品◆

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