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【創作長編小説】天風の剣 第175話

第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ
― 第175話 戦いの渦へ ―

 雪を染める、鮮やかな赤。
 全身に痛みが走る。目の前に火花が散り、一瞬気が遠のきそうになる。キアランは自分の感覚を取り戻そうと、激しく首を振る。

「キアランッ、大丈夫っ?」

 キアランが落ちないよう支えながら、花紺青はなこんじょうが叫ぶ。赤朽葉あかくちばの衝撃波により、キアランの体中あちこちの皮膚が裂け、血が噴き出していた。

「私は大丈夫だ。花紺青はなこんじょう、お前はっ?」

「僕はヘーキッ!」

 花紺青はなこんじょうも全身傷だらけだったが、元気な声で応える。
 キアランたちの後方から、呪文を唱える声と、無数の光が突き抜けていく。
 攻撃の魔法、守護の魔法、両方なのだろうと思えた。キアランは精神を集中させ、後方から馬を走らせている皆の安否を探る。

 馬の速度は変わらない。皆、無事だ……!

 キアランの口から、思わず深い安堵のため息がもれる。
 距離があるためと、守りの魔法、それからソフィアの持つ蒼井の盾の効力のおかげか、アマリアたち守護軍の皆や馬たちは無事のようだった。

「やはり、四天王の血が入っているだけあるな――」

 ガアアアアッ!

 ふたたび、赤朽葉あかくちばの口から衝撃波が放たれる。

「同じ手は食わないよっ」
 
 花紺青はなこんじょうは大声で叫ぶと、キアランが落ちないようキアランの体をしっかり掴み、シラカバの幹の速度を上げ、急旋回した。

「その吠える技、広範囲に影響を与えるようだけど、直撃よりはマシっ」

 キアランと花紺青はなこんじょうの体から、ふたたび血が流れ出る。しかし、花紺青はなこんじょうの見抜いた通り、先ほどと比べると衝撃は少ない。

花紺青はなこんじょう、地上でやつと戦う! 私は、飛び降りる!」

 キアランが叫ぶ。このままでは、自分だけでなく花紺青はなこんじょうも攻撃を受けてしまうと思ったのだ。

「でも、あいつ、動きが速いし衝撃波も――」

 花紺青はなこんじょうが叫び返したときだった。大地を揺るがす爆発音がし、大量の雪煙が上がり、赤朽葉あかくちばの姿が一瞬見えなくなる。

 今のは――!

 キアランは、吹雪の夜空に銀の色を認めた。

「シルガー!」

 シルガーが赤朽葉あかくちばに向け、衝撃波を放ったのだ。

「キアラン。間に合ったな」

「シルガー、無事でよかった――」

 しかし、キアランの喜びも束の間――、

 ドンッ、ドンッ!

 あちこちから轟音が鳴り響く。

 なんだ、これは――!

 吹雪の向こうには、キアランが腕を一本切り落とし、胸の辺りを刺した、あの異形の四天王の姿があった。
 そして、雪原を大きく弾みながらやってくる球状の魔の者――黒裂丸くろれつまる

 四天王と二体の従者たち――!

 キアランの目の前にいた赤朽葉あかくちばも、今度はキアランたちへではなく、四天王のほうへ衝撃波を放っていた。
 魔の者同士それぞれが、互いに攻撃をし合っているようだ。
 キアランの前に現れた敵たちは、キアランや守護軍を標的にしているのではなく、どういうわけかそれぞれが、それぞれに向け攻撃を始めたのである。

 私や守護軍の人間たちは、やつらにとって取るに足らない存在ということか。

 人間たちにとって、幸いとなるのかそうでないのか。とてつもない破壊力で戦闘し続ける魔の者たち。
 一見無秩序の戦闘状態に見えたが、どうも単純な構図ではないようだった。
 どちらかと言えば、シルガーと四天王が共闘していて、巨大な狼のような従者と球形の従者が、緩やかな協力関係にあるように見えた。

「そうか。やはり、あの従者たちにとって、現在の四天王は、敵なんだ」

 花紺青はなこんじょうが、静かな声で呟く。

「どうしてシルガーが、あの四天王と共闘を?」

 キアランは、思わず花紺青はなこんじょうに尋ねる。

「共闘じゃない。新しい四天王が、シルガーの力を一方的に利用し、うまくシルガーの陰に隠れながら、自分の力を行使してるんだ」

 激しい戦闘音と光、爆風。キアランは天風の剣を握りしめながら、今、怪物たちの力がぶつかり合う戦火の中に飛び込むべきか、チャンスを伺いながら静観すべきか、考えあぐねていた。

 やはりシルガーとあの四天王――。従者たちのほうが、圧倒的に押されている。

 普通に考えて、従者たちの敗北は時間の問題だと思った。
 でも、とキアランは思う。

「あの四天王、攻撃の合間に――」

 風のように自在に駆け巡る四天王シルガーと四天王青藍せいらん。流れるような四天王青藍せいらんの動きの中の、ほんのわずかな違和感。たとえば、首のかすかな傾き、対象物を追う目の動き――。

 獲物とする標的が、変わっている。

 うん、と花紺青はなこんじょうがうなずく。

「シルガーを利用しながらも、シルガーを殺す機会、うかがってるね」

 シルガー!

 キアランと花紺青はなこんじょうの心は、決まっていた。
 キアランと花紺青はなこんじょうが、魔の者たちの戦闘の渦に飛び込もうとした、まさにそのとき――。

「キアランッ!」

 地上から、ソフィアの声がした。

「これ、受け取って……!」

 ソフィアがキアランたちに向かって掲げたのは、蒼井の盾。

「それは、皆を守るために――」

 キアランは首を振った。

「あたしが、あんたたちを守ってやりたいって言ってんの! 素直に受け取んなさいっ」

 ソフィアは、力任せに盾を放り投げていた。いくら軽いとはいえ、ソフィアの力で盾が空高く上がるわけもなく、花紺青はなこんじょうとキアランは、慌てて急降下して盾を取りにいくはめになる。

「どーせ止めたって、あんたたちは率先して突っ込んで行くんでしょ! だーから、それはあんたたちが持ってなさいっ」

「ありがとう……! ソフィアさん……!」

 有無を言わさず盾を受け取るはめとなったキアランが、少々困惑しつつも笑顔を向けると、ソフィアは自分の剣を振り回し、ニッと笑い返した。
 花紺青はなこんじょうの操るシラカバの幹が上昇するにつれ、遠ざかっていくソフィアの笑顔。やんちゃな笑みは、小さくなって見えなくなる瞬間、泣き顔のようにキアランの目に映っていた。

 ソフィアさんは、本当は誰よりも繊細で、心優しい女性なんだ――。

 見上げ続ける皆の顔も、キアランは見ていた。
 アマリア、ダン、ライネ、テオドル。皆、キアランを支え、励まし、助けてくれた。

 誰も失いたくない。誰も……!

 キアランは右手に天風の剣、左手に蒼井の盾を持ち、四天王青藍せいらんのほうへと向かう。
 アマリアやダン、ライネ、その他魔法使いや魔導士たちの治癒の魔法と守護の魔法が、きらきらと美しい光を放ちながら、キアランと花紺青はなこんじょうを包んでいた。

◆小説家になろう様、pixiv様、アルファポリス様、ツギクル様掲載作品◆

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