こころの在処|「私は愛されても大丈夫」と思えた場所
※この記事は、#ちび創作大賞 の参加作品です。
カケルンさんのテーマ「#こころの在処」に寄せて書きました。
こころの在処
大好きな人のはずなのに、なぜか確かめすぎてしまうことがあります。
安心したいだけだったのに、気づけば相手を追い詰めてしまう。
今日は、そんなすれ違いの中にあった「こころの在処」について書いてみます。
※この記事は、守秘義務に十分配慮し、複数のご相談をもとに再構成したフィクションです。実在する特定の事例ではありません。
「先生、私、やってしまいました。」
彼女は、少し困ったように笑いました。
少し前までの彼女は・・・
自分の気持ちを飲み込んでしまうことが多かった人です。
「嫌われたくない。」
「迷惑をかけたくない。」
そんな思いから、いつも相手を優先していました。
けれど最近は・・・
自分の気持ちを少しずつ言葉にできるようになっていました。
そんなある日。
交際している彼から、結婚を考えていると言われたそうです。
さらに、彼の親しい友人からも、
「結婚したいと思ったのは、あなたが初めてなんだって。」
そんな話を聞きました。

本当なら、安心してもいい出来事です。
けれど彼女は、その夜、彼にたくさん質問をしました。
「ありがとう。」
「私のどんなところが好きなの?」
「どうして結婚したいと思ったの?」
「具体的には、どんなふうに考えているの?」
彼の気持ちを疑いたかったわけではありません。
ただ、うれしかったからこそ知りたかった。
安心したかったのだと思います。
でも、口下手な彼は、うまく答えられませんでした。
彼が言葉に詰まるたびに、彼女の胸の奥がざわついていきました。
「答えられないということは、本当は迷っているのかもしれない。」
そんな考えが、一度浮かぶと止まらなくなっていきました。
そして彼女は、こんなふうに受け取ってしまいました。
「答えに困っているんだ。」
「この場の雰囲気もつらいと思っているんだ。」
「だったら、もう帰ったほうがいいのかもしれない。」
そう思った彼女は、彼に帰ることを促しました。
彼は、何かを言い返すよりも、その場を離れることを選びました。
それは怒りというよりも、
「態度でも示しているのに、どうして伝わらないのだろう。」
そんな諦めに近い気持ちだったのかもしれません。
もちろん、それは私が話を聴きながら受け取った一つの印象です。
二人の間で実際に何が起きていたのかは、彼にしかわからない部分もあります。
けれど少なくとも、その場には、
確かめたい彼女と、
どう伝えたら届くのかわからなくなった彼との、
すれ違いがあったように感じました。
その日のうちに彼女は急いでLINEを送りました。
「ごめん。やっぱり会いたい。今からそっちに行くから。」
けれど、その日、彼は会わない選択をしました。
翌日、彼から言われた言葉は、
「少し、自分勝手だなって思った。」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の胸がすっと冷たくなりました。
注意されたというより、自分という人間を否定されたように感じたのだと思います。
「そんなことを言われたのは初めてです。」
「最近、自分の意見を伝えるようになったからでしょうか。」
「やっぱり私は、性格を直したほうがいいのでしょうか。」
そして彼女は、きっぱりと言いました。
「彼は、結婚に自信がないんです。」
話を聴きながら、私は少し違うことを考えていました。
私は静かに尋ねました。
「結婚に自信があるって、どういうことだと思いますか。」
彼女は少し考えました。
「……そうですね。」
私は続けます。
「二人とも、結婚したことはありませんよね。」
その瞬間、彼女は「あっ」という表情になりました。
そして照れたように笑いました。
「……私も、自信なんてありません。」
それから、もう少し一緒に整理しました。
「言葉ではなく、彼の態度、行動はどうですか。」
「彼女として大事にしてくれています。家族も含めて、大切にしてくれています。」
「では、その行動は信じられそうですか。」
「……はい。行動を考えると、信じられます。」
……。
「言葉でも、確かめたかったのですね。」
彼女は、小さくうなずきました。
安心したかったのだと思います。
彼の気持ちを知りたかった。
でも、本当に確かめたかったのは、
「私は愛されても大丈夫なのか。」
その答えだったのかもしれません。
さらに私は尋ねました。
「では、自分に自信がないのは、誰でしょう。」
少し沈黙が流れました。
そして彼女は、ふっと吹き出しました。
「……私ですね。」
二人で笑いました。

少し前の彼女だったら、この問いは責められたように感じたかもしれません。
「私が悪いと言われた。」
そう受け取って終わっていたかもしれません。
でも、その日は違いました。
自分が本当は何を感じていたのか。
何を怖がっていたのか。
何を確かめたかったのか。
彼女は、自分のこころに耳を傾けられるようになっていました。
自分の気持ちを、自分で受け止める力。
少し離れたところから、自分を見つめる力。
その力が、少しずつ育ってきていたのです。
だから、この問いは責める言葉ではなく、
自分を理解する入り口になりました。
人は、不安になると、自分のこころの中にあるものを、相手の気持ちとして感じることがあります。
あの日、彼女が探していたのは、
彼の答えだけではなかったのだと思います。
「私は愛されても大丈夫。」
その安心を、彼の言葉の中に探していました。
けれど、こころが帰ってこられる場所は、
誰かの答えの中だけにあるのではないのかもしれません。
自分が自分の気持ちに耳を傾け、
不安な自分も、
うまくできなかった自分も、
安心して迎え入れられる場所。
そこに、
こころは静かに帰ってきます。
今日は、ここまで💗
もし読んでくださったあなたの中にも、少しだけ自分のこころに立ち止まる時間が生まれていたら、うれしく思います😌💞
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