第4話:一緒にいるのに、孤独を感じる私ーASDと愛着障害の二人
※この物語はフィクションです。ただし、実際の心の葛藤や体験をヒントに描いています。
第4話 「小さな幸せと、ふくらむ不安」
私たちは恋人になり、大学の図書館やカフェで、一緒に過ごす時間が増えていった。
彼は相変わらず、自分の好きなことについて専門家のように熱心に話してくれた。宇宙の成り立ち、物理学の法則、歴史的な出来事。彼の話は、私にとって新しい世界を広げてくれるものだった。私は、彼の知識欲と、感情よりも事実を大切にするその生き方に、ますます惹かれていった。
彼との食事は、いつも同じだった。昼食はいつも決まったカフェで、決まった席に座り、決まったメニューを頼む。彼に「今日は違うものにしない?」と聞いても、「うん」とだけ答えて、いつもの席に座る。
私が「美味しいね」と笑顔で言うと、彼は「うん。何を食べてもおいしいよ」と、私の気持ちとは少しずれた返事をした。
彼はいつも3冊の本を同時に読んでいた。統計学や数学の本、歴史書。彼は、世の中の出来事はすべて微分積分で表せると楽しそうに語っていた。どれも私には難解な本ばかりだったけれど、彼はそれをまるでパズルを解くように、嬉しそうに読み進めていた。その姿は、まるで少年のようだった。
一方で、私は彼との関係を深めるために、彼の興味に合わせて色々なことを試した。ホラーや心霊系の話が苦手な彼に、私が勧める恋愛映画を一緒に見たりもした。彼は隣で私の手を取りながらも、すぐに規則的な寝息を立て始めた。私は、そっと彼の頭を私の肩に乗せてあげた。
彼は、私のそんな努力に気づいているのかいないのか、特に何かを言うことはなかった。
「この本、面白そうだね」
私がそう言って彼が読んでいる本を指すと、彼は「うん」とだけ答えた。その言葉が、私にとっては、彼が私の存在を認めてくれている証のように思えた。
彼は言葉で愛情を表現することはなかったけれど、行動で示してくれていた。
私が風邪を引いて寝込んだとき、彼は私の家にやってきて、黙って教科書を読んでいた。彼は私に「大丈夫?」と聞くことはなかったけれど、私がベッドで眠っている間、ずっとそばにいてくれた。
ある雨の日、私が彼に「ねえ、私のこと好き?」と聞いたときも、彼は少し考えてから、「うん」とだけ答えた。
彼の言葉はいつも短く、私の求める感情的な答えではなかった。それでも、私は彼が私を愛してくれていると信じていた。この、言葉にならない愛を理解することが、彼のそばにいる唯一の道だと信じていた。
けれど、心の奥底で、小さな不安の種が育っていくのを感じていた。
それは、彼が話す物理学の法則のように、理屈では説明できない、どうしようもない感情だった。
私は、彼の言葉に安心しようとすればするほど、自分自身の感情を押し殺しているような気がしていた。
この穏やかな時間が、いつか崩れてしまうのではないかという、漠然とした恐怖が私の中にあった。それは、まるで、夜空に輝く星が、いつか燃え尽きてしまうことを知っているかのような、悲しい予感だった。
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