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[映画]『アラビアンナイト 三千年の願い (ジョージ・ミラー監督/2022)』


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データ

 原題: Three Thousand Years of Longing
 監督: George Miller
 製作年度: 2022
 製作国: オーストラリア=アメリカ
 アスペクト比: 1:2.35f
 上映時間: 1h48
 公開日: 2023年2月23日
 配給: キノフィルムズ

はじめに

 映画館にたまに行きながら、見逃した映画をCSで拾い観している。この作品もその一つ…と言うより、ほぼ未知の映画だった。そもそもジョージ・ミラーの監督作品であることすら知らなかったのだった。

ザ・シネマ

 千一夜物語はレイ・ハリーハウゼンのシンドバッドものやディズニーのアニメーション、土俗的なパゾリーニ作品、日本でも手塚治虫がアニメーション化しているが、あまり楽しめた記憶が無い(手塚治虫作品は未見)。

 この作品は千一夜物語そのものではなく、現代を舞台にした孤独な学者と孤独な魔人の交流を描いた作品で、なかなか面白かった。

概要

アリシアと魔人の出逢い

 飛行機に搭乗しているアリシア・ヴィニー(ティルダ・スウィントン)のモノローグから映画が始まる。

私の名はアリシア
これは本当の話でもおとぎ話のように語るほうが信じやすいかも
昔々のこと…
人間が金属の翼で大空を駆け巡り
水かきのある足で海の中を歩き
手に持ったガラスの板で恋の歌を聴いていた頃…
十分に幸せな一人ぼっちの女がいた
自ら孤独を選び 自立しているから幸せで学問で生計を立てていた
専門は物語
物語論(ナラトロジー)の研究者で人類の物語に共通する心理を探求していた
そのために年に1~2度は異国の地を旅した
中国、南の海や地中海東部の悠久の地へ
同好の士による"物語を語る会"に出るため

金属の翼はアリシアが乗っているイスタンブール行きの旅客機、
水かきは座席についた液晶画面に映るダイバーの映像、
そしてガラスの板はアリシアがいじっているスマホのことをさしている。

 イスタンブール空港で小柄な男がアリシアに近寄ってきて"イスタンブールの神秘だ!"と叫ぶが迎えが近づくと立ち去る。

 アリシアは仲間と一緒にタクシーで移動中にそのことを話す。"小柄で羊皮のコートにピンクの襟、体温が高く、ムスクの香りがした…"その話を聞いた友人は魔人(ジン)かも"と笑い、運転手は白タクですよ、と吐き捨てる。

 アリシアはホテルにチェックインする。クリスティが「オリエント急行の殺人 (Murder on the Orient Express/1934)」を執筆した部屋だと言われる。

ホテルは「ペラパレスホテル」。アガサ・クリスティは411号室を定宿としていて、ここで「オリエント急行の殺人」が執筆された。映画でアリシアを部屋に案内した友人はそう説明するが、実際に宿泊する部屋は333号室となっている。

 そして講演会。アリシアは友人と二人でステージで聴衆に向かって語り掛けている。

物語は混乱を鎮める唯一の方法

 聴衆の中に幻影を見るアリシア。どこか空港で出会った小男に似ている。

神話とは遠い昔に知り得たこと
科学とは今知り得ること
遠からず想像の物語は科学の語りにとって変わられる…精密な科学の力で
そして神々や魔物は本来の役目を終えて、隠喩としての存在と化す

 幻影はいつの間にか最前列に座り、そしてアリシアに近づき"ふざけるな!"と叫ぶ。気絶するアリシア。

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物語論(ナラトロジー)は構造主義を基盤として発展した、物語テキストを研究する理論とのこと。ここでアリシアが語っているのは、神話が科学的な裏付けを経て、メタファー化している、ということを話している。

その考えについてのアリシアの是非はセリフからは読み取れないが、幻影は自身の存在を否定されたことで怒ったのだろう。

 公演を終えて友人とバザールでアンティークのチェシュミ・ビュルビュル(ナイチンゲールの目)の瓶を目にする。1845年に作られたものだが、アリシアはこれが本物かどうかをどう見極めるかと店員に聞くと、"本物ならガラス職人の肺からの血が見える"と説明し、これは模造品であることを伝える。アリシアは購入する。

チェシュミ・ビュルビュル(Çeşm-i Bülbül)はオスマン帝国時代に確立された伝統的な吹きガラスの技法および製品の名称。

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 そしてホテルの部屋で瓶を洗浄する。と、突然、蓋が空き、中から魔人(イドリス・エルヴァ)が現れる。魔人はアリシアに3つ願いを叶えると伝え、ただし、永遠に生きること罪を赦すこと苦しみを終わらせることだけはできないと話す。

 アリシアは願いごとをするのは間違っていると断言する。幼少期に孤独だったアリシアはエンツォという空想の友人を作ったが、自身の想像力に圧倒されてやめてしまったことを説明する。アリシアはエンツォを封じ込めるとともに何かを願うこともやめてしまった。

 だから、望みごとは何もない、と言い張るアリシアに魔人がキレる。

There is no human, nor angel, nor demon,
who wouldn't grasp at the chance to fulfil their deepest longings.
And I am saddled with the one who claims to want nothing at all?
Alithea Binnie, you are a liar!

IMDb

人間だろうと、天使だろうと、悪魔だろうと、
心の奥底に眠る願いごとをかなえたくない、などという者はいない
私は何一つ願いごとを持たない者に仕えることになるのか?
アリシア・ビニー、お前は噓つきだ!

 魔人はアリシアを説得するために、自身の三度にわたる幽閉の物語を語り始める。

一つ目の物語 (一回目の幽閉)

 3000年前。魔人はシバの女王(アーミト・ラグム)に惚れてしまった。しかしソロモン王(ニコラス・ムアワード)が砂漠を超えて現れ、シバはソロモン王に夢中になる。魔人はシバに訴えるが王の魔力で瓶に閉じ込められ、その瓶は鷹によって運ばれ紅海に落とされる。

wiki(ソロモンとシバの女王)

 ここでアリシアは海で遭難した三人の男の話をする。魔法の魚が三人の願い事をひとつずつ聞き入れることになり、一人目は妻に逢いたい、二人目は子供に逢いたい、と望みを伝え、それぞれ去っていく。しかし三人目の望んだことは友人二人に逢いたい…ということだった。

 たちまち二人は引き戻され三人が揃う。願い事に関する物語にはすべて教訓があり、ハッピーエンドは存在しない…と言い切るアリシア。

二つの目の物語

 紅海の海底に沈んでいた小瓶は泥と一緒に地上に出る。そして少女が泥から見つけた瓶はコンスタンティノープにある王宮の石壁に埋めこまれる。

 小瓶から魔人を解放したのは皇帝(スルタン)(ラッキー・ヒューム)のハーレムの奴隷グルタン(エジェ・ユクセル)だった。グルタンはスレイマン皇帝の息子で世継ぎであるムスタファ皇子(マッテオ・ボッチェリ)に恋しており、一つ目の願いで王妃となった。

wiki (スレイマン一世)

 願いの達成の仕方だが、"魅惑のオイル"と口コミで皇子の関心を惹くという割とアナログなやり方だった。そして二つ目の願いは皇子の子どもを身籠る事だった。

 王宮内では"ヒュッレム(笑う女)"(メーガン・ゲイル)がスレイマンに取り入り、自身の子を跡継ぎにするために、ムスタファが父王の命を狙っていると吹き込み、父王は息子を暗殺させる。

 魔人はグルタンに身を守るためにも三つ目の願いを言うように説得するが、魔人の目の前でグルタンは捕らえられ袋詰めにされて海に落とされる。魔人は透明になり100年彷徨うようになる。

三つ目の物語 (二回目の幽閉)

 1560年。ムラドとイブラヒムの兄弟が王宮で遊んでいるところに母親がやってくる。母キョセム(ゼリン・テキンドール)は故アフメト1世の妃であり二人の息子は直系の皇位継承権を持っていた。ムラドは透明の魔人の気配に気づくが、魔人はかつてグルタンが隠した瓶の在処まで誘導することができない。

 ムラドは11歳で皇帝の座につき20歳で出兵。コーカサスやメソポタミアで戦闘を続ける。ムラドの戦死とイブラヒムの暗殺を恐れたキョセムは、イブラヒムは隠し部屋のハーレムに住まわせる。イブラヒムは巨漢の女性を好む性癖がありハーレムも巨漢の女性ばかりだった。

 戦場から戻ってきたムラド( オージャン・アルマン・ウスル)は荒んだ性格となり、弟のイブラヒム(ジャック・ブラディ)すら手をかけようとするが、母親キョセムはハーレムを見せて人畜無害であることを納得させる。

 周囲はムラドの荒んだ心を変えようとまず酒漬けにし、次に語り部を呼び王に物語を聞かせていく。語り部は次々に失敗し処刑されるが最後の一人である老人の語り部はムラドの心を掴む事に成功する。

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この語り部が冒頭の講演会でアリシアに異議申し立てをした幻想だった

 老人(ジョージ・シェヴソフ)はムラドの無二の親友となるが死を迎える。周囲はまた荒んだ王に戻ることを警戒したが、王は静かに酒を飲み続け、そして死んでしまう。

 キョセムはイブラヒムをハーレムから連れ出し国王とする。"砂糖姫"と呼ばれる愛妾(アンナ・アダムス)はイブラヒムの任命でダマスカスの総督となる。"砂糖姫"は偶然、瓶を発見する。

 解放された魔人は怯える"砂糖姫"に三つの願いを言うように迫るが、訳の分からない"砂糖姫"は怒り狂い"ボスポラス海峡に沈んでしまえ"と悪態をつき、魔人は再び海底に沈む。

 ここでアリシアから相変わらず願い事が思いつかない、と皮肉られた魔人とアリシアの間で口論となる。

Alithea Binnie: I cannot, for the life of me, summon up one eligible wish. And you're asking me for three ?
Genie: Is there any life in you ? Are you even alive ?
Alithea Binnie: You know, in some cultures, abstinence from desire means enlightenment !
Genie: Then you are a pious fool !
Alithea Binnie: If I'm content, why tempt fate ?
Genie: And you're a coward !

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魔人: 何が楽しみで生きている?
アリシア: 欲望の欠如は"知の光"となりえる
魔人: なんて愚かなのだ
アリシア: 運命を変えたくない
魔人: 臆病者だ

 アリシアは"会わなければ良かった!"と怒ると魔人は狼狽して"そのようなことは言うな"と頼み込む。下手なことを願わられるとまた幽閉の身になりかねないのだ。ここで200年前の三度目の幽閉の話になる。

四つ目の物語 (三度目の幽閉)

 捨て子の少女ゼフィール(ブルク・ゴルゲダール)は12歳で裕福な老商人のもとに嫁ぐ。二人の老いた先妻たちも含め屋敷内の人々は一様にゼフィールを無視する。ゼフィールは料理用にさばいた魚の腹の中から出てきた瓶を自室に持ち帰る。そして魔人が再び解放される。

 ここで以下の字幕が矢継ぎ早に出る。瓶に閉じ込められていた魔人が復活していく過程を説明している。

第一段階: 電磁波 (electromagnetic waves)
第二段階: 蒸気 (vapour)
第三段階: 有機粒子 (organic particles)
第四段階: 器官の形成 (the formation of organs)

 少女は賢く魔人の話も理解し早速、一つ目の願いとして"知識を得たい"と伝える。そして二つ目は"深く考察できる能力"を伝え、彼女の知識は深まっていく。しかしゼフィールを愛してしまった魔人は三つ目の願いを言わないようにゼフィールに伝える。

 三つの願いをかなえれば"魔人の楽園"に行けるのだが、自分の自由よりゼフィールと過ごすことを選んでしまう。ゼフィールは癇癪を起すが魔人は小瓶に入り怒りが静まるのを待つようにする。

 ところがある日、ゼフィールが怒り魔人が小瓶に"退避"しようとしたタイミングでゼフィールは"あなたに会ったことを忘れてしまいたい!"と言ってしまう。ゼフィールはその瞬間に魔人を忘れ、魔人は小瓶に入る途中だったために"魔人の楽園"に行けないまま封印されてしまった。

アリシアの願い

 話しを聞き終えたアリシアは、魔人の経験した3000年に及ぶ孤独に自分の想いを照らし合わせて願い事を伝える。

Genie: And there I am, left to my own oblivion, with no one to hear my voice, no one to know me, nor feel me, nor sense me. You can't imagine.
Alithea Binnie: Well, actually, I can.
Genie: Can you imagine the loneliness? How it might overwhelm?
Alithea Binnie: I can.
Genie: We exist only if we are real to others. Do you agree?
Alithea Binnie: I do.
Genie: This, then, is our fate, Alithea. If you make no wish at all, I will be caught between worlds, invisible and alone, for all time.

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魔人: 誰も私に関心を持たず、私の声を聞こうとせず、誰も私のことを知らず、感じず、気づきもしない。お前には想像もできまい。
アリシア: 私は理解できる。
魔人: お前にこの孤独を理解できる?この打ちのめされるような想いを?
アリシア: できるわ。
魔人: 他の人間が信用しないと我々は存在しない。そう思わないか?
アリシア: そう思うわ。
魔人: これが我々魔人の宿命なのさ。君が何も願わないのであれば、私は誰にも気に欠けられずたった独りのまま、ずっと二つの世界に囚われのままとなってしまう。

 一つ目は"私はあなたを愛したい"、二つ目は"あなたも私を愛してほしい"だった。二人は一緒に暮らすことになる。インタンブールからアリシアの生活拠点であるロンドンに移り住み、様々なことに驚き、そして感心する魔人。

魔人: 200年の進化には驚く。
アリシア: 高度な進歩を遂げても人間は困惑したまま。混沌を制御できないと恐怖とパニックに陥って攻撃しあう。
魔人: 当然だよ、人間だから。それが本質なんだ。
アリシア: それでは物語は決して変わらない。憎しみが支配し憎悪が広がり愛を打ち負かす。私は愛を語りたいだけ。
魔人: 君たちは矛盾の塊だね。

 魔人の目から見ると、人間は3000年間変わっていない。欲望と憎しみに駆られ殺し合う野蛮な存在だったが、それでも愛を伝えるために物語を紡ぎたい…というアリシアを魔人は不思議に感じてしまう。

 ロンドンでは魔人の頭には始終、様々な音や声が入り込んでいて、最初は対処できていたが次第に衰弱していく。アリシアは自分の我儘さ(魔人にそばにいてほしいがために三つ目の願いを語らないこと)に気づき、三つ目のお願いとして"魔人が楽園に戻る"ことを願う。

エピローグ

 3年後。公園で二人は再会する。最後はアリシアのモノローグで終わる。

彼はたまに現れて ふたりはその時間を生きる
この世の痛みに耐えながら
彼女の心配をよそに彼は必要以上に長く過ごす
そして彼女の存命中の再訪を誓う
彼女はそれで充分だった

感想

 四つ目の物語で瓶から解放された魔人が"実体化"するまでの四段階の字幕が表示されるが、この意味は以降で交わされる魔人とアリシアの会話で説明される。

Alithea Binnie: So you are electromagnetic ?
Genie: As you are dust, I am made of subtle fire

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アリシア: つまりあなたは電磁で生成されているの?
魔人: あなた方(人間)が塵から作られたように、我々は煙の無い火から生まれた。

 物語(伝承)に科学的な裏付けをしようとするアリシアに対して、あくまで宗教的な切り返しをする魔人。つまりこの映画は"物語によって世界を理解すること"を描いているように感じられた。

 物語を科学的に解釈すると魔人の孤独は誰にも理解されなくなる。それはそのままアリシアの孤独にも返ってくる話となる。

 そして願いごとの物語は教訓を持って成立する…という持論(これは願いごとが叶わず傷つく、という恐怖に基づいたアリシアの心理に基づいているのだが)に対して、魔人は反論する。

But you and I are the authors of this story, and we can avoid all traps.

IMDb

でもこれはあなたと私の物語なんだから、どんな罠でも回避できるはず。

 魔人の物語を聞き、魔人に願いをかけるものが結局、幸福になれなかったことで自身の考えが実証されたと考えるが、魔人はそれでも物語を受け入れ、願いごとを言うようにアリシアに話す。

 アリシアの願いの二つは"魔人を愛する"ことと"魔人に愛される"ことだった。どちらも論理的、科学的には立証できないが、それでもアリシアは"私たちの物語"として、物語に身を委ねることを決意する。

 そしてそのことが結果として魔人を苦しめていることを知り、自分のためではなく、魔人のために最後の願いとして"魔人を自由にする"ことを願う。

 「アリシアの願い」で魔人は以下のような台詞がある。

We exist only if we are real to others

 "if we are real to others"は人間が信用しないと…という意味だが、これは魔人の言うことを信じて三つの願いを言う、ということではなく、魔人を信用して寄り添う…ということなのだろう。

 人間たちは3000年間、欲や自己本位で願いごとを魔人に伝えてきた。魔人はただの道具ではなく、自分を理解してくれる者からの切実な願いを求めていた。アリシアに同意を求めたのは、この想いなのだろう。

 そしてアリシアは魔人の物語を聞いているうちに、自身もまた物語の登場人物となっていることに気づく。そして三つの願いを伝えることで物語(ラヴストーリー)を完成させる。

 そして講演会でアリシアが見た幻影の老人。荒れて酒浸りとなる長王のムラドに物語を聞かせていた老人と同一人物だが、老人は物語の力を信じたことで、物語の行きつく先が比喩であると論じたアリシアに"ふざけるな"と叫んだのだろう。老人にとっては物語は人の心を癒す医療的な意味合いもあった、ということだろう。

 そもそも「千一夜物語」自体が"物語を語る"話だった。

女性不信に陥った王シャフリヤールは毎夜、女性を殺していた。
そんな王の狂行を停めるためにシェヘラザードは自ら嫁いでいき、夜な夜な王に物語を話し続ける。シェヘラザードは肝心なところで話をやめ、続きは翌晩にする、ということ続けて、命をつないだだけでなく、1000日目に王は自らの悪行を改める、という内容だった。

 この映画は異色のラヴストーリーであると同時に、物語が世界のつながり、物語が他者との相互理解に繋がっていくという、異色の物語論でもあった。

 COVID-19の時期に撮影したというこの作品。エピローグのロンドンシーンではマスク姿が目立つようになる。気の遠くなるような時間の孤独を味わった魔人と、残酷な現実から物語に逃げていたアリシアの純粋なラブストーリーとなるとは思わなかった。

 ジョージ・ミラーが二本の荒ぶる映画(『 マッドマックス 怒りのデス・ロード (Mad Max: Fury Road/2015)』、『 マッドマックス: フュリオサ (Furiosa: Mad Max Saga/2024)』の間に、こんなしっとりとした作品を撮っていたとはびっくり。ただアップダイクの名作を映画化した『イーストウィックの魔女たち (The Witches of Eastwick)』、医者としての知識を駆使した実話もの『ロレンツォのオイル/命の詩 (Lorenzo's Oil/1992)』、子豚が主人公『ベイブ/都会へ行く (Babe: Pig in the City/1998)』、そしてペンギンが主人公のアニメーション『ハッピーフィート (Happy Feet/2006)』など振り幅はすさまじく、しかもほとんどの作品が製作や脚本を兼任している。ミラー主導で映画作りをしていることがよくわかる。

 原作は映画化もされた「抱擁 (Possession: A Romance/1990)」でブッカー賞を受賞したA.S. バイアットの短編集「The Djinn in the Nightingale's Eye (1990)」の一篇。5作品収録されているとのこと。

  さすがはジョージ・ミラー、といった作品でした。物語論(ナラトロジー)という考えも面白そう。





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