見出し画像

39口目 Switch2

2025年9月12日(金)/親水公園ベンチにて

明日から台風の影響が出るらしく、居酒屋のバイト終わりの親水公園は、いつもより湿気が強い気がしていた。

「Switch2がやっと当選したんだけれど、買う金がね〜。」

雄星がニヤケ顔で、ぼやき始めた。

「いるの?ってか、やってる暇あるの?」
渉が聞き返すと、雄星は語気を強めて言った。

「コレを機に、ゲーム実況配信者になろうかと思てんねん。」

続けて、

「ゲーム配信するためにはな、カメラやらゲーミングPCやら、専用スクリーンやら、専用端子やら、いっぱい初期投資かかんねん!」

聞いたことある話に、「確か、そんな感じだったな」と思い出しながら、

「そもそもゲームなんてできるの?あれって上手い人が配信してるんじゃないの?」
と渉が問い返すと、雄星は、

「そこを敢えての、素人がやっていくんよ。上手い人や、同じレベル、あるいはちょっと上手い人達からのマウントコメントや炎上が狙いやねん。」

「ふ〜ん」と言わんばかりに渉は、

「策士策に溺れないようにね。で? 初期投資の金が無いってこと?」

「せやねん。本体買うだけでも大打撃や。」

本末転倒とは、雄星のことだろう。
そもそも社会人にもなって、アルバイトしながら俳優を目指している奴が、ゲーム配信なんて無理があるんじゃないか──と、渉は考えていた。

「それで、本体は買うの?」
渉が確信を突くと、雄星は、

「当選したからには、買わないとやろ。」

と、本体だけは買うらしい。しかし、肝心なことを言い始めた。

「本体あっても、ゲームを買う金が無い。」

渉は呆気にとられた。

「いや、マリカーセットがあったろ!」

「せやねん。考えが甘かった。あ〜どないしよ〜。」

まさかの愚の骨頂。
本末転倒。
中学生レベルの四字熟語が、まさかこの年齢で体現されるとは──
渉はその言葉通り、呆気にとられた。

インテリな性格の渉は、もっと大人が使うような諺や四字熟語をしばし考えたが、出てこない。
手に持ったペットボトルのコーラを飲み干すことしかできなかった。

「それじゃあ、買っても意味ないってことじゃん。」

渉が小馬鹿にするように笑いながら言うと、雄星は、

「カードで買う。で、リボ払いする。」

と言い放った。

「いやいやいや、たかがSwitchだぞ? ゲーム配信者なんて五万といる。ゲーム配信に投資しても、数多のゲーム配信者の中に埋もれるだけだって!」

──と、渉はハッキリと制止したつもりだった。

が、時すでに遅し。
渉が言い終わる前に、雄星はAmazonで決済していた。

「あ〜あ〜」と渉が嘆かわしくため息をつくと、雄星は、

「Switch持ってへんの?」

と渉に聞いてきた。

「俺、初回で当選して、発売日にはSwitch2のマリカーセット買った。」

Switch2発売から3ヶ月もの間、その“天上人”のような話題を、ふたりは一回もしなかった。
今更な風が、台風の湿気と共に、突風のように吹いた気がした。

いいなと思ったら応援しよう!