38口目 映画
2025年9月11日(木)/亀有商店街のBARにて
「9.11ってAIだったが今年もXでトレンド入りしてるな。」渉がスマホをスクロールしながらレッドアイを飲んでいた。
どうやらこのBARのトマトジュースはクラマトを使っているらしく、学生の渉には少しかっこよく感じるらしい。
隣で雄星はブラッディメアリーを飲んでいた。雄星もクラマト信者だ。
たまに通うこのBARでふたりとも少しずつ大人の世界を体感してる。
「渉は続編物の映画だと何が好き?」
唐突に雄星が聞くと、渉はすぐに顔を上げた。
「グラディエーターのⅠとⅡかな。トム・クルーズのミッション:インポッシブルも捨てがたい。007も好きだな。ダニエル・クレイグがカッコいい。踊る大捜査線も捨てがたいが、スピンオフ作品は苦手だな。」
雄星はグラスを指先で転がしながらふっと笑った。
「てっきり名探偵コナンとか、コナン・ドイルとか、アガサ・クリスティものとか言い出すかと思てたわ。」
「いや、それ俺、毎週アニメ観てる小学生か!」
渉は思わず吹き出した。
「お前の映画の趣味って意外とマッチョやな。“謎解き”より“殴り合い”派か。」
「殴ってるだけじゃなくて、ちゃんと“使命”があるのが好きなんだよ。」
「それ、筋肉で語る哲学みたいなもんやな。」
雄星は真顔で言ってから、自分でおかしくなったのか静かに肩を揺らして笑った。
渉はレッドアイをもうひと口。少し声を潜めて続けた。
「でもさ、東野圭吾の映画って、誰が出てるかで“答え”わかるとこあるじゃん。」
「たとえば?」
「福山雅治が出たらガリレオだし、キムタクと長澤まさみが出てたらマスカレードシリーズ。ブラックショーマンも福山雅治だし。配役で観る側の“正解の範囲”が決まるんだよ。」
「それ、映画が“謎解き”じゃなくて“納得”に変わってるってことやな。観る側が“答え合わせ”したいだけになってる。」
「そう。でもあれってウケるんだよ。だってSNSで“やっぱ福山最高”とか“長澤まさみ演技力!”って言いたいもん。」
「感想が“人物評”止まりやな。でも逆に、舞台やったら役者じゃなくて“セリフの温度”が評価される。」
「そこがいいんだよ、舞台は。“置きっぱなしの問い”を、客がそれぞれ持って帰れる。」
「…せやけど、うちの居酒屋に来る客ら、そんなこと考えながら飲んでる奴おらんぞ。観光客どころか、外国人すら来ぇへん。」
「まず、トイレが和式だもんな。」
ふたりは吹き出して、そのままグラスを傾けた。
外は夜風。BARのジャズはまだ止まない。答えがなくても、問いがそこにある限り、会話はまだまだ続きそうだった。
