【#6総論】LE SSERAFIMを読み解く
K-POPアイドルは、誰に“つくられて”いるのか。
そして、誰が“語る”のか。
LE SSERAFIMという存在は、制度の内部からその問いに対して、5つの異なる輪郭を提示してくれる。
“コンセプト”では語れないグループ
LE SSERAFIMは、デビュー時から「FEARLESS(恐れを知らない)」という明確なイメージを掲げてきた。
HYBEが手がける第4世代ガールズグループとして、強さ・挑戦・自立性を前面に打ち出し、ビジュアルやパフォーマンス、プロモーション戦略のすべてが一貫していた。
だが、それだけでは語りきれない“ずれ”や“裂け目”が、このグループの魅力にはある。
それは「強さ」という記号を、ただ演じるのではなく、「制度の中で生きる身体」として引き受けながら、5人それぞれが異なる軌跡で“語る”という実践を続けているからだ。
このnote連載では、それぞれのメンバーを通して、K-POPにおける「制度」「ジェンダー」「語りの主体化」について読み解いてきた。本稿ではその総括として、彼女たちの個別性を束ね、LE SSERAFIMという集合体が提示する新しいアイドル像の可能性について論じてみたい。
制度の中にある“自律”のかたち
K-POPにおける“アイドル”とは、高度に制度化された存在である。
練習生制度、ファンダムの期待、SNSの規律、番組出演時のふるまいに至るまで、あらゆるレベルで「管理される身体」として構成される。
だが、LE SSERAFIMの5人は、いずれもこの制度の中で、「与えられた役割をなぞること」ではなく、「自らを語る/語らないことを選ぶ」ことで、それぞれに異なる“自律”のかたちを獲得している。
キム・チェウォンは、感情を抑え、語らず、ただ“静かに立つ”ことでリーダーシップを示す。
宮脇咲良は、日韓における記憶を背負いながら、再び制度のなかに登場し、過去を更新する存在となった。
カズハは、訓練されたバレエの身体をK-POPに翻訳しながら、その透明さによって制度の“余白”となっている。
ホン・ウンチェは、“最年少らしさ”を演じることを拒み、年齢に関係なく「信頼できる安定感あるメンバー」として存在する。
ホ・ユンジンは、自作詞・自作曲・SNSの語りを通じて、「誰かに語られる」ことへの対抗として「自ら語る」実践を重ねている。
この5つのスタイルは、いずれも制度の内部にとどまりながら、制度の語彙や記号をずらし、上書きしようとする試みである。
語りの主体としてのアイドルたち
LE SSERAFIMのメンバーたちは、それぞれの語り口、沈黙の仕方、表情の“余白”において、「語られるアイドル」から「語る主体」への移行を体現している。
彼女たちは決して制度の外には出ていない。
むしろ、制度の中心にとどまりながら、その制度に最も精通した仕方で、制度の“書き換え”を実行している。
“語らないことで信頼される”(チェウォン)
“記憶を引き受けて再登場する”(咲良)
“身体そのものが語る”(カズハ)
“年齢の記号「マンネ」を撹乱する”(ウンチェ)
“制度の言語を私語に変える”(ユンジン)
このように、語る/語らない/語らせてしまうという複数の次元が交差する場所として、LE SSERAFIMはK-POPの制度そのものの「揺らぎ」を引き受けている。
「ポストK-POP」の予感として
LE SSERAFIMの5人を見ていると、従来のK-POPが持っていた“育成”の物語、“アイドル像”の再生産、そして“ファンの欲望に応える存在”という構造が、ゆっくりと揺れ始めていることに気づかされる。
これは「ポストK-POP」とも呼ぶべき流れの始まりかもしれない。
コンセプトやスタイリングの革新ではなく、語りと制度の関係そのものが更新されている。
LE SSERAFIMはその最前線に立っているのだ。
終わりに:語ることの倫理、聴くことの倫理
この連載を通して感じたのは、「誰が語るのか」だけでなく、「誰がそれを聴くのか」という問いの重要性である。
LE SSERAFIMのメンバーたちは、時に沈黙し、時に微笑み、時にまっすぐに語る。
私たちはその声を、どのように受け取っているのだろうか。
K-POPという制度の中にある彼女たちの“声なき声”に耳を澄ますこと。
その語りを、制度に飲み込まれた「記号」ではなく、ひとつの“表現”として聴き直すこと。
それこそが、彼女たちの存在が問いかけている「ファンダムの倫理」なのかもしれない。
本シリーズまとめ
[第1回] キム・チェウォン|静かに立つリーダーの語り
[第2回] 宮脇咲良|記憶を背負って再び現れるということ
[第3回] カズハ|翻訳され、撹乱される身体
[第4回] ホン・ウンチェ|“可愛さ”を拒みながら信頼される最年少
[第5回] ホ・ユンジン|制度の内側から語り出すことの意味
