【#4】“かわいい”を拒むマンネ──ホン・ウンチェが再定義するK-POPの年齢と安心感
LE SSERAFIMの最年少、ホン・ウンチェ。
だが彼女は、「可愛い末っ子」の役割を拒みながら、私たちに最も深い安心感を与える。
これは、K-POPにおける“マンネ”という制度の再定義の記録である。
“マンネ”とは何だったのか?
K-POPには、グループの最年少を示す「マンネ(막내)」という制度的な言葉がある。
この言葉には単なる年齢の意味を超えて、“可愛い”“未熟”“甘えん坊”といった属性が一体化してきた。実際、少女時代のソヒョン、TWICEのツウィ、Red Velvetのイェリなど、「マンネ=癒し系」というイメージは長らく不変の構図だった。
LE SSERAFIMのウンチェは、こうした“規範的マンネ像”を明らかに裏切っている。
グループ最年少でありながら、彼女の存在感は“幼さ”ではなく“安定感”として機能している。マンネであるはずなのに、どこか大人びていて、堂々としている。そう、ウンチェは「甘えることなく、最年少として信頼される」という、制度の“ずらし”を生きているのだ。
ステージにおける“マンネらしさ”の拒否
LE SSERAFIMの楽曲「FEARLESS」や「ANTIFRAGILE」のパフォーマンスを見ても、ウンチェだけが“年下っぽさ”を演出しているわけではない。フォーメーションも衣装も、表情の作り方も、あくまで「グループの一員」としてのバランスの中にある。
注目すべきは、彼女が「愛嬌」や「甘えたボイス」など、従来のマンネの象徴的振る舞いを積極的に避けている点だ。ダンスにおいても、彼女の動きは「力強さ」「正確さ」「スピード感」を基軸にしており、可愛らしさや感情の揺らぎとは距離をとっている。
その結果、ウンチェは「最年少だから注目される」のではなく、「パフォーマーとして信頼される最年少」という新しい在り方を獲得した。これは、“未完成性を魅力とするK-POPマンネ像”に対する、静かな反論である。
メディアでの“冷静な語り”
彼女の異質さは、テレビやインタビューでの語りにも表れている。
『ミュージックバンク』のMCとしての進行も落ち着いていて、突拍子のないリアクションや過剰な笑顔は少ない。Weverse Magazineなどでの言葉も、年齢相応の初々しさはあるが、過剰な「子どもっぽさ」は避けられている。
「年齢のことを言われるのはちょっと照れくさい」と語る彼女の言葉には、制度的に押しつけられる“マンネらしさ”への違和感がにじんでいる。それは、“甘えてよい立場”にあるにもかかわらず、あえてその構造に乗らないという意思表示でもある。
そして、その“乗らなさ”が、ファンにとっては逆に魅力となっている。
「末っ子なのに安心感がある」「一番冷静に見える」
――そんな言葉が、ファンのあいだで繰り返される。
SNSで見せる「距離の取り方」
WeverseやInstagramなどでも、ウンチェの言葉遣いや写真の投稿スタイルは他のマンネとは異なる。
たとえば自撮りの表情も、笑顔よりも微笑や無表情が多く、フィルターの使い方も自然体を基調とする。言葉は礼儀正しく、テンションが高すぎない。その結果、投稿そのものが“安心して見られる空間”になっている。
つまり、ウンチェは「マンネだから構ってもらう」スタイルではなく、「ファンを落ち着かせる存在」として自己を設計しているのだ。これは制度が期待する“最年少キャラ”とはまったく異なる設計思想であり、逆にその姿勢が強い支持を集めている。
“可愛げ”の再定義としてのマンネ
ウンチェがもたらした最も大きな変化は、「可愛さ」の再定義にある。
従来のマンネ像が“守ってあげたい”“かまいたい”という感情を起こさせる存在だったとすれば、彼女は“尊敬されるマンネ”として存在している。
それは、「自律性」「情緒の安定」「語彙の正確さ」といった、かつては最年長メンバーに求められていた資質を、彼女が自然とまとっていることから来ている。彼女の“強さ”は押し出されることはないが、確かにグループの内側で響いている。
制度の中で静かに揺らす存在
ウンチェは、「制度の中で制度を静かに撹乱する」存在である。
彼女はマンネとして登場しながら、“マンネ的であること”を演じず、制度が求める役割から距離をとることで、かえって制度そのものの輪郭を浮かび上がらせている。
K-POPという文脈のなかで、「年下だからこそできること」をあえて選ばない。むしろ、「年下だからこそ、自律的でいる」ことを選ぶ。そうした彼女の振る舞いは、私たちの中にある“年齢と役割”という無意識の期待に、静かに問いを投げかけてくる。
そしてその問いかけこそが、LE SSERAFIMというグループが制度の内側で制度を更新し続けていることの、何よりの証なのかもしれない。
