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TFSアカデミー講演記録  AIの進化と共に必要となる「やさしい知性」

 ChatGPTなど対話型生成AIの普及により、「AIが仕事や学びを根底から変えてしまうのではないか」という声が急速に広がっています。SNS上には攻撃的なコミュニケーションも広がり、テクノロジーの進歩は人間の幸せにつながるのかといった不安を覚える声もあります。
 
 こうした現状のなか、TFSアカデミーでは「人に寄り添うAI」をテーマに、医療や介護、教育など人と人の関わりが重要な領域で研究を重ねる小塩篤史先生(麗澤大学工学部教授/EdTech研究センター長)をお招きしました。小塩先生は、ここから「AIと人間がどう共生するか」という重要な切り口を示しながら、学び方や働き方の未来像をわかりやすく解説してくださいました。


1.「見えるAI」の誕生がもたらした衝撃

 小塩先生は、データサイエンスや機械学習を20年以上研究し、AIのブームと挫折を何度も経験してきました。以前はAIがスマートフォンやインターネットの裏側でひっそりと動いていましたが、2022年に登場した「見えるAI」のChatGPTは、人間と会話するように自然言語で高度な受け答えができる点が画期的でした。

 従来のAIも、検索エンジンやリコメンドシステムなどで私たちの生活をすでに支えてはいたのですが、人間と直接やりとりする姿は見えませんでした。しかしChatGPTをはじめとする対話型AIの登場で、AIの能力が一気に可視化されました。その結果、多くの方が「今までの勉強や仕事の意義はどうなるんだろう?」「AIがこんなに賢くなったら、自分の将来はどうなる?」と真剣に考えはじめています。


2.麗澤大学工学部が掲げる「テクノロジーに愛を」

 小塩先生が所属する麗澤大学では、2024年4月に「テクノロジーに愛を」というコンセプトの下で工学部を新設しました。AIをはじめとする先端テクノロジーと、人文学的な視点を結びつける教育・研究が行われます。医療・介護・教育といった、人間が直接ケアされる領域でのAI実装を重視し、技術革新が効率化や自動化だけに留まらず、人間の安心や幸福感をどう高めるかを同時に探求する点に特徴があります。

 高齢者向けパーソナルAIの開発では、利用者の生活リズムや健康状態をさりげなく把握しつつ、ちょっと具合が悪そうだといった細やかな気づきにも寄り添います。また、オンライン学習の分野では、単に学力向上を図るだけでなく、学習者一人ひとりが、自分ならではの成長を実感できるAIでのサポートの仕組みづくりを試みています。機械的な正解や不正解だけでなく、学びへの意欲や楽しさをどう喚起するかという視点が必要です。


3.AIの強みと危うさ——レコメンドエンジンが示す一例

 AIの得意分野に予測と最適化があります。例えば、レコメンド機能は、好みや検索履歴を分析して、私たちが好きそうなもの提示してくれます。商品や情報を探す手間が省けている一方、気づかぬうちに限られた選択へと誘導される一面も指摘されています。

 小塩先生は、人間の自由をどう守るかという観点からレコメンドを見つめ直します。同質な情報に囲まれ続けると、偶然の出会いや発見がどんどん減ってしまいます。また、企業の管理体制にAIを深く取り入れすぎると、社員が監視されているという思いから自由に動きづらくなり、本来的な創造性を失われてしまいます。効率的に情報がやりとりできる一方で、人間らしい豊かさを見失っていく危うさをはらんでいるといえます。


4.「正しさ」と「やさしさ」が両輪となる現場

 医療や介護の現場でもAIの活用が期待されます。例えば、画像解析技術や診断支援システムによって効率化とともに誤診を減らし、医師や看護師の負担を下げていける可能性があります。ただし、小塩先生は医療の現場では、正確な知識やデータだけでは解決できない観点を提示します。

 患者は病気を治したいわけですが、同時に不安や怖れ、寂しさなど心の問題を抱えています。AIで医療データを「正しく」管理してくれても、患者の孤独感に寄り添うのは容易ではありません。そこには「やさしさ」が欠かせません。

 小塩先生が提唱する「やさしい知性」とは、こうした人間ならではのケアを大切にしながら、AIができる部分を最大限活かす姿勢を指すのでしょう。


5.スローレジに見る、あえてのコミュニケーション、効率だけが答えではない

 講演のなかで紹介された事例に、「遅いレジ」をあえて設置した店舗の話があります。セルフレジの設置が進む中、そのお店はゆっくり店員とやりとりできるレジを敢えて残し、高齢のお客さんや会話を楽しみたい人から好評を得ているそうです。社員も、急かされないレジのほうが、お客さんとの関係を築けてやりがいを感じる、と言い、結果的に店舗の評判が上がったというのです。小塩先生はこの例を、テクノロジーの進歩はあくまで手段であり、人間の心の交流を大切にする工夫があれば、新たな価値を生み出せる、と説きます。AI時代だからこそ、非効率に見える交流の場がもつ意味を再認識する事例といえるでしょう。


6.人間が活きる場所

 AIが進化すれば人の仕事がなくなる、といった声があることを冒頭でも触れました。しかし、小塩先生は、AIが進めば進むほど人間でなければできないことも際立ってくるのではないか、との見解も述べています。たとえば、ある人の目標や想い、感情に寄り添い、励ましたり導いたりするのはAIが苦手とする分野です。その領域では、人間が存在感を高められる可能性があります。さらに、AIによる作業効率化で浮いた時間やリソースを自分なりのアイデアや表現に振り向けることができれば、生き方や仕事のスタイルも柔軟に変わっていきます。

7.「やさしい知性」がもたらす未来に向けて

 小塩先生が提示する「やさしい知性」には、技術が人々を幸せにするために、人がどう関わるか、というヒントが詰まっています。AIを用いることで高度な推論や表現は可能となりました、そこに「やさしさ」や相手への配慮を持ち込むのは、いまのところ人間が担う役割です。そこを意識しながらAIと共生することで、医療や教育、企業活動の可能性がより豊かに広がるという示唆があります。


8.最後に

 AIの進化は、間違いなく私たちの社会を大きく変えていきます。ただし、技術の進歩が人間の幸せとして自動的に成り立つわけではありません。使い方を誤れば、強い管理や監視が進み、人間が生き生きと働く場所が失われかねません。逆に、適切に使いこなせば、医療・介護・教育・企業経営などさまざまな領域で、新しい形のイノベーションや温かいコミュニケーションが生まれる可能性があることを学びました。AIに全てを頼りきらずにAIの得意分野を活かすことで私たちが自分らしく活動できる社会をどう作り上げるのか。このことは企業経営者や研究者のみならず、私たち一人ひとりが考えるテーマです。私たち自身の想像力ややさしさを活かしてこそ、AI時代を充実させることができるのでしょう。


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