💌『天使と猫のラブレター』
ある町の片隅に、古びた石畳の路地がありました。
その路地の先には、
誰にも気づかれない小さな郵便受けがあります。
そこへ届く手紙は、人間からではありません。

空に住む天使たちが、
ときどき誰かを想って書く「ラブレター」でした。
そして、その手紙を地上へ届ける役目を任されていたのは――
一匹の白猫でした。
名前は、ルカ。
青い瞳と、ふわりとした尻尾を持つ、ごく普通の野良猫。
ただ一つ違うのは、満月の夜だけ、
天使の言葉を読むことができるということでした。

ある春の夜。
天使の少女・エルは、小さな羽を震わせながら、
一通の手紙を書いていました。
「ねえ、ルカ。
今日もお願い。
この手紙を、あの人へ届けて。」
ルカは首をかしげます。
「誰に?」
「名前は書けないの。
でも、この町で一番、自分を責め続けている人。」
手紙には宛名がありません。
それでもルカは、不思議と届ける相手が分かるのでした。

その夜、ルカが向かったのは、小さな花屋でした。
店主の青年・奏太は、店じまいを終え、
一輪だけ売れ残った白いカスミソウを見つめていました。
三年前。
事故で妹を亡くしてから、彼は笑うことを忘れていました。
「あの日、もっと早く迎えに行っていたら……。」
毎晩、同じ後悔を繰り返していたのです。

そのとき。
窓から、白い猫がひょいと飛び込みました。
「おや?」
ルカは青年の前へ、一通の封筒をそっと置きます。
差出人はありません。
ただ、封を開くと、美しい文字が並んでいました。

『あなたは、あの日からずっと自分を許せずにいるのですね。
でも、空から見ているあの子は、
あなたを責めたことなど一度もありません。
毎朝、花に水をあげるあなたも。
泣きながら笑顔でお客さんを迎えるあなたも。
全部知っています。
だからお願い。
あなたが幸せになることを、もう自分に許してください。』

奏太は、震える手で手紙を抱きしめました。
ぽたり。
ぽたり。
涙が手紙に落ちます。
すると、不思議なことが起きました。
涙がこぼれた場所から、小さな白い羽がふわりと舞い上がったのです。

「……ありがとう。」
その一言を聞くと、ルカは満足そうに
「にゃあ」
と鳴いて、夜の町へ消えていきました。

翌日から、花屋には少しずつ笑顔が戻りました。
奏太は妹が好きだった白い花を店先に飾り、
「今日も誰かの心が、少しでも軽くなりますように。」
そう願いながら花束を作るようになったのです。

そして、店の前にはいつしか一匹の白猫が昼寝をするようになりました。
町の人たちは言いました。
「あの猫が眠っている日は、
誰かの悲しみが一つ減る日なんだって。」
誰も、本当の理由は知りません。
空の上では、天使のエルが優しく微笑んでいました。

エピローグ
「もし白い猫が、あなたの前に一通の手紙を置いていったなら、
それは天使があなたに宛てたラブレター。
そこに書かれているのは未来ではない。
あなたが忘れてしまった、自分を愛するための言葉なのです。」

だから今日も、夕焼け色に染まる石畳を、
一匹の白猫が静かに歩いています。
誰かの涙を笑顔へ変える、小さなラブレターを大切にくわえながら。
そして空では、一人の天使が今日も新しい手紙を書いています。
「あなたが、あなたを好きになれますように。」 🐈💌 🐈

💗柊紅葉💗

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