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瀕死で119→到着前に完治という最悪の展開

これは、コロナ後遺症で歩けなくなった48歳男が、人生ハードモードの中で
なんとか笑いを見つけた話です。
しんどい状況でも、少しだけ笑って息をしたい人に読んでもらえたらうれしいです。



ある日、妻が出かけた1時間後、ボクは救急車を呼ぶことになった。


2022年1月、コロナに感染してコロナ後遺症になった。
で、休職した。
で、妻がパンクした。


コロナ後遺症とは、倦怠感、脱力感、めまい…あぁ説明が大変で理解してもらうのが難しい。症状が200くらいあってとにかく大変なのだ。

パンキッシュな(見た目ではなく心意気)妻が突然の負担増にパンクして、心身ともに疲弊してしまった。で、ボクが実家で療養させてもらっているうちに、妻に気持ちや体調を整えてもらった。2週間でマンションに戻った。

妻の準備が整ったとはいうものの、生活の負担は変わらない。
どこへも出かけない家事しない役立たずの穀潰しになった元大黒柱のボクの食事の支度はもちろん、ハイパーセンシティブ愛犬ぴんこ(当時13歳♀)の1日3回の散歩に日々の家事。とにかくフル稼働。

なのでそれら以外の時間は、とにかく寝て体力温存&チャージしながら挑むギリギリな毎日。

いま我が家は、そんな妻一人で回っている。

正直言って、コロナに感染したのも、後遺症になってしまったのも、ボクのせいではない。でもさすがに妻には申し訳なくて、ある時、なにか労をねぎらえないかと尋ねたら、

「良くなったら北海道旅行がしたい。一週間くらい車で移動しながら、毎日違う旅館に泊まる旅がいい。」と。

なにそれ、楽しそうじゃないか!
結婚前に二人で北海道に行ったことがある。妻は北海道の広大な自然や、美味しい食べ物が好きなのだ。よし、良くなったら行こう北海道!毎日違う旅館…わくわくしてきた!ぜひ行こう!

そんなご褒美旅をまだかまだかと待ち侘びながら、日々を戦う我が家。

気持ちとは裏腹に、ひと月たってもふた月たっても症状に変化がない。
ちょっとでも良くなっているなら希望も感じてモチベーションも保たれるが、変化がないのはしんどい。

世話する妻もこれじゃ疲れが溜まる一方だ。

なので、妻ひとりでの息抜きドライブを提案した。
外の空気に触れて自由な時間を過ごしてもらおうと。でも夕方にはぴんこの散歩があるので、それまでの数時間になってしまうけど、少しでも気晴らしできるなら是非してもらいたい。

提案を受け入れた妻は嬉しそうだ。
旅好きの妻、出かける際に計画を立てるのも好きだ。グーグルマップには行きたいところのピンが各地に打ってある。グーグルマップといえば、大きなお屋敷を神視点で見つけては詮索するのも妻のいい趣味の一つだ。そして妄想癖という得意技も持ち得る妻は、たった数時間のフリータイムにいろいろなプランを練ったことだろう。ボクもどこへ行くのか詳しく聞きたいところだったが、そこは我慢した。

久しぶりに妻が一人で出かける日、「美味しいものでも食べてきて」と見送った。

そこで事件が起きた。

妻が出て1時間ほどした頃、ボクのお腹が痛くなってきたのだ。
コロナ後遺症は未知の病だ。突然、理由もわからず不調が起こることが珍しくない。よくわからないが、正露丸でも飲んでおこう。それにしても結構痛いぜ。とりあえずトイレに行ってみた。違うようだ。その手のタイプじゃない奴だ。身体が震えてきた。全然おさまらない。ちょっとこれは初めてかも。なんかやばそうな気配。

フリータイム中の妻に連絡するか迷う。
帰ってきてもらったところで、治るわけではないし。
ましてやすぐに帰れる場所にいるかもわからないし。

痛みが尋常じゃなくなってきた。これは一大事かもしれない。なにかあったらまずいから、一応情報共有しておこう。


妻に電話をする。が、出ない。
メッセージ送信
「お腹が痛くて、早めに帰れたらお願いします」

分単位で症状は悪化していく。

妻に電話をする。出ない。
メッセージ送信
「連絡ください」

変な汗も出てきて痛みもどんどん増していく。

妻に電話をする。出ない。

さらに全身が痺れてきて視界チカチカ。

妻に電話をする。出ない。
メッセージ送信
「救急車よびたい」

ぴんこは、長時間の留守番ができない&他人が来たらパニックを起こすので、呼ぶに呼べない状態なのだ。

グラグラ意識が朦朧と。

電話をする。出ない。
電話をする。出ない。
電話をする。出ない。

やばい。
指が攣って手が開かなくなり身体も硬直。
自分で青ざめているのがわかる。

ついにスマホも持てなくなった。

もう無理だ。指先でなんとか119。

メッセージ送信
「救急車よんだ」
「ぴんこたのむ」

初めてかけた緊急通報で、苦しいながらも必死に状況を説明する。
とにかく早くきてほしかったので、実はコロナ後遺症でして…なんてややこしくてまどろっこしい上に理解されない説明はすっ飛ばして、でもなるべく簡潔に伝えようと痛みに耐えながらもなんとか言葉を絞り出した。

サイレンが近づいてくる。といっても家から徒歩4〜5分のところの大きな病院からだ。こんな近くで申し訳ないという気持ちもあった。


ん?


ちょっと待て。


………。


……嘘でしょ。



痛みが引いてきている。
あれだけ押し寄せていた荒波が嘘のように。

なぜだ。救急車を呼んだんだぞ。
軽い気持ちで呼んで迷惑をかける輩がいるとニュースで見たことがある。ましてや逼迫している時期でもあるのに。

やばい。もうぜんぜん痛くない。
普通に立てる。めちゃくちゃ怒られるんじゃないか?
さっきまでソファの上でクッションをお腹に抱え込み唸り声をあげたり、ブルブルと震えながら硬直していく身体に恐れ慄き、脂汗ぐっしょりでこの世の終わり的な顔をしていたのに。

なにか本当に苦しんだ証拠はないだろうか。
汗が少しにじんだクッションで信じてもらえるか。

マンションのエントランスから、我が家のインターホンが鳴る。

「救急隊です!〇〇さんのお宅ですか?」
「…はい、そうです。どうぞ。」

普通に受け答えできるボク。
救急隊員は、当事者だとは思わなかったに違いない。

玄関を開けて待つボク。
救急隊員が狭い廊下を急いで駆けつける姿が我が家に迫ってくる。

その一秒も無駄にできないと全神経を集中させた表情が、お腹とは別の痛みでボクを苦しめる。

「患者さんはどちらに!?」
と、聞かれる前に
「ボクです。」
と、完全に痛みが引いてスンッとした表情で切り出す。先手必勝。

「…あ、動けますか?」
と、しゃっきりと立っているボクに尋ねる。

「上着とってきます。」
完全に冷静になっているボクは、5〜6年着ているヘインズの黄ばんだヨレヨレのTシャツと短パン姿だったので、病院とはいえこの装いはみっともないと思ったのだ。しっかり財布とスマホも持って、コンビニでも行くようなノリで隊員さんたちの前に上着を羽織って再登場。
その間ぴんこはなぜか吠えることもなく落ち着いている。長持ちするおやつを置いて、ちょっと出掛けてくるねと声をかけた。

隊員さんに正直に言った。
「あの、だいぶ落ち着いちゃって…」
でしょうね、見ればわかる。

まぁでも病院には行きたい。あんなに激しく痛んだから。またあの波が来るかもしれないし。隊員はそのつもりなので、ボクを担架に促す。

「乗れますか?」
「乗れます。」

車輪付きのいわゆるストレッチャーではなく、布と棒だけで出来てるような折りたたみ担架だった。それに自ら横になり運ばれる。階段を降りる。ゆっさゆっさ。ちょっとこわい。こわく感じるなんて、苦しんでいない普通の状態だからだろう。本当の緊急時ならそれどころではないはずなのだ。

運ばれながら、
「なんか、すいません。」
と、ついこぼしてしまったが、隊員さんの反応はなかった。
スルーされたのか、声が届かなかっただけなのか。

マンションのエントランスには数人の野次馬が集まっていた。
運ばれてくるのは何号室の誰だ?どうした?何があった?と興味津々な部外者たちだ。幸い知らない人たちばかり。

ボクは、彼らの前を通りすぎる時だけ苦しそうな顔をしてあげた。
これで満足ですか。
それとも期待はずれでしたか。

良くない…歪んだ性格がこんな時に出てしまった。

初めての救急車、中はテレビで見たことある様子と同じだ。
2分くらいで病院に到着。救急センターの医師に状況を説明する隊員さん。

緊急ではなさそうだと判断しているような感じで、ストレッチャーに移され、カーテンに仕切られた一人用のスペースに運ばれる。救急センターなので周りは慌ただしい。激しいやり取りの声が飛び交っている。同じく一人用に仕切られた隣の患者さんは、看護師と結構激しい言い合いをしている。声から想像すると80近いおじいさんだと思われるが、「だから痛えって言ってるだろうが〜!」などと、とてもお元気そうだ。もしかしたらカテゴリー分けされているのか…このボクもいる一人用カーテンスペースは〝緊急性がないので、とりあえず邪魔にならないところにいてくださいカテゴリー〟なのかも。

結局採血をして、おそらく電解質不足が原因だろうと。あんなに我を失いかけるほど苦しかったのに電解質不足?!この研修医っぽい先生に適当に診断されているのではないかと疑ったが、点滴をしたら電解質が補われたようで落ち着いた。人騒がせなボクだ。


ところ変わって…スマホに気づいた妻。
ずっと運転していて気づくのが遅かったようだ。

膨大な数の着信に驚愕、文字数最小限のメッセージに戦慄。
急いでUターン。

あとから聞くと、泣きながら帰ってきたとのことだ。

そりゃそうだ。
スマホから伝わるのは瀕死感のみだし、連絡はつかないし(病院だから出れなかった)。

息抜きドライブどころか息を飲み続けるドライブをさせてしまった。

この一件で一番ダメージを受けたのは、ボクじゃなかった。
ボクは点滴で回復したが、妻はしばらく回復しなかった。
でもまたボクたちの日常は止まることなく続いていく。

まだ大殺界ではない。
ちなみに妻の大殺界はまだ調べていない。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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