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Tバックと青い舌で大殺界が始まった〜治療迷走記〜

これは、コロナ後遺症で歩けなくなった元部長が、人生ハードモードの中で
なんとか笑いを見つけた話です。
しんどい状況でも、少しだけ笑って息をしたい人に読んでもらえたらうれしいです。



2024年。
ついに大殺界を迎えることになった。

1月1日、世の中では大きな出来事が起きていた。
スケールが違いすぎて、自分のことで騒ぐのもどうかと思う。

金沢出身の職場の先輩が帰省していたのではないかと気になったが、無事とわかり安心した。



我が家の元旦は、毎年いつも通り。
正月だからといって、おせちや雑煮を食べることはなく、朝食もいつものメニュー。自家製米粉パン、ゆで卵、野菜スープ、自家製豆乳ヨーグルト、ルイボスティー。身体に気をつかったメニューだ(妻よありがとう)。雑煮も食べるが、正月だからということではなく、一年中食べているので、それもいつも通り。

大殺界を迎えた男としては、特に変わりなくスタートを切れた。これからどんなことが待ち受けているのか。大丈夫、ボクにはたくさんの味方がいる。

今年から大殺界とはいえ、日を一日またいだだけだ。
すぐになにか起こるわけではないだろう…。


昨日の大晦日。
数日調子が良かったので、妻と愛犬ぴんこと近所をドライブした。とはいえボクは付き添いに近いのだが。そこでしばらく絶っていたカフェイン、スタバのキャラメルマキアートを飲んだ。大好物。妻はいいのか?と気にしてくれていた。まぁ大晦日だし…という意味不明で全然最もではない理由、こじつけであり甘えであるが、身体に問うたらOKが出た(だからこれがこじつけ)ので。やっぱり美味しい。

別に飲んだからすぐにどうなるわけでもない。器質的に悪なのかもしれないが、精神的な満足感は大きい。その満足感は人生にとって重要だと思うし、身体にとっても良い方向に作用するのではないかと思う。……帰宅後、昼寝ができなかった。うん、少し調子が変かもしれない。腕の痺れが少し強いかな。頭の中が少しぐるぐるしているかな。右足の裏だけがなぜか冷たいかな。口の中が少し風邪のときの味がするかな。まぁまぁ、ちょっと変なことぐらいよく起こるし。
そして夕食をとりながら紅白を観た。スタートからラストまできっちり観た。…大晦日だし。で、寝た。
夜中に中途覚醒し、寝付けない。そのまま鬱々としながら朝を迎える。初夢どころではなかった。

やりやがったな、大殺界。と言ってやりたいところだが、ただの不摂生だ。交感神経の昂りだ。自業自得だ。

こんなことしてるから治らない。
いいじゃない、たまには。人間だもの。年末年始くらい、キャラマキくらい、紅白くらい、後遺症の人だって飲んで観ていいでしょ。日々しんどいんだから。ご褒美ちょうだいよ。そういうのが通用しないのが、コロナ後遺症だ。にっくき強敵。もしその姿がカタチとして見えるのなら、ペンチでおもいきりつねってやりたい。


年の瀬に、ある方に鍼灸の達人を紹介されていた。
そのある方というのも施術家でコロナ後遺症を高い確率で寛解に導いていた人だったのだが、ボクには効果が感じられなかった。そこで、その方が推薦する鍼灸の達人を紹介してもらったのだ。さっそく予約を取って、年明けに施術を受けることになっていた。

大殺界になり、後遺症対策としての一発目の施術。達人先生、ボクは手強いっすよ。と言わんばかりの面持ちで鍼灸院へ向かう。
割と年季の入ったビルの一室。それなりの老朽化は感じられる。言ってしまうと綺麗な印象ではない。清潔じゃないというわけではなく、見た目の印象。でもこぢんまりとして、古くから細々とやっている感じで営利目的でない様子も窺える。

達人は達人らしい佇まいだった。
どこか浮世離れしているような、孤高の生き方をしてきたであろう雰囲気で、黒目がしっかりと黒く、目が合っているのに合っていないような、角刈りで筋骨隆々。歳の頃は50〜60代。
まず問診票を書いてから、症状について詳しく話す。受け答えは言葉少なめで、独特の間だ。達人といってもスピ系ではないので、見ただけで症状を当てるとかではなく、話ぶりからするとご自身の経験から導き出すようなスタイルと見受けられた。一見、何を考えているかわからないような印象だったので、ちゃんとしてそうかもと、どこか安心した。ボクの理解が追いつかないまま進んでしまうことはなさそうだ。期待が膨らむ。

ただ、こっちは大殺界を背負っている身。
経験豊富な達人VS大殺界(1年目)、こりゃ見ものだ。

そして、いよいよ施術が始まる。
その前に舌を確認した。舌診というやつだ。これは東洋医学の診断方法の一つで、舌には体内の情報がダイレクトに現れるらしく、漢方内科なんかでもよくある。達人はボクの舌を見て一言。写真を撮らせてください。ガラケーを取り出して、撮る。難しい顔をする達人。…何も言わない。その沈黙が、妙に長い。気になるじゃないか。しばらくして、では始めましょうか、と。何か知りたかったが、素人がごちゃごちゃ聞いてもしょうがない、ここは身を委ね、受け身でいることが一番なことはボクもいろいろ受けてきているので知っている。


カーテンで仕切られた施術スペースへ通される。
では、こちらに着替えてください。あぁ、着替えるタイプの院だったのね。専用のシャツと短パンみたいな服に着替えるパターンはよくある。


しかし、渡されたのは小さなビニール袋。
縦6cm横3cmほどの。
……?
くしゃっとした何かが入っている。
開けてみる。


小さな紙パンツだ。Tバックの。


Tバック??


これは着替えるという表現であっているのだろうか。
だって、ほぼ全裸だ。

前の部分もかなり小さい。小学生の三角定規くらいだ。
ここに収まるだろうか。ボクには大したものは備わっていないのだが、それでも心配になるほどのサイズ。

従おう。従うしかない。
生まれて初めてのTバックを履こうじゃないか。
紙じゃないTバックも履いたことないのに。

履いてみた。意外と収まった。いろいろこぼれてはいる。
そして守備能力はゼロに等しい。

これで施術を受けるのか。46才にもなって結構恥ずかしいぞ。いや、達人のやり方に従うと決めたのだ。それに達人は、ボクの半裸(ほぼ全裸)を見たいわけではない、当たり前だ。自意識過剰にもほどがある。ボクは治してもらいにきたのだ。そんなことを気にしてどうする。治るんだったら恥ずかしくても全然構わない。

着替えると達人が現れる。ほら、ぜんぜん気にした素振りも見せない。こっちも平然と振る舞うのが当たり前の空間。郷に入りては、だ。ここはそんな世界線なのだから、と自分を納得させる。

施術が始まる。鍼灸はいくつかの院に通った経験があるので、慣れていた。
…が、達人は違った。

めちゃくちゃ痛い。

さすが達人、これが効くのかと思って我慢した。
特に足の付け根に打ったのが痛すぎた。
そのためのTバックだったのか。

痛いっすね〜、ははは。と全力の控えめで伝えてみると、あ、ごめんなさい、と軽い感じで返ってくる。
そんな時間が50分。なんとか終えた。どうです?と聞かれるが、痛みが強くてそもそもの症状が隠れてわからない。
はい、なんか身体が軽くなったような気がします。効果がわからないときによく使う常套句が出てしまった。

最後に舌をもう一度見せると、色が落ち着いている、と。
色が落ち着く?なんか良くない色だったの?
達人は最初にガラケーで撮った写真を見せてくれた。たしかにおかしい。舌が青い。尋常じゃないほど青い。ボクの舌はこんな色だったのかと、ギョッとした。

それが今は青みが取れている。
よくわからないが、さすが達人だ。他の症状も良い方向に向かうことが期待できそう。痛みに堪えてよかった。Tバックになってよかった。
次回の予約をして、痛みは残りつつ院を後にした。


帰宅中にふと気づいた。
ボクは院に向かうとき、ミント系のタブレットを食べていた。


青いやつ。

…舌の青さはこれじゃないのか。

絶対そうだ。普段からあんなに青い舌になんてなるわけがない。50分もしたら消えるし。辻褄が合う。
舌が青くなる症状(どんなだ?)の施術をされたのかもしれない。青みを取るための痛みだったのではないか。しくじった。達人にも申し訳ない。


施術スペースにはTバック用のゴミ箱があったが、持って返ってきた。
家に帰ってもう一度Tバックを履いてみて、妻に一部始終を話した。
ふと足の付け根をみると、ドス黒いアザができていた。

妻は爆笑だった。
アザは押すと痛い。1ヶ月消えなかった。

もう、妻を楽しませるために治療している気すらしてきた。
ボクにとっては妻の笑顔が一番の治療法だ、としておこう。


数日後、達人を紹介してくれた施術家にあったので、感想を伝えようとすると、

「どんな人だった?」と。

会ったことないんかーーーーーーーーーーーい!


これが、大殺界なのか?……想定外の角度で攻めてきやがる。

なんだか最近、ボクの人生は不幸を養分にして生きている、そんな気すらしてきた。



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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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