【ベトナム・タイ訪問記3日目③】響曲 – ホーチミン3日目の夜、歴史と未来を歩く
1.はじめに
一日のうちに、どれだけの顔を都市は見せてくれるのだろう。午前中にクチトンネルでベトナムの痛みの歴史に触れ、午後はランドマーク81の頂から目覚ましい発展を見下ろした。そして夜。開業したばかりの真新しい地下鉄の扉が開いた瞬間、私を迎えたのは、雨に濡れて輝きを増した、ホーチミンのもう一つの素顔だった。
この夜の散歩は、計画されたものでありながら、まるで偶然の出会いに満ちていた。近代的なショッピングモールの華やかな光、フランス植民地時代の優雅な建築が放つ荘厳な灯り、そして路地裏でふと出会った、歴史の記憶を雄弁に物語る一枚のポスター。それらはすべて、この都市が内包する複雑で豊かな物語の断片だ。
熱気を帯びたアスファルトを冷やす慈雨のなか、私は光と影が織りなすホーチミンの夜の交響曲に耳を澄ませる。さあ、歴史と未来、西洋と東洋、喧騒と静寂が溶け合う、魅惑的な夜の散歩へと出かけよう。
2.タイムライン
2.1.未来への乗車券 – Tân Cảng駅の輝き <18:40~19:40>
ランドマーク81という垂直方向の未来の象徴を後にした私は、水平方向へと都市の未来を広げる場所、ホーチミン地下鉄1号線のTân Cảng(タンカン)駅へと歩を進めた。
実は、ランドマーク81とタンカン駅は距離にして近いものの、治安が悪そうという、口コミ情報も一部目にし、徒歩で行けるかどうか考えあぐねいていた。

ただ、その思いは杞憂に終わった。線路の高架下は、バイク乗りがたくさんいて若干緊張感が走ったが、治安は問題なかった。
ただ、問題だったのは、横断歩道。バイクが多すぎて渡れない
決死の覚悟で渡り終え、程なくすると駅前に到着。

どこか見覚えがありそうな風景。そう東西線・西葛西駅。
(※実際の西葛西駅は、車両が直に見えません)
夜の闇の中に、まるで巨大な白い翼を広げたかのような駅舎が浮かび上がっていた。優雅なアーチを描く屋根が柔らかな光を放ち、周囲の熱帯の木々と見事なコントラストを生み出している。

一歩中へ入ると、そこは外の喧騒が嘘のような、静かで整然とした空間だった。塵一つない床、機能的に配置された券売機と改札、そして分かりやすい案内表示。バイクの洪水が生み出す混沌としたエネルギーとは対極にある、この静謐な空間こそが、これからのホーチミンの新たな日常になるのだろう。日本の技術協力で建設されたという事実に、どこか誇らしい気持ちと親近感を覚える。
そして、本家よりも便利だなーと思ったのはこれ。
クレジットカードで乗車ができること。特に観光客にとってはありがたい。
日本でも、ゆりかもめや東急電鉄がクレジットカードで乗れるようにするとか。

ホームに立つと、安全なホームドアの向こうに、銀色に輝く車体が静かに滑り込んできた。青いラインがシャープな印象を与える、真新しい車両だ。
何度見ても、東西線にしか見えない。
いや、東西線はラッシュ対策でドアが広いので、そこが違うか。
そして、電車が到着後ドアが開き、冷房の効いた快適な車内へ。
去年末に開業なので、数年前までは考えられなかった光景が、今、現実のものとなっているのだ。
2.2.雨に濡れた近代都市の輝き <19:40~20:22>
未来へのレールを滑るように走ってきた地下鉄を降りると、そこは巨大な商業の中心地、サイゴンセンターだった。外はちょうど雨が降り出したところで、濡れたアスファルトが街のネオンを万華鏡のように反射していた。

赤い「SAIGON CENTRE」のロゴが、雨の夜に鮮やかに浮かび上がる。ひっきりなしに行き交うバイクのヘッドライトと、信号の光が尾を引き、街全体が生き生きとしたエネルギーに満ちている。
こちらは、日本の「高島屋」がメインテナントとして入居している。
一歩モールの中へ足を踏み入れると、外の湿った熱気は一瞬で消え去り、明るく乾いた洗練された空間が広がっていた。

巨大な吹き抜け空間には、有名ブランドの広告バナーがいくつも吊り下げられ、近代的な都市の消費文化を象徴している。私はエスカレーターで階上へと導かれながら、この圧倒的なスケール感にしばし見とれていた。そして、鮮やかなグリーンの陳列台に並ぶ、あるブランドのショップに足が止まった。

「CHAUTFIFTH」。花びらをモチーフにしたチャームが愛らしい、ベトナム発のモダンなバッグブランドだ。伝統工芸品とはまた違う、現代の若々しい感性が光るデザイン。ここでもまた、ベトナムの新たな創造力に出会うことができた。
娘たちのお土産にしようと、記憶にとどめた。
2.3.コロニアル建築と歴史の囁き <20:25~20:30>
お土産の買い物の下見を終え、小雨になった夜の街を歩き始める。目的地は、フランス植民地時代の面影を色濃く残す、コロニアル建築群だ。まず目に飛び込んできたのは、優雅な曲線と彫刻で飾られたサイゴン・オペラハウス。

夜の照明に照らし出されたその姿は、まるでパリの夜の一角を切り取ったかのようだ。この場所でかつて、どのような社交界が繰り広げられていたのだろうか。
そこからグエンフエ通りへと抜けると、視界が一気に開ける。通りの先には、壮麗なホーチミン市庁舎(人民委員会庁舎)がライトアップされ、その前には蓮の花をかたどった噴水が美しく水を噴き上げていた。

市民や観光客が思い思いにそぞろ歩きを楽しむ平和な光景。しかし、この華やかな大通りのすぐ裏手で、私はこの夜、最も心を揺さぶられる光景に出会うことになる。何気なく曲がった路地裏の壁に、一枚のポスターが掲げられていたのだ。また、探してしまった感。

「30-4-1975」「30-4-2025」。南部解放・祖国統一50周年を記念するプロパガンダポスターだった。兵士が少女を肩車するイラストと、力強い「50 NĂM」の文字。華やかなコロニアル建築のすぐ隣で、このポスターはベトナムという国家のアイデンティティの根幹にある記憶を、静かに、しかし力強く主張していた。この光と影の隣接こそが、ホーチミンの真実の姿なのだと、私は改めて感じ入った。
2.4.旅の終着点、静寂のルーフトップ <深夜>
歴史と近代、光と影が交錯する夜の散歩を終え、私は心地よい疲労感と共にホテルへと戻った。そして、少し休んだ後、お腹が減ってきたので、長い一日を締めるべく。ホテルの最上階にある、ルーフトッププールに向かった。

水面は鏡のように静まりかえり、プールサイドの優しいイルミネーションを映し込んでいる。頭上からは緑の蔦が垂れ下がり、まるで都会の隠れ家のようだ。
時間が遅かったようで、食べ物は食べられなかったのですが、ビールを飲んでその場の雰囲気を楽しんだ。
3.旅のまとめ
ホーチミン3日目は、この都市が持つ時間的な深さと空間的な広がりを、縦横無尽に旅するような一日だった。午前中はクチの地下トンネルで過去へと深く潜り、午後はランドマーク81の頂から未来へと続くパノラマを見渡した。そして夜は、植民地時代の優雅な記憶が残る街並みと、統一国家としての力強いアイデンティティ、そして最新の商業施設の輝きが共存する現在を歩いた。
戦争の記憶、経済発展のエネルギー、洗練された都市文化、そして人々の逞しい生活。これら全てが渾然一体となって、ホーチミンという都市の複雑で魅力的な個性を形作っている。この街は、決して一つの言葉では語り尽くせない。その多層的な魅力を肌で感じられたことこそ、この日の最大の収穫だった。一日の終わりに静かなルーフトッププールで眺めた夜景は、この街が奏でる光と影の交響曲の、美しい余韻のように私の心に響き渡っていた。
4.補足
GPSデータ(時刻は現地時間)
2025-08-14 19:40:59 | 10.772856, 106.699928 | サイゴンセンター付近
2025-08-14 19:46:36 | 10.773094, 106.701194 | サイゴンセンター内部
2025-08-14 20:02:13 | 10.773303, 106.700500 | サイゴンセンター内部(ショッピング)
2025-08-14 20:25:37 | 10.775297, 106.702322 | ホーチミン市庁舎前
2025-08-14 20:27:19 | 10.776025, 106.702950 | サイゴン・オペラハウス前
2025-08-14 20:30:04 | 10.776958, 106.703842 | 路地裏(プロパガンダポスター)
2025-08-15 00:06:09 | 10.779553, 106.703933 | Silverland May Hotel(ルーフトッププール)
ホテル情報: Silverland May Hotel
Wise/Grab利用情報: なし。
歩数情報: 8月14日(木)の一日の合計歩数は16,435歩。
つづき
