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救急救命士 第49回 A問題 - 48

敗血症性ショックで初期にみられる病態はどれか。1つ選べ。
(1) 尿量の増加
(2) 心拍数の減少
(3) 全身血管の拡張
(4) 血管透過性の低下
(5) 循環血液量の増加

正解 (3)

【各選択肢の解説】

(1) 誤り。ショック時には血圧低下に伴う代償反応として、抗利尿ホルモン(バソプレシン)やアルドステロンの分泌が亢進し、水やナトリウムの再吸収が促進されます。さらに、腎臓の糸球体濾過圧が不足するため尿量は減少します。(P464)
(2) 誤り。敗血症性ショック(感染性ショック)の初期では、全身の血管が拡張して血圧が低下するため、これを補おうと代償機能が働き、心拍数および心拍出量が増加します。病態が進行してコールドショックに至ると心拍出量が減少しますが、初期に心拍数が減少することはありません。(P469)
(3) 正解。重症感染症を契機として過剰な炎症反応(サイトカインストーム)が生じると、放出されたサイトカインなどの生理活性物質が全身の血管を拡張させ、全末梢血管抵抗が著しく低下します。これにより、初期には皮膚が温かい「ウォームショック」の状態を呈します。(P469)
(4) 誤り。炎症反応に伴うサイトカインの作用によって、血管透過性は低下するのではなく著しく亢進します。これにより、血液中の血漿成分が血管外へ漏出しやすくなります。(P469)
(5) 誤り。血管透過性が亢進して血漿成分が血管外へ漏出するため、体内における有効な循環血液量は減少します。さらに、血管の拡張によって血管床の容積も大きくなるため、相対的にも循環血液量が不足した状態となります。(P469)

【試験対策】

ショックとは、何らかの原因による急性循環不全によって組織への血流が不足し、細胞レベルでの代謝が維持できなくなった状態を指します。救急救命士国家試験においては、ショックの4分類(循環血液量減少性、心原性、心外閉塞・拘束性、血液分布異常性)それぞれの発症機序と、それに伴う循環動態(心拍出量や全末梢血管抵抗など)の変化を理解することが極めて重要です。
敗血症性ショックは「血液分布異常性ショック」に分類されます。重症感染症を契機とした過剰な炎症反応により、サイトカインなどの生理活性物質が血中に放出され、全身の血管が拡張します。これにより、全末梢血管抵抗が著しく低下します。この時期(初期)は、低下した血圧を代償するために心拍出量が増加(頻脈)し、皮膚の血流も保たれるため皮膚が温かく赤みを帯びるのが特徴です。これを「ウォームショック」と呼びます。
しかし、病態が進行すると、血管透過性の亢進による血管外への水分漏出や、心機能障害が加わり、循環血液量と心拍出量が減少に転じます。この状態になると、他のショックと同様に末梢循環不全から皮膚が冷たく湿る「コールドショック」へと移行します。また、ショックの進行に伴い各臓器への血流が低下するため、腎血流量の低下による尿量減少や、脳血流量の低下による意識障害などがみられるようになります。
試験では「敗血症性ショックの初期=ウォームショック(心拍出量増加・全末梢血管抵抗低下)」という他のショックとは異なる例外的な循環動態が頻出ポイントとなります。以下の表で、各ショックの特徴を比較・整理しておきましょう。

※血液分布異常性ショックには、敗血症性ショックのほかにアナフィラキシーショックや神経原性ショックも含まれます。これらも血管床の異常な拡大(血管拡張)により相対的な循環血液量不足に陥るという点で共通しています。

【ステップアップ】

ショックという言葉を聞くと、単に血圧が下がってしまった状態とイメージしがちですが、医学的には全身の臓器や細胞に対して、必要な酸素や栄養素が十分に届かなくなってしまった危機的な状態を指します。人間の体は、血液に乗せて酸素を運び、血管を通って全身の細胞に届けています。出血などで血液の量自体が減ってしまうのが循環血液量減少性ショック、心臓の働きが落ちてしまうのが心原性ショックです。これに対して、敗血症やアナフィラキシーなどで起こる血液分布異常性ショックは、少し特殊なメカニズムを持っています。血液の量や心臓の働きに初めから問題があるわけではなく、血液の通り道である血管という器が異常に大きく広がってしまうことで、相対的に血液が足りなくなり、血流が滞ってしまう状態なのです。
敗血症性ショックの原因は、肺炎や尿路感染症などの重症感染症です。体内に侵入した病原体を退治するために、免疫細胞はサイトカインと呼ばれる生理活性物質を放出します。これは本来、仲間を呼んだり戦いを有利に進めたりするための大切なシグナルですが、感染が重症化すると、このサイトカインが全身で過剰に放出されてしまうことがあります。これをサイトカインストームと呼びます。大量のサイトカインは、全身の血管を一気に拡張させるだけでなく、血管の壁に隙間を作ってしまいます。これを血管透過性の亢進と呼びます。血管の壁の隙間から血液中の水分である血漿成分が血管の外へと漏れ出してしまい、血管の中を流れる実際の血液量も減ってしまいます。器が広がるだけでなく、中身の液体も漏れ出してしまうという状態が血液分布異常性ショックの正体です。
このような急激な血圧低下と血流不足を感知すると、体は必死に命を守ろうとする代償機能を発揮します。敗血症の初期段階では、広がってしまった血管の隅々にまでなんとか血液を届けようと心臓が通常よりも激しく拍動し、心拍数と心拍出量を大幅に増加させます。その結果、体の表面まで大量の血液が送り込まれ、皮膚が温かく乾燥した状態となります。これがウォームショックと呼ばれる状態です。しかし、この状態は長くは続きません。過剰な炎症反応や酸素不足が続くと、やがて心臓の筋肉自体もダメージを受け、血液を押し出す力が衰えていきます。こうなると、他のショックと同様に末梢への血流が乏しくなり、皮膚が冷たく湿ったコールドショックへと移行してしまいます。
医療の現場において、敗血症性ショックをウォームショックの時期に見抜くことは非常に重要です。皮膚が温かく一見すると血流が保たれているように見えるため、ショック状態を見落としてしまう危険性があるからです。しかし、体の中ではすでに血管が拡張し、水分が漏れ出し、細胞への酸素供給が不足し始めています。頻脈や呼吸の速さ、意識のわずかな変化などにいち早く気づき、輸液を行って血管内を満たしたり抗菌薬で感染症を治療したりといった早期の介入をしなければ、多臓器不全へと進行し、命に関わります。表面的な温かさに惑わされず、その裏で起きている循環の破綻を予測する力が医療従事者には求められます。

【救急救命士へのアドバイス】

病院到着後、医療機関では敗血症の確定診断と原因菌の特定、臓器障害の評価が迅速に行われます。原因菌を特定するための血液培養や尿培養、喀痰培養などの検体採取は、原則として抗菌薬投与前に実施されます。また、採血検査では白血球やCRPの上昇だけでなく、プロカルシトニンやプレセプシンといった特異的な感染マーカー、さらには血中乳酸値を測定して組織の低灌流や嫌気性代謝の程度を評価します。感染巣を特定するために、胸部エックス線やCT、腹部超音波検査などの画像診断も速やかに並行して行われます。
敗血症性ショックの治療の要は、一刻も早い感染源のコントロールと循環動態の安定化です。診断がついた場合、あるいは強く疑われる場合、1時間以内の広域スペクトル抗菌薬の静脈内投与が推奨されています。また、血管拡張と血管透過性の亢進によって不足した循環血液量を補うため、細胞外液である乳酸リンゲル液などを用いた初期急速輸液が行われます。大量の輸液だけでは血圧が維持できない場合は、血管収縮作用を持つ昇圧薬のノルアドレナリンを持続静注し、全身の臓器への灌流圧を維持します。感染巣が腹腔内膿瘍や壊死組織、感染したカテーテルなどである場合は、ドレナージや外科的切除といった物理的な感染源のコントロールが不可欠となります。さらに、敗血症性ショックは多臓器不全を引き起こしやすいため、急性呼吸促迫症候群に対する肺保護戦略を用いた人工呼吸管理、急性腎障害に対する持続的血液濾過透析、播種性血管内凝固症候群に対する抗凝固療法など、高度な集中治療が展開されます。
救急現場における最大のピットフォールは、初期のウォームショックを見逃してしまうことです。皮膚が温かく、代償性に心拍数が増加して血圧が一時的に維持されている場合、一見すると循環不全に陥っているように見えないことがあります。しかし、悪寒戦慄、高熱あるいは逆に重篤な低体温、原因不明の頻呼吸、そしてなんとなくいつもと違うといった意識の変容が見られた場合は、直ちに重症感染症による敗血症の進行を疑う必要があります。呼吸数が1分間に22回以上、収縮期血圧が100ミリ水銀柱以下、意識変容という3項目のうち2項目以上を満たせば、敗血症の危険性が高いと早期に判断する基準も存在します。救急救命士は、現場で感染のサインを鋭く察知し、医療機関へ敗血症が疑われるという明確な情報を添えて早期に搬送連絡を行うことが極めて重要です。これにより、病院側は搬入後直ちに血液培養の採取や抗菌薬の調剤、大量輸液の準備を整えることができ、傷病者の予後を劇的に改善する救命の連鎖を強固につなぐことが可能となります。

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