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闇 24(フィールド&裏ビデオ屋編)

闇 24(フィールド&裏ビデオ屋編)

2024/09/25 wed
2025/08/28 thu
前回の章


一円レートのゲーム屋『フィールド』。
北中のあとをついて店内へ入る。

中は両サイドにゲーム台が置かれ、一番奥にカウンターがあった。
左側の壁に四台、右に五台の全部で九台しか置いてない。

客は誰もいないようだ。
広さは十畳程度。

「お疲れ様です、北中さん」

出迎える二人の従業員。
一人は三十代前後の茶髪の細タレ目の線の細い男。

もう一人は東南アジア系?
外国人の従業員をここは雇っているのか?

ワールドワンの系列では日本人のみだった。
他の店へ遊びに行った時も、すべて日本人の従業員のみなので、ちょっとしたカルチャーショックを受ける。

「明日から早番で入る岩上さんね」

北中が二人に俺を紹介した。

「あ、はじめまして、岩上です。よろしくお願いします」

履歴書も何も出してないのに、いきなり明日から仕事……。

まあすぐに給料が入るのは嬉しい。

「大阪です。よろしくお願いします」
「レクです、よろしく」

東南アジア系の男は、外国人独特のイントネーションで話してくる。

「早番て、何時頃来ればいいでしょうか?」

「七時だよ」
「え! 朝七時からですか?」

基本ゲーム屋は十二時間交代の二十四時間営業なので驚いた。

「七時から昼の三時までだよ」
「八時間なんですか?」

「そうだよ。ここが終わったら下降りてきて、ビデオを二時間手伝ってもらうだよ」

「分かりました……」

早番が七時から三時。
中番が十五時から二十三時。
遅番が二十三時から七時。
この三交代制のシフト。

今まで二交代制の店でしか働いた事がなかったので、不思議な気分だった。
でも、十二時間拘束で考えたら、三交代八時間制のほうが理想ではある。

「まあ今日は帰って、明日七時から頼むだよ」
「了解しました。あの…、服装はワイシャツにネクタイで?」

「いや、私服でいいだよ」

確かに中番の従業員である大阪、レクはTシャツにジーパンと非常にラフな格好をしている。
弛んでいるというか、自由度が高いと表現したらいいのか……。

「分かりました。それでは明日七時前には伺います」

俺はドアを閉めて、西武新宿駅へ向かった。
歌舞伎町に朝七時……。

本川越駅から電車で一時間は掛かるとして、朝五時台の電車に乗るようだ。
こりゃ大変だな。

家に戻り、今後の展開を考える。
八時間ゲーム屋で働くのはいい。

確か機種は『プロ』の時と同じ赤ポーカーだった。
レートは同じく一円。
過去働いた店とそう大差ないだろう。

残り二時間をメロンとかいう裏ビデオ屋で働く……。

たかだか二時間であるが、妙に気が重い。

ゲーム屋は賭博。
裏ビデオはエッチなビデオを売る仕事。
いくら裏稼業とはいえ、ギャンブルとエロでは格好悪さが違ってくる。

いやいや、今の俺にそんな贅沢いえる権利などない。
雇ってもらえるだけマシ。

まあ時間帯はサラリーマンと似たようなものだ。
もう決まったんだから、やるしかないよな。
いい加減腹を決めろ。

あとになって履歴書とか言われても面倒だから、とりあえず用意しておこう。

どちらにせよ明日から、俺は新しい生活が始まるのだ。


家に帰るとパソコンに一通のメールが届いていた。
知らない女性から。

名は清藤祐希。
自分の名前と簡単なプロフィール、そして写真が添付してある。

『はじめまして。インターネットで岩上さんのピアノを弾く動画を見てファンになりました。私は青森に住んでいて、よかったら連絡したいなと思い、このメールを書いています。写真も同封しておきますので、よろしくお願い致します。 清藤祐希』

随分積極的な女だな……。

写真を見る限り、そこそこ美人であるがいまいち俺のタイプではない。
俺のピアノの映像…、確かくっきぃずやスイートキャデラックで演奏した時の動画をどこかで適当にアップした覚えがあるけど、もうどのサイトだか忘れてしまった。

品川春美とはすっかり疎遠になってしまった今、異性関係はミサキ程度しかない俺。
ミサキはもちろん妹枠なので、異性関係とは言えない。

俺はこの清藤祐希という女性に、メールの返信をしてみる。
動画を見てくれてありがとうと、簡単な文面だけにしておいた。

さて、明日も早いしそろそろ寝るとするか……。


起床朝五時。
シャワーを浴びて支度を済ます。

電車が遅延する可能性も考え、五時半の電車には乗るようにした。
二十分から三十分前には、余裕を持って職場へ到着していたい。
出勤時間よりは早め早めの行動。
これは、歌舞伎町で働くようになってから自然と身についた習慣だった。

西武新宿駅へ着くと、一番街通り、セントラル通り、さくら通りを横切り、東通りの一本手前の細い道を左に曲がる。
狭い歌舞伎町の中でも過疎化したエリア。
何だか都落ちした気分になってくる。

入ってすぐ右手には、プチドールという箱型ファッションヘルスが見えた。
まあ風俗店で働くよりは全然マシだよな……。

こういった店は、金を払って遊びに行くところだから。
この通りの真ん中くらいに位置する第二平沢ビル。

『フィールド』のインターホンを押す。

少ししてドアがゆっくり開く。
店内はそこそこ盛況で、五卓ほど席が埋まっている。
席数の約半分。

「あ、新人だ」
「新しい人だ」

ゲームを打つ客たちが、俺の顔を見ながら声を掛けてくる。
パンチパーマや角刈りの客ばかり。

簡単な挨拶を済ませながら奥のカウンターへ向かう。

この店、ヤクザ者OKにしているのか?
どう見てもヤクザにしか見えない客たち。

暴力団厳禁だったワールドワン時代では考えられない。

「はじめまして、店長の小泉です」
「秋葉です」

黒髪キノコカットの細めの男が小泉。
俺より五歳は年上だろうと思う秋葉。

「岩上です、今日からよろしくお願いします」

少ししてもう一人の早番、山本が入ってくる。
俺はホールで客のINとOUTをひたすら繰り返す。

出勤して二時間もしない内に客は次々と帰り、あっという間にノーゲストになる。
台の清掃を始め、終わると掃除機で店内の床を転がす。

「岩上さんお疲れ様です。うちの店、いつもこんなもんなんですよ。もうほとんどこの時間帯になると、客何て来ないんでゆっくりしましょうよ」

事務処理を終えた山本が声を掛けてきた。

「さっきいた客…、あれって組関係なんですか?」

ここへ来た時抱いた素朴な疑問を聞いてみる。

「ええ、バリバリの現役ヤクザですよ。このビルの二階と三階にそれぞれ違う組事務所があるんですよ」

「……」

ヤクザの事務所が二つもこのビル内にあるのかよ……。

暇ではあるが、何だか面倒臭そうな店だな。
今まで培ったワールドワンでの常識が通用しない空間。
それが始めに抱いた感想だった。

結局彼の予測した通り、昼の三時まで客が来ない状態が続き、山本とダラダラ無駄話をして時間を過ごす。

「岩上さん、今日の日払いです」

山本から一万円札を受け取る。
ここが終わったら、地下へ行って裏ビデオの仕事か……。

「では山本さん、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
「岩上さんはこのあと地下で二時間仕事ですか…。大変すね……」

「いえいえ、たかだか二時間だけですし。それでは明日」

俺はフィールドをあとにして、階段を降りた。


守銭奴北中

裏ビデオ屋『メロン』。
十畳ほどの広さ。
右手に従業員が座るテーブルに椅子。

残り三分の二は客のスペース。
壁ぴったりに長机が設置され、色々なビデオを紹介するファイルが置かれ、筆記用具にメモ用紙。

左手奥にはソファー、そしてガラス張りの冷蔵庫があり、中には缶コーヒーや缶のお茶が冷やされている。

「上のフィールドの仕事が終わりました。自分はとりあえずどうしたらいいでしょうか?」
「おー、とりあえずここへ座るだよ。俺は上行ってくる」

北中は俺が来るなり立ち上がり、外へ出てこうとした。

「ちょっと待って下さいよ、北中さん。俺、ビデオの仕事、何も分からないですよ」
「簡単だよ。客が来たらそこのメモ用紙に欲しいもの書くから、ビデオなのか、DVDなのかを見て、そのキャッチホンのメニュー押すと倉庫ってあるだろ? そこへ電話して持ってきてもらうだけだよ」

それだけ言うと、北中は出ていこうとする。

「待って下さい! 値段とかそういうのは……」
「ビデオは一本なら二千円、三本五千円、八本で一万円だよ」

確かに壁には値段表が貼ってあった
DVDだと一枚三千円、二枚七千円、四枚で一万円。
要は無言で一万円は使えという料金体系なのだろう。

「あとここで何時までやればいいんですか?」
「五時までの二時間だよ。ここの分の給料は、月末まとめて払うだよ」

それだけ言うと、北中はとっとと店を出ていく。
かなりいい加減な人だな……。

ポツンと一人裏ビデオ屋店内へ残され、途方に暮れる。
こんな状態でいきなり客来たらどうするんだよ?

椅子へ座り辺りを見渡す。
みすぼらしい店内。
ビデオを売る仕事とはいえ一応接客業なんだから、少しは綺麗にすればいいものを。

客も来ないので俺は掃除をする事にした。
トイレは特に酷い。
まったく掃除していない感じだ。

ちゃんとした掃除用具も無いので、トイレットペーパーを丸め、床の隅々まで水で濡らし丁寧に拭く。
少し吹いただけで真っ黒になる紙。
陰毛だと思うが、大量に付着する。
身震いしながら便器へ捨て、水を流す。

明日来る時は、上のフィールドからおしぼり数本持ってこよう。
トイレットペーパーじゃ、埒が明かない。

結局この二時間客はまったく来なく、掃除をしただけで一日が終わる。
それにしても本当に汚い店だ。

夕方五時になり、北中が上から降りてくる。

「おう、お疲れ。今日はもういいぞ、また明日な」

店内をかなり綺麗にしたつもりだが、北中は何も気付かない様子。
本当に分かっていないのか?
これだけ掃除したのに?
無頓着もいいところだ。

初日はこれで終わるが、ずっとこんな感じなのか……。

帰りの電車に揺られながら、先々不安を覚える。
何で俺は、あれだけ金があったのを湯水のように使ってしまったのだろう。
まあ無くなってしまったものは仕方ない。
今はあの不潔な場所で、働くしか道はないのだから。

こんな事になるのなら、せめてミサキを抱いておけば…、いやいや、あいつは妹代わりに可愛がるんだろ?
自分の立ち位置が落ちたからといって、魂まで汚すなよ。

このまま指を咥えて過ごすだけではいけない。
本当に何かしら考えねば。


初日が終わりパソコンを見ると、昨日の清藤祐希からメールが来ていた。
電話番号まで書いてあったので、とりあえず控えておく。

彼女の文面からは、俺が理想のタイプで距離は離れているがいつかこちらへ上京したら会ってみたいというものだった。
褒められて悪い気はしない。

だがあれだけ一心不乱に弾いたピアノが春美には何も届かなかった現実。
インターネットへ気休めでちょこっと載せた動画で、知らない女が連れる構図は、皮肉なものだ。

それでも男の悲しい性。
彼女がいない俺は、誰もいないよりはマシと返事をしてしまう。

別にキャバクラみたいに金が掛かっている訳ではない。
暇潰し程度にはなるだろう。

時代が進み、こんな男女の出会い方もあるのだなと不思議な気分になる。
さて、そろそろ眠るとするか。
俺は布団へ寝転がり睡眠を取った。

朝五時起き。
熱いシャワーを浴びて、タバコをゆっくり吸った。

少ししたら俺は新宿歌舞伎町へ向かう。

仕事が終わるのは夕方五時。
普通のサラリーマンのような時間帯。

ずっと遅番で仕事が当たり前の俺は、このルーティンに違和感を覚える。

ワールドワンの時のような無限に金が入ってくる訳では無い。
毎日行って俺は、一万ちょっとの小銭を稼ぎ、日々の暮らしを消化していくだけ。

何故金が無限にあった頃、何も考えず適当に遊んでいたのだろう。
競馬に、ミサキのいるキャバクラで豪遊。
遊び尽くした俺の手元に残ったのは一台のノートパソコン。

何度同じ事を考えるんだって。
もう過ぎてしまった事を今さら後悔したところで、取り返しなど利かない。

元々俺は何一つ何も無かった人間である。

強くなる事だけに取り憑かれた二十代。
確かに強靭な肉体だけは手に入れた。

しかし俺も三十代。
ここから先は衰えていくばかり。

今できる事は、用意された職場で日々紳士的に取り組む。
それが基本ラインである。

先輩の坊主さんから教えてもらったパソコンの知識。
俺より達者にできる者など無数にいよう。
しかしそれでもパソコンというものに、少しでも食い込んでいきたい。

戦いの世界において背中を見たジャンボ鶴田師匠、そして三沢光晴さん。

どれだけ途方もない背中なのだろう。
俺には遠過ぎた。

パソコンにおいては、坊主さんの背中がその感覚と近いものを実感している。

幸い今のゲーム屋フィールドにしても、ビデオ屋メロンにしても暇な店だ。
いくらでもパソコンをいじる時間はある。

新しい環境へ身をおいて二日目。
俺はノートパソコンも常に持ち歩く事にした。

フィールドに到着するも、店内はノーゲスト。

本来ゲーム屋は、客がやればやるほど負けて儲かる商売。
還元するOUT率。
たくさんの客が入っていれば、無理にキツい設定にする必要性はない。
多くの客から少しずつ金を取ればいいのだ。

暇な店はどうか?
基本渋い設定にせざるえないので、客は来ても勝てる確率がどんどん減る。

それでもフィールドは、他の普通のゲーム屋では入れないヤクザ系の客が多い。
遊べる場所が一般人とは違って少ないヤクザ者たちは、こういった店で金を落としながら時間を潰すしかないのである。

俺はパソコンをいじりつつ、山本と他愛ない世間話をして時間を過ごす。
何かやるにしても、ゲームぐらいしか俺はできないからなあ……。

「岩上さんがやっているのって、ゲームなんですか?」
「あ、これはゲームですよ」

「凄いリアルじゃないですか。どんなジャンルなんです?」
「エイジオブミソロジーといって、ギリシャ神話やエジプト神話の神を選び、それぞれ崇拝する神によって文明も違ってくるんです。ジャンルはリアルタイムストラテジーって感じですね」

「面白そうですね! 自分もノートパソコン持ってんですけど、そのゲームできますかね?」
「これはミソロジーのソフトを買わないとできないんですが、体験版でよければ無料でできますよ」

「え、どうやって?」
「山本さん、明日良かったらパソコン店に持ってきて下さいよ。俺がゲームできるようにインストールしますから」

「本当にいいんですか!」
「大袈裟ですね。全然問題ないですよ」

「いやー…、岩上さんがフィールドへ入ってきて本当に良かった。前まで諏訪さんって人が早番だったんですけど、本当に屑な人なんですよね」
「どんな人なんです?」

「フィリピン人の嫁に、この間子供できたとかで今は静岡に帰っているんですよ。一ヶ月ぐらいだと思いますが」
「まあでも子供できたんじゃ、会いに行きたいですよね」

「諏訪さん、こっちにいる時なんて住むところないんですよ」
「え? じゃあどうやって暮らししているんです?」

「知り合いのところ泊まり歩き、それも全部駄目になってから月二万円の畳一畳みたいな部屋で寝泊まりしながら、ここで働いているんですよ」

「……」

山本の言うように何だか滅茶苦茶な人みたいだな。

インターホンが鳴る。
モニターには北中の顔が写っていた。
鍵を開けて中へ入れる。

「おう、山本。いつもの」

山本はコーヒーカップにインスタントコーヒー、そして砂糖を十杯入れてからお湯を入れた。

明らかに砂糖の分量がおかしくないか?
思わず声に出す。

「え、山本さん。それ甘過ぎじゃないですか?」
「北中さんはいつもこうなんですよ」

何事もないように甘過ぎるコーヒーを出す山本。
美味そうにコーヒーを飲みながらゲームをする北中を見て、いつ糖尿病になってもおかしくないと思う。

一万円も使わない内に北中は席を立つ。

「山本、〆が終わったら下に持ってくるだよ」とだけ言って、メロンへ降りていく。

北中が出ていくと、山本は大きな溜め息をつく。

「どうしたんですか?」
「え、いや…、毎日の事ながら北中さんは本当にセコいなあって……」

本来オーナーなんて身勝手なもの。
多少の無理難題は仕方ないものである。

「まあまあ…、北中さんがこの店のオーナーだからある程度の事はしょうがないじゃないですか」

「え? 岩上さん、北中さんはオーナーなんかじゃないですよ?」

キョトンとした表情の山本。

「別にオーナーがいるって事ですか?」

てっきり北中の店だと思っていた分、衝撃は凄かった

「この店のオーナーは金子さんです。北中さんは…、なんて言ったらいいんですかね……」

「番頭みたいなもんですか?」
「いえ、そもそも北中さんはまったくウチと関係無いんですよ」

「……」

フィールドと北中は関係無い?
さすがにそれはないだろ?

そもそもここで働くように持ち掛けたのは北中である。
山本の話す意味合いがよく分からなかった。

「岩上さんはまだ二日目だから分からないでしょうけど、この店ってヤクザ者の客多いんですよ。それで金子さんに北中さんが多少は顔利くからとしゃしゃり出てきて……」
「北中さん、面倒見良さそうですからね」

俺の台詞に驚く山本。

「岩上さん…、おいおい分かると思うんですけど、北中さん…、あの人、金に関しては悪魔ですから」

「悪魔?」
「はい、本当に金に関しては酷いですよ。岩上さんも北中さんからいくら借りたのか分かりませんが、気を付けて下さい」

何故彼は、俺が北中から金を借りたなんて思うのだろうか?
真意は分からないが、変に誤解されたくもないので正直に答える。

「え? 俺は金なんて借りてないですよ!」
「本当ですか? それは失礼しました。突然北中さん紹介で岩上さんが来たので、てっきり金でも借りているのかなと思いまして」

ゲーム屋の一従業員からここまで酷い言われようの北中。
分からない事だらけだが、気を付けたほうが良さそうだ。

ひょっとしたら山本は、オーナーが金子で名義社長が北中と言いたかったのではないだろうか?

「山本さん、北中さんがこの店の名義なんですか?」
「いえ、違いますって! あの人は全然無関係なんですよ。名義は遅番にいる小泉さんが名義です。その前は秋葉さんでしたけど」

山本の話によると、〆用紙を持って来いと言うのは北中がフィールドの各台のINとOUTの比率を見てどの台が出易いかチェックする為。
そしてゲーム数を見て、どの台がロイヤル出易いかを調べる為だけだと言う。

確かに台の設定を知っていれば、INとOUTの差でどの台が出易いかは分かる。
ロイヤルにしてもゲームの回転数で決まるから、メーター画面さえ見れればイージーだ。

「これ見て下さいよ」

山本は店内の壁に貼ってあるロイヤルの様々なプリンター用紙を指す。
白黒画面の余白にはロイヤルが出た日付け、そして出した客名が書いてある。

「これ…、北中さん以外に清水とか迫田とか名前あるじゃないですか」
「はい」

「名前違うの書いているだけで、全部北中さんなんですよ、ロイヤル出してるの」
「これ全部がですか?」

「稀に他の人もありますよ。ほら、ここに山崎さんとか宮部さんとかあるじゃないですか。そういうの除けばほとんど北中さんが出したやつばかりです」

それが事実なら、九割は北中がロイヤルを出している事になる。

「オーナーの金子さんは、うまい具合に利用されちゃっているだけなんですよ」

何だか面倒臭そうなところへ放り込まれた。
二日目のゲーム屋はそんな印象だった。

ここのオーナーは金子……。

「あ、ここの岩上さんのデズラは店からでなく、北中さんが渡すそうですよ」

「分かりました」

十五時になり、下のメロンへ降りる前にも「岩上さん、北中さん、金に関しては悪魔ですから」とまた言う。
何だか嫌な話を聞いたものだ。
これから二時間、その金に関して悪魔な北中の元で働くのだから。

俺はノートパソコンを鞄に仕舞い、重い足取りのまま階段を降りた。


昨日と同じく俺がメロンへ到着すると、北中はすぐ上へ向かう。
山本が〆をした店のデータが気になって仕方がないのだろう。

テーブルの上に置いてある吸い殻が山のように積もった大きな灰皿。
こんなになる前に捨てればいいのに。

吸殻をゴミ袋へ捨てると、埃臭い店内の掃除を始めた。

背後に人の気配を感じ振り返ると、冴えない小太りの中年サラリーマンが入口にいる。

「い、いらっしゃいませ」

客は俺の事などまったく気にせず、椅子へ腰掛けビデオのファイルをパラパラとめくっている。

裏ビデオ屋では初めての客。
特にする事もないので、ノートパソコンを開いて起動させた。
ボリュームを小さくしてパソコンゲームのエイジオブミソロジーを始める。

少しして客は立ち上がり、俺の目の前に手書きのメモ用紙を置く。

確か受話器の履歴に倉庫があるから、そこへ連絡してビデオを持ってきてもらうんだよな?
倉庫へ電話を掛けた。

三コールも鳴り終わらない内に「はい」とぶっきらぼうな感じで電話に出る相手。

「え…、えーと……」
「早く! ビデオ? DVD?」

確かビデオならタイトル名、DVDなら番号だから、ビデオだよな?

「ビ、ビデオです」
「早くタイトル言って!」

妙にせっかちだな、コイツ……。

「も、漏らしちゃイヤン……」
「はい、あとは?」

「と…、時々でいいの、隣の団地妻3」

卑猥なビデオのタイトルを口に出して話すのが、こんなに恥ずかしいものだとは思いもしなかった。

「あとは?」

「せ…、洗濯屋ケンちゃん」

「あとは?」
「以上三本です」

電話はすぐに切れる。

俺は値段表を見て客に「五千円になります」と言う。
小太りサラリーマンはしわくちゃの一万円札を黙ってテーブルへ置く。

引き出しにある財布から、五千円札を取り出し渡す。
客は金を受け取ると、奥のソファへ腰掛け冷蔵庫にある缶コーヒーを勝手に取って飲んでいる。

十分もせず、倉庫の人間らしき牛乳瓶メガネの太った男が店に来て、テーブルの上に三本のビデオテープを置く。
急いで来たのか汗を掻き、ブヒブヒと荒く息をしている。

牛乳瓶メガネは帰り際、冷蔵庫から缶コーヒーや烏龍茶の缶を数本バックに放り込み黙ったままメロンをあとにした。

何ていうかまるで豚のような人だ。
人間として最低限の礼節もないのか?

俺は紙袋に三本のテープを入れて客へ渡す。

「ありがとうございました」

小太りサラリーマンは黙ったまま店を出た。
これがビデオ屋の一連の流れなのか。

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