闇 458(令和での再会編)
闇 458(令和での再会編)

2026/01/20 tue
前回の章
二千十九年五月一日、水曜大安、新天皇即位。
昭和、平成、令和と年号が切り替わったゴールデンウイーク真っ只中、俺は変わらずラッキーハウスの中で仕事をしながら迎える。
客も従業員も何一つ変わらない日常。
「岩上さーん、終わったら一杯飲みに行きましょうよ」
山下哲也が声を掛けてくる。
コイツと酒を飲みに行くと碌な目に合わない。
大方金欠でご馳走にあやかりたいだけだろう。
誰が令和になった初日から驕るか。
「嫌だ」
「えー、冷たいじゃないすかー」
仕事を終えると山ゴネスは俺のあとをついてくる。
そういえばコイツも西武新宿線の小平だかあの辺に引っ越したと言っていたな。
駅には行かず道を左折する。
「あれ、岩上さん、どこ行くんすか?」
「腹減ったから飯食うだけだ」
「え、どこ行くんすか? 自分も行きますよ」
「……」
大ガードを通り過ぎ、小滝橋通りを右手に曲がる。
昔だったらコマ劇場の前にモスバーガーあったのになあ。
そう思いながら店内に入り、一応メニューを確認した。
モスバーガーとてりやきバーガーは絶対に頼むメニューである。
もう一ついっちゃうか。
「あ、自分もいいすか」
「何だテメー、一緒に注文すんなよ」
「いいじゃないすかー。店員さん、自分は……」
図々しい山下は俺の注文に割り込み、自分の分まで頼み出す。
当然会計は俺が全額払う。

「さすが岩上さん、令和になっても食欲ありますね、へへ」
「……」
俺にとってモスバーガーとのファーストコンタクトは、本川越駅からすぐ傍にできたのが初めてだった。
マクドナルドよりも高いファーストフード。
そんなイメージだったが、同級生の田中正義が一人で入っていくのを一度見て、いくら掛かるのか小学四年生の頃聞いた事がある。
「二千円も持っていけばお釣り出るよ」
ピープルランドで毎日ゲームをして一日小遣い百円を使っていた俺にとって、モスバーガーは高根の花過ぎた。
高校生になりアルバイトをするようになってから、ようやく行けるようになったモスバーガー。
当時マクドナルド三九セット、対抗したロッテリアは三八セットという低価格で食べられたので、モスだけは特別感があった。
従妹の和ちゃんが財布を無くしたと家に来て、探すのを手伝った時は好きなだけ食べさせてやると店へ行き、十個食べた事もある。
あの頃は、ギリギリまだ昭和だったっけ?
確か高二の正月に平成になったイメージがあった。
パチンコ屋であの日だけ軍艦マーチが鳴っていなかったもんな。
大好きなハンバーガー、それは俺にとってモスしかない。
俺が岩上整体を開業した頃、もうそのモスバーガーは潰れてしまったので、古き良き思い出である。
「あ、テメー、人のポテト何勝手にバグバグ食ってんだよ!」
「いいじゃないすかー」
斉藤弘一がこの光景を天から眺めていたら、腹を抱えて笑っているんだろうな……。
三つ食べ終わると、山下を置いて俺は西武新宿駅へ向かった。
二千十九年五月四日、
平成の白いスポンジ事件から三週間くらい経つのか?
ハッキリした傷跡ってわけじゃないが、黒っぽく傷が残ってしまった。
写真を撮って確認してみる。

何だか化粧でチークしてるみたい。
そんな訳ねえか。
一人で電車の中でニヤニヤしていると、周りの客が不思議そうに見ていた。
どうでもいいけど髪の毛結構伸びたな。
こんな長く伸びたの生まれて初めてだ。
近い内切らないと。
二千十九年五月十一日、土曜日仏滅。
客が引いた真夜中、食事休憩で外へ出る。
たまには肉でも食いたい。
歌舞伎町を彷徨い歩き、ステーキハウスを見つけたので中へ入る。
ステーキにハンバーグを注文。

ごく普通の店だったので写真だけ撮り、フェイスブックへあげただけ。
今後また来るとかはないだろう。
二千十九年五月十二日、日曜日大安。
仕事を終え、帰りの電車の中でふと所沢プロペ通りにあった海峡を思い出す。
パチンコをしがてらあとで寄ってみるか。
「……」
いいところなく負け。
項垂れたまま海峡へ行くと、潰れたらしく別の店になっていた。
思い入れのある好きな店だったから何だか悲しい。
しかし新しい店も似た感じだったので入ってみる。
ナポリタンとチーズハンバーグを注文。

食事を終えると再びパチンコ屋へ行きまた負けて、川越へ帰る。
せっかくの休みなのにいきなり何て日だろうか。
埼玉りそな銀行の駐車場の前を通り、いるはずのない猫を少しだけ待ちながらタバコに火をつけた。
クレアモールへ入ると、湯旅ビルの三階に保護猫カフェ『ねこかつ』があるのを見つける。
以前ここって喫茶店だったところだよな。
ひょっとしたら保護猫と書いてあるぐらいだし、あの子たちもいるかもしれない。

俺はドアを開け、三階への階段を駆け上がった。

中に入り、野良猫ニャーニャーたちがいないか探し回る。

一匹だけ近い猫がいたが、よく見ると違うようだ。
ニャンタッタたちなら、俺の事を分かるはず。
つまりこの子は偽物。

平和な空間の中寛いでリラックスしながらだらける猫たち。

どうやらここにはいないようだな。
全部の猫を見ると、俺は猫カフェをあとにする。
帰り道また戻って駐車場を探したが、あの子たちが出てくる事はなかった。
二千十九年五月十三日、月曜日赤口。
ジャンボ鶴田師匠が亡くなってから丸十九年。
二千年だったから本当にすぐ分かってしまう。
あと二年も経てば、鶴田師匠と同じ年になる俺。
背中を追い駆けて頑張ったつもりが、今ではまるで見えなくなってしまった。
それもそうだ。
俺は何一つ努力などしていないのだから。
二千十九年五月十九日、日曜日赤口。
西武新宿駅で特急小江戸号の切符を買おうとすると、山下が声を掛けてくる。
「待って下さいよ、岩上さん」
「ん、何だよ?」
「今日軽く飲んで行きましょうよ。どうせ休みすよね?」
「もう駅に入っちゃったじゃん」
「急行で帰りましょうよ」
「嫌だよ、とっとと川越に帰りたい」
「ちょっとぐらいいいじゃないすか。自分今、花小金井なんですよ」
「小平とか田無の辺りだろ? あの辺何もないだろ」
「じゃあ小平でちょっと飲みましょうよ」
「あー、小江戸号行っちゃったじゃねえかよ……」
山ゴネスの策略にハマり仕方なく急行で小平へ向かう。
定期券なので運賃的には変わりない。
「本当にこの辺何もないじゃねえかよ」
「あそこの踏切渡ったところに居酒屋ありますよ」
古いパチンコ屋が一軒に中華料理店くらいしか店がない。
駅前でここまで栄えていないのも逆に凄いな。
しかし踏切を渡った逆側はチェーン店が多いものの、そこそこ栄えている。
「とりあえずここでいいすか?」
居酒屋『はなの舞』小平店と書かれたチェーン店。
ここならわざわざ途中下車なんてしなくてもいいものを……。
外にあるメニューを見ると、うな重があった。
他にも種類だけは豊富だ。
「本当にここ一軒だけだからな」
「ええ」
俺はウイスキーのロックにグレープフルーツサワー、山ゴネスは生ビールを注文。
小腹が減っていたのでうな重を頼んだ。
今は亡き斉藤弘一を偲びながらの会話の中、うな重が運ばれてくる。
蓋を開けた俺は仰天し、山下は腹を抱えて大笑い。
あまりにも酷過ぎたので、俺は写真を撮った。

一応うな重な事は確か。
しかし重箱の中には一本のししとうと同等程度の小さな鰻が三切れご飯の上に乗っていた。
メニューの写真とまるで違うのは仕方ないが、これは詐欺に近い。
ミニチュアサイズのうな重。
こんなものを客から金を取って提供するぐらいなら、メニューに載せなきゃいいのにと思う。
「だからうな重はやめたほうがいいって、言ったじゃないすか」
「うるせー、この馬鹿が。おまえが小平へ寄ろうなんて言わなきゃ、こんなもの頼まずに済んだんだ」
この一軒で懲りた俺は、切り上げて川越へ帰る。
熊野神社周辺が賑やかだったので顔を出すと、縁日だったようだ。
境内でお囃子を披露する雀會。

先輩の松永さんも見えるが、見物人たちの視線はキツネの面を被った踊りに集中している。

『奉祝 天皇陛下御即位』と書かれた紙が舞台の横に書いてあり、令和だから天皇陛下が変わったんだよなあと実感が湧いた。
おじいちゃんが生前勲章を何度かもらった天皇とは違うのだ。
「あら智君今帰り?」
振り向くとコロポックル真紀美がニコニコながら立っていた。
俺は辺りをキョロキョロしながら「あれ? 声がしたのに誰もいない」と大袈裟なアクションをしていると、腹にパンチされる。
「目の前にいるでしょ!」
「背が小さ過ぎて見えなかったんですよー」
「コノヤロー」
真紀美とは以前美女と野獣の映画を観に行った以来になる。
それにしても地元は落ち着く。
人を利用しようまたは陥れようとする人間が、近くに誰一人いないからだろう。
いや、生まれ育ったこの地で、昔から俺を知っている人間ばかりなのだ。
新宿や二俣川の人間とは訳が違う。
俺があれほどこの土地を嫌ったのは、おじいちゃんの財産に群がっていた身内だけなのである。
今や家族で口を利くのは親父ぐらい。
不思議なものだなあと思いつつ、セブンスターを口に加えた。
家に帰り一度寝てゴロゴロしていると夜になり日が明ける。
二千十九年五月二十日、月曜日先勝。
昨日の変なうな重以降食べてなかったので腹ペコだ。
いつもの呑龍で、一日分の量を一気に注文した。
お決まりの生姜焼き定食と餃子とワンタン麺。

ワンタン麵を啜りながら餃子を口へ放り込む。

しょうが焼き定食を食べながら、ふとそういえば親父も腹減っているのかなと思った。

「マスター、大変申し訳ないんですけど、サトル炒飯…、面倒だったら普通の炒飯でいいんで、餃子と持ち帰りで作ってもらってもいいですか?」
「あいよ」
特にこれといったものが何もない平凡な時間を過ごし、夜になればまた新宿歌舞伎町での生活が始まる。
令和になったところで俺の生活に変化など無縁だった。
二千十九年五月二十一日、火曜日友引、小満。
いつもうるさい山下が休みなので、今日は落ち着いて仕事ができる。
世の中の三時過ぎに客が引き、橋本と寛いでいると店のチャイムが鳴った。
「赤崎さん、見た事ありますか、この人?」
ラッキーハウスではこのように入口でまず客の顔を厳重にチェックする。
内偵で刑事が客に紛れて入ってくるケースも、賭博業では大いにありえるからだ。
現行犯逮捕でないと立証できない為、警察が昔からよく使う手の一つである。
見た事のある顔。
橋本がピンと来ないぐらいなので、常連ではない。
しかしいつだっけ?
俺は会った事がある顔だ。
歌舞伎町浄化作戦の中口の店によく来ていた……。
「……。あ、思い出しました! 多分横山って歌舞伎町に古くからいる人間ですよ」
「じゃあ開けますね」
横山が入ってくると、後ろからもう一人入ってきた。
俺はその人物と目が合うと、お互い動きが止まる。
「岩上さん?」
「長谷川さんですか?」
いつ以来の再会だろうか?
以前秋葉原の裏ビデオ屋『アップル』で共に働いた者同士の再会。
長谷川昭夫はまだ刑務所から出てきたばかりなのか、坊主頭だった。
しかもあの店の名義人は山下哲也。
今日は休みだからいないが、本当に久しぶりの再会だった。
当時俺が設定した名義をしている山下の給料は約百万円。
数ヶ月で六千万円ほどの売上を作った俺の給料は三十万程度。
不和協音になり、一時は険悪な状況になったあの頃。
しかし俺が岩上整体を開業したあと、友人の斉藤裕二と共に祝い金を届けてくれたり、俺の試合を観戦しにも来てくれた。
そんな彼も裏ビデオ屋の仕事で捕まり、執行猶予中だったので実刑が確定。
当時KDDIで働いていた俺は休みを取り、その裁判へ行った。
斎藤と共に長谷川昭夫の裁判の傍聴席へ。
久しぶりに見た長谷川の姿を見た時は驚く。
坊主頭になっていたからだ。
累犯の為刑務所へ行くのが決まっているので、顔つきは疲労困憊し元々瘦せ型なのに、よりやつれて見えた。
張りきった検事が長谷川を責め、離婚して未成年の息子と娘がいる事まで指摘し「こんな真似をして金を稼いで恥ずかしくないのか!」と偉そうに怒鳴り散らす。
そりゃああんたみたいにエリート街道に乗って検事になり、人生順風満帆なら裏ビデオ売ったりしねえよ……。
晒し者のように扱われ、犯罪とは無関係な事を詰る検事。
俺は思わず傍聴席に座りながら、大きな音を立てて壁を蹴飛ばしていた。
係員がすっ飛んできたので「足が滑った」と言うと、次にやったら退場させると注意される。
まだ詰る検事。
こういう奴って、自分の保身だけで人間の痛みなんて分からないんだよな……。
そう思うと俺は、検事に聞こえるようまた壁を蹴飛ばした。
退場が促され、傍聴席を出て行く。
長谷川とその時目が合う。
俺の顔を見て、少しだけ口元がニヤリとしたのが見えた。
あれは三沢光晴さんが亡くなる前だったから、二千九年?
もうあれから十年も経ったのか……。
服役中、長谷川昭夫から手紙が実家へ届いた事があった。
しかし俺はどう返していいのか分からないまま、結局書かずに終わる。
その時のわだかまりがあったが、長谷川はそんな素振りなど一切見せず偶然的な再会で満面の笑顔だった。
二千五年から六年に掛けて歌舞伎町や秋葉原で一緒に行動した同胞。
そんなイメージが蘇ってくる。
まだ仕事をしていて生き生きとでき、毎日が楽しかったあの頃。
彼の現在を聞くと、斉藤弘一や山下がいたジョーカーが潰れた跡地で、一円レートのゲームをしているらしい。
何にせよ、昔の仲間がまた歌舞伎町へ戻ってきたという事実が素直に嬉しかった。
翌出勤日、俺は出勤する二時間早めに家を出て歌舞伎町へ向かう。
目的は長谷川昭夫と会う為だった。
元ジョーカーの場所はラッキハウスからすぐ近くにあり、距離にして二百メートルも離れていない一本道。
二階にある長谷川の店は、一円レートで客は俺以外誰もいない状態。
昔を懐かしんだ会話が止まらない。
さすがに悪いのでINを入れようとすると、設定が良くないからやらないほうがいいと止めてくるほど。
「それより岩上さん、何か飲みませんか?」

「じゃあメロンソーダを。長谷川さん悪いからやっぱり少しはゲームしていきますって」
「じゃあ岩上さん、初回の二千円だけでいいですよ」
そう言いながら一枚の紙を見せてくる。

二十四時間営業で、新規サービスが昼と夜の七時に一回ずつ入るシステム。
オープンしたてで客もいないので、従業員は各番一人だけらしい。
「岩上さん、今度暇な時でいいので、うちのドリンクメニューとか格好良く作ってもらえないでしょうか?」
「そんなのお安い御用ですよ。俺もそろそろ店に行かなきゃいけない時間なんで、また来ますよ」
ラッキーハウスへ行くと、いつものようにほぼ満席状態。
早番との引継ぎを済ませ、ひたすら客を捌いていく。
二千十九年五月二十二日、水曜日先負。
夜中になり客足も落ち、山下に長谷川昭夫と会った事を話す。
散々世話になったのだ。
きっと驚いて喜ぶかと思ったら、反応が薄い。
「何だよ、おまえ。長谷川さんには当時世話になったろ」
「いや…、長谷川さんはいいんすけど、一緒にいる横山…、あいつのせいでジョーカーは潰れたんですよ。不動産がどうのこうの屁理屈言って」
そういえば酒井さんからジョーカーが潰れたと聞き、山下へ電話をした時に横山がどうこう言っていたな。
あの時の会話を思い出してみる。
斉藤弘一と連絡を取れなくなり、入院を教えてくれたのも山下。
火葬式にしてもそうだ。
とりあえず電話をしてみよう。
「はい」
「何だよ、妙にテンション低いな。ジョーカー無くなったんだって」
「あれは横山の奴に騙されて、店が無くなったんですよ!」
「ん、横山? どこかで聞いた事あるような……」
「肌の浅黒い奴ですよ! 岩上さんも歌舞伎町長いから、見れば分かると思いますよ」
「まあ横山はどうでもいいよ。覚えていないし。それよりおまえ今何をしてんだよ?」
「ジョーカー潰れてからは何もしてないすよ」
「仕事の宛てはあるのか?」
「もうちょっとゆっくりしてから、風俗の受付でも探そうかなと」
「それならさ、うち来るか?」
山下にしてみれば、亡くなった斉藤弘一との思い出の店を横山のせいで無くした事になる。
長谷川との再会よりも、横山とつるんでいるという納得いかぬ気持の方が先行するのだろう。
長谷川の件は、山下から話してこない限り、俺から言うのも違うか。
当事者じゃなければ分からない複雑なものなど腐るほどある。
俺は携帯電話で暇潰しに何か面白いゲームでもないかと探しながら、セブンスターへ火をつけた。
二千十九年五月二十四日、金曜日大安。
業務の一服中、携帯電話アプリの『アイノー皇帝』へログインする。
最近密かに面白いと思い、じわりじわりハマっているゲームだ。
課金すればするほど強くなる課金ゲームではあるものの、数千円使うだけで結構な上位陣になれる。
そこそこ強いプレイヤーは当然の如くモテ囃された。
このシステムの面白いところが、お互い『友好国』というフェイスブックでいえば友達のようなものになれば、ゲーム内でチャットも楽しめる。
俺は『新宿トモ』というブログ時代から使っているハンドルネームで参加し、異性との他愛ないチャットを楽しんだ。
二千十九年五月二十五日、土曜日赤口。
一服を終え、ホールへ出る。
最近よく来店する山本和夫という悪そうな顔立ちの客が、俺の顔を見ると嬉しそうに手招きをする。
彼は競馬の騎手戸崎と仲がいいようで、週に一度は会って飲んでいるらしい。
一緒にいるところの写真も見せてくれた上で、マル秘情報を教えてくれた。
「このメモ見てよ。これさ、戸崎ちゃんが騎乗する今週のレースなんだけどさ。やっぱいい馬悪い馬っているじゃん? それで土日の出るレースで、これはと自信満々なレースにこうやって二重丸とか丸だとかさ、色々書いた手書きメモをこうやって教えてくれるんのよ」
山本が見せてくれた一枚の紙切れには、確かに言うように二重丸や三角などのマークが騎乗するレースに書かれている。
本当かどうかは分からないが本人との写真まで見せてくれ、ラッキーハウスへ来ても、俺に好感を持って接しているのだけは理解していた。
二重丸のついたレースは、土曜競馬の東京二レース。
ぐりぐりの一番人気の3番ホーリーライン。
少なくともあの佐藤充のインチキ情報よりは信憑性も高い。
言い方を代えれば、このレースは荒れずに固く決まると言っているようなものである。
俺は仕事を終えると、新宿のウインズへ向かい、ホーリーラインの単勝に二万円と、3-1-9の三連単に千円だけ買ってみた。

近くにあるマクドナルドで時間を潰しながらレース時間まで待つ。
時間になると場外馬券場に設置されたテレビを眺めた。
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