闇 409(優駿と美女と野獣編)
闇 409(優駿と美女と野獣編)

2025/12/01 mon
前回の章
二千十七年五月二十五日、木曜日先負。
十八歳に焼肉に焼鳥に寿司。
まあ果実をもげなかったけど、それなりに楽しい時間を過ごした休み明け。
しかし出勤時間が近付くと気が重くなってくる。
せめてオークスが当たっていれば、もうちょっと違ったはず。
それに青い果実をもげなかったのも大きな要因となっていた。
一時間ぐらい早めに家を出て歌舞伎町へ到着。
俺はこの遣る瀬無さを何とかする為、花道通りにある牛タン『ねぎし』へ入った。
ここは密かに好きな店であり、麦飯がお代わり自由なところがお気に入り。
最近マグる率が高かった為、帳尻合わせで自身の細胞が肉を欲するのだろう。

牛タンはそこまで好きでないので他の肉と組み合わせたメニューを頼み、まずは肉だけでご飯二杯。
続いて三杯目にとろろをぶっ掛けて食べる。
英気を養いラッキーハウスへ出勤した。
中国人のルナが熱くなってラッキーフルを叩く姿を見て、川越の十八歳のルナとえらい違いだと思う。
焼肉のすみいちで食べている時、あの子が言っていた夢。
ドンキホーテに行っていつか思う存分買い物をしたいと言うのだから可愛いものだ。
「いくらぐらい買い物したいの?」
「うーん…、五万ぐらい買い物したい!」
そのぐらいの値段ならその果実を食い終わったら、すぐにその夢を叶えてやるよ。
そう俺はあの時内心思っていた。
同じ五万円でもポーカー台にINを入れ、クレジットが無くなるとキレる中国人ルナ。
同じ名前でも国と年齢が違うと、こうまでかわるものなのかと不思議でしょうがない。
坂本九が来店し、ゲームをやる前から出前を注文する。
「おい、特上に…、赤貝、鮑、あと大トロを三貫ずつ追加しろ」
「はい」
算数ドリルオカマの木下が注文を受け、野郎寿司に電話をする。
このホリエモンの値段だけで六千円ほどいってしまう。
太客というのは分かるが、店が金を出すのだから物事には限度があるだろうと思うが、店長の香川も責任者の橋本もこれを黙認したままだ。
俺は着替えている吉岡に小声で聞いてみた。
「何で坂本九なのに、ホリエモンってみんな呼んでいるんですか?」
「赤崎さん、声大きいですよ! 元々の名前が堀江なんです。それで前に赤崎さんも知っている大倉さんでしたっけ? その人がホリエモンって仇名つけたらしいんですが、一度堀江さんに聞かれて烈火の如く怒られたらしいんですよね。それから店では名前を坂本九に代えたらしいですよ」
「……」
さすが裏稼業最底辺ながらの出来事である。
まあそこで働き金を得ている俺も最底辺ではあるが……。
寿司が届き特上寿司プラス高級寿司を食べるホリエモン。
ルナがホリエモンと同じ椅子へチョコンと座り、手を伸ばして寿司を摘まみ出す。
そういえば誰かがこの二人は付き合っているとか言っていたっけ。
まあ俺にはどうでもいい事だ。
相変わらず忙しい中、一服へ行くと十八歳のルナから今度はちゃんと食事行きましょとLINEが入っていた。
二千十七年五月二十七日、土曜日赤口。
カレンダーを見ると、今日は赤口らしい。
俺は赤崎…、馬鹿、くだらねえ事考えていると、ダービー外すぞ?
ここまでの流れはそう悪くない。
少し前に万馬券をゲットし、斉藤弘一へご馳走した。
そのあとビンゴ5で二等を取り、須賀栄治さんへ恩義を返せた。
ビンゴ5を換金してからルナとデートした。
今日も彼女から連絡が来て、いつ食事へ行くのか聞いてくるこの状況。
本当なら今日仕事終わって明日の休みをルナとの時間に使いたい。
だが、駄目だ。
明日はダービー…、東京優駿。
つまりここまでの流れを振り返ると、勝負をして裏稼業から脱却する日でもあるのだ。
運命を変える日に、女は不要。
正にこれからが人生の正念場。
ラッキーハウスの馬鹿な従業員共は、俺がビンゴ5で二等を当てた事など知らぬ。
先日一万五千円を受け取った川崎だけが、俺の懐が暖かそうだというのを嗅ぎつけている程度。
まず俺がやる事……。
早番の責任者の橋本辺りは「赤崎さん、ダービー何買いますか?」と聞いてくるだろう。
なのでカモフラージュの為の馬券を買う必要がある。
財布の中にある三十万以上の金。
とりあえずカモフラージュは、三万円程度賭けた馬券を最初に見せればいいのだ。
それにしても本当に店内は忙しい。
コイツら、土曜の夜中なのにこんなジメジメしたところへ来てポーカーばかりしてんじゃねえよ。
二千十七年五月二十八日、日曜日先勝。
業務中に日にちが変わり、東京優駿の日となる。
俺は朝方になり客が引いてからダービーの予想を開始した。
東京競馬場二千四百メートルの長距離。
強い馬…、そして運も味方しなければならない東京優駿。

前評判がいいのが、四番スワーヴリチャード、十二番レイデオロ、十八番アドミラブルといったところ。
俺の本能が告げる。
十二番のレイデオロ。
対抗に十八番アドミラブル、すんなり決まれば四番スワーヴリチャード。
一番のダンピュライトは武豊が乗るのが怖い。
そして七番アルアインも気になる。
本線は十二番と十八番。
それを元に馬券を買えばいいか。
まず四万四千四百円を入金した。
そしてダミー用といっても本当に金を賭けているが、ラッキーハウスのクソ共に見られてもいい用の馬券を購入する。

買い目の金額も意識して買った。
本線の馬連12-18は誕生日にちなんで一万三千円。
馬連4-6というこれまでの奇跡を起こした組み合わせ数字には四千六百円。
一番の武豊もありそうなので、1-18に五千円。
あとは三連複、三連単を二点ずつ二千円ずつ。
合計で三万六百円。
これを「ダービー何買った?」と聞いてくる他力本願な奴らには見せればいいだろう。
俺はこの購入馬券をフェイスブックへあげた。
この予想に乗っても責任は持ちませんし、苦情も受け付けませんと注意書きも忘れずに書く。
仕事を終え、一万円札を受け取り店を出る。
本番は帰ってゆっくり寝てから。
もちろんレース前には大金をぶっこむので、睡眠はほどほどに。
西武新宿へ到着すると、いつもよりホームに人の数が多く感じる。
掲示板を見ると人身事故で電車が止まっているらしい。

よりによってこれから帰ってダービーへいくら突っ込むかという時に……。
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