闇 435(聖なるイブの有馬記念編)
闇 435(聖なるイブの有馬記念編)

2025/12/25 thu
前回の章
二千十七年十二月十七日、日曜日先負。
また新宿歌舞伎町での生活の開始。
出勤するとオカマの木下が睨みつけてきたが、特に何か言ってくる事はなかった。
無秩序な世界なら、こんな奴などとうに踏み潰しているところなんだけどな。
一体何に守られているつもりなのだろうか?
唯一のアドバンテージは俺より先にラッキーハウスへ入ったという事だけ。
着替え終わっても必要以上に睨む木下。
本当にしつこい奴だな。
まさか休み前、蒲田へ行くのに急いでいて高山のケーキを買いに行かなかった事を未だ音に持っているのか?
あれは仕事終了後の話だし、数日経ってまだ怒りが治まらないのかよ。
了見の狭い奴だ。
相手にするだけ時間の無駄なので、視線を合わせないようセブンスターに火をつける。
それにしても蒲田横浜川越のコンボで、金を少し使い過ぎてしまった。
まあ悪い使い方ではないが、もう少し考えなきゃいけない。
今日は朝日杯フューチュリティステークスか。
競馬で取り戻せばいいか。
固そうなレースであるが、ガチガチに決まる事はさすがにないだろう。
当たり方が十万円以上になるようにオッズを見ながら馬券を購入する。
購入してから後悔した。
気付けば五万円も賭けている。
やり過ぎたなあと後悔しつつ、仕事の準備へ取り掛かった。
清掃から入り、ドリンクやタバコのチェック。
「橋本さん、買い物行ってきますね」
「お願いします」
川崎も携帯電話を見ているぐらいなら、タバコだけでも買いに行ってくれれば時間を短縮できるのになあ。
まあ下っ端の仕事だからしょうがないか。
本来ならドンキホーテでもタバコを売っているが、不慣れな店員が多く、コンビニで買った方が早い。
両腕でギリギリ持てるドリンクを買い、店を出る。
二リットルのペットボトル十本に、一リットルのコーヒーなども十本。
三十キロ分の重さの量も、本当なら買う必要ないのに、川崎が手抜きしてストック分を買わないからこうなってしまう。
往復するのも嫌だったので、一気に買い物を済ませた。
「あ、赤崎さん、ま、またたくさんか、買ってきたもんだねー」
あんたが買わな過ぎるだけだ。
内心そう感じながらドリンクの整理をする。
しかしこういった理不尽さを不満とせず、崇高に心掛ける行為が勝負に対し勝利を呼び込むはず。
さて…、そろそろ競馬の結果が出ている頃だ。
「……」

結果は1-10-3のガチガチ。
上位人気だけでの決着かよ。
五万負け確定……。
昨日の散財合わせると、十五万円の出費。
もう少しコツコツ生きなきゃいけない。
それでも来週は来週有馬記念かよ。
溜め息をつきながら川越へ帰る。
もちろん方向は、埼玉りそな銀行の駐車場。
昨日いなかったから、二日間餌をあげていない事になる。
あの子たち大丈夫だろうか?
横断歩道を渡り駐車場を見た。
何だか今日はいっぱいいるぞ?
俺はコンビニエンスストアへ入り、キャットフードと肉の缶詰を買う。
「ニャー」
「はいはい、ちゃんと買ってきたからおいで。おまえらどこに行っていたんだよ? ほら、おいで」

今日は五匹もいるのか。
俺は餌をばら撒くと、またファミリーマートへ追加で仕入れに行く。
缶詰に被り付く美人猫の頭をそっと撫でようとする。
「フニャッ!」
「痛っ!」
何て酷い連中だ。
これだけ気に掛けて尽くしているのに、未だ頭すら触らせてくれないなんて……。
二度目の餌も食べ尽くすと、こちらを向いて「ニャー」と甘えてくる。
「……」
手を伸ばすと一定の距離を取って逃げる猫たち。
「ニャー」
「ふざけんな! 餌代だけで千円以上使ったんだぞ? 有馬記念資金を貯めないといけないんだよ」
「ニャー」
「ニャーじゃないよ…、まったく……」
二日間食べていなかったのかもしれないな。
俺は三度コンビニへ餌を買いに行き、仕方なくまたあげた。
二千十七年十二月十八日、月曜日大安。
有馬記念貯蓄の為、昼間は牛丼で済ませる。
仕事帰り猫の様子を見に行くと、今日は二匹しかいなかった。
「あれ? 他のはどこ行ったの?」
「ニャー」

「はいはい、買って来ますよ、お姫様」
レジで金を払いながら、何で俺の飯代のほうが安く済んでいるのだと疑問を感じたがしょうがない。
相変わらず頭を触らせてはくれないが、俺の姿を見ると鳴き声を出しながら近付いて来るようにはなった。
写真を撮ると、奥にいた猫の目が緑色に光って写っている。
「もうちょっと近くにおいでよ」
「ニャー」
「……」
餌やりも、すっかり日課になってしまったものだ。
翌日行くと、今度は一匹も現れない。
しばらく駐車場内を探すも、どこにもいなかった。
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