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闇 427(46歳のキレた夜編)

闇 427(46歳のキレた夜編)

2025/12/20 sta
前回の章


二千十七年九月十四日、木曜日赤口。

鏡で自分の顔を見て確認する。
うん、顔を洗ったせいか、幾分スッキリした。

それにしても麗美華の店に何時間いるんだ?
インターコンチが七時だったから、九時頃までいて、この店で三時間ぐらい飲んでいる事になる。

会計いくら取られるんだよ?
財布の中を確認した。
十万円のズクが二つに数万円。
まあここまで必要なないにせよ、麗美華用のボトルを入れたし、ヘルプ女のあいつ何杯ドリンク飲んだんだ?

一時間指名料込みで一万円として、三時間で三万円。
ヘルプ女のドリンク代で一万だと想定し、麗美華のボトル代で一万から二万?
多く見積もって六万から七万ぐらいは請求されるよな……。

飛んだ誕生日になってしまった。
深い溜め息をつきながら席へ戻る。

「おかえりー、智ちん」
「もうそろそろチェックするから麗美華も出れる準備しろよ」

「え、でも……」
「俺は最初から顔を出したい店があると言っていたろ。別に来たくなきゃ来ないでいいよ。チェックだけして」

麗美華が黒服を連れてきて請求額を見る。

「……」

十四万五千円?
本当にキャバクラってくだらねえ場所だな……。

俺は財布からまず十万のズクを取り出してトレイの上へ放り投げる。

「智ちん、足りないよ?」
「今出すよ!」

どうやったらこんな額を涼しい顔して請求できるんだか。
頭かち割って脳みその皺を数えてやろうか、クソボケが。

一気にテンションが下がり、残りの金を置く。
まあうまく騙され利用された自分が悪いだけ。

背後で何か言っていたが、黙って店を出た。
嫌な誕生日になってしまったなあ……。

もうキャバクラ女は本当に懲りた。
金輪際関わるのを辞めよう。

セブンスターに火をつけながら東通りから仲通りへ入る。
平田のところにでも顔を出そう。
いい感じで酔いが回っていた。

西通りへ入ると因縁のラ・イマージュビルの前を通り過ぎ、左手にあるバーのキミノヤへ入る。
オーナーだけで平田の姿が見えない。
俺は会釈してカウンター席へ腰掛けた。

「あれ、今日平田はいないんですか?」
「彼は今フィリピン行っちゃってるんだよ」

「え、いつからです?」
「今日から」

タイミング悪いとはいえ、彼のフィリピン好きも筋金入りだ。
目の前にショットグラスが置かれ、グレンリベットが注がれる。

「良かったらマスターも一杯どうぞ」
「すみません、では頂きます」

乾杯を済ませ、タバコに火をつけた。

「最近見ないけど、もうこっちにはいないの?」
「ええ、今は地元の川越に戻って職場は新宿ですよ」

マスターは会話をしつつ、適当なつまみを出してくれる。

2017/09/14 BARキミノヤ

他愛ない世間話で盛り上がっていると、携帯電話が鳴る。
麗美華からだった。

「何だよ?」

素っ気ない対応になる俺。

「智ちん怒っているの?」
「あ? 別に……」

「何でそんな怒っているの? 今知り合いのお店?」
「そんなの関係ねえだろ」

「何で急にそんな風になるの?」

「……」

当たり前だ。
人の誕生日に何て真似をしてくれたと思っている。

「もう着替え終わったから、どこの店にいるのか教えて!」

「……。何だよ、急に……」
「智ちんと一緒にいたいの!」

惚れていた弱みなのか?
まだ俺はこの女を抱きたいと思っているのか?
いまいち強気にいけない。

不貞腐れながらも俺はキミノヤの場所を教えた。

「痴話喧嘩?」

マスターが笑いながら聞いてくる。
俺は答えずにセブンスターに火をつけた。

ドアが開く。
麗美華が後ろから抱きついてきた。

「智ちん…、何で急に怒っちゃったの?」

「……」

あんな会計を人の誕生日にしておいて、怒らない男がどこにいるんだよ。
キミノヤにいたので言葉を飲み込む。

「せっかく智ちんの誕生日だから、楽しく過ごしたかったのに……」

「そんなところ立っていないで、早く座れよ……」
「うん!」

本当に俺は甘い。
ここまで来るとただの馬鹿だな。

目の前にシャンパンのボトルが置かれる

「早く言ってよ。誕生日だったの? これは私から」

「すみません……」
「わー、智ちん、いいお店だね」

麗美華が腕を組んでくる。
胸の感触が当たり、俺は無言で彼女の太腿へ手を置いた。

二度目の横浜で、矢田部のインカジ時代にオープンしたキミノヤ。
元同僚の平田が店へ打ちに来て四十万円負けたところから始まった妙な絆。

しばらくしてこの店ができる前に招待状が届いた。
平田からすれば、できれば顔を出してほしいというものだったが、名義社長だった矢田部はそれを無視。
俺一人が祝儀を包み、キミノヤのプレオープンへ駆け付けた。
この店とはそれからの縁だ。

イワカミ工業時代は資金のやり繰りで余裕なかったので中々行けなかったが、非礼を詫びると平田は心は分かっているからと理解してくれた。

本当にこの店を使い出したのは、三田のインカジハッピーがオープンしてからだろう。
多重労働の合間に暇さえあればここへ来て、グレンリベットやスピルタスを飲んで無茶をしていたあの頃。

それにしてもほんの数ヶ月間くらいしか通えていないのだ。
短期間ながら密度は濃かったが。

インターコンチで出されたシャンパンよりグレードは低いものの、とても旨く感じられた。
平田がいなくとも、十二分にノスタルジックな気分に浸れたキミノヤ。

俺たちは礼を言い、店をあとにした。


また俺の腕に絡ませてくる麗美華。
一体どういうつもりなのか?

俺は一旦立ち止まり、唇を奪った。
彼女は抵抗せず舌を絡ませてくる。

服の上から胸を強く揉んだ。
この辺だと東通りまで行かないとラブホテルはなかったか?

腰に腕を回し黙って歩いていくと、途中で「智ちん、どこ行くの?」と聞かれる。

「ホテルに決まってんだろ」

「もう一軒行きたいな。智ちん、バンビーノって知ってる?」
「知ってるも何も横浜時代年中行った店だ」

「え、それなら行ってみようよー。私もよくこのお店行くんだよ」

確かにインターコンチではほとんどの料理を麗美華へあげたので、腹が減っていた。
久しぶりにバンビーノのナポリタンやピザが食べたい。

ディスコの造りのような店内へ入り、カウンター席へ腰掛ける。
俺がこの店をよく利用していたのは二千十四年。
今では誰も俺の顔を知っている従業員はいなかった。

ジントニックを注文し、麗美華と乾杯する。
ピザとナポリタンを注文すると「ナポリタンはメニューに無いのですが」と言われた。

そんな事は知っていたが、前にいた従業員なら笑顔で作ってくれたけどな。
しかし常連でなくなった俺が無理強いを言うのは筋が違う。
笑顔で「ごめんね」と言い、ピザが焼けるのを待つ。

「智ちんて横浜で色々なお店に顔利くでしょ?」
「何で?」

「だってワンさんのお店でもワンさんが、前にスペシャルゲストとか智ちんの写真上げていたし。その時連絡したでしょ」

よく覚えていた。
あの元旦早々俺は一人で飲んでいた幸代を引っ掛け、そのままホテルで一緒に過ごしたのだから。

まさか今日麗美華を抱ける機会が来るなんてな……。

払った金は痛かったが、今日思う存分抱けるならそれはそれでいいか。
誰にも見えないようテーブルの下で俺の手を握ってくる麗美華。

ピザが焼き上がる。

2017/09/14 バンビーノ ピザ

「美味しそう! 私ももらっていい?」
「ああ、好きなだけ食いな。足りなきゃもっと頼めばいいだけだ」

俺たちの隣りに一人の男が座る。

「……」

何だ、この野郎。
他にスペース空いているんだから、もっと離れて座ればいいものを……。

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