闇 443(テケダッフォアスピーダップ沙羅曼蛇編)
闇 443(テケダッフォアスピーダップ沙羅曼蛇編)

2026/01/05 mon
前回の章
二千十八年二月二十一日、水曜日赤口。
目を覚ますとドラゴンクエストⅪの続きを開始。
何だか部屋に籠ってゲームに熱中するのも久しぶりだ。
まず意識の改革からしなければ。
俺は俺でしかない。
今さら背伸びしたところで無理が出てくる。
別に何もしてこなかった訳じゃない。
色々なものが空回りしてしまったんだ。
「……」
どこから人生間違えたのかな……。
気付けばコントローラーを置き、布団へ寝転がっていた。
せっかくの休みなのに俺は寝て過ごすつもりかよ。
正に今の俺は生きる屍のようなもの。
己に価値などあるのか?
言いようのない虚無感を覚えながらも、時間だけは平等に過ぎていく。
そして生きている以上、自然に腹は減り栄養補給を細胞が求める皮肉。
これ以上の問答を繰り返したところで、今の俺には答えなど出ない。
過去、二度に渡り身を投げようとした。
一つはインカジ新宿クレッシェンド崩壊のあと。
二千十四年十二月有馬記念前。
ドアを開け、廊下へ出る。
十二階から下を見た。

結構高いよな……。
うん、もういいよ。
こんな人生なら、生きていたくない……。
ここから飛び降りれば……。
楽に死ねるだろう。
これ以上生きていても、うまく利用されるだけ。
目の前の塀に手を掛け、片足を掛けた。
ここから落ちれば……。
全身が震え、後ろへひっくり返る。
この俺が自殺か……。
何ビビってんだよ。
すべてに絶望したんだろ?
馬鹿な俺にはお似合いの末路さ。
本当にもういいよ、こんな人生……。
何度も地面を見つめる。
このまま塀を乗り越えれば人生が終わる。
分かっているのに何を躊躇している?
最後に酒を飲もう。
酔ってしまえば、そう恐怖心なんて無くなるはず。
俺は部屋に置いてあるグレンリベットのボトルを手に持ち、ラッパ飲みした。
「……」
しかしあの時有路からの電話で我に返り、有耶無耶となった。
自棄で買った有馬記念がたまたま奇跡的に当たったから息を吹き返しただけ。
あれでまるで変われなかったからこそ、俺は次のヤクザ直営ゲーム屋でも、二度目に行った横浜での地獄めぐりもまた似たような目に遭っている。
精神的にも肉体的にも金銭的にも一番弱った時期だった二俣川。
戸田の旭総建工業で仕事を干され、金もなく自棄になったあの頃。
二千十六年十一月六日、日曜日仏滅。
マゲたちの餌と水を大量に与える。
籠の中に置けるだけ、紙コップへ水を汲んで置いていく。
マゲマロが一つの紙コップへ飛び込み水浴びを始める。
「駄目だよ! これはおまえたちの飲み水として置いたんだから」
もう一度汲み直す。
そして誰かがこの部屋を見た時すぐ分かるように、餌の入った大袋を鳥籠の前にそっと置いた。
「ごめんね、みんな……」
フラッとドアへ鍵も掛けずに外へ出る。
俺、そんな悪い事してきたのかな?
何でこんな苦しまなきゃならないんだ?
いつもいつも考えたつもりで選択しても、待っているのは地獄だけ。
どうせあとちょっとで入ってくる給料も、十万円切るんでしょ?
こんな生活に何の意味がある?
こんな事をしていて何の価値がある?
群馬の先生は以前俺に言った。
神様に選ばれたから、人より試練が多い?
じゃあ、今のこの働いているのに貧窮な生活も試練なのかよ?
前に俺言ったよな?
そんな試練なんていらないから、地味でも平穏無事がいいってさ……。
はは…、死ねって事かよ……。
四十五歳にもなって、毎日四十七円のコロッケかメンチ食って……。
ふざけんじゃねえよ!
気付けば俺は夢遊病者のようにただ歩き、保土ヶ谷バイパスの陸橋まで来ていた。
昼間なので交通量も多い。
ほとんどの車が制限時速を守らず飛ばしている。
高い位置にいるせいか排気ガスの匂いのする強い風が身体を吹き付けた。
もう疲れちゃった……。
レスラーは攻撃を避けちゃいけないって?
避けてないよ!
受け続けたよ!
壊れちゃいけないって?
それは腹一杯美味い飯を食ってさ、エネルギーを蓄えているから大丈夫だったんだよ。
もう無理だよ、こんな生活はさ……。
おじいちゃん、本当ごめんね。
俺さ…、岩上家の大いなる恥だよね。
何かね…、もう世の中の悪意に耐えられそうもないや……。

距離を詰めて塀へ近付く。
一段高いコンクリートの上へ足を乗せる。
「……」
ここから下へ飛び降りたら、楽に終われるかな……。
遠くからサイレンの音が聞こえた。
鉄柵の手すりは氷のように冷たく、微かな振動が掌から肘へ伝わる。
風と車の唸りが、骨の中で鳴った。
おじいちゃん……。
鶴田師匠……。
三沢さん……。
やっぱ俺にあなたたちの背中は遠過ぎました。
慌てて起き上がり、セブンスターボックスへ手を伸ばす。
「フー……」
ゆっくりと煙を吐き出した。
あの時岡部さんからタイミングよく電話がなかったら?
池袋で会った時二十万を渡してくれなかったら、俺はどうなっていた?
どこからか危険信号がけたたましく鳴る。
脳からなのか全身の細胞が発しているのか分からない。
つまりこれ以上考えても結論など出ないという事。
愚直な俺はそれでも腹だけは減る。
コントローラーを放り投げ、カフェアンジーへ向かった。
ハンバーグと、ボロネーゼを注文。
妙に落ち着かず憂鬱だ。

それでも料理を美味しく感じる事はできる。

それはそうか。
大好きなハンバーグプレートにミートソースを食べているのだから。
家に帰るとドラクエの続きを始める。
夜になると、猫たちに餌をあげに行った帰り、呑龍へ寄った。
しょうが焼き定食と餃子を注文。

うん、少しだけ元気が出てきた。
この休みで自覚できたのは、結局俺は自身の命を絶つ事などできず、こうしてぼんやりと一日を過ごし食事をしながらゲームをするだけ。
あとは猫たちの事を気遣うぐらいか。
明日からまた代わり映えのない一週間が始まる。
二千十八年二月二十五日、日曜日仏滅。
先週4-6に四千六百円だけと決めたのに、またそれ以上使ってしまう病的な俺。
しかも負けているから始末におえない。
もはや完全な病気だ。
JRAのせいにする。
競馬のせいのする。
それはただの現実逃避だ。
問題は俺の意志薄弱な精神力。
携帯電話から気軽に馬券を買えぬようJRAの即パッドを削除した。
一体いくら使わせれば気が済むんだよとやり場のない怒りを覚えるが、ぶつけどころがなく、自分自身へその矛先を向けるしかない。
もう賭け事辞めよう。
ただ金を大人しく貯めよう。
無気力なまま仕事をし、川越に帰れば猫たちへ餌をあげるだけ。
二千十八年二月二十八日、水曜日先勝。
また休みがやってくる。
昼になればカフェアンジーへ向かい、ポークジンジャーを注文した。
「岩上さん、今日だけ特別メニューあるんですけど」
「ん? 何でしょう?」
「通常だと注文しても無いメニューなんですが」
「じゃあいづみさん、それも下さいよ」

運ばれてきたポークジンジャーを食べる。
おそらくこれは旨いものを欲する生存本能なのだ。
「はーい、お待たせしましたー。特別メニューのリンゴのタルトになります」

よく分からないがアップルパイのようなものか。
久しぶりにこの手の食べ物を口に入れた気がする。
特別一緒につるむ人間もなく悪戯に時を進むだけ。
あとは部屋へ籠もりゲームをして、夜になれば猫たちの元へ。
夜になるとお決まりの呑龍。

これ以外頼まないのではないかと定番のしょうが焼き定食と餃子。
俺は幸せか?
そりゃあ幸せだ。
こうして食べたい時に、好きなものを食べられるのだから。
しかし何が足りないのだろう?
答えは簡単だ。
孤独…、俺は常に一人。
これは自身の馬鹿げた愚行がもたらしたすべての結果である。
誰のせいでもなく俺の選択肢がすべてこうした。
そんな中、生きていくというのは苦行に近い。
自分で自殺もできない臆病さ。
かといって未来への希望など皆無。
こうした悪循環の中、時間だけは無駄に過ぎていく。
今日で二月もおしまい。
明日から三月か。
呑龍を出ると、俺はまた猫たちの元へ行った。
先ほどの餌で食べたりないのか俺が姿を現すと足元へすり寄ってくる。
この子たちは何を考えて生きているのか?
本能に従いこうしているだけ。
再び餌を買い、与えながら頭で撫でる。
できれば俺もこのように何も考えずに生きてみたい。
セブンスターに火をつけタバコを吸いながらその場で考えた。
いや、負の遺産だけだったのか?
決してそうではない。
結果現状は孤独になってしまったが、そこに至る過程では色々な事があったはずだ。
俺が今目の前にいる猫たちと同じ立場の頃はいつか?
お袋のいた幼少期である。
力無きただ与えられるだけの子供の頃。
理不尽な暴力に怯え震え、それでもこうして生きていた現実。
つまり無力だった頃の被害妄想もあって、俺は憎悪を燃やしたのではないだろうか?
五体満足でこうして生きている。
何か障害があった訳ではない。
プロのリングの上でも戦えた。
絵も描けた。
ピアノだって弾けた。
整体で多くの患者も治せた。
小説だって書けた。
もちろんこれを遺伝子のおかげでと、お袋や親父に感謝をする訳じゃない。
ただこれらの事をすべて遂行できた肉体に関しては、両親の遺伝子が元になっている。
過去の結果は自身の努力。
だが元々備わったものに対しては遺伝子。
うん、何だか霧の中を手探り状態で歩いていたのが、少しだけ晴れてきた気がする。
愚鈍でもいい。
馬鹿だっていい。
今は焦らずしっかりこうして地面に足をつけ、ただ生きればいいじゃないか。
そうする事でまた何かしらのきっかけがあるはずさ……。
二千十八年三月十二日、月曜日先勝。
餌をあげ続けてかれこれ三ヶ月以上経った野良猫たち。

今では向こうから俺の身体に身を擦りつけ、妙に懐くようになっていた。
俺は変わらず餌を買い、この子たちへ与えるだけ。

頭を撫でようが、身体を触ろうがお構いなく食べ続ける。
野生の本能である警戒心が、俺に対してだけは薄れてきたのだろう。
川崎が言っていた『北斗無双』がプレステ4で発売されるらしい。
ケンシロウを使い、縦横無尽に暴れ回る。
想像しただけで面白そうなゲームだ。
もうちょっとで季節も温かくなる。
これは人間だけでなく、外で生き抜く猫たちにとっても優しいはずだ。
二千十八年三月十四日、水曜日先負。
外を歩きながら肌の感覚で、暖かくなってきたのを感じる。
もう三月半ば、当たり前の話だろう。
休みなのでドラクエⅪで最後のボスのウルノーガ戦の間近まできた。
一旦ここで小休止し、食事へ出掛ける。
カフェアンジーへ行き、ハンバーグとポロネーズを注文。

だいたい似たようなメニューしか頼まない俺を見て、いずみさんは笑う。
内心何て偏ったものばかり食う客なのだろうと、呆れているのかもしれない。

食事を終え、先輩の始さんの伊勢屋へ顔を出す。
青海苔のかき餅を買ったら、きび、あわ、玄米の種類までサービスでくれた。

今日はホワイトデー。
バレンタインのあとで数個チョコレートをもらえたので、お返しを買いに行くか。
帰ったらゲームの続き。
ボス撃破でクリア!…と思ったら、シナリオ的にまだまだ続きがありそうだ。
早く北斗無双やりたい。
二千十八年三月十七日、土曜日友引。
ラッキーハウスに新たな客が来た。
名を佐藤充。
初めて見る顔であるが、橋本と親しそうに話している。
数年前に常連としていた客らしい。
何故来れなかったかは、警察に捕まって刑務所にいたから。
裏ビデオ屋の経営をしていたと聞き、正直驚く。
俺が最後に関わったのは長谷川昭夫と行った秋葉原が最後。
あれは二千五年の話である。
十二年も経ち、まだあんな商売がこの時代で成り立つのか不思議でしょうがなかった。
「佐藤さん、裏ビデオってもちろんDVDのほうですよね?」
「うん、そうだよ」
気さくな性格の彼は、俺の質問にも嫌な顔せず答えてくれる。
「自分がやっていた頃って五枚で一万円だったんですよ。今だとどのくらいの値段設定なんですか?」
「ん、値段? 百枚で一万だよ」
「はあ? 百枚で一万? そんなんで商売成り立つんですか?」
「だいたいよそのサイトだと五十枚一万なんだよ。だからうちの一人勝ちになるからさ」
あの時代で言えば、五枚一万を十枚一万でやれば、それは一人勝ちできる。
しかし商売の仁義もあったもんじゃない。
それにその枚数で売れていたからこそ、利益が膨大に出るのだ。
百枚などにしたら、客単価も一万円しか使わないはず。
俺は数々の疑問をぶつけた。
充の理論では商売で独り勝ちさえすれば、大事なのはDVDメディアをいかに安く手に入れるかという。
俺が坊主さんから映像のイロハを教わっていた二千四年の頃は一枚三百数十円。
その頃と時代が変わり、大量購入だと一枚数十円単位で仕入れられると言う。
理屈も儲かるのも分かる。
しかしそれで捕まって、今まで刑務所じゃ割に会わないだろう。
警察に捕まる商売をする事において、それはもはや裏稼業と呼べないのではと思ったが、野暮なので黙っておく。
ビデオの話が一区切りすると充は橋本に競馬の話を振り出す。
始めの内はうんうん頷いて対応していた橋本が、俺のほうへ手をかざし「競馬なら彼のほうが好きですよ」と口を開く。
彼の競馬理論は過去データに基づくものであり、必然的に荒れるレースというのは条件があるという。
言い回しが上手いのか、ついつい話を聞き入れてしまう自分がいた。
「俺は『馬投資』というサイトを運営しててね。ちょっとこれを見てよ」

俺は中山11レースのフラワーカップの結果を見てみた。
10番カンタービレ、9番トーセンブレス、3番
ノームコアで三連単をズバリ当てている。
配当一万二千四百四十円。
ん、でも七頭ボックス買いで二百十通りでしょ?
当たっているけど負けているんじゃ……。
「今回は悪い方で決まっただけ。大事なのは当てていく事。このレースだと、十二番のファストライフ、これなんて九番人気な訳よ。もしこれが三着に着ていたら、十万馬券は超えているはずだよ」
「うーん……」
何かいまいちしっくりこない。
だが佐藤充のペラはよく回る。
まず練習で金を賭けず全レースの予想をし、結果をちゃんとメモに収める事。
土日開催のシミュレーションした収支を照らし合わせる。
それでリズムを作っていくという。
三連単の戻しが一番率がいいらしく、出馬表を見ながら消す馬を選択。
目安は十頭前後を残しボックス買いしろとアドバイスされる。
「十頭ですか? 三連単で百円ずつ買っても……」
「十掛ける九掛ける八だから七百二十通りになるよ。百円ずつ買うなら七万二千円。ただね、実際に金を賭ける訳じゃない。あくまでもシミュレーションだから。それでコツを掴んだら、荒れるレースを狙い撃ちしていくんだよ。とりあえず連絡先交換しようよ」
俺のアドレスから本名の岩上だと知られ『岩ちゃん』と呼ばれるようになった。
「じゃあ今日明日と馬券は買わずに、全レースシミュレーションすればいいんですね?」
「そう、また今度ゆっくり競馬について話そうよ」
せっかく即パッドも解約し、競馬をやらないようにしたばかりなんだけどなあ……。
まあ古くからの常連だし、今後も顔をよく出すようなので言われた通り俺は競馬の架空予想を始めてみた。
二千十八年三月十八日、日曜日先負、彼岸。
今日明日と連休。
佐藤充に言われた通り、土日の競馬シミュレーション。
少しウンザリしたのが、金を賭けないなら阿呆らしいと思ってゲームをしていたところ、充から電話があってちゃんとやっているかどうかの確認が来た。
今度予想した紙を見るからラッキーハウスへ持ってきてと言われ、電話を切ったあと渋々適当に数字を書く。
ちょっと面倒そうな客だ。
腹も減ったのでカフェアンジーへ行き、ハンバーグを食べながら競馬シミュレーションをした。

中山中京阪神と三開催もあると、三十六レース分の予想をせねばならない。
アンジー店内が混んできたので会計を済ませ外へ出る。
続いて同じ立門前通りにある小江戸っ子うどんへ入った。

予想をしている内に抑えていた競馬熱が再燃。
気付けば俺は再び即パッドへ再加入し、レースに金を突っ込んでいた。
レースが終了し、また負けたのを知る。
夕方充からまた電話が掛かってきて、負けた報告をすると「何でやったの? 予想だけって言ったでしょ!」と強く注意された。
自分の金なんだから別にいいじゃないかと思ったが、一応客なので我慢する。
夜になると猫たちの元へ行き、戯れて一日が終わった。
二千十八年三月十九日、月曜日仏滅。
連休二日目でもやる事は別段変わらない。
ゲームをして過ごしながら、昼はレストランシブヤへ行く。
いつのもランチを注文。

まだ足りなかったのでカレーライスも食べる。

夜になれば野良猫ニャーニャーたちの世話をしに向かう。
ふと思ったのが、女の店はおろか、飲みにも全然行っていないという気付き。
支出が自分の飯代と猫の餌代ぐらいなのだから、競馬さえやらなければ金など自然に貯まるのではないか?
二千十八年三月二十五日、日曜日仏滅。
「岩ちゃん、ちゃんと競馬のシミュレーションしてんの?」
ラッキーハウスへ来た佐藤充が、開口一番俺に聞いてくる台詞。
正直うんざりしていた。
せっかく競馬との距離を取ろうと思っているのに、水を得た魚のように俺の元へ群がってくる感じだ。
携帯電話の画面を見せ、土曜日のフェイスブックの投稿を開く。
適当に十頭前後の数字を書き、三連単ボックスと書いたもの。
これは充の運営するサイト『馬投資』のアドレスをいつもしつこく送ってくるので、それを参照に書いた。

「何だよ、岩ちゃん。全レースちゃんと予想してないじゃん」
「いや、仕事優先なので中々難しいですよ」
「駄目だよ。金を賭けてなくても、こういうのはちゃんとやらないと」
どうりで橋本が俺にこの話を振って来た訳である。
彼も充の相手をするのに内心うんざりしていたからこそ、俺に行くよう仕向けたのだろう。
週末になるとほぼ現れる充。
不用意に俺は近付き過ぎたのかもしれない。
言ってくる事はだいたい分かるので、もちろん今日の分の予想もしてフェイスブックにアップしてある。
今日はGⅠの高松宮記念。
チラッと馬投資の予想を見てみる。

彼の予想では軸馬6番レッドファルクスから1-7-8-9-10-11-13-16相手の百六十八通り流しマルチ。
あとになってレース結果を見ると、9番ファインニードル、8番レッツゴードンキ、7番ナックビーナスの縦目で外れ。
その手前の阪神1レースは六頭ボックス百二十通りでズバリ当てていたが、人気馬決着なので四千七百七十円配当で、当ててもマイナス。
こんなたくさん金を使う買い方の予想だけして、一体何が面白いと言うのだろうか?
たまたま俺がシミュレーションした中山12レースは、十二頭ボックス千三百二十通りが当たっていて三連単配当の二十四万六百九十円。
「ね、今回金は賭けていないけど、俺が言いたい意味分かってきたでしょ?」
得意満面な表情の充であるが、百円ずつ買って約十三万円分も買って二倍も無い配当なら、狙いすませて単勝一点勝負をした方が、まだいいんじゃないかと思った。
本来ギャンブルなんてものは、自分の金を好きに賭けるから楽しいのであり、人からああしたほうがいい、これは違うと口を出されると一気に白けてしまう。
競馬を辞めたいと思った矢先に充がこのように毎週首を突っ込んでくるのは、有難迷惑に過ぎない。
二千十八年三月二十八日、水曜日先勝。
休みでひたすらドラクエのレベルアップ。
横になりながらひたすら時間の消費。
気付けば俺はコントローラーを握ったまま寝ていたようだ。
目を覚ますと夕方五時四十五分。
アンジーって確か六時までだよな?
急いで支度をし、店まで向かう。
ここが定休日でもない限り、休みはほとんど来て食事をしていた。
もはや休日のルーティンになっている。
カフェアンジーへ到着しドアを開けようとすると、いづみさんが近付いてきて「すみません、今日六時までなんですけど」と断ってきた。
時刻はまだ十分前。
「じゃあワインだけでも……」
「ごめんなさい、今日六時までなので」
「……」
俺、何かこの店に変な事したか?
ギリギリとはいえ営業時間内。
これまで率先的に客として貢献しているつもりだった。
何故このような門前払いを喰らわねばならないのか?
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