闇 562(安倍元総理暗殺編)
闇 562(安倍元総理暗殺編)

2026/05/16 sat
※これは世界で一番泣きたい小説グランプリを処女作で取った作家が13年ぶりに書いた作品は世界で一番駄作と自覚しながら書き出している小説です。
前回の章

二千二十二年七月一日、金曜日友引。
店長の斉木から勧められ、携帯ゲームの『ドラゴンクエストけしケシ!』を始めてみた。
始めはちゃちいパズルゲームだなという感じだったが、この地味さ加減がキャッシャー室の狭い待機室ではちょうどいい。
客の呼び鈴にもすぐ放置して行けるし、このぐらい息を抜きながらプレイできるゲームのほうがインカジ『レディ』には向いているようだ。
課金ガチャをムキになってしている斉木。
そんな金を注ぎ込まなくてもと注意するが、熱くなった斉木は止まらない。
「これ、本当あり得ないですよ! 二万円課金して、引けないなんて詐欺です」
子供のように悔しがりながら地団駄を踏むが、そんなものに金を使うぐらいなら、小学生の娘さんに玩具の一つでも買ったほうがいいんじゃないかと言おうとして止めた。
時に正論は人を悪戯に傷つけるだけ。
俺も過去『アイノー皇帝』にハマり、月二十万円を課金していた時期があったので、人の事など言える資格はない。
新宿に仕事へ行く前に、アイノー皇帝。
ある程度の強さを維持するには、何だかんだ課金を定期的にする必要があった。
運営の気分次第でいくらでもシステムの定義が変わる世界。
こんなゲームへいつまで金を注ぎ込まなきゃならないのだろう。
月に約二十万ぐらいの課金。
よくよく考えてみればいい金額だ。
下手したらサラリーマンの月給分ぐらいになる。
競馬でその金額を溶かす場合当たれば増える可能性もあるが、アイノー皇帝ではただ消えていくだけ。
代わりに自身のキャラクターが金を掛けた分だけ数値が強くなるというもの。
強い人間がいれば、この世界だけでは持て囃される。
その快楽に溺れたのは強さランキング十傑に名前を発表されたキャラクター。
ランキング十位の位置にいる俺も、その中の馬鹿の一人。
言い方を代えれば月に二十万円程度の金で、数ある中の十番目にいられるというレベルの低さは、このゲームの人気の無さを物語っていた。
結局どんなジャンルのゲームであれ、携帯ゲームはまず課金ありきが前提。
金を使わないと強くなれないのなら、始めからやらないか、根気強くコツコツ地味にやっていくしかないのだ。
だから俺はこのゲームだけでなく、二度と課金などするつもりはない。
あくまでも暇潰し程度にしておく。
これが熱くならない秘訣である。
「あれ? 岩上さん、まだそんなところにいるんですか?」
片屋敷は妙に勝ち誇った面をしている。
今日から『ドラゴンクエストけしケシ!』を始めたばかりの俺は、当然店の中で一番レベルが低い。
そんなの一ヶ月も前から先にスタートしていたら当たり前だろと言いたいが、妙な屈辱感を覚えた。
斉木がトイレに行き、星野が客席へ向かい、キャッシャー室は俺と二人きりになると、片屋敷は小声で「岩上さん、我妻さんにあの事言ってないでしょうね?」と念押しをしてくる。
あの事?
宮古空港で番頭の達彦から五万円を補填してもらった事かと分かり、無視をしてゲームを続けた。
自分だけ五万円を貰っておきながら人には言うなとは、身勝手という表現以外思いつかない。
「岩上さん、ほんとに我妻さんに言ってないですよね? あの人、本当に狡い人ですから」
「言う訳ないでしょ。それより片屋敷さん、俺が貸した金、いつ返してくれんですか?」
「あ、あれは次の給料日で…、あ、ホッシー戻ってきました。この会話はやめましょう」
「……」
本当に人を舐めたというか馬鹿にしているというか…、何で金を貸した俺が三十そこそこのガキに、こんな対応取られなきゃいけないんだ?
この店で何年か先に入った先輩というだけのアドバンテージ。
ワールドワン時代の若い俺だったら、とっくに手が出ていただろう。
「岩上さん、岩上さん、サーティーワンで、ドラクエとコラボしてますよ」
「え? アイスクリームのですか?」
星野がメガネを掛け直しながら携帯電話の画面を見て、ニヤニヤして話し掛けてくる。
「そうそう。けしケシのこれでしか手に入らないキャラのシリアルコードが、アイス買うと貰えるらしいですよ」
「アイスでシリアルコード?」
「ほら、これ見て下さいよ」
チョコミントのアイスでも買いながら、俺もキャラを手に入れるか。
二百円ぐらいで済むだろう。
俺は画面を覗き込む。
B‐R サーティワン アイスクリームは、Android/iOS/PC(AndApp)用パズルゲーム「ドラゴンクエストけしケシ!」とのコラボレーション第2弾商品として、数量限定で「ドラゴンクエストけしケシ! アイスクリームケーキ」を6月1日に発売する。

価格は店舗によって異なる。参考価格は3,800円(税込)。
「え、高い! 三千八百円?」
「アイスクリームケーキですよ? そのぐらいしますって」
「千円くらいなら買おうと思ったけど、高過ぎだろ」
「まったく岩上さんは世の中の情勢知らないんだから」
でも、片屋敷に差をつけられたままなのも、ムカつく。
ケーキはいらないから、買ってシリアルコードだけ手に入れて、あとは斉木の娘にでもあげようかな。
俺は何度かうな重や叙々苑弁当をご馳走になったお礼に、斉木へ言ってみた。
「あ、自分はもうドラクエ、アンインストールしましたから」
「え? だってさっき二万円課金したって」
「あんなムカつくゲームなんてもう辞めましたよ」
「……」
何て無駄な金の使い方を。
しかも俺にこのゲームを勧めたその日に辞めるとは……。
「岩上さん、これ見て下さいよ」
「何よ、ホッシー」
「どらケシのガムつきですよ。こっちもシリアルコードついてますよ」

「はあ? 三千九百二十二円? アイスより高いじゃんかよ!」
「落ち着いて下さい。これ十六個入りのケースだからですよ。バラでコンビニとかでも売っているみたいですよ」
これなら一つ、二百五十円もしない。
帰りにコンビニへ寄ってみるか。
あ、そういえば九州のでったんからメッセージで、近い内川越来ると言っていたよな。
いつだったっけ?
俺はツイッターを見る。
今月の十一日か。
八日が赤心堂病院で定期健診だから、二日出て休みを取るようだな。

俺はシフト表に十一日も、でったんと三十二年ぶりの再会の為に休みを取った。
仕事明け、朝からセブンイレブン、ファミリーマート、職安通りのドンキホーテ、アスクルーム一階のまいばすけっと、ローソン、大久保通りのドンキホーテ、まいばすけっとと何店舗も彷徨い歩く。
それなのに一つも売っていない。
馬鹿らしくなり諦めて寝る事にした。
夜出勤すると、斉木がドラクエを誘いながら辞めてしまったお詫びにと、鰻の差し入れを頂く。

うな鐵のうな重だから、三千円後半するのになあ。
せっかくの好意なので有難く頂戴した。
「斉木さん、今月の十一日に小学時代で転校してしまった同級生と、三十二年ぶりに会うんですよ」
「え、三十二年ぶり? それ、大丈夫ですか? 宗教の勧誘とか、ねずみ講とか」
「もちろん俺もいきなりだったから、警戒はしましたよ。でも、本当に懐かしくて再会したかったようです」
「何で突然来たんです?」
「突然というか、俺過去に試合に出たり、本を出したり、整体を開業したりしていたじゃないですか。その頃からネットでは見ていたようですよ」
「へえ、ゆっくり楽しんで来て下さいよ」
「ありがとうございます。あと、うな重もご馳走様でした」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「斉木さん」
「はい?」
「またドラゴンクエストけしケシやりましょうよ」
「それは絶対に嫌です」
そう言うと斉木は『カジノプロジェクト』をやり始めた。
二千二十二年七月二日、土曜日先負、半夏生。
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