闇 425(ゾク二十三歳差と前夜祭編)
闇 425(ゾク二十三歳差と前夜祭編)

2025/12/18 thu
前回の章
二千十七年九月二日、土曜日赤口。
朝本川越駅から電車に乗り、西武新宿駅へ向かう途中の事だった。
ブーブーのあとギュイーと嫌なサイレンのような音のあと所沢で震度六度と表示される。
これは俺の携帯電話だけでなく、車内で色々な人まで同時になったから故障とかではないだろう。
しかし誰一人慌てる者はいない。
不思議な状況だったので、思ったままをフェイスブックへ投稿した。
9/2 7:50頃
今さっき所沢で震度6とか
地震警報が携帯に届いたんだけど、速報見ても何もない
電車内で一斉に携帯電話に、警報アラームが鳴り出したんだけど……
どうなっているの?
何かしらの誤作動からだったのか?
結局何一つ分からないまま新宿へ電車は到着した。
ラッキーハウスへ到着すると、客は丸と金太郎だけ。
そもそも金太郎は店側の人間だから、実質丸だけである。
今日は木幡が休みなので、ドリンクなどのチェックをしていると、橋本がキャッシャーを代わってくれとタバコを吸いに来た。
「あとちょっとで買い出しのチェック終わるんで、それからでもいいですか?」
「いや、赤崎さん。自分がそれはやるんでキャッシャーをお願いします」
下っ端仕事などこれまでしようともしない橋本が、急に珍しいなと思いながらホールへ向かう。
八卓にいた丸が俺の顔を見ながら近付いて来る。
「あのー、自分の今日の収支を出してもらえますか?」
「ちょっとお調べしますので、お時間下さいね」
ゲーム屋は昔ながらのゲームの基盤を使った商売なので、インカジと違い簡単にINをいくらこれまで入れたかなんて出ない。
なのでキャッシャーの置いてある収支表の紙を見ながらの手計算となる。
一台でずっとゲームをしていたなら分かるが、丸の場合とにかく台を変えるので、その都度数字を追い駆けていかないといけない。
最初は五卓で一万五千円。
次に十卓へ行き五千円入れて二万円OUT。
オリを入れずに七卓へ行き二万五千円。
こんな感じでプレイするのでどうしても時間が掛かってしまう。
俺が計算している間、丸はじれったそうに傍にいるので落ち着かないが、急にトイレへ駆け込む。
個人的な収支なんて最初に持ってきた金を覚えていれば、今の持ち金と比べて分かるだろうと言いたいが、こういったどうでもいい事すら香川体制だと容認しているので、客はどんどん増長していく。
ようやく計算を終え、丸の収支は現時点で十五万五千円負けと出た。
彼が長時間のトイレから出てくると、俺は収支を伝える。
丸はしばらく手持ちの金を手で何度も数え、首を振りながら「違う」とだけ言った。
「……。もう一度お調べするんで、お待ち下さい」
キャッシャーの収支表も、人間が手書きでチェックして記入するもの。
ましてや俺ら早番だけでない。
遅番の人間たちがつけた分も同じ用紙なのだ。
このような時は面倒なので、計算をある程度したふりをしながら、負け額に五千円や一万円を上乗せした数字をでっち上げる。
一円レートのゲーム屋では忙し過ぎて、こんな個人的客の収支を計算するなどあり得なかった。
キリがなくなるからであり、こんな事をいちいち聞いてくるのもラッキーハウスぐらいだろう。
「丸さん、すみません。えー、収支が十六万五千円…。一つ八卓の一万円を入れ忘れていました」
「それで合ってます……」
丸はそれだけ言うと電子タバコのアイコスパープルを吸ったまま、十一卓へ座り、五千円INを入れる。
俺は八卓の台清掃を済ませ、キャッシャーへ戻った。
鼻につく嫌な臭い。
アイコスってこんな匂いが強いのか?
その五千円も呆気なく溶けると、項垂れたまま丸は帰ろうとした。
途中で金太郎が話し掛け、二人で妙な盛り上がり方をしている。
「赤崎さん…、今日は自分が買い出し行ってきますから」
「え、何言ってんですか! そんなの俺が行きますって」
「いや、今日は自分が行きます。店をお願いしますね」
いつもと違う様子に戸惑いながらも了承した。
橋本が出ていくと、十分もしないで金太郎と丸は一緒にラッキーハウスを出ていく。
誰もいなくなった店内。
俺は台清掃を全台始め、掃除機を掛ける。
シンクに溜まっていたグラスを洗っている途中で橋本が戻ってきた。
「橋本さん、今日どうしたんですか? いきなり買い物行くとか。ちょっと変ですよ?」
「やっと帰ったんですね、丸…。自分、あいつ生理的に駄目なんですよ」
「まあでも客なんですし」
「もちろん客なのは分かってますよ。ただあのしつこい収支計算とか、アイコスの匂いの臭さ。なよーっとした気持ち悪い接し方…、思い出すと鳥肌立つんですよね」
「……」
言いたい事は分かるが何て酷い言い草だろうか。
今後丸がホールいた場合、橋本が買い出しに行くと言い出すほどの嫌いよう。
確かになよっとしているし、収支の件にしても何回も聞いてくるらしい。
それでも金を使う客なんだからしょうがないだろうと思うのだが……。
二千十七年九月四日、月曜日友引。
また新宿歌舞伎町での一週間が始まる。
職場で変わった事といえば木幡と川崎のシフトチェンジがあったくらい。
自分的には川崎とのほうが相性いいので良かった。
先週は競馬に対しても冷めたのか、土日ともやらずに済んでいる。
そうする事で、プーさんの缶にはみるみる内に、金が貯まっていくのが分かった。
アルパカにはまだ程遠いが、俺だってやる気になれば真人間にまだなれるのだ。
店内の準備を終わらせタバコを吸う。
「赤崎さん、食事休憩どうぞ」
「了解です。では外へ行ってきますね」
特に腹も減っていなかったが、陰気な店内で一時間休憩するよりは、まだ歌舞伎町の薄汚れた空気を吸っている方がマシだった。
アタックビルを出て左手に曲がる。
二階の裏スロット屋の小沢が対面から歩いてきたが、目が悪いので俺を認識できていないようなのでやり過ごす。
携帯電話が鳴った。
着信は新堂から。
酒井さんの系列に入る時話をした以来なので、随分久しぶりだ。
彼とは俺が二度目の横浜で、クソ矢田部のインカジをやる時酒井さんの代わりに連絡を受けるようになってから親しくなる。
立ち位置は、酒井さんの店全般のPC業務関連全般。
横浜時代、俺だけにはよく愚痴もこぼしていたのを思い出す。
「どうしましたか、新堂さん。お久しぶりです」
「あ、岩上さん、お久しぶりです。今日連絡したのって、横浜の福富町のハッピーあるじゃないですか」
「あー、はいはい。三田さんところですね。あそこが何か?」
「岩上さんが辞めて随分経ちますが、抜けてからずっとほとんどポイントも入らないような状況で、数ヶ月前からほとんど潰れたに等しい感じなんですよ」
「……。言い方は悪いですが、あの店は俺一人で元々持っていたような店ですからね。それをあの店は抜けた俺は必要ないと屑共が一致団結してやったみたいですけど、そうなるの目に見えて分かりましたよ。おまえらに何ができるんだって」
自然と大久保公園のほうへ向かい、ガードレールの上へ腰掛けた。
イワカミ工業が理不尽に崩壊し、身を粉にしてここまで頑張ってきたつもりだった。
自分の背中を見せる事で、誰かしらその姿に感動し協力的になってくれる従業員がいると思っていた。
しかし何だ、これは?
誰一人、クソの役にも立ってねえじゃねえかよ!
一ヶ月半だぞ?
こんな事をしながらの日々をこなして。
それでまだ遅刻?
カズにしてもそう。
坂本にしてみたら、一体何なんだあいつは?
誰があの屑を助けた?
俺だけだろう?
三十四万なんて、約一ヶ月分の給料だぞ?
あの馬鹿、ここで働いて何日だよ?
しかも遅刻ばかりでまともに働いてねえじゃねえか。
あの時の疲労困憊さ、身体の限界、借金問題、裏切り……。
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