闇 447(ゾク?プチ岩上整体編編)
闇 447(ゾク?プチ岩上整体編)

2026/01/11 sun
前回の章
二千十八年七月一日、日曜日仏滅。
競馬を一レースからしていたら、気付けば負け続け二十二万も使っていた。
メインで万馬券を取れたから良かったものの、結局二万円負け。
まったく何をしてんだか。
二千十八年七月五日、木曜日友引。
地方競馬をすると、一位から五位まですべて的中。

五連単とかあれば、億万長者になっていたのになあ。
練習がてら実験でやった軽い感覚がいい方向へ転がったようだ。
今週は一会場選んだら、全レース馬連五頭、三連複も五頭ボックスという買い方を心掛けよう。
競馬はまず当てることが大事。
二千十八年七月七日、土曜日仏滅、小暑。
今日は七夕。
佐藤充が朝からラッキーハウスへ来て粘着で本当にウザい。
ゲーム屋に来ているんだから大人しくポーカーをしてろと言いたいが、とにかく口を開けば競馬話ばかり。
仕方なく俺もJRAの即パッドを開き賭け始めるが、自分の言った通り賭けないのが気に食わないのだろう。
何故この馬を押さえないとか本当に大きなお世話である。
自分の金なんだからそこまで口出すなと思うが、客と言う立場を最大限に利用していた。
レースが終わる度に俺のところへ来て結果を聞いてくる充。
こんな事なら今日休みを取れば良かった。
俺はフェイスブックへ競馬状況を投稿する。
実験シリーズ
中京全レース&福島ちょこっと
ほぼ馬連5頭BOX、三連複5頭BOX
今日は勝つというよりも、当てる事のみを目的とした競馬
さて、何レース当たるのだろうか
【結果】
11:55現在
ヤバい…、中京1R〜4R、福島2R外れた…
福島4R馬連だけ当たるも、20倍戻しだからこのレースだけでチャラ……
13:35現在
ますますヤバい…、あれから6レース…、つまり半分終わっているのにも関わらずすべて外れ……
14:40現在
中京7.8.9R馬連&三連複全部当たり!
ただ固めのやつで決まっているので、まだ二万ちょいしか回収できていない(笑)
15:00現在
福島9Rズバリ!二枚目の写真添付しましたよ
10Rも買っちゃいました(笑)
これ取れたらデカいです!

17:20現在
結局14500円負けて終わりました(笑)
何レースか取れはしたものの、ガチガチな配当が多かったのが敗因
9R当たったけど、買い目が多いとこうなります
結果としては、確実に取れそうなレースのみを選別してやったほうがいいのかも
土曜競馬が終わると、充は明日の予想話をしに来た。
いい加減解放してほしい。
ゲームはゲームで負けが込むと、早番責任者の橋本へ設定がおかしいとゴネ出す始末。
普通の商売ならこのような面倒臭い客などお断りだが、裏稼業の賭博ではいくらゴネようと暴れたり暴力を振るったりしない限り、うるさいだけなら許される世界。
二千十八年七月八日、日曜日大安。
出勤早々充地獄変が始まる。
橋本も競馬好きなくせに、充を嫌いだから近付こうとしない。
昨日の時点ですでに馬券を購入してあるのだから、今さらこんなチビの予想など聞きたくもなかった。
それでも客だから、適度な相槌を打つ俺。
もちろん店のテレビは競馬中継。
メインを眺めていると珍しく当たったようだ。
嬉しさのあまり、昨日投稿したフェイスブックの記事を編集し、追加で加筆した。
明日の競馬は福島11.12R、中京11R、函館11.12R勝負
…て、G1でも何でもないローカルなのに、何で俺はこんなに金を使っているのだ……(笑)
中京メインゲッチュ!
三連複も三連単も買っときゃ良かったよー

なので、福島メイン追加(笑)
結局99000円買って、92000円戻して7000円負け(笑)
その後地方競馬全部外れて派手に負けました……
今回一連の事柄を俯瞰して見ると、一つの事実に気付く。
佐藤充が近くにいると、勝てるものも勝てなくなる。
今日は中央競馬だけなら、十万ぐらい使って七千円負けなら充分楽しめて終われたはずなのだ。
それをまだ地方競馬は買えるだ何だ始まって、結局俺も付き合わされて大敗。
仕事を終え、帰り道たまたまパチンコ屋マルハンへ寄ってみる。
俺も何を考えているんだろうな……。
適当に座った台はエヴァンゲリオンだった。
五百円を入れ、ハンドルを回す。
ん?
渚カヲル降臨?
これ当たるんじゃないか?

二十一回連続してまだまだ続きそうだったけど、ここで時間切れ。
夜十時過ぎからだから、一時間も打てていない。

それでも結局一万六千発も出て、競馬の負けもこれで軽減された。
祝い酒を一人でしっぽり飲んでいる内に終電を逃がす。
明日も仕事だから、このまま新宿泊まろう。
川越の野良猫ニャーニャーたちには申し訳ない事をしてしまった。
二千十八年七月九日、月曜日赤口。
仕事明け本川越駅へ到着すると、小走りに駐車場へ向かい猫たちへ餌を与える。
昨日あげれなかった分、倍以上の量を与えたが、これで良かった訳ではない。
完全に賭博狂いになっている俺。
ジャンボ鶴田師匠や三沢光晴さんといった崇高なる背中を見てきたはずの俺が、こんな堕落しきった日々を過ごす。
かなりの冒涜だ。
家に帰り、久しぶりに体重計へ乗ってみた。

数値は九十六・九キロ。
あと三キロちょっと増えればヘビー級の体重だ。
身体能力は落ちたものの、まだ筋肉が残っている証拠か。
風呂に浸かりながら過去を振り返る。
四十六歳になった今、こうまで停滞楽な日常にいるなんて……。
二千十八年七月十一日、水曜日友引。
休みなので部屋でのんびり寛ぎ、昼間のクレアモールをブラブラする。
以前来々軒だった場所が、串カツ田中になっていて興味をそそった。
若い頃この場所には思い出が二つある。
全日本プロレスのプロテストに受かり、同級生の大沢史博の酒乱行動をフォローして警察に捕まり、すべてがパーになったあの頃。
一つはその暗黒の一年間を過ごす中、ガソリンスタンド山口油材時代共に働いた二つ上の先輩平田と川越市民体育館へ、新日本プロレスの興行を観に行った時の事だ。
佐々木健介とホークウォーリアーが組んだヘルレイザースを初めて生で見て、健介の背の低さに驚く。
獣神サンダーライガーとペガサスキッドが組み、マサ斎藤、バーバリアンと意味不明な試合があったのも覚えているが、あれは確かSGタッグだったからだろう。
他にも野上飯塚の『JJジャックス』と何をしたいのか分からないチームも売り出していた。
その興業の帰りに来々軒へ寄り、当時金の無かった俺は平田がホルモン定食をご馳走してくれたのだ。
もう一つはその頃ここでアルバイトをしていた坂尾和美。
中央小学校時代の同級生は、中々可愛くなっていた。
中学は別だが、偶然彼女と再会した俺は子供の頃好きだったと告白され、酒も入っていたのも味方して抱いた事がある。
二度目の再会は歌舞伎町浄化作戦で、まだ百合子と会う前だったから三十二歳の頃。
偶然再会した彼女は結婚していた。
それでも向こうから連絡があり、一度だけ抱いた事がある。
深みにハマらないようそれで関係は終わりにしたが、今頃どうしているのだろうな。
そんな事を思い出しながら串カツを食う。
まだ俺が二十歳ぐらいの時に、もうちょっと頭を使って生きていたら、こんな風になっていたなかったのに……。
携帯電話が鳴る。
画面を見ると古木英大からだった。
いつ以来だ?
確か影原美優が結婚して家から出て行ったと連絡を聞いた以来?
いいアイデアを閃く。
彼氏の古木にはまだ歌舞伎町へ復帰した事を伝えていない。
その事を彼へ話すふりをしながら、彼女とはどうなったか聞くのは自然だろう。
もし古木とは別れたという報告を聞けば、俺が影原美優へ連絡しても問題ないはず……。
古木へ電話を掛けてみた。
「あ、岩上さん、お久しぶりです。どうかしましたか?」
「いや、俺ね…、また歌舞伎町の裏稼業へ復帰したんだ。古木君には話してなかったなと思ってね」
「うーん、やっぱりね…、岩上さんは歌舞伎町みたいな場所が似合ってますよ。整体も惜しいですけど、あそこの経験あったからこそ、小説や格闘技ってなってるじゃないですか!」
変に興奮している古木だが、俺が聞きたいのはおまえの感想ではない。
影原美優の状況だけだ。
「まあ、結局力不足でまた戻る形になっちゃったけどね」
「いやいや、岩上さんが歌舞伎町かー。面白くなりそうじゃないですか」
「そういえば影原さんとはどう? うまくいっているの?」
「あー、あいつは家を出ていきましたよ」
「え、何で?」
大チャンス到来かもしれない。
とうとう古木に対して愛想を尽かした可能性は大である。
「アイツ、美容師の仕事始めたのは知ってましたっけ?」
「何となくは聞いたかも……」
知っているに決まっているじゃないか。
そもそも仕事をしろと斡旋したのは俺だ。
「何か客に見初められて、突然出て行くって……」
「……」
何その展開は……。
「結婚も、もうしたんじゃないですかね。まあ俺の知ったこっちゃないですけど」
「……」
影原美優が別の男と結婚……。
色々なものが音を立ててガラガラ崩れていくような気がした。
「あれ? 岩上さん、聞こえてますか?」
「あ、ごめんごめん…。古木君、ごめん。キャッチホン入っちゃったみたい。またね」
俺は電話を切り、しばらく呆然としたいた。
あれは一体俺にとって何だったのだろう?
確かにショックを一時的に受けはした。
でもまるで引きずる事もなく、すっかり今まで忘れている。
つまり彼女を抱こうとして未遂に終わったから、一度だけ抱きたかったというただの性欲に過ぎなかったのだろう。
まだ携帯電話のコールは鳴っている。
何の用か知らないが出てみるか。
「はい、岩上です」
「あ、岩上さん、ご無沙汰しています。古木です」
「今日はどうしたの?」
「実はちょっとうちで手伝ってくれている子が、首や肩、腰もそうなんですがかなり重度なんですよ。色々なところ行っても全然駄目で、私は岩上さんの腕を実際に知っているじゃないですか。それを話したらどうしても一度声を掛けてほしいと。それで電話をしてみたんですが」
俺の施術の腕か……。
あれから何年ぶりだよ?
「診るのは構わないけど、俺岩上整体以来ほとんど何もしていないよ?」
「ええ、それでも岩上さんの腕は私が分かっています。一度診てもらえないでしょうか?」
またこの古木英大と関わる?
俺は過去の彼に巻き込まれた三角関係を思い出していた。
俺が二度目の総合格闘技復帰戦をやる前の岩上整体の頃を。
いや、違うか、そのあとの試合終わってから数ヶ月後だ。
俺にどちらか片方を選べと言われ、牧田順子を選んだ古木だったが、影原美優は別れようと何度も言っても了承しなかったようだ。
「古木君の意思は伝えたんだから、連絡を一切遮断するとか自然消滅する方向へ持っていくしかないんじゃないの? まあ今日は俺が直に会って話すんだろうけど、あまり意味が無いと思うよ」
「いえ…、それがですね…。あの……」
何か言いたそうで言えないしどろもどろな古木。
俺にしか相談できない……。
確か前にそんな言葉を言っていた。
嫌な予感がする。
「何度も別れようと説得したんですが、美優は一向に応じなくて……」
「だから二人とも切るべきだと、最初に俺は言ったでしょ。牧田順子と結婚も考えているって言うからあの時協力したのに、付き合ったら他の女に手を出してバレて牧田順子を選んだけど、そっちが切れませんじゃ、話にならないでしょ」
「散々言ったです、別れようと…。でも本当に聞き分けがなくて」
「いや、聞き分けがないとか……」
古木は携帯電話を取り出し、俺に一枚の画像を見せてきた。
「……、何これ?」
風呂場だろうか?
湯船に湯が張ってあり、女性らしき左手首だけが写っている。
湯の色が若干赤く見えるが、バスクリンか何か溶かし始めたような色合い
「美優は自殺未遂したんです……」
古木はそう言って、その子からのメールの文面を見せてきた。
『私はもうこの世からいなくなります。来世で幸せになろうね。 影原美優』
「……」
何だ、この展開は……。
俺、ひょっとしてこれから自殺未遂した女と会って、古木と別れるよう説得するの?
絶対に無理でしょ……。
「それで自分、美優のところへ駆けつけてしまったんです……」
「まあ、勝手に死ねとは返せないよね……」
「それで…、あの…、一つ大きな問題がありまして……」
「え?」
大きな問題?
自殺未遂をしでかして置いて、さらに問題?
「美優は…、現在妊娠四か月目なんです……」
「はあ? 何それ?」
「それが自殺未遂で駆け付けたあと、関係がズルズル続いてしまい…、美優が安全日だからと俺を騙して……」
「……」
何をこの男は抜かしているんだ?
状況を把握するのに、しばらく時間が掛かった。
つまり古木は二股を続け、美優は現在妊娠四か月、その状態で牧田順子と一緒に生きていく、片割れとはこれから会って俺が別れるように説得……。
「無理に決まってんだろっ!」
それでも俺は結局この三角関係に引っ張り出され、影原美優と会った。
陰があるという表現なピッタリな彼女。
あまりの悲惨な状況に放っておけず、俺は彼女の中絶手術まで立ち会った事もある。
『岩上さん、大変申し訳ないのですが、本日の病院の付き添いお願いできませんか? 古木と急に連絡つかなくなりまして……。 影原美優』
「……!」
俺が彼女へ付き添う?
古木はこんな日に何をしてんだ?
責任感の欠如。
仮に逃げたのだとしたら、本当に頭がおかしい。
俺は古木へ連絡をしてみた。
出ないものとおもっていたが、反してすぐ電話には出る。
「もしもし、岩上だけど!」
「あ、先生ですか! 牧田です。牧田順子です。今、古木と一緒にいるんですけど……」
何故古木に電話をして、牧田順子が電話口に出るのだ?
しかも一緒にいる?
状況がうまく把握できなかった。
「あれ? 先生!」
「何で古木の携帯に君が出る?」
「え? どうしたんですか?」
「別れたんじゃねえのかよっ!」
気が付けば怒鳴り飛ばしていた。
影原美優が子供をおろす手術をする当日に、コイツら何をしてんだ?
「いや…、あの…、先生……」
「古木に代われ!」
「で、ですから……」
「古木に代われっつんてんだよっ!」
「は、はい……」
身体中の血液が沸騰していた。
何なんだ、コイツら…、それでも人間かよ……。
「お、お電話代わりました…、古木です……」
「おまえ、何を考えてんだよっ! 今日は彼女が子供をおろす日だろうがっ!」
「いや…、てすから…、少し混乱してしまって……、じゅ、順子に……」
「順子にじゃねえよっ! おまえら別れたんじゃねえのかよっ! こんな日に何をしてんだよっ!」
狂ったかのように罵った。
いくら何でもこれじゃ、あの子が可哀想だ。
情けない古木は手術当日影原美優の前から姿を眩ませ、別れたはずの牧田順子の元へ行った。
いや、そもそも俺へのパフォーマンスで別れたと言っていただけで、影でコソコソ会っていたのかもしれない。
よくこんな非道な真似ができたものだ。
「先生、牧田です。今日であの女は……」
「テメーは俺に話し掛けんじゃねえよ、馬鹿野郎!」
電話を切る。
そしてすぐ影原へ電話を掛けた。
「あ、岩上さん……」
「体調は大丈夫? 今から迎えに行くから。今日俺、たまたま休みだったから良かった。ちょっと待っててね」
支度して部屋を飛び出し、車へ飛び乗った。
古木のマンションは覚えている。
車で十五分程度の距離だ。
さすがに影原美優が可哀想だった。
このまま放っておくわけにもいかない。
自分たちが子供をおろしたあの時がフラッシュバックする。
生気を失ったかのように歩いてきた百合子。
男は女性の何万分の一さえ、痛みを感じられない。
せめて寄り添ってあげ、気遣う事しか男にはできないのだ。
仁義礼智信。
智で、物事の善悪を判断する。
仁で、相手を思いやる。
義で、正しい人の歩む正しい道筋へ誘え。
俺は後悔したくないから、思うまま動こう。
気付けば俺は影原美優に同情していた。
やがてそれは愛情なのか性欲なのか分からないが、俺へ依存してくる彼女に対し妙な感覚になってしまった。
俺がおまえを幸せにしてやる…、あの時自然と出てしまった台詞。
しかし美優からすれば、子を中絶させた一因でもある俺。
甘えていたいのにトラウマが蘇ると、拒絶され俺は関係を切った。
そのあとだ、古木から彼女の結婚を聞いたのは……。
「岩上さん、もしよろしければ一度だけでも診て頂きたいのですが」
「……」
どうする?
また古木とこれで繋がりを持つ。
警戒心があるものの、そこまで害があるか?
いやいや、今の俺に人を痛罵する資格などあるのかよ。
競馬に金を溶かし、裏稼業で働いているだけの俺に。
表側の人間の役に立つのなら、それはそれでいいんじゃないのか?
古木の為でなく、身体的な問題で困った人を俺が助ける。
それだけ取れば、いい事じゃないか。
「今、サンロードの串カツ田中で飲んでますよ」
「えーと…、サンロードって……」
「あ、古木君、元々川越じゃないもんね。サンロードって今のクレアモールの昔の呼び名。来々軒あった場所が今串カツ屋になってんだよ。今日休みだから、こっちへ来るならそれでもいいよ」
「ありがとうございます。それでは早速向かいますね」
電話を切ると、俺は茄子の串揚げをもう三本注文した。
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