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健全な発達を遂げるためには? 二種類の発達~「垂直的発達」と「水平的発達」について~

前回は「初心者でもわかる『レベル(段階)』人間の内的発達を示す地図~成長・発達のモデルについて~」ということで、「意識構造の発達段階」についてお話しました。

発達段階の全体像もわかったところで、今回は改めて健全な発達を遂げるためのコツや注意点について解説していきたいと思います。

私たちは成長・発達のレベルと聞くと、「最速でそのレベルを上げる」ということを考えてしまいがちです。

それは急速に発展する社会の影響だったり、子供時代に遊んだゲームでボスを倒すためにレベル上げをしたりした経験などなど、様々な影響を受けながら無意識にしみついた価値観かもしれません。

「それって本当に健全な発達なのか?」ということを発達理論の視点から、見直していこうというのが今回の記事になります。


発達理論の視点でみる「発達」とは?

私たちが人間の発達について考えるとき、重要なのは「どんな知識や価値観、思想を持っているか」ではなく、「それをどう理解し、受け入れ、内面化しているか」です。

例えば、進歩的な価値観を持っているからといって、必ずしも発達段階が高いわけではありません。

その価値観をどう扱っているかが大事なんです。

たとえば「その価値観が絶対的な真実として信奉されているか」、あるいは「絶対化されることなく、あくまでも暫定的なものとして適度な批判精神をもって信じられているのか」には大きな違いがあります。その見極めがとても大切です。

知識を得ることは比較的簡単です。本を読んだり講義を聴いたりすれば、ある程度の情報は手に入ります。

しかし、それを自分の内側で消化し活用する力は、それらを覚える力とは全く別の能力なのです。

発達理論は、この「内面化」や「運用力」について洞察する手助けをしてくれるのです。


「垂直的発達」と「水平的発達」

さて、ウィルバーは「発達」には大きく分けて「垂直的発達」と「水平的発達」の二種類があるとしています。

1. 垂直的発達(レベル・アップの発達)

垂直的発達とは、「レベル」(発達段階)が上がるプロセスのことを意味します。

前回の記事で紹介した「レッド→アンバー→オレンジ→グリーン→ティール」といった発達モデルのように、個人の意味構築活動がひとつ上の段階の機能・性能を獲得することです。

引用元:インテグラル理論『口絵』より
ケン・ウィルバー (著), 加藤 洋平 (翻訳), 門林 奨 (翻訳)

このような変化は一生のうちで数回しか起こらず、とてもゆっくり進みます。

発達心理学者ロバート・キーガンによると、成人が一つの発達段階を超えるのには、最短でも5年かかると言われています。

この垂直的発達は人の内面を大きく作り変えるものなので、大きな負担やストレスを伴います。

そうした意味では、それは決して、外部から命じられるものでも、また、急かされるべきものでもありません。

発達心理学者ジャン・ピアジェも人間の垂直的発達を意図的に高速度化して、その生産性を高めようとする発想を”American Problem”と揶揄して警鐘を鳴らすとともに、発達とはゆるやかであるべきだと主張しています。

こうした態度は、発達という概念について探求していく上で非常に重要なものなのです。

また、発達のプロセスは、高次の段階において、さらに多くの時間と労力が必要になります。

それは、高次の段階ほど、意識の中に包含される世界が広がり、そこで営まれる思考の複雑性も爆発的に高まるためです。

筆者がレクティカのトレーニングを受けたとき、講師が印象的なことを述べていました。

「グリーンやティールなどの後慣習的段階に到達した人が、ほんのわずかな垂直的な成長を成し遂げることは、それまでの成長過程においてひとつ上の段階に昇ること以上の意味があるのです」

引用元:入門インテグラル理論第2章「レベル / 段階」

鈴木 規夫 (著), 久保 隆司 (著), 甲田 烈 (著)

つまり、より高度な発達を目指すには、数十年という長期的な視野でじっくり取り組む姿勢が大切です。


2. 水平的発達(幅を広げる発達)

水平的発達とは、現在の発達段階の枠組みの中で、知識や経験を増やし成長していくことです

例えば、自分が得意なスキルをさらに活用できる場面を増やしたり、関連する新しい分野に興味を持って学ぶことがこれにあたります。

水平的発達は、垂直的発達と比べると、それほど時間と労力を投じることなしに達成できる成長でもあります。

発達志向型能力開発においては、垂直的な成長だけではなく、こうした水平的な成長を同等に重視しています

これは水平的発達により得た、複数の領域の知識や経験を、自分の内側で関連付け融合することで、垂直的発達につながるからです。

このような、高次の発達段階に向けて自己を成長させていくプロセスは、高層ビルを建てることにたとえられます。

高い建物を建てたいのであれば、まずは基礎の面積を十分に確保するとともに、高層階を支える低層階の設計や施工に関しても細心の注意を払う必要があるわけです。

高いところに目を奪われるのではなく、基礎を固めることが重要になるのです。

そのためには、「急いで高次の発達を目指すのではなく、今の自分の感性を十分に活かしながら世界を楽しむ」ことが大切です。

幅広い領域に興味・関心を広げて、十分な時間をかけてそれらの領域を探究することができたとき、個人の全人格的な準備が整い、自然な形で、高次の段階の可能性が健全に開花することでしょう。

その意味では、健全な水平的発達は健全な垂直的発達の必要条件と言えるのです。


まとめ

いかがだったでしょうか?

ここまで、発達理論の視点から「健全な発達を遂げるには?」ということを考えてきました。

私たちは「成長・発達=レベル・アップ」という考え方に影響を受けがちですが、発達には急ぐべきではない側面もあります。むしろ、時間をかけて経験を深めることこそが、より充実した発達につながるのです。

垂直的発達は長い時間をかけて進むものであり、一足飛びに進むものではありません。ピアジェが警鐘を鳴らしたように、成長を急ぎすぎることで、健全な発達が損なわれることもあります。

だからこそ、今の自分にできることを大切にし、焦らず、良きも悪きも味わいながら進むことが重要なのです。

また、水平的発達の重要性にも触れました。新しい知識や経験を広げることで、自分の内面を豊かにし、それが次の垂直的発達を支える土台になります。

高い建物を建てるには、強固な基礎が必要なように、幅広い学びが深い成長を導くのです。

何より、人間の発達は単なる「スキルの習得」や「知識の増加」ではなく、自分自身の理解や世界との関わり方を深めるプロセスです。今の自分を受け入れながら、じっくりと進んでいくことが、結果的に最も健全な成長・発達につながるでしょう。


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