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【受賞】一人で食べるしゃぶしゃぶが、こんなに賑やかだとは思わなかった(しゃぶ葉レポ)

このエッセイは、しゃぶ葉×noteの投稿コンテスト「#心を満たすひとりご飯」で#きめたぜソロしゃぶ葉賞 を受賞しました。お読みいただいた皆様、ありがとうございました。


はじめての一人しゃぶしゃぶ。

でも、俺の箸を動かしていたのは、俺だけではなかった。

背中には、これまで出会った人たちの言葉がちゃんと乗っていた。

「しゃぶ葉」に行ってきました。
11時開店に予約して、開店と同時に入店。
一番乗り。

平日ランチは16時まで時間無制限。

理論上、5時間しゃぶしゃぶできる。


一人行動は苦じゃない。
旅行も一人で行ける。
焼肉も行ける。
映画もカラオケも水族館も動物園も一人で行ける。

でも食べ放題って、なんとなく祭りの匂いがしませんか。
みんなで来て、誰かが取りすぎて、誰かが「元とるなら野菜攻め」とか言って、誰かがスープを持ってきて、全員が「あ、スープあるんだ」ってなる。

そういう集団のドタバタまで含めて、食べ放題だと思っていたんです。

そこに今回、はじめて一人で参加。

ボックス席に案内。
広い。向かいの席がずっと空いている。

まずはメニューを選ぶ。
最初は一番安い「豚ロース+鶏食べ放題コース(税込1649円)」にするつもりでした。豚ロースと鶏がいれば十分に最高になれる。

だがしかし、メニュー表を見た瞬間、誰よりも肉にうるさい、かつての友の声がよみがえる。

「豚肩ロースはガチ」

そいつは昔、昼休みになると教室の床に寝ていた。床で寝るくせに、肉には厳しい。「同じ豚のロースでも柔らかさが違う。豚しゃぶは肩一択」そう言っていた。そういうわけで2番目に安い「+豚肩ロースも注文できるコース(税込1869円)」に決定。追加220円で友達の助言を買った。

タブレット注文で追加料金なども分かりやすい。出汁は「白だし」ともう一種類選べる。今回は「本格すき焼きだし」を注文。鶏といえばすき焼き。俺は鶏すきが大好きだ。

注文を終えたら、まずタレと野菜を取りに行く。
しゃぶ葉には「たれBAR」がある。タレと薬味が取り放題。

きざみ玉ねぎの香味だれ(左)と、ジンギスカンだれ(右)。
薬味は紅葉おろし、おろし生姜、ネギミックス。

つぎに野菜を選ぶ。

そのとき鍋を作っていたときの、母の言葉を思い出す。

「きのこを先にたくさん入れると出汁が出ておいしい。白菜も先に入れると甘くなるからおいしい」


しゃぶしゃぶの本質は野菜であることを、俺はすでに知っている。

席に戻ると、もう鍋がセットされていた。
続いて、お肉も到着。
まずは豚肩ロース、豚ロース、鶏。それぞれ一皿ずつ。

ちなみに肉は、猫ちゃんの配膳ロボットが持ってきてくれる。
猫に肉を運ばせる人類。

ここから勝負。
実は俺は、料理をしない。「しない」と言うと少しカッコつけている感じがあるけど、実態としては「できない」に近い。

いや、厳密には素人オムライスとか、闇雑炊とか、やけくそ焼き魚とか。そのあたりなら作れる。ただ、それらを料理と呼ぶなら、蛇口から水を出す行為も水道事業になる。

そんな俺でも、しゃぶしゃぶは料理だと思っています。あれはただ肉を湯に泳がせる行為ではないんです。リアルタイムで鍋を設計し、具材を配置し、火の入り方を見て、出汁の濃度を調整し、今この瞬間の一口を作り続けるライブキッチンです。しゃぶしゃぶは受け身の食事ではない。

鍋の前に座った人間全員が、いきなり料理長に任命される。

まずは野菜を鍋へ入れる。
しめじ、えりんぎ、ネギ、白菜、豆腐。

山盛り持ってきたつもりだったのに、鍋に入れると全然足りない。野菜は鍋に入った瞬間、急に謙虚になる。

豆腐は別に好きじゃない。ただ野菜コーナーで豆腐を見た瞬間、「ここで豆腐を取れる人間でありたい」と思ってしまった。

ネギと生姜を乗せて、冷奴みたいにして食べた。

野菜に火が通ってきたところで、肉も投入する。

まず豚ロース。うまい。薄いのにちゃんと肉。火を通すと身を丸め、旨味とともにグッと存在感が増す。

次に鶏。これもジューシーでうまい。ただ、鶏は少し緊張する。分厚いぶん火が通っているかを、特にちゃんと見ないといけない。

ここで社長の声がよみがえる。

「豚肉と鶏肉はしっかり火を通す」

昔バイトしていたホテルの社長である。食中毒にユーモアはない。おいしくてもお腹を壊しては話にならない。人類が火を手にした意味はここにある。

すき焼きだしに生卵(+55円)をつけるとより幸せになれる。

そして、豚肩ロース。うまい。本当に柔らかい。同じ豚、同じロース系の名前を背負っているのに、こんなに違うのか。床で寝ていたアイツは正しかった。肩ロースはガチ。

鍋が温まってくると、どうしても沸騰させたくなる。

ボコボコしているほうが仕事している感じがする。
しかしそこで、別の声がした。

「出汁は沸騰させると肉から灰汁が出やすくなるから、あんまりグラグラさせないほうがいいよ」


おばちゃんだ。

これまた元バイト先のおばちゃんである。
昔、スーパーの精肉売り場でばったり会ったとき、しゃぶしゃぶ用のパック肉を片手に教えてくれた。「あなたも奥さんができたら教えてあげてね」そう言って、特売コーナーへ消えていった。奥さんはまだいない。でも教えは残っている。

俺は火加減を少し弱めた。沸騰したい自分を抑えた。人生で初めて、鍋を通して自制心を学んだ気がした。

すき焼きだしが、とにかくごはんに合う。
食べ放題だけど白飯は絶対注文すべき。すき焼きだしにくぐらせた豚肩ロースを白飯に乗せる。たれが米にしみる。肉と米を一緒に口に入れる。その瞬間、元を取る計算とかが全部どうでもよくなった。たくさん食うためではなく幸せになるために俺はここにいる。

合間にプリンも食べた。
しゃぶ葉はデザートも食べ放題。コップにゼリーの素とカスタードベースを入れて、そこにソフトクリームを入れて混ぜ、30秒待つとプリンみたいなものができる。「プリンみたいなもの」と書いたのは、本当にプリンなのかどうか俺には判断がつかなかったから。

生肉とプリンのツーショット。

ものすごく正直に言うと、味は限りなく「プリン味」に近づけたプリン味。でも、これがうまい。本物かどうかなんてどうでもいい。俺の舌がプリンだと言えば、それはプリンだ。法律より舌のほうが強い瞬間がある。結局2杯食べた。

カレーも食べた。
肉のうまみがしっかり溶け込んだカレー。普通にうまい。ただ鍋で肉を食べたあとに、さらに肉の気配が強いカレーを食べると、胃の中で肉の同窓会が始まる。個人的には、ここにさっぱり野菜カレーみたいな逃げ道があってもいいかもしれないと思った。逃げ道と言いながらカレーを食っている時点で、俺の言葉は信用ならない。

ワッフルも食べた。
これが一番、精神的ハードルが高かった。アラサーの男がひとりでワッフルマシーンの前に立つんです。平日の真昼間。周りはカップルや女子会で賑わっている。その中で、俺はワッフルの素を流し込み、フタを閉め、2分待つ。

反抗的な仕上がり。

完成したらソフトクリームとソースでデコって完成。サクッと軽やかでうまい。食べ放題のワッフルって、だいたいもっと生焼けで重くて、食べた瞬間に腹の中で膨れる。生乾き布団みたいになるやつ。でもしゃぶ葉のワッフルは軽い。今まで食べた食べ放題ワッフルの中で一番うまい。調子に乗って2枚食べた。


大満足!!

16時まで時間無制限だから、最初は「いけるところまでいてやろう」と思っていたんですけども。なんなら途中で本でも読んで、また肉に戻ってやろうと。でも90分くらいで退店。人は満足すると「終わり」を大切にしたくなる。きれいに終えることができました。

今回、#心を満たすひとりご飯 というしゃぶ葉さんコラボのnote企画で、店に行ってきました。こういう企画があるくらいだから、一人客もそれなりにいるのだろうと踏んでいましたが、ランチタイムの店内はほぼ満席で、一人客は俺だけ。

でも、不思議と孤独ではなかった。

誰かと来ていたら、たぶん肉の枚数とか、次に何を取るかとか、その場の流れを気にしていたと思う。でもひとりご飯だったからこそ、俺は自分の中に残っている言葉をゆっくり思い出せた。

それらを少しずつ鍋に入れて、俺はひとりで食べていた。

しゃぶ葉の鍋は、最後には全部を一つの出汁にしてくれた。



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