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78.バビロニアン・タルムード

画像は以下のサイトから転載。


スーラとプンペティタ

ハスダイ・イブン・シャプルート(九一五年~)は、前回お伝えしたとおり、ユダヤ律法やタルムードの研究を推進した重要人物です。

ハスダイは、スーライェシヴァ(タルムードを学ぶ場所、学院)とバグダッド近郊のプンベディタのイェシヴァの後援者でもありました。

スーラとプンベディタは地名です。スーラは古代ユダヤの文献でバビロニアと呼ばれた地域の南部、ユーフラテス川の東に位置する都市です。

https://www.ao.net/~fmoeller/misc/babJews2to5cent.htmより転載。見づらいがエルサレムの右。

プンペティタはユーフラテス川の上流にあります。いずれにしてもバビロニアです。

紀元前六世紀、ユダ王国のいわゆる「ユダヤ人」たちは、ネブカドネザル二世(紀元前六四二年=)によってバビロニア地方に連行されました。有名なバビロン捕囚です。

捕虜となった「ユダヤ人」の一部は、占星術カルトであるカルデアのマギと出会い、のちに発展したカバラ、つまりオカルトの基礎を築き上げます。

ちなみに選民思想を発明して当時のユダヤ教を変質させたのもバビロンのユダヤ人です。

ハスダイはスペインで活動していました。バビロニアとは地理的にかなり離れていますが、ハスダイは外交官でもあったので、あちこちに顔を出せたのでしょう。

王子

バグダッドには当時、約四万人のユダヤ人が住んでいました。中世のユダヤ人社会の中心地です。

https://www.amusingplanet.com/2016/07/the-round-city-of-baghdad.htmlより転載

バグダッドのユダヤ人たちは、「エクシアルク」によって統治されていました。

エクシアルクは首長の称号で、ペルシャ帝国、イスラム帝国を経て、ダビデ王の系譜に連なる世襲の一族に伝統的に与えられた称号です。この称号は十一世紀まで使われました。

ダビデ王の血を引く者はメシアの資格があります。なのでエクシアルクと呼ばれる人は、一度に一人だけです。

エクシアルクは、聖書に登場するナシと多くの人が同一視しています。

ナシはヘブライ語で、創世記の十七章では、プリンス、王子と訳されています。日本語では「君」というあいまいな言葉で訳されています。

またイシマエルについてはあなたの願いを聞いた。わたしは彼を祝福して多くの子孫を得させ、大いにそれを増すであろう。彼は十二人の君たちを生むであろう。わたしは彼を大いなる国民としよう。

https://www.wordproject.org/bibles/jp/01/17.htm#0

同じ創世記の二十三章ではキャプテン、隊長と訳されています。

ちなみに現代では「大統領」と訳され、アメリカやイスラエルの大統領は、ヘブライ語の新聞などではナシと呼ばれています。

第一回十字軍の指導者の一人、ゴドフロワ・ド・ブイヨン(一〇六〇年~)は、エルサレム陥落のあと、エルサレム王国の初代統治者になりました。

ですが「王」という称号は拒否し、王子という称号を用いました。つまりナシです。

そしてゴドフロワは、ダビデの血を引いているといわれていました。

十字軍はあまりに有名ですが、このようなユダヤ的要素はほとんど知られていません。

アメリカ人考古学者のデイヴィッド・H・ケリーは、論文でこのように記しています。

中世の文書では、ナシは「共同体の長」という意味で使われていたという説もあるが、正しくはないようだ。また、ナシは単に 「輝かしい人」を意味することもあるとされている。そのほとんどは、ダビデの血を引くとされる一族の一員であることが容易に特定できる人物の名前である。ナシという用語は、いわゆるエルサレムのパトリアーク(族長、家長)の血統書にも登場する。

https://fmg.ac/phocadownload/userupload/foundations2/JN-02-01/029Solomon.pdf

エルサレム第二神殿時代には、ナシはサンヘドリンの最高位のメンバーで、議長でした。

私生児イエス

スーラはトーラー学の主要な中心地で、プンベディタとネハルデアとともに、バビロニア・タルムードを生み出したイェシヴァ(学院)の本拠地でした。

タルムードは、一部のキリスト教徒に忌み嫌われています。陰謀論者によると、現在世界を支配しているのは邪悪なタルムーディックユダヤ人です。

タルムードにはこのような記述があります。

イエスは私生児として(ミシュナ・イェバモト四・一三)、母ミリアム(マリア)とその恋人パンテラとのあいだに生まれた(シャバト一〇四b)。彼女(ミリアム)は王子や支配者の子孫であり、大工と遊んだといわれている(サンヘドリン一〇六a)。
イエスはエジプトで過ごし、そこで魔術を学んだ。かれは魔術師であり、イスラエルを欺き、迷わせた。賢者の言葉をあざけり、異端に染まり、破門された(サンヘドリン一〇七b)。
かれ(イエス)は自らを神とも人の子とも呼び、天に上ると言った(エルサレム・タアニト六五a)。かれには五人の弟子がいた(サンヘドリン四三a)。かれは詐欺師として、また背教の教師として裁判にかけられた(トセプタ・サンヘドリン一〇・一一:エルサレム・サンヘドリン二五c、d)。
(イエスは)安息日の前夜である過越の祭りに、石打ちの刑に処された(トセプタ・サンヘドリン九・七)。
かれは(バラムの名で)三十三歳の時、強盗ピンチャスによって死刑にされた(サンヘドリン一〇六b)。かれはゲヘナで、排泄物に煮られて罰せられた(ギッティン五六b、五七a)。
バラムの名の下に、かれは来るべき世界から除外された者の一人である(ミシュナ・サンヘドリンX, 2)。

https://chuckbaldwinlive.com/Articles/tabid/109/ID/4292/Evangelical-Paganism.aspx

もはや激怒しなければキリスト教徒ではない、といった内容です。

ですが激怒してユダヤ人を非難すると、反ユダヤ主義者として社会から抹殺されてしまいます。

このようなタルムードを生み出したスーラのイェシヴァ(学院)を創設したのは、アッバ・アリカ(紀元後一七五年~)です。この人はRab(Rav)として知られています。

なんとなくピンと来たと思いますが、ラビ、先生という意味です。

アッバはユダ・ハ・ナシ(紀元後一三五年~)の弟子です。

ユダ・ハ・ナシは、イスラエルにおけるユダヤ教の賢者で、ハ・ナシは「指導者」を意味する称号です。この人は名のとおり、当時のユダヤ人共同体の最高指導者として知られていました。

このユダ・ハ・ナシは、ミシュナの作成者でもあります。

ミシュナとは、ラビによって行われたトーラーに関する註解や議論を集成した文書たちのことです。

アッバはサンヘドリンの長で、ミシュナの編集長で、当時のユダヤ人社会の重要な指導者でした。当時はローマ帝国によって占領されていた時代です。

イェシヴァ(学院)の後援者ハスダイは、スーラのガオン(イェシヴァの長、校長先生)、サアディア・ベン・ヨセフ(八八二年/八九二年~)の息子のドーサと交流がありました。

サアディア・ベン・ヨセフは、イスラム時代最初のメジャーなユダヤ人哲学者でした。校長先生だったのでサアディア・ガオンとも呼ばれます。

この人はガオンとして、聖書をアラビア語に翻訳し、アラビア語の注釈書を作成しました。これによってみんなは、ラビが理解した聖書解釈を容易に利用できるようになりました。

またサアディア・ベン・ヨセフの詩的な作品は、ヘブライ語詩の復興を刺激しました。

さらに重要なのは、サアディア・ベン・ヨセフは著書『信仰と意見の書』によって、ユダヤ神学と古代ギリシャ哲学を体系的に統合したことです。

この統合はのちに正当化されることになります。なんといってもサアディアはガオンだからです。

そして『信仰と意見の書』は、カバラの書『セフェル・イェツィラー』の注解と哲学的論考を記した書です。

バグダッド

アッバース朝のマシャッラー・イブン・アサーリ(七四〇年ごろ~)は、七六二年、アッバース朝の第二代カリフ、アル=マンスールのためにバグダッドの建都に参加しました。

マシャッラー・イブン・アサーリは、ユダヤ人宮廷占星術師でした。

「バグダッド」は歴史的に知られている名称で、当時は新しい首都、円形都市、「マディナート・アル・サラーム(平和の都市)」として建設されました。

占星術師マシャッラー・イブン・アサーリは、ヘルメス・トリスメギストスの影響を受けていました。そしてペルシャ人のナウバクト率いる占星術師たちと協力し、新しい首都の建設に最もふさわしい日時を占星術的に選びました。

ナウバクトはもともとゾロアスター教徒でしたが、息子とともにイスラム教に改宗し、パフラヴィー語の翻訳者としてアッバース朝の宮廷に雇われました。

カリフのアル=マンスールは、占星術を非常に重要視していました。なのでナウバクトの一族は都市の設計にも協力しました。

そうして占星術的な、天国を模した円形の都市ができあがったわけです。

シャルラタニズム

その成り立ちから「オカルト都市」ともいえるバグダッドは、カバラ・サイエンスの中心地でもありました。

十世紀初頭から十三世紀初頭まで、イスラムの地に住むユダヤ人哲学者たちは、アラビア語でさまざまな哲学文献を生み出しました。

この時期は、神秘主義の波がユダヤ教を席巻していました。いにしえのメルカバなどです。

とあるサークルはメルカバ神秘主義に大いに刺激され、戦車の観想などを行い、結果としてある意味豊かな文献たちを生み出しました。

この文献たちの中には、魔術パピルスの伝統を引き継ぐ「技法」などが含まれています。

歴史には、魔術的能力によって仲間に衝撃を与えた多くのユダヤ教の「熟達者」が登場します。

多くの正統派ユダヤ教徒は、この「魔術師」たちの技をシャルラタニズムとして拒絶しました。

シャルラタニズムは、ずばり詐欺師の起業家の行為を指します。いわゆる「ユダヤ人」の典型的な成り上がり手法で、ものすごくいい言い方をすると「商魂たくましい」となります。

ちなみに古き良きアメリカでは、この手の詐欺師が大成功を収めました。医者を偽って実際に手術までした人もいたそうです。とにかく早い者勝ち、やったもん勝ち、それがユダヤのフロンティア・スピリットです。

そうして財を成した詐欺師たちは、イギリスやヨーロッパのとある貴族たちに見初められ、一部は貴族の仲間入りを果たしました。

残念なのは、この手の詐欺は現在でもビジネスに最も有効だということです。

当時の魔術師たちは、ただ詐欺師と断罪されて終わったわけではありません。

なぜなら詐欺師かもしれない人の魔術的な能力は、じつはメシアによる能力かもしれないからです。

そしてその人がメシアかどうかを巡る度重なる議論は、ユダヤ教を二分するさまざまな運動のきっかけとなりました。

この魔術の熟達者は、「マスター・オブ・ザ・ネーム」または「バアル・シェムス」と呼ばれました。

https://pdfcoffee.com/talismans-amp-masters-of-the-name-jewish-magic-pdf-free.html

十世紀初頭から十三世紀初頭までの時代、ユダヤ人の「マスター・オブ・ザ・ネーム」たちは、非ユダヤ人の顧客のために多くの「処方」を行いました。

「メシアかもしれない詐欺」「ダビデの血統かもしれない詐欺」は、非常に現実的、実際的な施策です。

ユダヤ教という長大な歴史を抜きにしても、わたしたち庶民、人間というものの「欠点」を巧みに突いています。

https://www.bunka-fc.ac.jp/ct-collabo/29727/より転載。てきとうに拾っただけで他意はありません。

わたしたちはもっと騙されたいと願い、さらに騙されるネタはないかと探しまわっている生き物です。

なぜなら暇だからです。ラーメン屋で行列したあげく大失敗したとしても、「超まずかった」などと笑顔で話せます。アイドルに興味を持てない男子中学生はゲイ確定です。マンガを読み、ゲームをし、さらなる暇つぶしを求めてネットや現実世界をさまよい歩いています。

やるべきことがある人は、世の中の大半は「どうでもいいこと」と映ります。

実際にどうでもいいことだらけだからです。

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謎の賢人 この記事はリサーチにかなりの時間を費やしています。有料にはしたくないので無料で公開していますが、チップをいただけましたら精神的にも励みになります。