ティール組織 2026年現状 後編
はじめに
今回紹介する会社組織は、厳密には『ティール組織』には当てはまらないかもしれない。
なので
「ティールの意識で組織をよりよくする旅へと旅立ち始めた組織」
…として位置付けた上で紹介しようと思う。
新たなに加わる可能性のある次世代組織
HCLT(ヒンドゥスタン・コンピューターズ・リミテッド・ テクノロジーズ)

業種・業界:グローバルITサービス
法人形態:営利
国:インド
従業員数:3万名
創業者:シブナダール
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):ヴィニートナイアー
現社長:Cヴィジャヤクマール
2005年、インドの受託系ソフト開発企業である HCLT(ヒンドゥスタン・コンピューターズ・リミテッド・ テクノロジーズ)の社長に43才のヴィニート・ナイアーが就任した。 当時のHCLTは社員3万人、世界18ヶ国に拠点をおいた大企業だったが、インド内の厳しい競争下で業績が低迷 していた。それからわずか4年のうちで社員5万人、売上と営業利益は3倍、顧客数は5倍に伸びた。さらに社員 の満足度は70%向上し、離職率は半減する。この目覚しい大躍進は世界を驚かせた。この時、ナイアーのとった 手法は極めて大胆で、これまでの経営の常識を覆すものだった。そのため ブルームバーグ、ビジネスウィーク、 フォーチュンなどからエクセレントカンパニーとして選出され、その成功の背景に注目が集まった。
大企業病を打破した「社員第一主義」の変革
社長に就任したナイアーは、現場社員との徹底的な対話を通じて、組織に蔓延する「他責文化(言い訳の文化)」と「大企業病」を特定した。彼は「社員第一、顧客第二」を掲げ、現場が価値を生む「バリューゾーン」を支えるための大胆な改革を断行した。
1. 社員の意識改革と分類
ナイアーは社員を以下の3層に分類し、全社員の10%である「変革者」を動かすことで組織全体を牽引する戦略を立てた。
変革者: 変化を待ち望んでいた層(変革のエンジン)。
喪失者: 変化を否定し、あきらめている層。
傍観者: 最大勢力であり、成り行きを見守っている層。
2. 変革のための具体的な施策
「関係の質」や「思考の質」を高めるため、透明性の高いプラットフォームを次々と導入した。
U&I(対話基盤): 社長が社員の質問に直接回答し、構想をブログで公開。
スマート・サービス・デスク: 改善アイデアを提案し、解決の合否を「提案した本人」が決定する仕組み。
360度評価の公開: 社長自らが全社員からの評価を受け、その結果を公開。役員層にも波及させた。
3. 組織構造の逆転(バリューゾーンの確立)
最大の功績は、従来のピラミッド型組織を逆転させたことにある。
バリューゾーンの重視: 顧客に価値を提供する「現場」を組織の頂点に据えた。
管理職の役割変化: 経営陣やマネージャーの役割を「現場を管理すること」から「現場に対して説明責任を負い、支援すること」へと転換した。
結論
ナイアーの断固たる決意と率先垂範のリーダーシップにより、同社は閉塞感を打破し、驚異的な成長を遂げた。この事例は、組織の規模を問わず、トップの決意次第で「現場主導の価値創造」が可能であることを証明している。
ミシュラン


業種・業界:タイヤ製造メーカー・飲食ガイドブック制作
法人形態:営利
国:フランス
従業員数:13万名
創業者:ミシュラン兄弟
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):ベルトランバララン
現社長:フローランメネゴー
タイヤ製造工場における労使関係の工場長だったバララン氏が各工場ごとに自律的にマネジメントできるように、トップリーダー層と直に交渉して、自主経営化に成功した。
バララン氏の取り組みが、ボトムアップのアプローチにも関わらず成功を収めたのは、
⒈ 小さな無数の「実験場」を作り、失敗や学習状況を随時共有しあう仕組みを構築したこと
⒉ 反発者に正面から力で対抗せずに、有用性を認めた味方に新しいスタイルの良さを吹聴することで外堀を埋めたこと
…主にこの二つにある。
バララン氏は過去に上海工場を立て直した張本人であり、現地で自由と信頼に基づくマネジメントを実行した結果、大きな業績を残していた。それ以前は、フランス軍に属していたようだ。
元陸軍士官であったバララン氏は、強い意志を持ち、かつ分散しているゲリラ部隊と戦うことがいかに困難か知っていた。彼の「権力と責任の移譲」プロセスと各エリア工場が自律分散型に変容できたのでは、このフランス軍での経験で培ったものなのかもしれない。
イラク戦争時の米軍幹部が書いた『チーム・オブ・チームズ』という書籍では、中東でのテロリスト集団との戦闘での経験が書いてあるのだが、最新の軍備を備えた米軍が、ゲリラで分散式に活動する現地テロリスト集団に非常に苦労するエピソードが残されている。
この本では、ナポレオン率いるフランス巨大最強艦隊とイギリス海軍との戦い「トラファルガーの海戦」で、英国将軍のネルソンが、味方艦隊の船長に事前に徹底的に情報を共有した上で、各艦隊ごとが自律的に敵軍の側面を撃破する分散型のアプローチで勝利したことが記述されている。


話を戻すと、バララン氏は単に現場主体を目指したのではないということだ。ミシェルクロジェ『官僚主義の現象』(未邦訳)や20世紀の哲学者シモーヌヴェイユの研究文献(*能動的な力『エージェンシー』と共感の重要性)などの次世代のさまざまな文献等から知見を得ていた。つまり、しっかり勉強した上で取り組んだのだ。
そして、バララン氏が革命的だったのは、ボトムアップ形式での変革だけでなく、官僚主義に取って代わる新たな次世代マネジメントモデルを再発明した点にある。
バララン氏:
「私たちは、人間に対する過度に誤った見方をもとに業務を組み立てていました。つまり、人間はきちんと監督されるか、賃金による動機づけがなければ努力しないし怠けてしまうと思い込んでいたんです。その結果、工場で働く人たちは、持っている潜在能力のほんの一部しか発揮できなくなっていました。だからこそ、本社スタッフではなく、現場の従業員が『自分たちにとって裁量権と説明責任とは何か』を定義すべきだと考えました。」
ミシュランに関する変革ストーリーは、著者フレデリックラルー氏の動画でも補足されており、より詳細で具体的な内容は『ヒューマノクラシー』という本に載っている。
中間管理職からボトムアップ形式で組織を変革する数少ない成功事例なので、ぜひご覧あれ。
ハイアール

業種・業界:家電メーカー
法人形態:営利
国:中国
従業員数:13万名
創業者:張瑞敏(読み方:チャンルエミン)
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):張瑞敏(読み方:チャンルエミン)
現社長:張瑞敏(読み方:チャンルエミン)
中国の電機メーカー・ハイアールは、創業会長が組織形態を柔軟に変え続けることで成長を遂げてきた。
ハイアールは「顧客価値の最大化」を目指し個人の起業家精神を重視する組織へと進化を遂げた。
特徴は二つ。
マイクロエンタープライズ構造
「人単合一」の哲学
まず同社の構造は、4000以上のマイクロエンタープライズ(小規模事業)に分かれている。一つあたりの人員は10~15名ほど。
つまり、起業家精神を持った独立したスタートアップが無数に組織内に散らばり、ウェブのように協力し合う構造となっている。

マイクロエンタープライズは、自律した偵察部隊みたいなものです。戦地を見渡して、最も有望な市場機会を得る。さながら巨大な検索機能のように。
次に、「人単合一」とは
「人」:受け身の作業者から創業者精神を持った社員へ
「単」:ワンタイムユーザーからライフタイムユーザーへ
「合一」:<社員の価値>は、<創造したユーザー価値>と同一になる
となっている。

張瑞敏氏は、ハイアールをクラゲのような組織にしたいと考えているようだ。
張瑞敏氏: 「クラゲは6億年以上、恐竜より長い歴史があり、適者生存の素晴らしい例です。クラゲは脳を持たず、中枢神経系を持たず、触手だけで生存しています。触手が獲物を感じると、中枢神経系を必要とせず、命令を出すことができます。他の触手が自動的に獲物を取り囲み、協調して獲物を捕獲するのです」
「もし、クラゲのような自律的な組織になったらどうでしょう?コンタクトポイントがユーザーのニーズを感知したら、コマンドチェーンの上にリクエストを送る必要もなく、再調整の必要もありません。自然と他の人が集まってくるのです」


ガイアックス

業種・業界:インターネットサービス(ソーシャルメディア、シェアリングエコノミー、DAOなど)
法人形態:営利
国:日本
従業員数:130名
創業者:上田祐司
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):上田祐司
現社長:上田祐司
ガイアックス社では、自分が最も心惹かれるプロジェクトや一緒に働く人をある程度は自由に選択できるようだ。
つまりそれは、立場に関係なく誰もが自分自身で一緒に働きたい上司や同僚を選ぶことができることを意味する。
前編で紹介したFAVIがそうであったように、権力を感じたら現場の人たちが自由にそのチームを抜け出して、違うチームにいけるなど、弱いシグナルを察知できる仕組みを構築することができている証であるのだろう。
社内で新規事業を立ち上げたら、社内起業家として会社から資金面含めて支援される仕組みになっていて、事業会社と投資会社のハイブリッドの経営体制となっている。それだけでなく、四半期ごとに自分で自分の人生を描いた上で、「四半期の仕事内容」と「報酬水準」を自分で決めることができるようだ。
創業社長の上田氏のインタビュー記事を読んでみると、かなり面白い思想をされていることがわかる。
具体的には、自宅を『カウチサーフィン』として宿泊できるように開放していることだ。社員同士の合宿にも使用されているらしい。
シェアリングエコノミーに関する取り組みに関して
木村智浩さん:
「もともと代表の上田さんは、『カウチサーフィン』のホストとして活動されていました。欧米などでよくあった、旅行者を自宅に招いて無償でもてなすものです。自分の家を一人で占有するなんて非効率でおかしいと思う上田さんらしいことです。」
今や海外では自分のマンションやアパートの空室を、シェアリングで、旅行者に貸し出すのは当たり前。日本が遅れているだけで、海外ではそれがスタンダードなんです。
カウチサーフィンで、多くの海外の方を我が家に泊めたりしてきたので、シェアリングエコノミーの楽しさは知ってる方だと思う。いや、「楽しさ」なんてものじゃない。本当はそんなチンケな言葉じゃ表現できないぐらいだ。
その表現しづらいぐらいの「シェアする楽しさ」をもっと多くの方に知ってもらいたい。もっと普通にいろいろなものをシェアしてもらいたい。「シェアをすること」について、もっとムーブメントを起こしたい。
ちなみに、ADDress(アドレス)と呼ばれるサブスクで日本全国どこでも旅するように宿泊できる多拠点民泊サービスは、同社の出資及び支援で誕生した無数のシェアリングサービスのひとつでもある。今では、アドレスホッパーと呼ばれる定住する家を持たない人も現れている、一部にはコアな人気をもつサービスである。
サイボウズ
業種・業界:SaaS・ソフトウェア
法人形態:営利
国:日本
従業員数:1,300名
創業者:青野慶久
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):青野慶久
現社長:青野慶久
同社はキントーンというSaaSの運営元となる会社だ。
組織の目指す理想
サイボウズは2007年から一貫して「グループウェア世界一」という共通の理想を追求している。現在のパーパスに合わせて表現し直すと、「チームワークあふれる社会を創る」ために、自社プロダクトであるグループウェアを最大限に活かしてもらうことに繋がる。また、これは「4つの文化」と表現される内容(一般的にはValueにも近い)の筆頭に「理想への共感」があることにも、その姿勢が強く表れる。
個人の主体性
それと同時に、「100人100通り」の人事制度というフレーズにも象徴されるように、一人一人の個性をそのままに扱う姿勢も徹底している。これは、あらゆる組織の施策の根底に一貫している揺るがぬ信念だ。(ただし、後述するように「100人100通り」という言葉には「慎重になっている」面があるそうだ)
4つの文化のうち、2つ目の「多様な個性を重視」はそのこと自体を言っており、残り2つ(「公明正大」「自立と議論」)は、組織の理想と個人の主体性を共存させるための姿勢や振る舞いが語られている。
細かい話だが、今回のインタビューで中根氏が「教育する」「選ばせる」といった「上から下」の空気感が漂う言葉は一度も使われなかった。その言葉選びにも、一人一人を「対等な個人」として扱う姿勢が表れていた。
ちなみに社長である青野慶久氏は、ティール組織の邦訳版に無数の付箋を貼って相当読み込んでいる。

オズビジョン

業種・業界:ポイント決済サイトの運営
法人形態:営利
国:日本
従業員数:100名
創業者:鈴木良
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):鈴木良、松田光憲
現社長:鈴木良
オズビジョン社はポイント決済サイト『ハピタス』の運営会社だ。

同社は原著の中でも登場していて、ユニークな社風を紹介されている。
会議のお作法
オズビジョンは革新的な手法を試みてきた。その一つが「Good or New」と呼ばれる朝のミーティングだ。
毎朝、チームメンバーが集まり「Good or New」を実施する。これは一日のチェックインのようなものだ。話し棒のように人形が回される。持った人は、新しいこと(仕事や新聞からのニュース、私生活など)、良いこと、あるいは単に同僚に知ってほしい話(仕事に関係あるなし)を共有できる。
全体性:ムード管理やテンションの共有
このインターネット企業は、気分管理に関する革新的な手法を数多く試みてきた。そのうちの2つはストーリーテリングを伴うものだ。
一つ目は、チームが毎朝「Good or New」と呼ばれる短いミーティングに集まること。これは一日のチェックインのようなものだ。話し棒のように人形が回され、それを手にしている人が何か新しいこと(仕事やニュース、私生活の情報)か、何か良いこと(単に同僚に知ってほしい話、仕事に関係あるなし問わず)を共有する。
こうして毎日が簡潔で楽しい瞬間から始まる。これは「私たちは皆、同僚として、そして人間としてここに集まっていることを認めよう」という一種の儀式だ。
二つ目の物語共有の習慣は、全員が年に1日追加休暇を取得できる権利に基づいている。これは「サンクスデイ(感謝の日)」と呼ばれ、従業員は会社の資金から¥3万ほどを支給され、特別な誰かに感謝を示すために自由に使うことができる。同僚、親、友人、隣人、あるいは長く会っていないが忘れられない学校の先生など。唯一のルールは、職場に戻った後、自分が何を贈り、誰に贈り、その贈り物がどのように受け取られたかを共有することだ。
従業員40名(※ 取材当時の従業員数)のオズビジョンでは、毎月3~4件のこうしたストーリーが共有される。これらは往々にして深く個人的な体験であり、同僚たちは感謝の種が蒔かれた瞬間、感謝の伝え方、贈り物の受け取り方という3つのステップを自ら進んで共有する。
だが現在は、組織拡大に伴いこの慣習はやめてしまったようだ。決して、悪い意味でやめたわけではなく、上記の朝会「Good or New」や「サンクスデイ」の福利厚生も、無数の試行錯誤の過程の一つだったようである。同社の新たな取り組みに引き続き注目したい。
この本の中で、Thanks Dayと、Good or Newというオズビジョンの過去の取り組みについて書かれています。そう、これら2つは現在はもうやっていないのです(原書出版は4年弱前)。
まずThanks Dayとは、年に一度、希望者に対して有給休暇とは別に特別休暇と現金2万円を支給する代わりに、社内ブログで誰にどんな感謝をしたかを共有してもらう制度です。これは、誰かの感謝が、誰かの感謝を刺激する。(あぁ私もたまには両親を温泉にでも連れて行こうかなぁなど。)を意図したものです。
3年ほどやってみた結果は、〇〇さんってこんな一面あるんだとか、たまには自分も家族や両親に感謝を示そうという気持ちにさせてくれる効果はありました。また、家族に制度を自慢し、応援してもらいやすくなるという副産物もありました。
ただ、ずっとやってると飽きなのか、あまり閲覧されなくなり、利用者も減って来たため、廃止しました。初めは新鮮で盛り上がったのですが、飽きない工夫を施さないと形骸化しました。
次にGood or Newとは、毎朝ランダムで5,6人のチームをつくり、Good(メンバーのいいところ)かNews(24時間以内にあったニュース)を順番に話していくものです。これは、組織の会話が業務上必要な人と、業務上必要な会話だけに偏らないように意図したものです。
確かに普段話せない人との会話は圧倒的に増えましたが、とにかく会話しないといけないという義務感から上っ面感が出て来て、増床のタイミングで廃止。またそもそも社内交流イベントも参加率もどんどん多くなってきたので、必要性も感じなくなりました。
実際はエグいことが起きました。
ではこの2つの施策がどれだけ組織に影響を与えたかと言うと、実際のところよくわからないのが本音です。なぜなら、我々にとってこれらの2つの取り組みは、今までやってきた無数の実験のほんの一部に過ぎないからです。
ネットプロテクションズ
業種・業界:BNPL(後払い決済)サービスを提供するフィンテック
法人形態:営利
国:日本
従業員数:300名
創業者:鈴木史朗、柴田紳
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):柴田紳
現社長:柴田紳
管理職をなくすことが目的ではありません。
真に目指したのは、“全員が自走し、フロー状態で働ける仕組み”をつくることです。
企業において、人は指示や監督の対象ではなく、信頼に基づいて自ら動ける存在であるはずです。その前提に立てば、上司や部下という関係性も、評価や命令という構造も再設計できると思います。会社とは、人がもっとも生き生きと働ける社会の最小単位だと考えています。私たちはこの10年以上、その理想を実現するために試行錯誤を重ねてきました。この本が、組織づくりに悩むすべてのリーダーやチームにとって、 信頼で動く組織をつくるための小さなヒントになれば嬉しいです。
ネットプロテクションズは、後払い決済(Buy Now Pay Later/BNPL)業界における日本のトップ企業の一つだ。この分野は、Affirm、Klarna、Afterpayなどの上場企業に見られるように、スタートアップ業界において急速に成長している分野でもある。実際、日本におけるBNPLの大手企業であるPaidyは、2021年11月にPaypalに30億米ドル近い金額で買収された。
ネットプロテクションズは、BNPLの存在がまだほとんど知られていなかった2000年に設立された。以来、大企業、中小企業といったクライアントの規模にかかわらず、日本国内外でさまざまなサービスを成長させてきた。2021年12月には上場企業となり、年間売上は1億5千万米ドル以上、ユーザー数は1600万人以上となっている。現在、約300名強のメンバーが在籍している。
ネットプロテクションズのCEOを務める柴田紳氏は、創業者ではない。当初は投資家の立場として関わっていたが、事業に身を入れる形で2004年にCEOに就任した。日本において、スタートアップのエコシステムが育つのにはここから10年以上掛かっており、この時期に投資家からCEOに転身する例も珍しかった。
ネットプロテクションズは、優れたチームとカルチャーを持つことに並々ならぬ情熱を持っている。現在では、日本における、新しい働き方の実践企業として、また、それの成功企業の1つとみなされている。「Natura(ナチュラ)」と呼ばれる先進的な人事制度を紹介する前に、まずは同社とその歴史について紹介したい。
ダイヤモンドメディア
業種・業界:不動産テック
法人形態:営利
国:日本
従業員数:50名以下
創業者:武井浩三
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):武井浩三
現社長:岡村雅信
武井浩三氏によって創設されたダイヤモンドメディアは、不動産テック企業だ。経営にホラクラシー手法(分散型組織 OS)を導入している。
2007年の会社設立時より経営の透明性をシステム化。
・給与はみんなで決める
・給与・経費・財務諸表を全て公開
・役職・肩書を廃止
・働く時間・場所・休みは自分で決める
・起業・副業を推奨
・社長・役員は選挙と話し合いで決める
といった独自の企業文化は、「管理しない」マネジメント手法を用いた日本初のホラクラシー企業(※)としても注目されている。
(※ホラクラシー企業とは:ホラクラシー経営という経営スタイルを採択する企業のこと。ホラクラシーとは、「全体性」を意味する単語「ホロン」から生まれた組織思想。従来の階層型とは対局的に、個人に役職ではなく役割が与えられ、意思決定と実行をチームが主体的に行う。チーム間に上下の関係はなく、上層からの統率ではなく自走的に組織が動く。アメリカの靴EC大手ザッポスが導入したことで、世界的に注目され始めた経営手法。)
ホラクラシーモデルに関してはこちらを参照


話を戻すと、武井氏は現在会社を退任して、資本主義経済をアプデするために社会活動に移転している。
組織は置かれた環境に対する最適化でしかないので。
不動産テック業界も競争関係が激しいマーケットになってきたので、意図的にオレンジ組織になってるんですよね。情報の透明性もあえて制限してコントロールしようとしているし、でもそれは良い悪いはなくて、置かれた環境下における最適化。これは本当フレデリック・ラルーが言ってる通り、オレンジが悪いとか、ティールがいいとかの話ではなく、置かれた環境とそれをやっている人たちの意識構造なので。
メンローイノベーションズ


業種・業界:デザイン思考を活かした人間中心的なソフトウェア開発
法人形態:営利
国:米国
従業員数:50-100名
創業者:リチャードシェリダン
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):リチャードシェリダン
現社長:リチャードシェリダン
米国で最も幸せに働くソフトウェア開発会社。
働く喜び(Joy)を最大化する職場をモットーに組織文化を形成している。それゆえ、二つ名を『Joy, Inc.』(働く喜びを追求する会社)と定義している。ユニークな特徴として具体的には…
職場レイアウトの個室・壁なしでオープンな作業空間
海賊ヴァイキングの兜を被って全社員の朝会(通称:デイリースタントアップ MTG)
職場に飼っている犬を連れてくる
同僚や上司が連れてきた子供をあやす
リモートワーク禁止、生きた会社は物理的な作業環境で一緒に働くべし
ひとつのコンピュータ画面を2人で共有しながらペアプログラミング
昼食を食べながら日頃学んだ本や講習の知見を教え合うランチ会
社内では電子メールやチャットは極力使わず、「おーい、メンロー!」と声をかける
プロジェクト進捗管理はExcelチャートを使わず、紙のカード形式で管理(見積もりも同様)
見積もりはインデックスカードで必ず手書きでかいて壁に貼り付けること
見積もりは見積もり、所詮は現時点での予測に過ぎないのでアクシデントに応じて柔軟に変える
雇いたいのは人にくわしい普通の人、輝かしい職務歴じゃない
新入社員はプログラミングはできなくていい
人類学に基づいたソフトウェア開発(通称:ハイテク人類学)
開発予定のプロトタイプ(試作品)はダンボールで自作した紙製ホルダーとカードによるモックアップの画面
燃え尽きを防ぐため、週末や休日に働くことは禁止
社員が別会社に転職するの歓迎(離職率0はかえって不自然)
僕は信じられないくらい好調にキャリアをスタートした後、喜びとはかけ離れた仕事をしてきた。
とある評判の良い上場企業の役員になったんだ。
しかしその間ずっと、幾つものデスマーチ(※ システム開発などで発生する、メンバーに過酷な労働を強いる「死の行進」のような状態を指すIT業界用語。日本でいう「炎上案件」のことを指す。)で仕事をしてきた。顧客と交わした約束や、チームに課した仕事を格闘しながら、僕は燃え尽き、不眠症になった。品質に問題のある製品をやむなく出荷し、ユーザーに山のようなトラブルを負わせてしまった。僕が懸念を口にすると、同じレベルの役員が安心させるように、「出荷さえすれば手当の時間は十分にある」といった。そんな時間一度も見たことがない。かず多くの問題が予想通りに報告されると、上司からは「品質の悪い製品を作れと命じた覚えはない」と言われた。
メンローにとって喜びの文化を作るのは単純明快だった。毎日仕事に来るのが楽しみでしょうがなくなるような場所を作りたかったんだ。
メンローにおける喜びは、幸せとは異なる。
幸せとは、ある時点における状態のこと。喜びは、より深く、意義があり、目的を持っている。幸せな状態が連続していなくても、喜びに満ちていられる。
喜びとはマラソンを目指して練習を積み重ね、そして完走した時に得られる深い満足感だ。
自分の子供が結婚し、子育ての労苦がたった一言の「誓います」に結実する様を目にすることだ。
訓練と準備を重ねてきた戦闘機パイロットが強風と闘いながら、嵐の海に浮かぶ空母に視界の悪い中、F-18 戦闘機を無事に着艦させた時に感じるのが、喜びだ。エンジンが停止し、車輪が固定され、機体も空母も、甲板のチームも自分自身もみんな安全だと確認するーするとパイロットはすぐにもう一回やりたくなって、いても立ってもいられなくなる。
世界的にも老若男女問わず訪問ツアーの絶えない人気会社なので、詳しくは下記の本または訪問レポートをぜひ読んでみてほしい。
働く喜びを追求、見学者が絶えない会社、メンローイノベーションズの見事な経営システム。小企業経営者は必読。
経営学 参考図書


同社への訪問レポートはこちら
ルビーレセプショニスト

業種・業界:ビジネスサービス、コールセンター、バーチャルレセプションサービス(電気通信業に分類されることもある)
法人形態:営利
国:米国
従業員数:500〜1,000名
創業者:ジルネルソン
ソース(ビジョナリーとしての源泉者):ジルネルソン
現社長:ケイトウィンクラー
同社は『フォーチュン』誌で全米中小企業のうち「最も働きがいのある会社」No. 1にランキングされた会社だ。
この会社では、新入社員が初めて職場に来る時に『スマイルファイル』というバインダーを手渡されて、同僚やお客さん、上司などから受け取った褒め言葉をすべて書き留めておくように指導される。なぜなら、褒め言葉は傷ついた言葉よりも記憶に残りにくいからだ。

余談
以上、前編と後編に分けて、生命体をメタファーとする組織「ティール組織」を紹介してきた。
現時点で所属する組織にモヤモヤや違和感を感じる人にとって有益な参考資料となってるならば幸いだ。
さて、最後にここで、生命体をメタファーとする組織(生命と直感)を、オレンジのパラダイム(機械と合理)での視点を元に、その利点や強みをむっちゃ合理的に検討してみたいと思う。

たとえば、「人体」を引き合いにして、ティール組織の利点を再考してみるのはどうだろう?

私としては、人体で最も優れている機能のひとつが「脊髄反射」だと考える。

要するには、お湯が沸騰してる熱いやかんに手を触れた時、手先が遠くにある大脳に指示や命令を仰いで往復するのを待つことなく、現場で即座に自律的に判断して即座に手を引っ込める「緊急回避」できるシステムのことだ。
現場の指先が脳という上層部に
「あの〜熱いので、手を離してもいいですか?(汗)」
といちいち尋ねなくて済む。そうすることで、火傷という外傷を緊急回避することができるのが最大の利点だ。

整理するとこうなる。
脳:上層部
中枢神経:中間管理職
手先:現場
人体組織には「内ゲバ(※ 内部抗争や派閥争い)」が無い!
仮にその人体が腎臓病になったとします。腎臓の働きが悪くなった時に他の臓器はどうするか?それぞれの役割を駆使して必死に腎臓の機能低下の影響を食い止めようとします。
どこかの会社のように、大して働いてもいない肝臓が、具合の悪い腎臓の文句を言ったり、ここぞとばかりに足を引っ張ったりはしないのです。
危機時において「感知→判断→行動」のターン速度が勝負です。まず現場が鬼の速度で中枢に勇気ある第一報を放たなければなりません。あるいは内容によっては、中枢を待たずに現場近くで判断してアクションを取れるのかという勝負です。待てる案件については、中枢でじっくりと判断する、待つべきでない判断に関しては現場近くで判断するのが理想です。
しかしどちらの場合も、待つべきか否かの判断は現場または現場近くがやらないといけないのです。
比べて、我々の会社組織はどうでしょう?
危機時のマネジメントとして、現場情報が中枢神経に向けタイムリーに届いたら不幸中の幸いではありますが、脳があれこれ判断を巡らせている間に傷口が広がるケースが後を立ちません。
人体組織のように脊髄あたりの中間管理職が最低限の危機回避行動を上層部の指示を待たずに取れる組織がどれだけあるでしょうか?
もうひとつ優れている点は、人体には「自己修正」システムを兼ね備えていることだ。(「自己修復」とも表現する。)
つまり、抗体や免疫機能などのことだ。

人体には、切り傷の治癒、骨折の修復、免疫系による病原体との戦いなど、自己修正(自己回復)機能が備わっています。これは「ホメオスタシス(生体恒常性)」と呼ばれる調節機能の一部です。
このプロセスには、以下のような複数のメカニズムが含まれます。
⚫︎ 細胞分裂と再生: 損傷した組織や細胞は、健康な細胞の分裂によって置き換えられます。皮膚や肝臓などは高い再生能力を持っています。
⚫︎ 免疫応答: 細菌やウイルスなどの異物が侵入すると、白血球などが動員され、それらを排除しようとします。
⚫︎ 炎症反応: 損傷部位への血流を増加させ、治癒に必要な細胞や物質を集中させるための防御反応です。
では、この自己修正システムを組織で捉えるとどんな機能にあたるだろうか?
まず、現時点で多くの組織のルールを見てみよう。
機械をメタファーとする組織運営の基本は、問題の未然防止と事後処理、再発防止を確実に行うために、堅苦しい官僚制が出来上がってしまうのです。
では、官僚的でない、生命の自己修正を生かした組織運営ではどうなるのだろう?二つ代表的なサンプル例をあげよう。
⑴ 不正な経費精算に対する反応
とある世界的に展開する小売チェーンの企業内で、出張の経費をファーストクラスにしてこっそり精算したメンバーがいた。
だが他の大半のメンバーは、今まで会社の懐事情を自分なりに捉えて、無意識にエコノミークラスにしていた。
これは明らかに不公平である。この場合どうするか?
有志のメンバー同士で、出張の経費精算に関する話し合いする場を設けたのである。
⑵ ビュートゾルフの生産性に対するKPI(指標)
前編でも紹介した訪問看護のビュートゾルフは、生産性に関する共通する指標を設けている。それは、仕事全体に対して本業つまり患者さんへの対応している割合である。それ以外は、必要最小限に留めたい事務手続きとかにあたる。
患者さんへの対応している割合が40%を下回ると、チームごとのコーチから電話がかかって「大丈夫?」と言われる。
だが、それで終わり。
コーチからのアラートが鳴ったら、チーム同士で問題点を話し合って、解決策を練る。もし議論が暗礁していたら、チームコーチに助言をもらう。
アルトさん(ビュートゾルフ共同創業者)
「各指標ごとに、ビュートゾルフとして定めた目標の値がありますが、目標を下回った場合も、事務局から指導やアドバイスはしません。目標未達成だった理由をチームで考え、対策をしていきます」
赤字続きのチームを完全に放置しておくこともないでしょうし、何かしらの介入はあってもいいのでは、と思いますよね。
アルトさん
「はい、3ヶ月連続で財務的に問題のあるチームは、本部から人がいき『どうする?』と聞きます」
え、聞くだけ、ですか?
アルトさん
「はい、聞くだけです。あとはチームが考えます」

いずれにせよ、管理職が介入して問題解決を図るのではなく、チーム自身が感知して反応する状態のことを指すのだろう。
管理職が取り組むべき仕事は、チーム自ら問題点を感知できるような仕組みを整えることだ。
…以上、人体からの学びを活かす組織の利点について語ってみた。
脊髄反射(緊急回避)
自己修正システム(免疫や抗体)
これらのスピード感は、オレンジ段階の達成型組織が理想とするスピーディーな判断とアジャイルな方針に合致しないだろうか?
ティール組織を机上の空論と断言する人にはぜひ問い掛けたいが、「脊髄反射」や「自己修復」機能以上に優れたシステムが既存の組織に発明できるのだろうか?
さいごに
結局「ティール組織」は所詮コンセプトにすぎない。
人はコンセプトにはなりたがらない。
映画監督の老人
「ここの観客の中には現実に戻った途端に不幸が待ち受けている奴もいる。そういう連中の夢を取り上げて、あんたは責任を負えるのかね?」
草薙素子(主人公)
「負えないわ。でも、夢は現実の中で戦ってこそ意味がある、他人の夢に自分を投影しているだけでは死んだも同然だ。」
映画監督の老人
「リアリストだな。」
草薙素子(主人公)
「現実逃避をロマンチストと呼ぶならね。」
映画監督の老人
「強い娘よのぉ、いつかあんたの信じる現実が作れたら呼んでくれ。その時ワシらはこの映画館を出ていこう。」
結局、すべての課題に万能なコンセプトやツールなどないのだ。
そんなものは幻想に過ぎない。
一方、ティール組織のコンセプトに対しては、過度な理想を投影している人が多いようだ。
期待していた分、思ったよりうまくいかなくて心理的な落差が大きかったのだろう。
だが何事も過度な期待は禁物だ。
幻想の世界に浸るのではなく、幻想から理想を実現するために尚更現実に向き合おう!
追伸
当記事は自分がここ数年間、次世代型組織や分散式経営について探求してきた全ての知見や知識を注ぎ込んで書いた。
おもえば、ティール組織が出た2014年から約10年以上経った。
あれから何が変わったのだろうか?
別に正義感や善性でこんなことを探究していたわけではなく、自分にとっては単に珍しい新生物の観察にすぎない。面白いから探究するだけだった。
最初の探究するきっかけは、学生時代に「人体」を模したニュータイプの組織モデルはあり得るだろうか?という問いかけから始まった。
当時は、人体の小宇宙とも称される複雑性に惹かれていたのだと思う。それゆえ、「ホラクラシー」手法にも出会い、今に至ったまでだ。
だが、思ってた以上に寄り道しすぎて、長引いた。
多くの面で日本にはまだまだ強みがあると思います。
ですが、今の日本人に足りないのは野望と気概です。
かつてのトヨタやソニーの全盛期においてはそれがあったはずです。
日本の新世代のリーダーが現れて、こう言ってくれることを願っています。
「私たちはトヨタと同じように新しい方法を編み出します。そして私たち独自のティール組織を作り、日本人としての歴史と知恵をふんだんに活用した最高のティールを作り、違う名前をつけて世界への贈り物にします。」
新しいリーダーが出てきて、過去の成功を維持するのではなく、もちろん伝統性は保持しつつも、未来を書き換える意気込みでやってほしいのです。
今まさに新しい世代が新しいことに挑む時なのです。
これが私の希望でありインビテーションです。

願わくば、これを読んだ若い世代の誰かが新たな組織のリーダー格になった時に参考になっていたら嬉しく思う。
さて、自分は次に何を探求しようか?
