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Eagles《Hotel California》を訳す:和訳界の裏ボス降臨、チェックアウトは可能ですが此処からは出られません

「本当は怖い歌詞和訳シリーズ」第3弾。
Weezer《Island In The Sun》を「空虚な思考停止のユートピア」と定義し、
RHCP《Californication》を「ハリウッド主義の世界侵食批判にして、それに加担していた彼ら自身の内省」と結論付けた前回・前々回の論稿。

前者は裏の文脈を読むのはスキルが要るが英文自体は平易なので、中ボス。

後者は造語・比喩・スラング・韻・文化引用だらけの高密度で、文句無しのラスボス。

この「《本当は怖い洋楽歌詞和訳》三部作」最後を飾るのは、いわば “裏ボス”。

Eagles《Hotel California》。
英文そのものは案外易しいのに、英語ネイティブでも「わけわからん」と匙を投げる曖昧な比喩の連発、翻訳者泣かせの金字塔としても有名な、言わずと知れた歴史的名曲だ。

直訳しようものなら確実に事故る。かと言って意訳し過ぎると原作の雰囲気が死ぬ。

なので、今回の筆者の方針。「原曲の比喩や空気を殺さず、日本語としても破綻しないよう、その中間を巧みに渡りきる」と定めた。

到着した瞬間は甘美な幻想、だが気付いた時には抜け出せない。

Weezer → RHCP → Eaglesと進むごとに、逃避は静かに狂気へと沈んでいく。これは、そんな「逃避のグラデーション」を描く三部作の、終着点にして最深部。

比喩に込められた恐怖と、そこに至るまでの筆者のもがき・愚痴をとくとご堪能あれ。

題して、「楽園監獄」。

【《Hotel California》オフィシャル音源】


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第1章:この曲の何が「難解」なのか?

英文だけ見れば、それほど難しくはない。文法も語彙も、洋楽としてはむしろ平易な部類だ。

だが、訳せば訳すほど「わけがわからん」――。

「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!『英文は簡単』だと思って訳し始めたら、いつの間にか『意味の通らない怪文書』になっていた…」

そんなポルナレフ状態に、全訳者が陥る。

この《Hotel California》という曲の本当の難しさは、表面の平易さと、裏に潜む狂気のギャップにあるのだ。

――――――

後ほど全て紐解いていくので、ここでは例示に留めるが、

●あ、わかりやすくね?と思ってたら唐突に出てくる「幻聴」
●ワイン頼んだのに「1969年以来スピリッツは〜」と返される謎
●支配人の部屋のパーティーに招待されたのに、突然出てくる「殺せない獣」

いやイーグルス先生、いくら「幻想のホテル」を描いたからと言っても、限度があります!生徒が混乱しちゃう!

……つまり、「わかりやすさ」は虚構であり、読めば読むほど深みに嵌まる。それが、この「楽園監獄」の実態だ。

――――――

次章から、いよいよ本格的に「幻想の楽園」の詳細解析へ、あなたたちを誘っていこう。

---

第2章:突然現れる“She”……あんた誰?

物語は夜の砂漠の高速道路から始まる。

“On a dark desert highway
Cool wind in my hair
Warm smell of colitas
Rising up through the air”
(暗い砂漠のハイウェイ
髪を撫でる涼しい風
空気に漂う
温かく甘い例の香り)

さて、ここでいきなり比喩が登場する。
とはいえ、この部分は比較的有名。

“colitas”は「小さな尻尾」「小さな蕾」の意味だが、マリファナの隠喩でもある。マリファナやガンジャなどの直接的な訳にしてしまうと、曲全体を貫く幻想性が損なわれるので、ここでは「例の」としてみた。

Warm smell of colitas = 温かく甘い例の香り

これなら「何か怪しいもの」を仄めかしつつ、トーン&マナーも担保できる。

「この調子なら何とか訳せるかも……」  そう思った矢先、物語の語り手(主人公)は頭を重くし、視界を曇らせていく。  
「例の甘い香り」のせいだろうか。
いや、それとも……。遠くに瞬く光。
ともかく休憩することに決めたらしい。

“Up ahead in the distance
I saw a shimmering light
My head grew heavy and my sight grew dim
I had to stop for the night”
(遥か遠くに見えた瞬く光
頭は重く 視界はぼやけてきた
今夜は休もう 此処で)

“There she stood in the doorway
I heard the mission bell
And I was thinkin' to myself
‘This could be Heaven or this could be Hell’"

いきなり現れるshe。……あんた誰?
いきなり鳴る教会の鐘。……唐突に何?

ここで一気にリスナーと訳者は混乱の渦に呑み込まれる。油断した矢先、この曲の真骨頂が徐々に鎌首をもたげてきた。

一つひとつ、向き合っていこう。まずsheは、どうあがいてもこの時点の主人公にとっては謎の存在だ(後にどうやらホテルへ客を誘う案内人のような存在であることは読み取れる)。そこで、和訳では「彼女」ではなく「女」とした。

そしてmission bell。直訳すると「教会の鐘」だが、素直に訳しても意味が通らない。ここは女と同じく、「幻想のホテルへ誘う、合図の音のメタファー」としておくのが妥当だと判断した。

(女が玄関に立っていた
幻に誘うような鐘の音
私の心中はこうだ
“此処は天国か それとも地獄”)

いよいよ主人公はホテルの中へ案内される。

“Then she lit up a candle
And she showed me the way”
(その女は蝋燭に火を灯し私を手引きする)

さあ、ホテルでは何が繰り広げられるのか。ここからが本当の地獄(主人公・訳者両方にとって)だぜ、ヒャッハー!

---

第3章:幻聴のホテルスタッフ。彼らは天国の使者か、悪魔か?

早速、幻聴が始まる主人公。唐突だが、そういうもんなんだから仕方がない。メタ的には、このホテルが現世のものではないという比喩だろう。

“There were voices down the corridor
I thought I heard them say”
(廊下から聞こえる声
まるでこう言っているような)

●ここでは “I thought I heard” が、続く台詞が幻聴のようなものである根拠を示している。この構文自体が、「空耳」「願望聴取」「記憶のあやふやさ」などを婉曲的に示す表現となる。

――――――

そしてあまりにも有名な、あの情熱的なメロディのサビに入る(完全に余談だが、この曲は世界最高峰のギターロックソングでもあると思う)。この1回目のサビは、文脈上「主人公を迎えるホテルスタッフたちが、声を揃えて言う歓迎」だ。

‘"Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
Plenty of room at the Hotel California
Any time of year (Any time of year)
You can find it here"’
(“ようこそホテル・カリフォルニアへ
なんて素敵な場所でしょう
〈なんて素敵な場所でしょう〉
なんて素敵な方でしょう
ホテル・カリフォルニアには
ご満足頂ける広さが御座います
一年中いつでも〈一年中いつでも〉
我々は此処におります”)

●「頂ける」「此処」「御座います」など、ひらがなでも書ける部分をあえて漢字にしたのは、「スタッフたちの丁寧な口調」を表現する和訳上の工夫だ。この口調は、2回目のサビとの違いでも活きてくる。

●この箇所の“Plenty of room”を「多くの部屋」とする訳者もいるが、誤りである。ここのroomには冠詞も、複数形を表すsも付いていないので不可算名詞扱いとなる。この場合、roomの意味は「部屋」ではなく「空間」だ。したがって、本稿では「ご満足頂ける広さ」と訳してみた。

――――――

英語にはあまり「語調」「口調」の変化を示す構造が存在しない。一人称は老若男女、全員が “I” だし、(厳密には丁寧表現はあるが)尊敬語や謙譲語の概念も極めて薄い。せいぜい呼格(sir、ma'amなど。他にはhoney、junior、dudeなどの呼びかけの単語)で語調を変えるか、would や could、mightなどの助動詞で丁寧さを表現するか、ぐらいだ。

一方、日本語は話者の役割や性別、年齢、立ち位置、地位などを主語の形(僕・私・わたくし・俺・儂など)や語尾の口調の変化(だ・である・です・だよねなど)によって表現できる。
「台詞のトーンの調整で、それが誰と明言せずともある程度は何者かが判断できる」言語だ。

日本語って便利!(後に苦しむフラグ)

---

第4章:ワインを頼んだのに拒否された。スピリットってなあになあに?

主人公は歓迎の言葉の後、(恐らく)他の客(女性)を見かける。

“Her mind is Tiffany-twisted
She got the Mercedes Benz”
(或る女の心は歪んだティファニー
彼女の車はメルセデス・ベンツ)

●また唐突なher。彼女の所有物から客と文脈判断をしたわけだが、十中八九初対面なので和訳では「或る女」とした。

そして彼女の所有物は「ティファニーとメルセデスベンツ」で、心はブランドものの所有によって歪んでいるらしい。
これはアメリカの過度な物質消費を軸とした贅沢な社会の暗喩、警鐘と読み取れる。

“She got a lot of pretty, pretty boys
That she calls friends
How they dance in the courtyard
Sweet summer sweat
Some dance to remember
Some dance to forget”
(大勢の美少年を友達と呼び
中庭で踊る彼女達の姿
甘い夏の汗
記憶に残る踊りも有れば
忘れ去られる踊りも有った)

……なんとまあ、な世界観。ティファニーやベンツよりも成金めいていて、性的な匂いもふんだんに溢れている。うまい例えが見つからないが、魔女のサバトか、酒池肉林か。 

いずれにせよ、「聖」や「敬虔」という概念とは真逆だろう。
このホテルでは一事が万事、こんな調子である。
あなたにとってここは楽園に見えますか?

――――――

そして、歌詞の中で最も物議を醸す表現がやってくる。有名なフレーズなので聞いたことのある方も多いだろう。

“So I called up the Captain
‘Please bring me my wine’
He said,
“We haven't had that spirit here
Since 1969”’
(そこでサービス長を呼びつけた
“ワインを持って来てくれ”
彼曰く
“1969年以来 此処では
そのスピリッツは置いておりません”)

なんで1969年なのか。なんでワインを頼んだのに、返答はspiritなのか。なんで置いてないのか。発表当時から現在まで、ずっと議論されているフレーズ。正直ここの解釈の文章を後回しにして他の章を優先していました。ごめんなさい。

だが、比喩の肝であるだけに逃げるわけにはいかない。なんとか分かりやすく解析できるよう試みる。

――――――

問題の箇所を再掲しよう。

“We haven't had that spirit here since 1969.”

ワインを頼んだのに返事は “spirit”という単語。しかもその “spirit” は「1969年からこのホテルにはない」と言われてしまう。

この “spirit” には、主に二重の意味が込められている。

表向きは「蒸留酒」という意味だ。つまりウイスキーやジン、ラムなど。ワインは発酵酒なので、spiritには入らない。文字通りにとると、「置いてません」というのは「ホテルスタッフがワインの存在を知らない(蒸留酒の一種だと勘違いしている)」か、ワインという「俗っぽい」注文に皮肉で返したか、だ。

しかし、それだけで済む話ではない。
この一言の裏には、もっと大きな「時代の終焉」を示す寓意が潜んでいる。

アメリカの1960年代は激動の時代だった。黒人差別撤廃運動、それに伴う公民権法・選挙権法の制定、キング牧師の暗殺。ベトナム戦争の泥沼化、対抗しての「平和を謳う」カウンターカルチャーの開花(ヒッピーなど)。

特に1969年は、ふたつの象徴的な出来事があった。「チャールズ・マンソン事件」と、大規模な野外ロックコンサート「ウッドストック・フェスティバル」だ。

長くなるので詳細は各自検索いただきたいが、ごく簡単にまとめると、前者は「ヒッピー文化の終焉の象徴」、後者は「ロック・ミュージックのクライマックス」だった。

よって、spiritとは精神・魂とも読み取れる。

“We haven't had that spirit here since 1969.”
(“1969年以降、このホテルにはあの魂・精神はもう残っていない”)

主人公はかつてのスピリチュアルな栄光(ロック・ヒッピー・青春・夢・自由)を求めて彷徨う人。だが、それはホテルには既に存在しない。

ここに来るゲストは皆、かつてのスピリッツを求めてさまよう亡霊たちなのかも知れない。或いは、サービス長の言動は、そんな主人公に対する、皮肉の裏に隠された警告とも読み取れる。

「あなたの求めるものはもう此処には有りません。だから早くお逃げなさい」

しかし彼は逃げなかった。
その選択こそが、この物語の本当の悪夢の始まりであった。

---

第5章:謎のshe再び、殺せない獣。喋ってるのはどなた様なんですかねえ?

ワインを飲み損ねた主人公は、(恐らく自分の部屋で)夜中に目を覚ます。彼の眠りを妨げたのは、他の客たちの楽しむ声だろう。

“And still those voices are callin'
From far away
Wake you up in the middle of the night
Just to hear them say”
(未だ遠くから聞こえる声々
夜中に目が覚めて
彼等の声を聞いた)

●ここで注目すべきは “Wake you up” の “you” 。文脈上、ここは主人公の視点なので“me” でないと辻褄が合わないのだが……。
彼もホテルの毒気に当てられて、自己と他者の境界が曖昧になっているということか。

――――――

そして2回目のサビ。和訳上の工夫(罠)が待っている。口調を全く違う形で訳さなければならない。歌詞のモチーフは1回目と一緒だが、ここでの台詞は文脈上、「夜中になっても騒いでいるゲストたち」だからだ。

‘“Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
They livin' it up at the Hotel California
What a nice surprise (What a nice surprise)
Bring your alibis”’
(“ようこそホテル・カリフォルニアへ
なんて素敵な場所だ
〈なんて素敵な場所だ〉
なんて素敵なお顔だこと
皆ホテル・カリフォルニアで羽目を外すのさ
なんて素敵なサプライズ
〈なんて素敵なサプライズ〉
貴方の証明を持っておいで”)

●ここを「ゲストの台詞」だと判断した根拠は “livin' it up”にある。これは「羽目を外す」という意味の動詞で、ホテルスタッフの慇懃な態度とは口調がどうしてもそぐわない。

また和訳上のポイントとしてはalibisも挙げられる。アリバイの意味だが、この比喩も訳者泣かせの曖昧さ。ここでは原詩の雰囲気を尊重し「不在証明」と「身分証明」、どちらともとれるように「証明」と和訳した。

――――――

そして、また唐突に現れる“she”。とはいえ、さすがに最初の案内人のsheとは別人だろう。客のひとりだと思われる。

“Mirrors on the ceiling
The pink champagne on ice, and she said
‘We are all just prisoners here
Of our own device’”
(天井には鏡
氷上のピンクシャンパン 或る女は言った
“我々は皆 此処では囚人なのよ
各々の企みで”)

シャンパンあるじゃねえか!ワインないって言ってたのに!ということは、やはりサービス長の言っていたことは密かな警告だったのか……?だがもう遅い。話しかけてきた女は明言する。「我々は皆ここでは囚人」と。
初めてここから出られない可能性が明示された瞬間だ。

●なお、deviceは文字通り「デバイス」「道具」「装置」という意味だが、この単語も例によって多義的。「思惑」などの意味もある中で、ここでは「企み」としてみた。

各々の欲望が、皆をそれぞれ異なる理由でホテルに留まらせているということであろう。

――――――

さて、主人公たちは支配人(master)の部屋に案内される。何やら宴(feast)が開かれるらしい。

“And in the master's chambers
They gathered for the feast
They stab it with their steely knives
But they just can't kill the beast”
(そして支配人の部屋へ
食宴のために集まる
鋼鉄のナイフで刺そうとも
獣を殺せはしなかった)

●なんでsteelyなんだ(通常はsteel)とか、なんで宴で獣を殺す必要があるんだとか、事ここに至ってツッコミどころ満載だが、まあ何となく酒池肉林で、享楽的で、頭は決して良くないタイプの宴であることは伝わる。

恐らくこれも物質を過度に消費する社会・文明の比喩か。またbeastを殺せなかったという事実が、このホテルにおいての「死」とはどういう意味か、の伏線にもなっている。
その詳細は次章にて。

---

第6章:最後の記憶。あなた、チェックアウトの意味ってご存知?

語り手は、遂にこのホテルからの脱出を決意したらしい。いよいよクライマックス。果たして主人公は無事出られるのか?(フラグ)

“Last thing I remember, I was
Running for the door”
I had to find the passage back
To the place I was before”
(最後に覚えているのは
ドアに向かい走る私
戻る道を見つけなければ
あの場所へ 前いた場所へ)

●はい、もうフラグ回収。
Last thing I remember =「最後に覚えているのは」が、もう地味に怖い。
既に彼の記憶はホテルに取り込まれ、曖昧になってしまったことの暗示。

“‘Relax,’ said the night man
‘We are programmed to receive
You can check out any time you like
But you can never leave’”
(“どうか落ち着いて”
夜警の男は言った
“我々は貴方がたを招き入れるよう
命じられております
何時でもチェックアウトは可能ですが
此処からは出られません”)

この「学園天国」ならぬ「楽園監獄」よ。

♪どいつもこいつもこの時を
ただひとつ狙っていたんだよ

語り手は永久に捕らえられてしまった。どういうことか。 比喩の解説も含めて紐解いていく。とは言っても多義的な解釈が可能なのはここも変わらない。

「ホテル=この世界そのもの」として見た場合、「貴方は永久に、そういった生き方からは逃れられない」というメッセージに映る。

また薬の中毒者が永遠に依存から逃れられないことのメタファーにも。

ただ、この箇所にはひとつ、象徴的な表現がある。“check out” だ。

もちろん日本語のカタカナ英語と同じ意味もある。ホテルからの退出手続きのこと。それは英語でも変わらない。この警備員に「あなた、チェックアウトの意味って知ってる?」と皮肉交じりに聞きたくもなる。

――――――

●スラングとしての"check out"

アメリカ英語では、
“That guy's already checked out”
(あの人、もうチェックアウトしたよ)

と言えば、それは死亡・自殺の婉曲表現にもなり得る。特に1960〜70年代には、薬物中毒や精神疾患の結果としての死、という文脈でよく使われていた言い回しである。

要するに。

“You can check out any time you like, ”
=好きなときにチェックアウトはできる
(=死ぬことはできる)

“but you can never leave”
=でも出ることはできない
(=死んでも解放されない)

死ぬことさえ逃げ道にはならない、という恐怖。「心の監獄」「中毒性のある幻想」「終わらない後悔」を描いた、実存的な落ちとも読み取れる。

――――――

この曲全体の構造=「死後の霊的ホテル」説とも解釈は可能だ。
思えば、歌詞の前半から後半に至るまで、その予兆や暗示はあった。

“colitas”=マリファナの導入
→ トリップの暗示

“This could be Heaven or this could be Hell“
→ 天国 or 地獄の分岐点に迷い込む

ホテルスタッフやサービス長、警備員などの発言の数々
→ 彼らは現世の存在ではない?

“We are all just prisoners here” 
→ 死者の囚人

“beast”を殺せない 
→ 現世の欲望かカルマの象徴?

つまりこのホテルは、現世の業を背負って死んだ者が、まだ彷徨っている場とも読める。

逃げようとしても逃げられない。終わらせようとしても終わらない。
それが《Hotel California》の本性なのだ。

---

第7章:日本語は「口調」で誰が話しているかを示せる。そこが和訳の罠だった?

さて、ここまで読んでくれた方なら気付いたはずだ。私の和訳は、「登場人物それぞれの口調」にかなり気を遣っている。

第3章で「日本語って便利!」とか言ってた自分を殴りたい。

先に述べた通り、英語は書き言葉だけでは話者の属性は見えづらい。主語は “I” しかないし、敬語体系も限定的だ。

一方、日本語は一人称/語尾/文体で「誰っぽいか」が浮かび上がる。話者の属性が「書き言葉で分かってしまう」。

この言語構造の違いが、翻訳においていかに「解釈の強制」を生むか。
英語→和訳の挑戦者は皆、このホテルに来てからその苦労を知ることになる。

つまり、「書き言葉としての語調が統一されている」からこそ、英語詞は「曖昧さ」や「ミステリアスさ」を維持しやすい。

和訳する際、無理にでも「誰の台詞か」を判別し、決めないといけなくなるという地獄。
ホテルスタッフと他の客の口調が、日本語では同じなわけがないから。
「この人は女だ」「この人の語り口は軽めだろう」などの判断も不可避。そこを無視するとどうしても言語的に不自然になる。

特に《Hotel California》のような、意図的に曖昧さと多義性を売りにしている歌詞だと、この日本語の特性はどうしても不利に働く。翻訳作業の際の、余計な手間も増える。

「この台詞、誰のなんだっけ……?」という判断が、英語よりもっと重要になる、ということだ。

和訳した瞬間に、もう「それ」は別物になる。
どんなに原文に忠実を気取っても、日本語という言語の段階で「それ」は「おまえ自身」の解釈になっている。

誰が話してるのかなんて決めきれない。
それでも訳さなきゃならない。この「決めきれなさ」こそが、この歌詞のもうひとつの恐ろしさ、なのかも。

というわけで、訂正しよう。
「英語って便利!」(熱い手のひら返し)

---

第8章:最後に。1000人いれば1000種類のホテルがある。この歌詞は「そういう風にできている」

この曲には訳作業の最中でさえも、気付けば自分自身が《Hotel California》にトリップし、知らぬ間に囚われている錯覚に陥らせる魔力があった。

まるで『トワイライトゾーン』や『世にも奇妙な物語』を追体験しているような、現実と幻想の境界が、静かに、しかし確実にぼやけていく感覚。

この歌詞はそうなるように設計されている。

あえて意味を曖昧にし、
あえて解釈の余地を残し、
あえて「語らなさ」で語る。

この「ホテル」とは何なのか。

悪魔の幻想。
地獄の入口。
監獄。
思考停止の楽園。
死後の世界。
違法な薬や常習者の比喩。
ホテル自体が、アメリカや物質消費社会のメタファー。
あるいは、私たち自身の人生。

どれも正解だ。1000人いれば1000通りのホテルが幻視される。リスナーによって異なる「各々の企み」によって。

いずれの解釈にしても、甘い香りに誘われてチェックインした者は、もう、二度と出られない。

ようこそ、あなたの《Hotel California》へ。

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チェックインが済んだ方から順次ご案内↓

📝アカウントの全体像はこちらにまとめてます

●本当は怖い歌詞和訳シリーズ
表面上はポップで聴きやすい曲も、掘り下げると実はゾッとする闇や社会的テーマを抱えている。
そんな「本当は怖い歌詞」を和訳、文化批評・言語学・社会背景を交えて解説しています。

●筆者のちょっと小っ恥ずかしい留学体験記(異文化恋愛描写あり)
本編執筆完了(外伝も執筆中)。
友情、ドラムライン、スクールカースト、そして恋愛。
筆者の甘酸っぱい(?)青春をシリーズでお送りします

●Wikipediaのアメリカのスクールカースト記事に文句を付け、正確な図表作成をやってみる
→作成中。これ、漫画や小説の作品のキャラにあてはめても面白い、かつ実用的なものになる予感がしています

音楽と体験記、文化論、スピーディな三輪車で更新していきますので、お楽しみに。

あ、Xも始めました。更新情報や執筆の裏話を発信予定。感想やリクエストもぜひどうぞ↓

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●参考付録:筆者による訳詞と原文の対比

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●筆者による日本語訳
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暗い砂漠のハイウェイ
髪を撫でる涼しい風
空気に漂う
温かく甘い例の香り
遥か遠くに
見えた瞬く光
頭は重く 視界はぼやけてきた
今夜は休もう 此処で

女が玄関に立っていた
幻に誘うような鐘の音
私の心中はこうだ
“此処は天国か それとも地獄”
その女は蝋燭に火を灯し
私を手引きする
廊下から聞こえる声
まるでこう言っているような

“ようこそホテル・カリフォルニアへ
なんて素敵な場所でしょう
(なんて素敵な場所でしょう)
なんて素敵な方でしょう
ホテル・カリフォルニアには
ご満足頂ける広さが御座います
一年中いつでも(一年中いつでも)
我々は此処におります”

或る女の心は歪んだティファニー
彼女の車はメルセデス・ベンツ
大勢の美少年を友達と呼び
中庭で踊る彼女達の姿
甘い夏の汗
記憶に残る踊りも有れば
忘れ去られる踊りも有った

そこでサービス長を呼びつけた
“ワインを持って来てくれ”
彼曰く
“1969年以来 此処では
そのスピリッツは置いておりません”
未だ遠くから聞こえる声々
夜中に目が覚めて
彼等の声を聞いた

“ようこそホテル・カリフォルニアへ
なんて素敵な場所だ
(なんて素敵な場所だ)
なんて素敵なお顔だこと
皆ホテル・カリフォルニアで羽目を外すのさ
なんて素敵なサプライズ
(なんて素敵なサプライズ)
貴方の証明を持っておいで”

天井には鏡
氷上のピンクシャンパン
或る女は言った
“我々は皆 此処では囚人なのよ
各々の企みで”
そして支配人の部屋へ
食宴のために集まる
鋼鉄のナイフで刺そうとも
獣を殺せはしなかった

最後に覚えているのは
ドアに向かい走る私
戻る道を見つけなければ
あの場所へ 前いた場所へ
“どうか落ち着いて”
夜警の男は言った
“我々は貴方がたを招き入れるよう
命じられております
何時でもチェックアウトは可能ですが
此処からは出られません”

――――――
●原作歌詞
――――――

On a dark desert highway
Cool wind in my hair
Warm smell of colitas
Rising up through the air
Up ahead in the distance
I saw a shimmering light
My head grew heavy and my sight grew dim
I had to stop for the night

There she stood in the doorway
I heard the mission bell
And I was thinkin' to myself
“This could be Heaven or this could be Hell”
Then she lit up a candle
And she showed me the way
There were voices down the corridor
I thought I heard them say

“Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
Plenty of room at the Hotel California
Any time of year (Any time of year)
You can find it here”

Her mind is Tiffany-twisted
She got the Mercedes Benz
She got a lot of pretty, pretty boys
That she calls friends
How they dance in the courtyard
Sweet summer sweat
Some dance to remember
Some dance to forget

So I called up the Captain
“Please bring me my wine”
He said, “We haven't had that spirit here
Since 1969”
And still those voices are callin'
From far away
Wake you up in the middle of the night
Just to hear them say

“Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
They livin' it up at the Hotel California
What a nice surprise (What a nice surprise)
Bring your alibis”

Mirrors on the ceiling
The pink champagne on ice, and she said
“We are all just prisoners here
Of our own device”
And in the master's chambers
They gathered for the feast
They stab it with their steely knives
But they just can't kill the beast

Last thing I remember, I was
Running for the door
I had to find the passage back
To the place I was before
“Relax,” said the night man
“We are programmed to receive
You can check out any time you like
But you can never leave”


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