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Weezer《Island In The Sun》を訳す:二段仕掛けで読み解く、癒しと空白のユートピア or ディストピア

「本当は怖い歌詞和訳シリーズ」第1弾。
3部作を予定しております。
初回はWeezer《Island In The Sun》。

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#0. 終了条件1:MVを観る。

令和の日本の夏は暴力的なまでに長く、酷だ。9月に入ろうともまだ夏。秋どこ行った。
こんな季節は、ある曲をカラオケで歌いたくなる。酒を飲みながら。

Weezerの《Island In The Sun》。下のリンクで音源を聴いていただければ分かる通り、どこか牧歌的で爽やかなギターリフ、キャッチーなメロディ、かなり平易な英文の歌詞……

「快適な夏」を想起させる、心地良く、イージーで気軽なポップロックだ。実際、洋楽に明るくない友人の前で歌ってもウケがいい。

一度、文章を読み進める前に、下記の公式MV&音源を「必ず」聴いてほしい。
映像では楽しそうで屈託の無いウェディングパーティーが繰り広げられている。

そして、この先の文章と歌詞(和訳でOK)を読んで、終わったらもう一度MVを観てほしい。
これが「終了条件」だ。

【“Island in the Sun” 公式MV】

歌詞ともども、貼ったMVもぜひ聴いて「真エンディング」を達成してください。

↓↓↓↓↓







Weezerおよびボーカルのリヴァース・クオモが、そんな簡単に我々を逃がす奴らだと思ってはいけない。

あの世界で描かれるのは、「一見無害なようでいて、一度訪れたら抜け出せない、思考停止のホラーリゾート」である。

その根拠を、歌詞の和訳、そして「ユートピアの本質とは何か」を交えて解説していく。


#1. 単語は中学生でも分かるレベルなのに、いきなり意味が掴めない曲

さて、いきなりスラングの話で恐縮だが、イントロや間奏で頻発するのが “Hip Hip” という印象的なフレーズ。さすがに「尻・尻」と訳すわけにはいかない。

“Hip”の意味は多義的だが、だいたいは「何かにノッていて気持ちいい状態」を表す。
もっと言えばオノマトペ的なリフレインで、あまり深い意味はないと考えたほうがいい。

※Tower of Power という大御所ファンクバンドの代表作に“What Is Hip” という曲があるが、それもだいたい同じ意味。

すなわち、この人たち(歌詞の登場人物)、イントロの時点で既に「何も考えず、感情が楽しく停止している」。はいもう怖い。
なのでここでは訳詞でも「思考停止」を表現するため「ヒップ ヒップ」とした。

“When you're on a holiday
You can't find the words to say
All the things that come to you
And I wanna feel it, too”
(君は休暇中さ
何も言葉にできないよ
頭に浮かぶすべてのこと
僕もそれを感じたいんだ)

ヒップ状態が終わって最初の歌詞。“When you're on a holiday” は直訳すると「あなたが休暇中の時は」だが、ここでは後述する「ユートピア感」の演出、まるで洗脳のようなニュアンスを出すために「君は休暇中さ」としてみた。
こうした理由は、読み進めれば分かっていくだろう(申し訳程度のホラー風味文章)。

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#2. 『ユートピア』。トマス・モアが描いた理想郷は、現在の価値観では地獄そのもの

『ユートピア』。
原義は「どこにも無い場所」、理想郷とも訳されるこの概念は、16世紀の思想家トマス・モアが描いた書物が初出である。そこでは、住民は美しい清潔な服を着て、財産を私有せず、日頃は農業にいそしみ、空いた時間に芸術制作や研究を行なう。労働・教育などすべてが合理的に管理され、悩みも欲望も争いもない「理想社会」が描かれている(ただし奴隷はいる)。

……さて、この概念、現代人の多くは「理想郷?むしろ地獄じゃね?」と感じるだろう。筆者もそうだ。そこでは個人の自由や欲望が制度に吸収されていて、「人々が何か物思いにふける」という行動は存在し得ない。この書物、ユートピアという優しげな響きに反し、現代人の目には自由のない、共産主義的なディストピアに見える。

この「考えることのない状態」は、まさに《Island In The Sun》で描かれている島の空気、歌詞の内容と妙に重なる。次章で歌詞に込められた「ユートピア」を読み解き、この世界の異常性を紐解いていきたい。

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#3. 歌詞とサウンドにちりばめられた「ユートピア」性

まず歌詞全体を俯瞰して気付くことがある。島に関する具体的な描写がほぼ皆無なのだ。
せいぜいタイトルにもなっている “island in the sun”(太陽の島)や “golden sea”(黄金の海)程度。「どこにもない理想郷」だから、詳細を描けない。こわい。

ユートピア的な「思考の放棄」は、あらゆる箇所にちりばめられている。冒頭からして、

“When you're on a holiday
You can't find the words to say”
(君は休暇中さ 何も言葉にできないよ)

ときた。他にも、

“I can't control my brain”(※)
(頭がどうにかなってしまう)
“You don't need no memory”(※)
(記憶なんていらないよ)
“We'll run away together”
(【※現実から】一緒に逃げよう)

など、考えないことを推奨する言葉のオンパレード。こわい。

※“I can't control my brain”、直訳では「脳をコントロールできない」だが、語感上他の部分とそぐわないため、「頭がどうにかなってしまう」と意訳してみた。
また “You don't need no memory” は文法上「二重否定」になっているが、ここでは「否定の強調」と捉え、「記憶なんていらないよ」と和訳している。

彼らはただ隔離された島で「遊んで楽しむ」(“We'll be playin' and havin' fun”)だけ。もはや感情と情緒のフリーズ宣言に等しい。

楽しいという言葉が繰り返されるほど、こちらの思考は停止していく。
この島の気持ちよさは、沈黙と同義なのだ。

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#4. “We'll never feel bad anymore”に込められた『ソーマ』的な効能

島の快適さに呑み込まれた彼らは、何やら「集中」するらしい。

“Just a place to call your own
As we drift into the zone”(※)
(ただ自分だけの場所
集中に向け漂ってく)

ここでの “zone” はそのまま領域的な「ゾーン」と訳すことも可能だが、解釈が広くなり過ぎるため「集中」と訳した。実際そういった意味も含まれている。

何に集中するのか。当然「楽しむこと」だろう。ここで効いてくるのが、大サビの最後に繰り出される強烈なパンチラインである。

“We'll never feel bad anymore”
(二度と嫌な気分にはならないさ)

人生とは本来、悩み、嫌な気分になることを避けられないものだ。それを経て、人類は発明なり発見なりを達成してきたわけだが、この島にはそれすらない。「二度と嫌な気分にはならない」と言ってしまっている。

これでは感情の削除宣言だ。つまり「感情が揺れる=生きている」ことの否定。
この島は人を人でなくさせてしまう。

『すばらしき新世界』というSFディストピア小説に「ソーマ」という薬が出てくる。
人々はそれを常飲しており、服用したら嫌な思いも、悩みも、闘争心も、すべてが吹き飛び「よい気分」のままでいられる。島にいる彼らが「集中」し、「もう二度と嫌な気分にならない」のは、まさにソーマそのものではないか。こわい。

そして、

“We'll spend some time forever”

「僕たちは永遠にこの島で時を過ごす」のだ。
こわい。

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#5. 深読みし過ぎ?Weezerがそんな甘いバンドなわけねえだろ

さて、ここまで読んでこう思った方もいるはず。「深読みし過ぎでは?作者は本当に気楽なリゾートを描きたかっただけかも知れないじゃない」。

甘い。Weezer、特にメインソングライターのリヴァース・クオモはそんな男ではない。
本来、彼は「メロディはキャッチーに、歌詞は病的なほど執拗にディテールを追求し、人の心の隙間の闇を描く」タイプの作家だ。

冷蔵庫に入ったハイネケンに「虐待してきた義父の影」を見たり(“Say It Ain't So”)、「格好良くなったほうがいいよ」と余計なアドバイスをする周囲に反発して、キャンディと一緒にポークビーンズを食べたり("Pork and Beans")、アレな薬を我慢できなかったり("Hash Pipe")。

そんな男が突然「あー、何か簡単で平和な曲を書きたくなっちゃったなー」となるだろうか。ない(反語)。あまりに不自然だ。彼の作風にも美学にも反する。

《Island In The Sun》の、明るく跳ねる、安心感のあるメロディに騙され、吸い寄せられ、我々は「思考停止=人間を辞めるリゾートアイランド」へ一生閉じ込められる。クオモはそんな仕掛けを施していたと考えるほうが、普段の作風から鑑みても自然ではないか。

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#6. 「人は思索がないと生きていけない」ことを、リヴァース・クオモは逆説的に叫ぶ

つまり、クオモはこう叫んでいるように聞こえる。具体性がなく、空白で構成された歌に騙されるのは危険だ。見せかけの楽しい楽園に招待し、感情と思考の削除を気付かせないままにするのは、人間であることを放棄させる道だと。

彼は常に「悩み、思考する人間の姿」を他の曲で描いてきた。人が人である条件。Island In The Sunという空白のリゾートを通して、逆説的に我々へ訴えているのだ。

「ここから逃げろ」と。

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#7. 終了条件2:論稿と歌詞をすべて読んだ後、もう一度MVを観る。

さあ、この文章と、後に掲載する和訳全文を読んだら、もう一度MVを観てほしい。それがこのホラーゲームを終わらせ、真のエンディングに辿り着くための最終タスクだ。

……ウェディングパーティーをとことん楽しむ人々の笑顔が、何だか仮面めいて見えてこないだろうか。
であれば、ゲームクリア。おめでとう。そうでなければ、あなたは未だあの島に囚われている。

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エンディングに辿り着いた方へ。「本当は怖い歌詞和訳シリーズ」はひとまず3部作を予定してます。次回はRed Hot Chili Peppers《Californication》。
→9月8日に公開しました

さらに別枠では以下を執筆中。
●筆者のちょっと小っ恥ずかしい留学体験記(異文化恋愛描写あり)
●エルデンリング×文化人類学論
●Wikipediaのアメリカのスクールカースト記事に文句を付け、正確な図表作成をやってみる

📝アカウントの全体像はこちらにまとめてます

音楽と体験記、文化論、スピーディな三輪車で更新していきますので、お楽しみに。

あ、Xも始めました。更新情報や執筆の裏話を発信予定。感想やリクエストもぜひどうぞ↓

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●参考付録:筆者による訳詞と原文の対比

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●筆者による日本語訳
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ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ

君は休暇中さ
何も言葉にできないよ
頭に浮かぶすべてのこと
僕もそれを感じたいんだ

太陽の島で
遊んで 楽しんで
最高に気持ちいい
頭がどうにかなってしまう

ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ

黄金の海で泳ぐ時は
記憶なんていらないよ
ただ自分だけの場所
集中に向け漂ってく

太陽の島で
遊んで 楽しんで
最高に気持ちいい
頭がどうにかなってしまう

一緒に逃げよう
永遠の時を共に過ごそう
二度と嫌な気分にはならないさ

ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ

太陽の島で
遊んで 楽しんで
最高に気持ちいい
頭がどうにかなってしまう

一緒に逃げよう
永遠の時を共に過ごそう
二度と嫌な気分にはならないさ

ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ(もう嫌なことは感じない)
ヒップ ヒップ(もう感じない)
ヒップ ヒップ
ヒップ ヒップ(もう嫌なことは感じない)
ヒップ ヒップ(もう感じない)
ヒップ ヒップ(もう感じない)

――――――
●原作歌詞
――――――
Hip, hip
Hip, hip
Hip, hip
Hip, hip

When you're on a holiday
You can't find the words to say
All the things that come to you
And I wanna feel it, too

On an island in the sun
We'll be playin' and havin' fun
And it makes me feel so fine
I can't control my brain

Hip, hip
Hip, hip

When you're on a golden sea
You don't need no memory
Just a place to call your own
As we drift into the zone

On an island in the sun
We'll be playin' and havin' fun
And it makes me feel so fine
I can't control my brain

We'll run away together
We'll spend some time forever
We'll never feel bad anymore

Hip, hip
Hip, hip
Hip, hip

On an island in the sun
We'll be playin' and havin' fun
And it makes me feel so fine
I can't control my brain

We'll run away together
We'll spend some time forever
We'll never feel bad anymore

Hip, hip
Hip, hip (We'll never feel bad anymore)
Hip, hip (No, no)
Hip, hip
Hip, hip (We'll never feel bad anymore)
Hip, hip (No, no)
Hip, hip (No, no)

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中島 板|ポップカルチャー × 言語 × 留学体験記 ネタは豊富にございます、よろしくお願いいたします。