『自分とか、ないから。』騒動(中)
「自分とか、ないから。」騒動(上)
の続きです。
翌週のカウンセリング。
私:
あの、例の本のことでSさんにお願いしたいことがあって。
Sさん:はい。
私は先週、待合室の本棚から3冊あるうちの1冊を持ち帰った『自分とか、ないから。』が入った紙袋を机の上に置いた。
私:
前回私、1冊持って帰ったんです。これです。でも本をパクった罪悪感と、1冊だった本が3冊になってたことで、また私は幻覚でも見たんじゃないかと思って。怖くなっちゃって。※以前カウンセリング中にフラッシュバックによる幻覚を見たことがある。
この1週間、本を袋に入れて目に入らないようにしてたんです。
Sさん:
はは!(笑)待合室の本は確かに3冊ありましたね。幻覚ではないですよ。
私:
この本、こっそり本棚に返したいんです。
Sさん:
いいんじゃないですか。
私:
でも私、もうこの本を目に入れたくないんです。
だから…Sさんが代わりに返しておいてくれないかなって。
Sさん:
僕がそれをやっていいっていうのなら別にいいですよ。
私:
あっ…これも責任の所在を人に委ねてることになる?!?!ごめんなさい!!
それまでのカウンセリングの中で「石田さんは人に責任の所在を押し付けがち」だと言われていた。
今言ったこともそれに値する、そう指摘されるまで自分で気付けなかったことがショックで、私は涙ぐんだ。
Sさん:
(笑)いいですよ。責任を人に押しつけがちなところを「今は自分はそうするしかないんだ」という話でしたら、その本僕が引き受けます。
私:
ごめんなさい。私、本が3冊に増えてるのを見てパニックになって「1冊持ち帰れば?」ってSさんから言われた時、とっさに出た言葉が「Sさんが『持ち帰っていい』って言ったってことでいい?」だったじゃん。それはすぐ気付いたの。パクったのが問題になった時に「自分の判断だけじゃない」ってのが欲しかったんだと思う。
Sさん:
まぁ、持ち帰ったのが問題になるようなことがあれば僕は言いますよ。「僕がいいって言った」って。
私:
そうかもしれないけど、私は自分から求めたじゃん。いざとなった時に「僕は知りません」って言わないでね?って。共犯になってもらうための言質を取りにいったじゃん。だから私はこの1週間あなたに謝らなくちゃって思ってた。先週は自分で気付けたけど、さっきのは指摘されるまで気付けなかった。だから今すごく落ち込んでる。あなたになすりつけて、ごめんなさい。
Sさん:
別に(笑)。謝るようなことじゃないですよ。
私:
でも謝りたいの。
Sさん:
はぁ、じゃあ謝罪を受け取っておきますよ。
私:
以前さ、Sさんは私のことを「あなたは全部受け入れるけどそれは相手に責任の所在をなすりつけてることになるんですよ。結局不信感から来てる。人を信頼してるように見せかけてるだけです。そういうタイプはうまくいかなかったら『お前のせいでこうなったどうしてくれるんだ』って手のひら返してこき下ろす」って言われてさ、私納得できなくて。
でも言われた通りの人間なんだなって。今思い知らされた。
Sさん:
「石田さんは他人をこき下ろす人だね」と断じてるわけじゃなくて、出処が一緒ですよという話。「自分がそうする事を選んでる。だから自己責任だ」ってこれまで物事を終わらせ続けてきたじゃん?外に怒りを出さないで自分に怒りを向けて自分をこき下ろして終わる。でもそれって物事をちゃんと終わらせられてないですよ。自分を責める自分は冷静な自分ではなく自己批判に偏ってる自分です。冷静に自分の中の振り分けをしていく作業は40年間自己批判で終わらせてきた人にとって、かなり骨が折れる作業です。だから長くかかりますよって言ってます。長く付き合うよって言ってるんです。
で?この本どうするんですか。
私:
どうしようーーー(泣)
ついにベソをかきはじめる…。(書いてて情けない。)
私:
だいたいさぁ、なんでこんなことになるのよ。私はただ欲しかった本を買って、ここの待合室で読んで、待合室にハンコが押された同じ本を見つけて、自分の本は家からなくなって、待合室で確認したら3冊に増殖してるとかさあ。
私はただ好きな本を買っただけなのに。なんでこんなことに。
Sさん:
仕方ないでしょ。あなたはそういう星のもとに生まれたんだから。で、物事のしまい方の話ですけど、ぶっちゃけ今回の件は誰でもモヤると思いますよ。でも閉じ方は人それぞれ違いが出てくる。石田さんの閉じ方はあんまりよろしくない。
私:
院長先生に疑いの気持ちを持つまでは「同じ本を買うなんて私たち気が合いますね!」ってわくわく思ってた。そういうカラッとしてるだけの自分になりたい。
Sさん:
それは無理。石田さんが今からカラッとしてるだけの人間になるのは無理。
私:
そんなことない。それが欲しい。それ以外は要らない。それだけが目標。
Sさん:
それは石田さんの良いところを全部蔑ろにして立てる目標ですよ。今の自分の全否定です。そういう目標を僕は応援できない。
私:
なにも0から1を作ろうとしてない。私の中にもカラッとしてる自分はある。5を100にしたいだけ。
Sさん:
そもそも「院長先生と同じ本で嬉しい」って思うのはカラッとしてるのか?直情的、単細胞とも言えますね。
私:
…なんかすごく悪く言うじゃん。でもそういう自分を私は好きだよ。
Sさん:
まずは自分の振り分けを冷静にしましょうって話ですよ。今あなたが「自分が選んでそうしたんだから全部自己責任」って終わらせる段階から身動き取れないのはそりゃそうだなと思いますよ。そんな簡単には変えられない。だったら今はそういう自分を受け入れて「おまえほんとアホだなぁ。じゃあ代わりに本、返しといてやるわ。」って言ってくれる人を周りに置く。そういう人との繋がりを大切にする。これもひとつの方法でしょ。今回は「自分は今は出来ないからSさん代わりに本返しといて」って僕にお願いする。
私:
じゃあ私が今日自分で本返せられたら?それってすごいことですか?
Sさん:無理無理。
私:
そんなことないもん。心を殺せばできる。
Sさん:
今すぐには判断できないから、どう対処することが今の自分にとって1番大切なのか熟考するために、もう1回持ち帰るというのもひとつです。
私:
持ち帰る?!いやだ!!あっ…でも自分の愚かさへの戒めにはなるかな。
Sさん:
戒めにしなくていい(笑)
すぐに結論を出さないで保留にするってことです。
私:
正直、持ち帰りたくないです。また1週間パクった本が手元にあるのは辛い。
Sさん:
まぁ先週、本を持ち帰るのであれば、その後良心の呵責が出てきたら石田さんは1週間辛いだろうなぁと思ってましたよ。辛いなら辛いで大切なことだからその辛さを味わってもらおうと思ってました。
私:
ぐぬ…じゃあ、自分で返します。
Sさん:
えっほんとに? ファイナルアンサー?
沈黙する私をじっと見るSさん。
私:なによその目。
Sさん:
ミリオネアってあったじゃん。観てませんでした?ああだこうだやったあと、こうやってさぁ。ファイルアンサー?(じーっ)
私:
知ってるよ。知ってるけど。
じゃあオーディエンス!オーディエンスお願いします。1人しかいないけど。
Sさん:
「Sに返してもらう」が61%
私:
……自分で返します。ファイナルアンサーで。
Sさん:
……正解は……(じーっ)
私:
これ正解不正解あるんすか。
Sさん:
無いね(笑)じゃあ自分で返してください。では今日はここまで。おもろかった〜。
私:
おもろくないよ。あたしゃ必死だよ。こんなしょうもないことに必死ですよ。
Sさん:
しょうもなくはないんじゃない?ではまた来週。
ベソかき始めた私に、最後はおもしろく終わってくれたのは意図的だと思う。Sさんありがとう。
さぁ、私は『自分とか、ないから。』を自分で本棚に返すのか。返せないのか。
読者の皆さんは薄々気がついてることだろう。
『自分とか、ないから。』は空(くう)の思想、無我の境地について書かれてある本だ。
私のこの状況。空(くう)とは程遠い…。我執(がしゅう)の極みである。
しんめいPさんに謝りたい。本からまったく学べてない。ごめんなさい。
続く
