「1位から3位 該当なし」――生成AIと特許審査業務、その現実を突きつけられた日
本日のnoteは、IPCCの広報課員による生成AIと特許審査をめぐるコラムの前編です。
先日、官公庁領域における生成AI活用をテーマとしたNEDO懸賞金活用型プログラムの表彰式が開催されました。
IPCCの事業とも非常に関連が深いテーマだったことから、一事業者の職員として、この結果を強い関心をもって見守っていました。
正直に言えば、「どこが上位に入るのか」、「どの水準まで来ているのか」を、かなり期待していたと思います。
そんな中で発表された結果は、1位から3位まで該当なし。
ライブ配信で伝わってくる会場の空気と同時に、私の頭の中も、一瞬止まったような感覚がありました。
(1)驚きと同時に感じた「納得」
この結果を聞いた瞬間は、やはり驚きました。
しかし、審査員の方々による総括コメントを聞いていくうちに、その驚きは次第に「納得」へと変わっていきました。
今回のテーマとなった“特許審査業務”は、生成AIと相性が良さそうに見えて、実は非常に難易度が高い分野なのです。
出願書類に書かれている技術内容を正確に理解する。
膨大な公知資料(先行技術文献)の中から、漏れなく該当しそうなものを探す。
表現の違いを超えて、本質的に同じ技術かどうかを判断する。
これらは、単なる文書処理でも、単なる検索でもありません。
高度に構造化された専門業務そのものです。
(2)技術は着実に進んでいる一方で、なお高い壁として残っている領域
審査員コメントの中で印象的だったのは、
LLMの進化によって、文書理解や判断のための支援技術は確実に前進していること
特に書類が1つに絞られた場合、その評価等は高水準で実現し得ること
しかし、特許審査業務における「探索(先行技術調査)」は依然として最大の難所であること
という点でした。
世の中に出てくる文書は、より多くの人々に読んでもらえるよう、「見つけやすいように」書かれるのが一般的です。
それとは対照的に、特許の世界では、出願書類を「見つけやすいように」書くことはまれです。むしろ、既存の技術との違いを強調するため、同じような概念を示す場合にも意図的に表現を変えて書くことが多くあります。
この前提を知らずに、「AIを活用した探索がうまくいけば何とかなる」と考えると、現実とのギャップに直面することになるでしょう。
(3)「該当なし」から見えたこと
ただし、今回、1-3位入賞が出なかったことをもって、「生成AIは使えない」と結論を急いでしまうのは、少し違うように思います。
むしろ、
それだけ審査基準が厳密であること
業務の要求水準が非常に高いこと
まだ技術的に挑戦すべき余地が大きいこと
という事実が、改めて可視化された結果だったと感じました。
そして、この難しさを正面から語った審査員コメントこそが、今後を考える上で示唆に富むものでした。
次回は、そのコメントの中核にあった「ドメイン知識」という言葉の意味を、もう少し深掘りしてみたいと思います。
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