なぜ「ドメイン知識」が鍵なのか―審査員コメントから見えた3つの層
本日のnoteは、IPCCの広報課職員による生成AIと特許審査をめぐるコラムの後編です。
前回の記事では、「1位から3位 該当なし」という結果から、特許審査業務の難しさについて感じたことを書きました。
今回は、審査員(※)の総括コメントで何度も強調されていた「ドメイン知識」という言葉について、言葉を補いながら整理してみたいと思います。
※このコラムは官公庁領域における生成AI活用をテーマとしたNEDO懸賞金活用型プログラムの表彰結果を受け、IPCCの広報課職員が私見を述べたものです。ぜひ前編と併せてご覧ください。
▼前編はこちら
(1)「特許に詳しい」だけでは足りない
この分野で「ドメイン知識」というと、
「特許制度に詳しい」
「法律や技術に精通している」
といった意味で使われがちです。
しかし、今回の文脈で語られていた「ドメイン知識」は、それだけではありませんでした。
審査員コメントを読み解いていくと、少なくとも3つの層があるように感じます。
① 業務構造を理解しているという知識
1つ目は、“特許審査業務が、どのような構造で成り立っているのか”を理解していることです。
どの工程が特に重要なのか。
どこでミスをすると、実務として成立しなくなるのか。
今回のテーマでいえば、「探索(先行技術調査)」が、他の工程に比べて圧倒的に難しく、かつ重要である点が繰り返し指摘されていました。
業務の全体像を知らずに、部分的にAIを当てはめても、上手くいかない。これは、官公庁業務に限らず、多くの既存業務に共通する話ではないでしょうか。
② 現場で培われてきた暗黙知
2つ目は、実務者が長年の経験で蓄積してきた暗黙知です。
この表現は明細書に照らすと怪しい
この引用箇所の記載は単なる表現上は一致しているが実質的には根拠が弱い
ここの記載内容を注意深く読み解く審査官が多い
こうした内容はノウハウのような性格を有しており、マニュアル(例.特許・実用新案審査基準、特許・実用新案審査ハンドブック)に完全には書き切れません。
審査員コメントの中でも、「暗黙知」「感覚」といった言葉が登場していました。
AIで業務の全てを置き換えるのではなく、“この暗黙知をどう補助・支援するか”という視点が、評価において重要な要素の一つだったように感じます。
③ AIをどう使うかという設計知識
そして3つ目が、最も重要かもしれません。
それは、“AIをどこで、どう使うかを設計する知識”です。
単に「高性能なAIを導入する」ことではなく、
AIに任せる部分
人が判断する部分
その境界をどう引くか
これを業務の文脈で設計できているかどうか。
審査員の総括からは、“業務の全体像を理解した上でAIを使っているか”が、非常に強く見られていた印象を受けました。
(2)現状のAIで難しいからこそ、やる意味がある
今回の結果は、“まだAIでは難しい領域がある”ということを、はっきり示しています。
しかし、その“難しい領域”こそ、業務への理解を積み重ねてきた事業者が、価値を出せる場所でもあります。
IPCCの広報課職員の一人として、IPCCがAI任せでは十分に届かない領域に対しても、業務への深い理解と適切なサービス提供を通じ、今後も引き続き貢献していく考えをお伝えする必要があると感じました。
人とAIが協働する形は、まだ発展途上です。
だからこそ、この分野は面白く、やりがいがある。
今回の表彰式は、そのことを改めて実感させてくれる機会でした。
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