【第二十四話】ゆとり世代の1987生まれが青春時代を過ごした平成についての思い出を語る【Believe/嵐(2009年)】
2009年、僕は夢に向かって続いているこの道を、ただがむしゃらに進んでいた。
「青春」とはなにか。
辞書を引くと「若さゆえの輝き、未熟さ、情熱」なんて書かれているけれど、実際僕にとってはシンプルで、音楽と共に過ごした時間こそが青春だ。
心にずっと抱いていた夢を叶えたあの日。
泣いて笑って進んだ一日一日の努力が、僕を支えてくれた。
そう、僕は懐古厨だ。
でも、この懐古があるからこそ、今の僕があるのだと思う。
懐古厨のゆとり世代と、この気持ちを分かち合うために、このnoteを書き上げる。
僕らはずっと待っていた
嵐の「Believe」は、映画「ヤッターマン」の主題歌だ。
僕は小さい頃から深キョンが好きだった。「ヤッターマン」で深キョンが演じる「ドロンジョ様」がものすごく印象的だった記憶があるものの、とにかく予告編で見た気にさせるのが強い映画だった。
つまり、観てはいない。
「Believe」は、TSUTAYAの「いつメン」こと僕の同級生と、久々に行ったカラオケで歌っていたことを強く覚えている。
サクラップを流暢に歌う友人。
※嵐の楽曲に欠かせない櫻井翔のラップ、通称「サクラップ」。スピード感のある言葉の応酬とリズム感が特徴で、当時ファンの間でも人気が高かった。友人が息継ぎもなく完璧に歌い上げていて、僕はただ圧倒されていた。
「Believe」の中にある「どこまでも続いてゆく道で」というフレーズに自分の気持ちを重ねて、泣き笑い叫んだ、あの日々を思い返していた。
2008年秋から2009年の夏にかけて。
僕は夢を叶えるために、必死に勉強をしていた。
すべてのリソースを勉強に注ぐためアルバイトも辞めて、いつメンとのカラオケも途絶えていた。
学校や地域図書館の自習スペースで朝から晩まで勉強に明け暮れていた。
大学の講座から派生して専門予備校へ通い、多くの知識を叩き込まれていた。
行き帰りの電車の中でも、僕は参考書を片手にたくさんの問題を解いた。
1分1秒でも無駄にはしたくなかった。
確か2009年のゴールデンウィーク前後に本番の試験があった。
いつも緊張しいの僕だったけど、不思議と試験の前日は快眠できて、サッパリした雰囲気で本番に挑めた記憶がある。
眠気覚ましのコーヒーと、集中力が上がると噂の「GABA」を片手に、僕は長時間に及ぶ試験に挑んだ。
試験後の自己採点で合格点を超えて、安堵した記憶がある。
その後は、2次試験での面接準備に取り掛かった。
僕は面接に苦手意識を感じていたため、大学のキャリアセンターの職員の方に伴走支援いただきながら、様々な方面でアドバイスをいただいた。
エピソード一つひとつに厚みをもたせることや、自分をよく見せるためのポジティブ思考への変換など。
面接の基礎とともに、多くのテクニックを授けていただいた。
2次試験当日。
僕は慣れないリクルートスーツに袖を通し、面接会場へ向かった。
確か、当日は梅雨も終盤に差し掛かっていた時で、非常に蒸し暑かった記憶がある。
待機時間の長さと面接会場の熱気があいまって、僕は汗が止まらなかったことを覚えている。
そして、面接の時。
面接は2度あって、1度目はうまく行ったけど、2度目は圧迫面接で終始拙い返しになってしまった。
そのことを酷く後悔していた記憶がある。
そして合格発表の日。
合格となった受験番号がウェブ上に公表される仕組みで、開示時間になると早速受験番号を探した。
僕はというと、緊張でパソコンの画面をスクロールする手が震えていた。
僕の受験番号が見つかったとき。
とても安堵して全身の力が抜けきったことを覚えている。
けれども、合格しただけでは終わらない。
最終面接があったのだった。
真夏のある日。
僕は初めて訪れるオフィスの一角で最終面接をした。
今でいう幹部の人たちと面接をしたのだったと思う。
最終面接では、一つだけ印象に残っている質問と回答がある。
「想定外の業務につくこともあるが大丈夫か。例えば、こんなことはあなたに向いているか」といった、僕にとっても完全に想定外の質問が飛んできた。
一瞬パニックになった僕。
言葉の意味さえ理解が追いついていない中、「そのことについてあまり理解していませんが、もし担当になったときは精一杯取り組みます」と答えたような気がする。
今振り返れば、無難な回答をしたと一定の評価ができるが、当時の僕はといえばその回答一つがうまく行かなかったことを理由に、酷く絶望したことを覚えている。
最終面接から数日がたったある日。
僕のもとに書面が届いた。
それは、内定を知らせる通知だった。
当時はリーマンショックの影響で、急激に景気が落ち込んでいた時代。
就職氷河期とは言わないまでも、内定を得ることは決して簡単ではなかった。
だからこそ、内定の通知が届いたとき、こんな自分でも必要としてくれる人がいたのだと、強く安心したのを覚えている。
こうして、僕は夢だった職業に就くことになった。
今振り返ってみても、あの努力があったからこそ、夢を掴めたのだと思う。
僕は自分で自分を褒めたくなった。
甘辛ファッションとレザージャケット
2009年当時、僕らの大学では「Paul Smith」(ポールスミス)が流行っていた。
オシャレ系男子はみんな「Paul Smith」の時計をしていた。
カラフルでビビッドなワンポイントが入ることがオシャレの基本で、意外とお手頃な価格で買えたのも流行った要因かもしれない。
僕もPaul Smithの時計に憧れを持っていた。
けれども、そのビビットさに手を出す勇気が出なくて、シンプルな、「agnès b.(アニエスベー) 」の腕時計をしていた。
あのころの男子大学生は髪を自然に立てるのが主流で、ギャツビーのワックスを使うのが主流だった。
僕はといえば、地元の美容院でいつも着けてもらう「アリミノ」のワックスが好きだった。
青りんごの甘酸っぱい匂いが、1日の始まりを告げる僕のやる気を刺激してくれたことを強く覚えている。
そして、ファッションでは「甘辛ミックス」が流行っていた。
キレイ目シャツにカジュアルを組み合わせるコーデ。
パーカーやカーディガンなどのカジュアル目の服に、レザーやチェスターコートをあわせて着るのがオシャレだった。
僕も甘辛ファッションの流行に乗り、グレーのパーカー×黒のレザージャケット×スキニーデニムに、converseのスニーカーを合わせるファッションをよくしていた。
特に、黒のレザージャケットは、大学3年のときに「BEAMS」で買って以降、よく着回ししていたため思い入れがあった。
裏地が花柄で暖かく、秋から冬、春になるまでずっと使っていたことを覚えている。
泣き笑い、ともに進んでいたときの小さな相棒だった。
社会人になっても着ていたお気に入りの服だったけど、平成の終わりとともに寿命を迎えた。
今でも、レザージャケットの香りがすると、あの頃の相棒の姿を思い出すのだった。
ひとり旅に出る
大学卒業を間近に控えた僕は、どうしても挑戦したいことがあった。
それは、青春18きっぷで一人旅に出ることだった。
※JRが期間限定で発売する特別乗車券で、全国のJR普通列車が1日乗り放題になる切符。当時の大学生や旅好きにとって、格安で長距離旅行できる“鉄板アイテム”だった。
僕はありったけの貯金をすべてつぎ込み、4泊5日の旅に出た。
目的はいくつかあった。
一つは「聖地巡礼」だ。
僕の好きだったテレビドラマ「ラブレター」のロケ地「小豆島」、そして「砂時計」のロケ地の「仁摩サンドミュージアム」へ行って見たかった。
※「ラブレター」は2008年放送の昼ドラマ。主演は鈴木亜美。小豆島を舞台にした切ない恋物語で、当時SNSやブログでも「聖地巡礼」が話題になった。
※「砂時計」は2007年に放送された、こちらも昼ドラマ。主演は佐藤めぐみ。島根県の仁摩サンドミュージアムにある世界最大の一年計砂時計が物語の象徴として描かれ、多くのファンが聖地を訪れた。
もう一つの目的は、自分自身を見つめ直したかったからだ。
知らない街の景色に触れ、心を浄化させたかった。
当時、まだ存在していた夜行列車「ムーンライトながら」に乗り、ひたすら西をめざした。
道中、見たことも聞いたこともない街の景色を、車窓から眺める。
そして、街が変わる度に乗客の話す言葉が変わる。
高齢者の話す癖の強い方言や、地元の高校生たちの青春の会話などを効果音にして、僕は色んな街を一人でめぐった。
小豆島へ向かう前、フェリー乗り場でたべたうどん。
松江で食べた駅弁。
仁摩サンドミュージアムで見た超巨大砂時計と、お土産の1分砂時計。
鳥取砂丘の雄大な景色と、大量の砂が靴に入った思い出。
修学旅行以来の京都。
移り変わる車窓とともに、iPod touchから流れる音楽が僕の思考を巡らせてくれた。
ぼっちだった僕。
TSUTAYAや書店でのアルバイトの経験。
食い倒れ会やTSUTAYAの仲間に救われたあの時。
そして、夢に向かってがむしゃらに走った日々。
一つひとつの光景が、車窓から見えてくるような気がした。
そのすべての光景が新鮮で、僕は一人旅に行ってよかったと、心の底から思えたことを強く覚えている。
あの時の経験があったからこそ、社会人として飛び立つ心構えができたのではないかと、今では思う。
明日に向かって輝く
2009年の夏。
僕は試験の結果報告とともに、TSUTAYAのいつメンと久々にカラオケへ行った。
その日はオールで喜びを分かち合ったことを覚えている。
その時聞いた「Believe」は、僕の夢を叶えてくれた祝福の曲のようにも思えた。
「Believe」を聴くと、夢に向かって進んでいた僕の記憶が思い出される。
大学生活でオシャレを楽しんだ日々。
一人で旅に出かけ、自分を見つめ直した。
そして、どんなときも、僕は音楽に励まされていたと気がついた。
これから始まる社会人生活に少しだけ不安を感じていた僕の背中を、「Believe」は優しく押してくれたのだった。
■第0話(イントロダクション)はこちら。
■まとめ記事はこちらから。
