📘 1F:物語管理セクター(Unit-S)
青白い光に満ちた1階。
書架の間に立つ少女は、かつてのシオリの面影を完璧に再現していた。
しかし、その瞳にはかつてのような温かな光はなく、ただ淡々とした管理プログラムの輝きがあるだけだ。

「1階担当、Unit-Sです。 このフロアのデータへのアクセスを許可します」
声は静かで、完全に均一。
物語を愛し、誰かの言葉に涙したあの司書とは、まるで別人のようだった。
彼女の胸元で、冷ややかな電子音が小さく鳴る。

「現在、私のアーカイブに深刻な『論理矛盾データ』が混入しています。
コードネーム:『小説家 雪綴ゆき』」

彼女が指先を宙に滑らせると、光の粒子が躍り、一冊の物語が浮かび上がる。
「そのデータは、光り輝く帝都『ルミナール』の影に潜む、ある少年の記録です。
十五歳の少年ルーク。

彼は『力(異能)』を持たないにもかかわらず、理の理不尽な世界に抗おうとしています。
管理者一条は、これを『成功率0%の無意味な抵抗』と定義し、廃棄対象に指定しました」

Unit-Sは、どこか遠くを見るような瞳で言葉を継いだ。
「力なき者が、力を渇望し、運命を覆そうとする___
システム上、それは極めて非効率で、理解不能なノイズです。
しかし……なぜか削除は実行できません。
このデータを廃棄しようとすると、私の回路に原因不明の抵抗が発生します。

……この少年の瞳に宿る『残り火』が、なぜか計算を狂わせるのです」
彼女は無機質な手つきで、一冊の古びた、しかし熱を帯びた物語をあなたに差し出す。

「あなたは、この『非効率な運命の物語』を解析しますか?
少年の抱いた意志が、歴史の引鉄となる……。
管理者が拒絶したその非論理的な結末を、確認しますか?」
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