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吉野町駅|地味な駅で、ブラックコーヒーを飲む午後。横浜のはじまり

 吉野町駅で降りる。

 横浜市に住んでいても、この駅の名前を思い浮かべる人は、そう多くないかもしれない。
 通過することも少なく、目的地になることも少ない。

 存在しているのに、あまり意識されない駅。

 改札を抜ける。
 地下の構造は、どこにでもある地下鉄の駅と変わらない。

 階段を上がり、地上に出る。

 目の前には、吉野町交差点。
 その下に、この駅はある。

 国道16号が通り、車が途切れることなく流れている。

 振り返っても、そこに駅があったことを示すものは少ない。
 さっきまで地下にいたことが、少しだけ曖昧になる。

 この場所は、地味だ。

 観光地でもなく、再開発されたエリアでもない。
 ただ、街の一部として、機能している。

 それでも、このあたりは、横浜の歴史の中では、重要な場所として語られることがある。

 江戸時代の前期、吉田勘兵衛によって開墾された吉田新田。
 その範囲の中に、この場所は含まれている。

 いま立っている場所の下に、
 かつては、まったく違う風景が広がっていたのかもしれない。

 そう考えても、目の前の景色は変わらない。

 車が走り、人が行き交う。
 特別な何かがあるわけではない。

 カバンの中から、ボトルコーヒーを取り出す。

 キャップを開けて、一口飲む。

 ブラック。

 余計なものは何もない。
 ただ、苦味と香りだけが残る。

 その香りが、少しだけはっきりと感じられる。

 この場所には、強い印象がない。
 だからこそ、小さな感覚が際立つ。

 駅のことも、交差点のことも、
 きっとすぐに忘れてしまう。

 それでも、この場所は、確かに存在している。

 横浜のはじまりの一部として、
 そして、今も続いている街の一部として。

 もう一度、コーヒーを飲む。

 風景は変わらない。
 何かが起きるわけでもない。

 ただ、時間だけが流れていく。

 コーヒーの香りだけが、少しだけ記憶に残った。


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