「入居して3か月、もう滞納が出ました」|新築マンション、最初の滞納をどう防ぐか
始まりの空気が、その後10年の管理を決める:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第62回
新築マンションの第1回理事会。
まだ壁のにおいが残る集会室に、
新しい理事たちが集まっている。
フロントが議題を読み上げていく。
・管理規約の確認
・口座振替の案内
・共用部のルール説明
そして最後の報告で、
場の空気が変わった。
「実は、入居から3か月で、
1件の管理費未収が発生しています」
「え…もうですか?」
理事長の声が上ずる。
「はい。督促状を送っていますが、
今のところ反応がありません」
「新築なのに…どうしてそんなことが」
フロントが静かに答えた。
「新築だから、というわけではないんです。
むしろ最初だから、対応の仕方が後々まで影響します」
始まりの一件が、
管理組合の空気をつくる。
今日はその「最初」の重要性を整理したい。

▼1:「新築だから滞納は起きない」|その思い込みが、初動を遅らせる
新築マンションには、
こういう空気がある。
「みんな新しく買った家だから、ちゃんと払うはずだ」
「新築で滞納なんて、そんなことがあるのか」
この思い込みが、
第1回で整理した
「滞納は特別なマンションだけの話」
という認識と同じ落とし穴にはまらせる。
現実は違う。
新築マンションでも、
入居初期から滞納は発生する。
住宅ローンの返済が始まり、
・引っ越し費用
・家具購入
・生活の立ち上げコスト
が重なる入居直後は、
家計が一時的に圧迫されやすい時期でもある。
第44回で整理した「優先順位のズレ」が、
新生活の混乱の中で起きやすい。
そして最も重要なのは、
新築マンションでの「最初の滞納への対応」が、
その後の管理組合の空気をつくるということだ。
第49回で整理した「最初の1回をどう扱うか」は、
新築マンションでこそ最も鮮明に問われる。

▼2:新築マンション特有の「3つの立ち上がりリスク」
リスク① 管理組合が機能する前に滞納が発生する
入居から管理組合が正式に立ち上がり、
理事会が動き始めるまでには数か月かかることがある。
その間は管理会社が実質的に対応を担うが、
組合としての意思決定が整っていないため、
督促の判断が曖昧になりやすい。
リスク② 住民同士の関係がまだ薄い|コミュニティの空気がない
長年住み続けたマンションでは、
「このマンションでは滞納すると対応が来る」
という暗黙の空気がある。
新築マンションにはその空気がない。
最初の対応が、
その空気を一から作る機会になる。
リスク③ 修繕積立金が低く設定されている|財務の余裕が薄い
新築マンションでは、
当初の修繕積立金を低く設定し、
段階的に増額していく「段階増額方式」が多い。
入居初期は積立額が少ないため、
滞納が発生したときの財務的なバッファーも薄い。
第58回で整理した予備費の設計を、
新築の立ち上げ期から意識する必要がある。

▼3:新築マンションで最初の滞納対応を誤る「4つのパターン」
パターン① 「新築だから」と様子を見る|初動の遅れが「払わなくていい」という認識を生む
第49回で整理したように、最初の1回を見逃すと
「ここは遅れても大丈夫」という認識が定着する。
新築マンションでは、
この認識が最初から広がるリスクがある。
入居後最初の未収は、
どのマンションよりも速く対応することが求められる。
パターン② 管理会社任せで理事会が関与しない|組合としての意思が伝わらない
管理会社が督促を行っても、
理事会が無関心であれば
「管理会社のルーティン」として処理される。
滞納者にとっても、
組合としての意思が伝わらない。
第9回で整理した
「管理会社の設計が結果を決める」観点から言えば、
理事会が関与することで督促の重みが変わる。
パターン③ ルールを決める前に個別対応してしまう|前例が基準になる
「今回だけ」の対応が、
次の案件の前例になる。
・分割払いの基準
・督促の手順
・法的手続きへの移行基準
これらを先に決めておかないと、
個別判断の積み重ねがルールになってしまう。
パターン④ 口座振替の移行を後回しにする|「うっかり」を仕組みで防げない
第20回で整理したように、
口座振替の導入は「うっかり滞納」を
防ぐ最も効果的な手段だ。
新築マンションでは、
入居時に全戸一斉に口座振替を設定する
絶好の機会がある。
この機会を逃すと、
後から移行を促すのに相当の手間がかかる。

▼4:新築マンションの「最初の空気」をつくる「4つの設計」
① 第1回理事会で「滞納対応の基準」を決める
「・1か月で連絡
・2か月で書面
・3か月で法的手続き検討」
この基準を、
管理組合として第1回理事会で確認する。
管理規約の確認と同じタイミングで、
対応の型を共有しておく。
先に決めることで、
いざ発生したときに「ルール通り動く」だけになる。
② 入居時に口座振替を「デフォルト」にする
入居手続きの中に口座振替の申込書を組み込み、
「口座振替が標準」という状態を最初から作る。
振込みを希望する場合は
別途手続きが必要という設計にするだけで、
口座振替率が大きく変わる。
第10回で整理した「未然に防ぐ設計」の、
入居時バージョンだ。
③ 最初の未収発生時に「速く・丁寧に」動く
発生後すぐに連絡を取り、
第11回で整理した督促状の設計を
活かした書面を送る。
「管理組合として確認している」という事実を、
早いタイミングで伝える。
この対応の速さと丁寧さが、
「このマンションは初動が速い」
という空気を最初に作る。
④ 管理の取り組みを住民全体に見せる
滞納対応の状況だけでなく、
管理組合が何をしているかを
入居者全体に定期的に伝える。
第48回で整理した
「やっているのに伝わっていない」問題を、
最初から解消しておく。
管理費が何に使われているかが見えると、
支払いへの当事者意識が育ちやすい。

▼5:「最初に空気を作ったマンション」と「最初を流したマンション」
ある新築130戸のマンションでは、
入居時に全戸口座振替を設定し、
第1回理事会で滞納対応基準を決めた。
入居3か月で1件の未収が発生したが、
翌月には連絡が取れ、
「振替日を忘れていた」とのことで即日解消。
その後2年間、
新規の滞納は発生しなかった。
「最初の対応が速かったことが、
住民の間に広まったと思います」
とフロントは言った。
「うちは払わないと連絡が来る、
という空気が最初から定着した」
一方、別の新築マンションでは、
最初の未収を「新生活で忙しいのだろう」
と数か月様子を見た。
その後、同様の「払い忘れ」が複数件続いた。
「最初に動いていれば」という言葉が、
2年後の理事会で出た。
最初の対応が、10年先の空気を決める。

▼まとめ:新築マンションの最初の1年が、管理組合の「文化」をつくる
新築マンションには、
何もないからこそ何でも作れる自由がある。
ルールも・空気も・文化も、
最初から設計できる。
その最初の1年に何をするかが、
管理組合の文化をつくる。
・口座振替の徹底
・対応基準の明文化
・初動の速さ
この三つが揃ったとき、
新築マンションは滞納に強い組合として歩み始める。

▼今日のワンアクション
新築マンションの理事や管理担当者の方に
確認してほしいことがあります。
「管理組合として、
滞納が発生したときの対応基準は
決まっていますか?」
まだなら、次の理事会で
「1か月・2か月・3か月でそれぞれ何をするか」
を一度確認してみてください。
最初に決めるだけで、
いざというときの迷いがなくなります。


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