氷河期世代AD、テレビの片隅で。#14「ADを辞める僕へ贈られた、エロメガネたちのありがたい言葉」
テレビ業界に入って、
5年が経っていた。
27歳。
後輩ADも増えていた。
でも僕は、
まだADだった。
歴の長いADは、
なかなかディレクターにしてもらえない。
使い勝手がいいからだ。
ロケもできる。
編集もできる。
怒られても辞めない。
会社にとって、
便利だったのだと思う。
でも僕は、
少しずつ限界だった。
このままでは、
一生ADのまま終わる気がした。
だから辞めることにした。。。
今思うと、
ADの辞め方もいろいろだった。
会社のパソコンやカメラを盗んで売りさばいたヤツ。
仮払いをもらったまま消えたヤツ。
薬物で捕まったヤツもいた。
もちろん、
みんなクビになった。
でも僕は、
ただ普通に辞めるだけだった。
だから、
あんなことになるとは思わなかった。。。
自分の所属していた制作会社の社長、
西山に辞めることを伝えた。
西山は色が黒く、ちょび髭をはやし
なんだか胡散臭くて
AV男優みたいな人だった。
そして埼玉出身なのに
変な関西弁を使っていた。
チョコボール西山は
大物芸人の前では、
いつもニコニコしていた。
でもADの前では、
なんだか心がない人みたいだった。
大物芸人の威光で、
自分まで偉くなったような空気を出していた。
そしてチョコ西山はせこかった。
プライベートでゴルフに行くのに
ロケ車を手配させ、経費として計上していた。
そんな事にお金を使うなら、
少しはADに還元して欲しかった。
そんなチョコボールに辞めることを伝えると
「なんやねん!逃げんのか?
辞めてもウチの会社の悪口言うなよ、許さへんで」
「お前のわがままで辞めんねんから」と。
変な関西弁で。。。
その時担当していた番組の
プロデューサー、竹田にも報告した。
すると竹田は言った。
「辞めたら今後この業界で
仕事でけへんようにするで」
「高瀬さんに言うて、
どこの局にも出入りでけへんようにするからな」
高瀬さんは、超大物放送作家だった。
でも僕は、その言葉を聞いた時、
違和感があった。
高瀬さん本人は、ADにもとても丁寧で優しい人だったから。
中には、ADをゴミみたいに扱う放送作家もいた。
でも高瀬さんは違った。
僕が会社を辞めたあと、
偶然ラーメン屋で会ったことがある。
たまたま僕の前に並んでいた。
「おお、久しぶり!」
と笑いながら話しかけてくれた。
そして、
「何食べる?頼みや」
と、普通にラーメンを
ご馳走してくれた。
とても僕を業界から追放しようとしている人には見えなかった。
たぶん竹田は、脅しのために名前を使っただけなのだと思う。
まるで、弱いヤンキーが
強い先輩の名前を出してイキっているみたいに。
ちなみに竹田は、
今思うと“増税くそメガネ”でおなじみの元総理によく似ている。
だから僕は今は心の中で、
「恫喝エロメガネ」と呼んでいる。
専用の携帯電話まで持って
若い女性スタッフに、
よく手を出しまくっていたから。
一方で、
エロメガネ竹田は、
順調に出世しているらしい。
たぶん今は、
「パワハラは絶対あかん」
みたいなことを言う立場になっていると思う。
僕からすると、
「どの口が!」である。
でも、
そういう人ほど、
時代に合わせて生きるのは上手い。
たぶんそれも、
出世する才能なのだと思う。
ただ、
若い頃に夢を見てテレビ業界へ入った人たちが、
こういう大人を見て、
去っていったのも事実だと思う。
だから今、
“オールドメディア”
なんて言葉が出てくるのかもしれない。。。
そして僕の左目にやたらと恨みがある、田中にも伝えた。
すると、
いつもの感じで言った。
「逃げるんやな!お前みたいなヤツ、
どこ行っても通用せえへんで」
そして周りのスタッフに向かって、
「こいつとは今後一切
仕事しませ〜ん!」
と笑いながら言っていた。
みんな、
脅せば辞めるのをやめると
思っていたらしい。
逆だ。
引き止めたいなら、
優しくした方が人は迷う。
そして僕が辞めたあと、
同期や後輩たちも、
少しずつ会社を辞めていった。
後から聞いた話では、
みんな僕とほとんど同じことを言われたらしい。
「辞めても会社の悪口言うな」
「この業界で仕事できなくする」
やることが全く変わっていなかった。
たぶん、何も学ばない人たちだったのだと思う。
残念なもので、
今思い出すのは、
嫌なことばかりだ。
竹田さんも、
田中さんも、
西山さんも。
もちろん、
ご飯をご馳走してもらったこともある。
助けてもらったことだって、
本当はたくさんあったはずだ。
でも、
最後の記憶が強すぎて、
どうしても嫌な顔ばかり思い出してしまう。
人は、
最後の印象が
心に刻まれるのかもしれない。
本当は、
楽しかったことも思い出したい。
でもうまく思い出せない。
なんだか、
少し悲しい。
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#15 「大事な事は相談せんでいい」顔面凶器の優しい言葉
会社を辞め、無謀にもフリーになることを決めた僕。
そんな僕に、顔は怖いけど誰よりも優しい桜井さんが、
忘れられない言葉をくれました。
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