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【SHRM2026レポート③】サイモン・シネック基調講演ーThe Future of Work is Still Humanー「AIの進化は過去のテクノロジーと同じ。人間に必要なものは何一つ変わらない」


※本内容は講演を聞いた個人の解釈です

1. なぜ書くか

様々な情報が飛び交う現代において重要になる中、日本に住む約1億人にはグローバルでの最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。

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2. SHRMアニュアルカンファレンスとは

SHRM(Society for Human Resource Management)は、世界で30万人以上の会員を有する、最大級の人事専門家団体です。

その年次カンファレンスである「SHRM Annual Conference & Expo」は、毎年世界中の人事プロフェッショナルが一堂に会するグローバルイベントで、最新の人事戦略、組織開発、法改正、人材マネジメント、テクノロジーなど、HRのあらゆる分野に関する知見が共有されます。

米国フロリダ州オーランドで開催された世界最大級の人事イベント「SHRMアニュアルカンファレンス2026」。会場が異様なほどの熱気と興奮に包まれる中、メインステージに登壇した組織人類学者サイモン・シネック氏のメッセージは、非常に力強いものでした。

3. 「AIが進化しても過去の進化と同じであり、人間のOSは変わらない」

現在、ビジネス界では「AIが人間の仕事を奪うのではないか」「どのツールが効率的か」という議論ばかりが先行しています。しかし、シネック氏は現在のAIを巡る変化を以下のように述べていました。

「この変化は、過去に起きた産業革命やインターネットの登場といった、これまでのテクノロジーの進化の歴史と何一つ変わらない。そして、人間に必要なものも、コミュニティの本質も何一つ変わらない」

テクノロジーは業務を効率化する「How(方法)」を最適化してくれますが、組織や人間が生きる目的である「Why(大義・パーパス)」を代替することは絶対にできない。

AIの進化が突きつけている本当の影響は、人間の代替ではなく「知識と能力のインフレ(大暴落)」ではないか、と彼は述べています。 かつては、特定の知識や技術、スキルを「持っていること(Capability:能力)」自体に高い価値がありました。しかし、生成AIの登場によって、誰もがボタン一つで、世界中の最高峰のコードや分析にアクセスできるようになりました。

AIがあらゆる「Capability」を瞬時に模倣できるようになった今、スキルの希少価値は限りなくゼロに向かって暴落しています。だからこそ、これからの時代に人間を人間たらしめ、究極の差別化要素となるのは、測定不可能でありAIには絶対に代替できない「Character(人格・資質)」なのだと主張します。

思いやりを持つこと、誠実であること、困難な時に勇気を示すこと、そして他者を「見つめ、声を聴く」こと――。これら「Character」に根ざした人間性やホスピタリティ(親切心)は、100%AIプルーフ(AIが模倣できない領域)であり、外部環境がどれほど激変しようとも、その価値が変わることはないと述べました。

4. 効率化の裏にある「人間性」の価値:テクノロジーが進化するほど、人は人を求める

シネック氏は、Amazonがかつて「レジなしで歩いて出られる未来の店舗(Amazon Go)」や手のひら認証を大々的に導入したものの、結果として多くの店舗を閉鎖することになった事例を挙げます。

「私たちはアプリでピーナッツバターの場所を探したいわけではない。棚を整えているスタッフに『ピーナッツバターはどこ?』と聞き、相手が指をさしてくれる。そのわずか数秒の不完全な人間同士のインタラクション(関わり)こそが、私たちに『自分は人間として見られている、認識されている』という喜びを与えるのです。テクノロジーは効率を売りにしますが、人間を置き去りにしたシステムは、長期的には経済合理性を失い、崩壊します」

世界が自動化され、画面の向こうの情報がすべてAI製になっていくからこそ、皮肉にも「リアルな人間」の価値が跳ね上がっています。

「AIによる解雇」の嘘:そもそも経営の「過剰雇用(Overhired)」が原因である

今、多くの企業が財務的なプレッシャーを背景に、「AIを導入したから人員を削減する」として大量解雇を行っています。しかしシネック氏は、この風潮に対して「AIのせいにするな」と批判を浴びせます。

「多くの経営者が、AIを免罪符にして人員を整理し、目先の利益率を上げようとしている。しかし本質は違う。これはテクノロジーの進化による失職ではなく、好景気の時に戦略なしに過剰雇用(Overhired)をしてしまったという『経営の失敗のツケ』を、AIという便利な言い訳で誤魔化しているだけだ

サイモン・シネックが定義する「真のコミュニティ」のあり方

ここで、私たちが立ち戻るべき重要な論点があります。それは、シネック氏による明確な「コミュニティ」の定義です。

「コミュニティとは、単に同じ場所に人が集まっている状態を指すのではない。ともに成長しようとする人々の集団のことである」

ただ集まって作業をこなすだけの組織はコミュニティではありません。お互いを支え合い、引き上げ合いながら、同じ未来に向かって「ともに成長しよう」という共通の意思と信頼関係が結ばれて初めて、組織は真のコミュニティへと昇華します。人事が守り、デザインすべきなのは、まさにこの「ともに成長しようとする集団」のインフラなのです。

【コミュニティ(ともに成長しようとする人々の集団)の守り方】

シネック氏の盟友であり、世界No.1レストランの元オーナーであるウィル・グイダ氏が、予約システムをオンラインに完全移行した際のエピソードは、私たち人事に素晴らしい示唆を与えてくれます。彼は先日のATDカンファレンス2026でも講演をした人物です。

ウィルは予約業務を完全にデジタル(自動化)に移行しましたが、自動化によって浮いた人員を一人も解雇しませんでした。

これまで「満席です」と断る電話対応に追われていたスタッフの時間を、「すでに予約を確保した顧客のバックグラウンドを深く調べ、どうすれば彼らのディナーを最高の思い出にできるかをクリエイトする時間(=常識外れのホスピタリティ)」へと再配置(リデプロイ)したのです。

経営の過剰雇用の失敗をAIのせいにし、安易に人を切り捨てるのか。それとも、AIによって「Capability(能力)」の効率化を担保した上で、浮いたリソースを「人間的な瞬間を、より人間らしくするため(Characterの最大化)」にクリエイティブに再投資するのか。ここに企業の器(カルチャー)が現れます。これこそが、これからの人事に求められる「攻めのテクノロジー活用」です。

5. 私たちは「測定しやすいもの」に支配されていないか?(A/50の罠)

対談の中で、シネック氏は現代のビジネスや人生における最大の病理として「測定の罠」を挙げました。「測定できるものは管理できる」という考え方が、多くの企業と個人の幸福を破壊しているという指摘です。

シネック氏は、人生や成果を「成果(A〜Dのグレード) / 費やした時間(Hours)」の比率(レシオ)で見るべきだと言います。

  • 「A / 50時間」の生き方: 死に物狂いで働き、完璧な成果(A)を出し、売上やフォロワー数、株価といった「測定しやすい数字(スコア)」を追い続ける。

  • 「B+ / 3時間」の生き方: 成果はB+かもしれないが、わずか3時間の高効率で達成し、残りの47時間を「家族、友人、趣味、健康」といった【測定しにくいが、人生で最も大切なもの】に投資する。

「私たちは、数字というスコアボードに支配されがちです。企業の売上、SNSのクリック数。なぜならそれが一番測りやすいからです。しかし、本当に大切な『ブランドへの愛』『従業員の幸福』『顧客との信頼関係』は、3ヶ月や6ヶ月の短期スパンでは絶対に測定できません。 測りにくいからといって、それが重要でないわけではない。むしろ、測定できないもの(分母の47時間で行われている、Characterを通じた人間関係への投資)こそが、長期的な企業の寿命(ロイヤルティ)を決定づけるのです」

もし私たちが、成果の数字(分子)だけを追い求め、費やしているコストや犠牲にしている人間関係(分母)を無視しているなら、それは長期的に極めて危うい経営であり、危うい生き方だと言わざるを得ません。

6.「Have good friends」か「Be a good friend」か

測定不可能な「人間関係への投資」を巡り、パネラーがシネック氏に問いを投げかけました。「Have good friends」か「Be a good friend」のどちらをあなたは選ぶか?という問いです。

多くの人は、「どうすれば良い友達(仲間)を持てるか(Have good friends)」という結果の果実ばかりを追い求めます。しかし、シネック氏はこう明言します。

「『Be a good friend(自分が良い友達・仲間であること)』。ただそれだけでいい。自分がまず周囲にとっての良い仲間になれば、結果として、あなたの周りは素晴らしい仲間(Have good friends)で満たされるようになる」

もし私たちが、成果の数字(分子)や「何を得られるか」だけを追い求め、自分が相手のために費やすコストや誠実さ(分母)を無視しているなら、それはコミュニティとしても、個人の人生としても、長期的に崩壊していくという厳しい警鐘です。

7.これからのHRに求められる「人間性の最大化」と「Be a good friend」の視座

今回のSHRM2026、そしてサイモン・シネック氏の一連のメッセージを地続きで捉えると、これからのHRが進むべき道がくっきりと見えてきます。

前回のレポートでもお伝えした通り、AIの導入には、日米の法規制や統計的格差に対応する「厳格なリーガル・ガバナンス(守りの土台)」が絶対に欠かせません。しかし、人事がそのガバナンスを効かせ、テクノロジーによって「効率性」を手に入れた先で、本当にやらなければならない「攻め」の仕事とは何でしょうか?

それは、外部環境の激変に右往左往して新しいスキル管理(Capability)を追うことではなく、いつの時代も変わらない「Character(人格・資質)の評価と育成」や「本当の意味でのコミュニティづくり」へと、時間と情熱を大胆に再投資することなのではないかと感じました。

また、個人としてもシネック氏が語った「Be a good friend」という精神は、人事が組織や従業員と対峙する際のスタンスそのものだと感じます。

私たちは、「どうすれば従業員のエンゲージメントを高められるか」「どうすれば良い組織を作れるか(Have)」を測定可能な数字だけでハックしようとするのではなく、まずは「人事として、経営として、私たちは従業員にとって『最高の仲間・伴走者(Be)』であれているか?」という自問自答からすべては始まるのではないか、そんなことを感じました。

忙しい日々の中で、友人に「今、車の運転中で5分しか時間がないんだけど、どうしても声が聞きたくて電話したよ」と伝える。

ビジネスにおいて、そんな「一見非効率で、しかし温かみを感じるような、人間が主役のつながり」を、どれだけ組織の中にデザインできるか。

セッション会場では、多くの賛同拍手のシーンがありました。これは比較的こういったキーノートでセレブリティや有名人ではあるものですが、過去参加したセッションを振り返るとアカデミックな専門家においては多くありません。それほど彼のメッセージに勇気づけられた参加者が多くいたという事でもあります。

AIの進化に惑わされない普遍的な「人間性への投資を続けること」の対札差を感じる、素晴らしいセッションでした。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供する Berkeley Hass Global Access Program にJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。

2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座などを展開している。

保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他

#FunwithHR #EveryHRAcademy

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