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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その陸】夫婦はひとつになれる、つまり、二つに分かれるのではなく、ひとつの全体になれる、私もそう信じている。 ②

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【その陸】夫婦はひとつになれる、つまり、二つに分かれるのではなく、ひとつの全体になれる、私もそう信じている。 オランダ人画家 フィンセント・ファン・ゴッホ ②


 当時、日本の零戦は最高の空戦性能を誇っていたものの、防御力があまりに貧弱過ぎて、弾が一発当たっただけで炎上し、日中戦争以来の一騎当千のパイロットたちが次々と失われていった。

 しかも、あろうことか、「生きて虜囚の辱を受けず、死して罪過の汚名を残すことなかれ」と言われ、撃墜されたら、運良く助かったとしても、携行した拳銃で自害しなくてはならなかった。

 その結果、パイロットはあっという間に、未熟な学徒出陣兵で占められ、米軍から「七面鳥撃ち」と揶揄されて、バタバタと墜とされた挙句、破れかぶれの「神風特攻隊」へと繋がっていった。

 一方の米軍は、貴重なパイロットたちを守るために、戦闘機のコクピット周りの防御力を厚くした。だから、機体が損傷しても脱出し、生き残って再出撃したエースたちが沢山いた。人も資源も豊富な米国が手厚く減耗対策を施し、人も資源も少ない日本が、人も物も粗末に扱う。これではそもそも、端から勝てるはずなど無かったのだ。

「いいね?」

 彼が覗き込んでくる。恐らく、敏生の本音はこっちなのだ。「ながと」戦闘飛行隊の猛者たちを相手に、生き残る訓練が出来るのはまたとない機会。そして、いつか別々に飛ぶことになったとしても、「生き残る」という共通理解があれば、二人は夫婦で居続けられる。

 昨今の世界情勢がきな臭くなって来たからこそ、二人で国を守り、仲間を守りながら、二人が一緒に居続けられることを考える。もはや、どちらが欠けても、生きる意味を見失なうであろう、つがい鳥の二人。

「分かったわ」

 夕陽は再び彼に抱き着くと、自分からキスをした。

「あたし毎日必ず生きて帰ってくるから。そして敏生に毎晩、可愛がってもらうの。あっ」

 ドサッとソファに押し倒される。

「ちょっ、それヤバいって。煽るなよ、ただでさえ可愛すぎるのに」
「えへへ、いいよね?」

 甘えた声を出して、上目遣いに彼を見つめる。大好きな人には可愛く見られたい。このような仕草もだいぶ出せるようになった。

「当り前だろ。で、煽ったからには覚悟は出来てるんだろうね?」

 彼が夕陽の前髪を掻き分ける。

「……覚悟?」
「今から日曜の夜まで丸二日間、トレーニングと食事の時以外はぶっ通しでするからね」
「うっ、うそぉー!?」

 夕陽が目を丸くすると、敏生は夕陽の首筋に顔を埋めてきた。

「本当ですよ、奥さん」
「もう、壊れちゃうよぉ~」

 彼に求められるのは嬉しい。プクッと膨れたフリをしながら、夕陽は彼にしがみついた。

           *

 ウィズウォリアーの選考期間が始まった。普段通りにやれ、とは言われたものの、やはりそこは誰しも力が入ってしまうもの。最精鋭部隊とはいえ、力み過ぎるあまり、普段通りの力を発揮できない者も出てくる。

 とはいえ、そこはタイトルを争うライバルというだけではなく、実戦になれば命を預け合う、大切な仲間たち。お互い、惜しみなく、アドバイスを送ったり、相談し合ったりと、最高の雰囲気が出来上がっていた。

 夕陽は、といえば、敏生と決めた「毎日一緒に生き残る」ことを目標にしているため、力みも消え、常に、良い意味でリラックスして訓練に臨むことが出来ていて、それがこれまでに無い手応えに繋がっている。

「夕陽さん、お疲れ様です!」
「美鈴ちゃん、ありがとう! この子、今日もバッチリだったよ」

 機体を降りると、両手でグータッチを交わす。

「射爆訓練、絶好調だったみたいですね。勝野隊長アーサー水島副隊長ポッターが話しているの、聞いちゃいました」
「え? 何て?」
「詳しくは分からないんですけど、イデアは凄く成長したな、って二人で話しているのが聞こえました」
「あ、そうなんだ」

 平静を装うも、その二人に認められるのは正直、嬉しい。出来ることなら、彼と一緒に結果を示して、夫婦で飛ばせてもらっている恩に報いたいところだが、焦りは禁物。

「やっぱり、愛しのダーリンとのあまーい結婚生活が好調の要因ですか?」
「そっ、そんなんじゃないってば」

 美鈴の突っ込みに顔が火照る。図星だったが「もう一つの彼との約束」まで、鋭い彼女に見透かされないかと冷や冷やする。

 ちらっと隣の機体を窺うと、敏生と坂本が身振り手振りを交えて話をしている。

「坂本君、何か雰囲気変わったね」
「あ、分かります?」
「うん。だいぶ柔らかくなった感じ?」
「でしょー」

 嬉しそうに笑う美鈴。どうやら順調のようだ。

「今度、また話聞かせてよ」
「了解!」

 美鈴はおどけたように敬礼すると、跳ねるように機体のラダーを駆け上がっていった。

 夕陽は一息つくと、遠巻きに彼を待つ。やがて、彼がポンと坂本の肩を叩くと、こっちに向かってきた。

「ごめん、お待たせ」
「ううん。どこか悪いところでもあったの?」
「いや、微妙なチューニングをお願いしただけだよ」
「そう、良かった」
「それより凄かったね、射撃訓練。いい結果が出るんじゃない?」
「うん。何か、感覚が掴めてきたというか、視野が広がったというか」

 恐らく、敏生の目標設定のおかげだ。常に気負い気味だったところを、一歩引くことで、今までとは異なる景色が見え始めている実感があった。

「良かった。俺もうかうかしてられないな」

 嬉しそうな彼に、夕陽の気持ちも浮上する。ロッカールームで装備を外してからブリーフィングルームに入ると、二人が最後だった。

「よし、これまでの中間結果を発表するぞ。各訓練、上位三名まで発表する」

 訓練開始から二週間。ちょうど一クールが終わったところだ。水島が手元の集計結果を読み上げる。

「まずはACMだ。1位はガイア、25ポイント。2位はアッシュ、23ポイント。3位、ナッツ18ポイント」

 順当な結果だ。夕陽は敏生のサポートに徹していたので、高ポイントが取れていないことは分かっていた。

「次。スクランブルは1位、ガイア、25ポイント。同じくアッシュ、25ポイント。3位、イデア、24ポイント」

 おおっ、と声が上がる。スクランブルは千歳時代から実戦経験を積んでいただけに、自信があったが、ここまで高得点とは。

「次は爆撃。1位はガイア、25ポイント。2位はアッシュ、24ポイント。3位ナッツ、22ポイント。同じくイデア、22ポイント」

 どよめきが起こる。

「ええっ!?」

 自分が上位に食い込むとは思っていなかった。それも、爆撃のスペシャリストである滑川と同点とは。

「最後は射撃だ。1位ガイア、25ポイント。同じくイデア、25ポイント。3位アッシュ、23ポイント。同じくティーダ、23ポイント」

 ワッと歓声と拍手が上がり、思わず口元を抑える。信じられない。手応えはあったが、まさか敏生と、パーフェクトでの同点一位とは。

「まだ一クールが終わったところだ。名前を呼ばれなかった者もまだ挽回は可能だ。課題を整理して巻き返せ。上位者は油断せず、引き続き励め。ウィズウォリアーに関しては以上だ!」

 全体のディブリーフィングが終わり、編隊毎の打ち合わせに移る。

「やったな、夕陽」
「ううん、やっぱりまだまだよ。敏生は全種目パーフェクトだし」
「それは夕陽が俺のサポートに徹してくれているからだよ。特にACMは夕陽が高ポイント獲れたはずなのに」

 気持ちを持ち上げてくれる、優しい彼。だが夕陽が一番分かっている。彼の凄みを。射撃は敏生もパーフェクトだったが、それでも坂本に「微妙なチューニング」の注文を出していた。自分は自身と機体の調子に満足して、美鈴とはしゃいでいただけ。これが自分と彼の圧倒的な差だ。

「どうする? 夕陽がタイトル獲りたいなら……」

 夕陽は静かに首を横に振った。

「ううん。あたしにはまだ早いわ。今のあたしにはもっと、やらなくちゃいけないことがあるから」

 夕陽の表情に察したのか、敏生は柔らかく微笑むと頷いた。

「……分かった。じゃあ、今回は遠慮なく行かせてもらうよ」
「うん! あたし、全力でサポートするから!」
「ありがとう。俺、頑張るからね」

 今はただ、一緒に飛べているうちに、彼の、日本最強の天才パイロットの一挙手一投足全てを、その目と脳裏に焼き付けておきたい。それが、まごうことなき本音だった。

           *

 ウィズウォリアーのタイトル争いが佳境を迎えた晩秋のある日、夕陽は敏生の僚機として、共に観閲式での観閲飛行を命じられた。

 観閲式は陸海空の三自衛隊が、一年毎に持ち回りで開催する、一大イベント。観閲官は自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣で、隊員の自覚と士気高揚を図り、国民の理解と信頼を深めることが目的だ。

 今年は陸上自衛隊が実施する番で、会場は埼玉県の陸上自衛隊朝霞訓練場。ここで、内閣総理大臣や防衛大臣、三自衛隊の上級幹部たちが見守る中、低空でフライパスをする。

 例年であれば部隊指揮官の勝野が一番機を務めるのだが、女性活躍推進と、夫婦共働きの開かれた職場をアピールしたい海幕が、二人に白羽の矢を立てた。もっとも、それ自体が勝野の差し金だったのだが。

〝まあ、お前らにとってのバージンロードみたいなもんだ。楽しんで来い〟
 そう、ニヤリと笑った部隊指揮官。

「いいのかよ、厳かな観閲式を私物化して。あのおっさん」

 機体を降りた敏生がボソッと愚痴る。

「でも、最終的には海幕の命令なんでしょう? あたし観閲飛行初めてだから緊張するわ」
「大丈夫。航空祭のフライパスと一緒だよ。秒単位の調整にはなるけど、ブルーみたいにオーケストラのタイミングに合わせてレベルオープナーとかやるわけじゃないから」
「うん。敏生と一緒だし安心」

 夕陽はにっこりと笑うと、列線を見渡した。

 茨城県にある、航空自衛隊百里基地。観閲を受ける大小様々な空自、海自の航空機が続々と集まってきている。

 かつて慣れ親しんだF15イーグルも並んでいて、どことなく懐かしい。観閲を受ける航空部隊は一旦、ここに集まり、時間に合わせて順番に発進することになっていた。

 二人並んで待機所に向かいかけた時、

「夕陽! 敏生君!」

 と、背後から女性の声に呼び止められた。振り向いて目を見開く。

「紀美!? ええーっ、うそ、こんなところで!」
「やっぱり夕陽だ! 会いたかったぁ!」

 航空学生時代に苦楽を共にした親友の築城紀美ついきのりみ三等空尉だった。自分とは違い、ふわっとした柔らかい雰囲気を持つ、可愛らしい彼女。あの頃と少しも変わっていない。

 手を取り合って再会を喜ぶ。



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