アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その玖】良い結婚ほど素敵で、友好的で、魅力的な関係、結びつきや仲間は存在しません。 ③
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【その玖】良い結婚ほど素敵で、友好的で、魅力的な関係、結びつきや仲間は存在しません。 ドイツ人神学者 マルティン・ルター ③
両親との食事を終えてホテルに戻ると、少し休憩してから二人でジムに行き、汗を流すことにした。
出てきたタイ料理がどれも美味しくて、食べ過ぎた自覚があるので、いつも以上にカロリーを消費しなくてはいけない。
上陸中であっても、一通りのメニューでしっかりと身体をいじめ抜くと、部屋に戻り、そのままの流れで、お互いにサポートしながらクールダウンのストレッチに取り組む。
「お義父様とお義母様はやっぱりすごいな。あの歳で殻を破って日本を出て、自分の考えを改めたり、反省したりするなんて、なかなか出来ないことだよ」
ストレッチをしながら熱っぽく話す彼に、夕陽はクスリと笑った。両親と彼の仲が良いのは、自分としてもとても喜ばしい。
「何言ってるの。すごいのは敏生の方だよ。うちの両親を変えたのは絶対に敏生だもん」
彼にピタッと寄り添いながら、腕を抱えて肩の筋肉を伸ばす。
「人は他人を変えられないよ。人が変わるのは、あくまでも自らの意思だから」
「そうかもしれないけど、そのきっかけを与えてくれたのは敏生だよ」
「そうだとしたら嬉しいけど」
彼は照れたようにはにかむと、ストレッチを終えて、立ち上がった。
「さて、シャワー浴びちゃおうか。夕陽、先に入ってきな」
「うん。……一緒に浴びる?」
「え?」
「ダメ?」
「だっ、ダメじゃないけど。ええ? マジで?」
彼がかなり驚いている。それはそうだ。今まで、一緒のお風呂だけは恥ずかしいと、誘われてもずっと断り続けていたのだから。
夕陽自身、南国の熱に絆されている自覚はあった。
「……みんなには悪いけど、せっかくの上陸日だし、ちょっとくらいはハネムーン気分もいいかな、って。……いいですか? 上官殿」
上目遣いに彼を見ると、ガバッと抱きしめられた。
「いいです! 全く問題ございません!」
「きゃっ、ちょっと、自分で脱げるからぁ!」
「こういうのは雰囲気なのであります!」
「何で敏生が部下口調なのぉ!?」
完全に火が着いてしまった彼。シャワーも洗いっこだけで済むわけもなく、散々に貪られた。シャワーを終えた後はさすがに落ち着き、いつものように、丁寧にドライヤーで髪を乾かしてくれたと思いきや、またも、すぐさまベッドに連行され、たっぷりと可愛がられる。
もちろん、この上なく幸せで、久しぶりの癒しのひとときに、身も心も満たされていく。
「……いっぱいしちゃったね」
「まあ、夫婦だからね」
彼に抱かれ、厚い胸板に頭を預ける。
「避妊しなくても良かったのに」
帰港まであと8日。結婚式が終わって落ち着いたら、という話をしていたので、昨日から薬を飲むのは止めていたのだが。
「これで出来ちゃったら、上陸日にしたことが、出産予定日で周りにばれちゃうからね」
「あ、そっか」
あんなに情熱的だったのに、しっかりと理性も残していた彼。
「その代わり、戻ったら予定通り妊活始めようか?」
「うん! ……あたし、赤ちゃん出来るかな?」
「こればっかりは授かりものだからね。俺が原因で出来ない可能性だってあるし、出来なかったら出来なかったで、仕方ないよ。その時は深刻にならずに、二人で楽しく生きて行こう」
「うん。そうだね」
彼は、何かとすぐに深刻になってしまう自分のことを良く分かってくれていて、出来ないことで悩まないように気を遣ってくれている。
彼にそっと唇を寄せようとしたところで、ピロン、と枕元のスマートフォンが鳴った。
「ん? 誰だろ?」
起き上がり、手に取って画面を開く。
「ええっ!?」
「どうしたの?」
「これ……、紀美から」
振り返って画面を差し出すと、敏生が後ろから夕陽を抱きしめて、画面を覗き込む。写っていたのは、紀美と川越が仲良く寄り添ったツーショット。
『彼の過去も全て背負って頑張っていくつもり。応援してくれると嬉しいです』
とのメッセージが添えられている。
「……そっか。そっかぁ……」
敏生は感極まった様子で口元を抑えていたが、やがて、ボロボロと涙を流した。
「良かった……。本当に良かった」
仲間想いで涙脆い感激屋に、夕陽も貰い泣きする。こんなところがたまらなく愛おしくて、彼の頭をそっと撫でる。
『おめでとう! 敏生も横で泣いてます』
『ありがとう。二人の素敵な結婚式があたし達を後押ししてくれました。また今度、会おうね』
『うん! 川越さんとお幸せに!』
幸せな気持ちでSNSのやり取りを終えると、スマホを枕元に置いた。敏生はまだ鼻を啜っている。
「ふふ。敏生可愛い」
「言うなよー」
恥ずかしがって目を逸らす彼。夕陽はクスッと笑うと、夫を胸に抱きしめた。
「仲間のために涙を流せる敏生が大好き。ありがとう、半分は紀美のために泣いてくれて」
彼の髪に頬ずりすると、子供のように甘えてくる。
「あたし、敏生と出会ってよかった」
「うん」
「あたし、敏生が初恋の人でよかった」
「うん」
「あたし、敏生と結婚してよかった」
「でへへ」
彼が嬉しそうに、胸に顔を埋めてくる。
「あたし、敏生と出会って、初恋にすごく戸惑って。恋愛って、どうすれば良いかも全く分からなかった。でも、色んなカップルさん達に出会って、それぞれ、色んな形があることが分かって。あたし達にはきっと、あたし達だけの色があるんだよね」
愛おしい彼の髪の毛を弄りながら語りかけると、敏生が見上げてくる。とても優しい目。
「俺たちの色はアホウドリの空色、かな。隊長の祝辞、良かったな」
「うん。あたし、アホウドリが大好きになっちゃった」
結婚式が異様な盛り上がりを見せる中、場を見事に締めてくれた勝野の祝辞。
人間への警戒心が無く、簡単に捕まえられることから、不名誉な名前を付けられたアホウドリだが、実は飛行能力が鳥類の中でも抜群に優れていて、ダイナミックソアリングと呼ばれる飛び方で上手く海風を捉え、一度で一万マイル(一六、〇〇〇キロ)を飛行し、その生涯の殆どを空で過ごすこと。
ゴルフでホールインワンよりも難しいと言われる「アルバトロス」は、アホウドリの英語名で、この飛翔能力の高さから名づけられたこと。
そして何より、アホウドリは一度、つがいになると、生涯、パートナーを愛し続けること。
冒頭にこれらを説明した上で、二人の祝辞へと繋げていった勝野。
〝二人にコンビを組ませたのは何を隠そう、この私です。新人の頃から天才パイロットと称された敏生君と、二年目にして千歳のトップを獲った秀才パイロットの夕陽さん。この二人は、私が教導群に居た時から見てみたい、と思っていた組み合わせでした。なので、海自にながと飛行隊が編成され、初代隊長を拝命した私が、空自から優秀な若手を選んで一緒に連れて行け、と言われた時、私は迷うことなく、二人を私の下に呼びました。もっとも、最初の頃は、朗らかで鷹揚な敏生君と、潔癖で生真面目、かつ心配性な夕陽さんが事あるごとにぶつかり、ハラハラとしたものでしたが〟
当時を知る者たちから、ドッと笑いが起こる。
〝でも、私が見立てた通り、二人は直ぐに、良い意味で化学反応を起こしてくれました。お互いの強みでお互いの弱みを補い合い、様々な困難を乗り越えることで、二人が次第に強い絆で結ばれていくのが分かりました。二人の、極限まで磨き上げられていく操縦能力と、その、とても仲睦まじい様子から、いつしか、まるでアホウドリのような二人だな、と思えるようになりました。そんな二人が、プライベートでも恋人同士になり、そして今日、この日を迎えられたことは、私にとっても無上の喜びでございます〟
そう。勝野は二人を引き合わせてくれた、そして、自分たちをこれまで、温かく見守ってきてくれた最大の恩人。感謝してもしきれない。
〝そんな愛すべきアホウドリたちが日々、努力を重ねてこの日本の空を守っています。国民の皆様方の、そして何より、愛する家族や友、恋人、そして自分たちの幸せを守るため、日夜、腕に磨きをかけ、隙の無い備えでその実力を見せつけることで、戦わずして守る自衛隊の矜持を実践しています。本日は最高指揮官である久峨総理大臣もご臨席されておられますので、私は幸せな二人の生命を預かる指揮官として、これだけは言っておきたい。平和を一番望んでいるのは、私たち、服務の宣誓をして、国防の最前線に身を投じている自衛官です。願わくは、二人の、そして私たちのこの日々の努力が全て無駄となり、アホウドリの空が未来に渡り平和たることを祈念して、私の祝辞に代えさせていただきます。敏生君、夕陽さん、今日は本当におめでとう〟
万雷の拍手。首相の久峨も勝野の祝辞に応えるように、深く頷きながら拍手をしていたのが印象的だった。手前味噌ではあるが、とても良い結婚式だったと、心の底から思える。
だから。
「アッシュと葵さん、隊長と瑠美さん、佐那ちゃんと彼氏さん、美鈴ちゃんと坂本君、槙村さんと若葉さん、かどやの大将と女将さん、敏生のご両親とあたしの両親。そして紀美と川越さん。みんな、アプローチは違うけど、それぞれの幸せに向かって頑張ってる。だからあたしも、もっともっと頑張って、もっともっと敏生と幸せになりたい」
絡め合う指。敏生はそっと起き上がると、夕陽の頬に手を添えた。
「この先、多分、俺たちを取り巻く環境は目まぐるしく変わっていくと思うけど、俺たちの未来はずっと、ずっと一緒だからね」
「うん。ずっと。アホウドリのように、ね」
微笑み合うと、二人は抱き合い、お互いの温もりに身を委ねながら、眠りについた。二人なら、もう何も怖いものなど無かった。
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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 ①|京
