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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その伍】閑話休題 友情は翼のないキューピットである。 ①

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【その伍】閑話休題 友情は翼のないキューピットである。 第六代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロン ①


 もともと引っ込み思案な性格だ。そんなことは分かっている。

 基本的に一人で居るのが好きで、社交的な場は苦手。合コンなどはもっての外だ。かといって、引きこもりという訳でもなく、アイドルや二次元の女の子に殊更、興味があるという訳でも無い。

 子供の頃からの趣味は、軍用機の写真を撮ったり、模型を作ったりすること。だからオタクであることは甘んじて認めよう。それが高じてこの職業に就くことになったのだから。

 でもやっぱりこういう場は苦手だ。職場の懇親会。しかも、いつにもまして女子の比率が高い。他の部隊の女の子までわんさといる。

 理由は分かっている。隣に座る、自分より七階級も上の、超絶イケメンの男。

「おい、聞いてんのか? わたる?」
「あ、は、はいっ。聞いています!」
「いいか? 一年半に渡るアプローチの結果、夕陽とめでたく付き合えることになったわけだが、恋人になったらなったで、彼女はそりゃもう、これまで以上に可愛くて可愛くて、堪らんのよ。で、外堀を埋めちまおうと、速攻、両親にも会わせて、向こうのご両親にもご挨拶に行った。何となくだけど、彼女もその気になってくれている感じがしたから、さり気なくウィンドウショッピングデートを装って、エンゲージリングを見に行ったんだ」
「はあ」

 俺は一体、何を聞かされているんだろう。彼に押し付けられたテキーラサンライズをちびちびと口にしながら、縮こまる。

「でさ、すごく彼女にお似合いのリングがあったから、指のサイズも知りたかったし、試着させたんだよ。で、彼女も気に入ったみたいでうっとりしてたし、これはいける、と思ったら、急に指輪を外してお店を出ちゃってさ。〝いくらなんでも高すぎる!〟って怒られた……。なあ、これってどう思う? 脈なしか?」
「そ、そんなこと俺に聞かれても、恋愛経験もないし、分からないですよ」
「……お前、もしかして童貞か?」
「……」
「なんだ、本当に童貞なのか? そうかそうか。まあ最近は絶食系男子とかいうのも流行ってるしな」

 彼が何故だか嬉しそうに、バンバンと自分の背中を叩いてくる。

「はぁ~。分かんねえよ~。俺、あのうっとりを信じて、買っちゃったんだよ、指輪。夕陽はプロポーズ、受けてくれると思うか?」

 そんなこと、相談する相手を間違えています、とは口が裂けても言えない。

「心配されなくても、神月三尉は待っていらっしゃるのではないでしょうか? 笑顔を見せられるのは門……トシさんの前だけですし」

 階級で呼ばれるのを嫌がる彼の躾を思い出し、慌てて名前呼びに切り替える。彼は満足気に頷くと、テーブルにうつ伏せた。

「恋愛と結婚は別だろう? せっかく付き合えたのに、夕陽にその気が無くて、関係が壊れちゃったらどうすればいいんだよ? あー、むちゃくちゃ可愛いんだよな、あの笑顔。ちくしょう、もういいや俺。あの笑顔を見られるだけで」

 そうだ、見ているだけでいい。自分にとっては高嶺の花だ。そう言い聞かせ視線を送る先には、仲間と楽しそうにはしゃぐ、華やかな彼女の姿。地味でオタク系の自分には決して手の出せない、遠い存在。

「ん? おい航。なに夕陽のこと見てんだよ? お前まさか、夕陽のこと……」

 いつも陽気で気の良い彼も、根は猛禽類のファイターパイロット。そのまるでイヌワシが探るような目つきに背筋が凍る。まずい。彼のIFFが自分を敵と認識する前に誤解を解いておかなければ。

「ちっ、違います! 自分が見ていたのは神月三尉じゃなくてその……」

 その言い訳に彼が後ろのテーブルを再び振り返る。

「もしかして、美鈴か?」

 さすがだ。一瞥しただけで判別出来るその状況判断力こそ、彼が自衛隊史上最強と言われる所以。観念すると弱々しく頷いた。顔が火照るのはきっとテキーラのせいだ。

「なんだ、お前。美鈴のことが好きなのか?」
「あ、いや……好きというかその、いいなって……」
「じゃあ墜とせばいいじゃん」
「なっ……、お、俺にはむ、ムリですよ! 見ているだけで充分です!」

 何を言い出すんだ、この人は。相手は「ながと」のアイドル、谷口美鈴。数多のイケメン隊員達が骨肉のバトルロイヤルを繰り広げている状況下で、自分のようなオタク系男子が割って入れる訳がない。絶対に瞬殺だ。

「何で? お前、男の俺から見てもいい線いっていると思うぜ?」
「そ、そんなことないです! じっ、自分はトシさんのようなモテモテのイケメンじゃないですから!」
「あのなー、誰がモテモテだって?」

 彼の腕が肩に回る。絡み酒、完全な酔っ払いだ。いや、彼はお酒にはかなり強いはず、こまで酔うのは尋常じゃない。そんなに、プロポーズへの不安が大きいのだろうか?

「確かに生まれてこの方、女に不自由したことはなかったけど、本気で惚れた女の子にはどう接していいのか、いまだに掴めん。そういう意味では俺もお前と同じ穴のムジナ」
「は、はあ……」
「でだ。美鈴のやつ、彼氏いないからチャンスあるぜ。それにあいつはルックスより内面重視だし、ヒョロっとした誠実な真面目君が好みだから、お前なんてうってつけだ」
「……軽くディスられている気がするのは気のせいですか?」
「ばかやろう。あいつは俺にとって可愛い妹みたいなもんだ。フザけた野郎には嫁にやれん。俺の大切な機付長殿であるお前なら認めると言ってるんだ」
「あ、あの、大丈夫ですから。お気持ちだけで」
「そうか。よし、じゃあ待ってろ。おい! 美鈴!」

 聞いちゃいない。こうなる予感はしていた。この後、想定される事態に身体が硬直する。

「なんですかぁー?」
「席チェンジだ! いつまでも俺の夕陽を独占してんじゃねえよ!」

 彼は立ち上がるとズカズカと二人の間に入り込み、美鈴をしっしと追い払う。

「はいはい」

 いつもの展開に美鈴は心得たように、笑いながらビールジョッキ片手に席を立った。

「ちょっとー、せっかく美鈴ちゃんと盛り上がってたのに」
「いーのいーの。美鈴、お前の席はあそこな」
「了解」
 門真の指示に美鈴が十度の敬礼をする。

「もーう」
 頬杖をついて膨れるも、どことなく嬉しそうな表情を浮かべる女性エースパイロット。

「ここいいですか? 坂本三曹」

 きた。追い出された美鈴が笑顔で覗き込んでくる。その眩しさに、目を合わせることすら適わない。

「あ、ああどうぞ」

 そっと席を離す。迂闊にパーソナルスペースに入って嫌われたりしたくない。

「ほんとあの二人、イチャつき過ぎですよね~。もう、結婚しちゃえばいいのに」

 早速、嬉しそうにじゃれ合い始めた二人を、楽しそうに眺める美鈴の目に、一瞬どことなく憂いが含まれていた気がして、ふと頭に浮かんだ疑問が口をついて出てしまった。

「た、谷口はもしかしてトシさんのことが好きなのか?」

 びっくりしたような目で美鈴が自分を見つめてくる。まずい。失敗した。

「えっ? あははっ、何ですかそれ~?」

 美鈴は可笑しそうに肩を揺らすと小首を傾げた。

「大好きですよ? 一人の人間として。あたしにとっては頼りになるお兄ちゃんですから」
「そっか……」

 どうやら自分の勘違いだったようだ。というか、何を言っているんだ、俺は?

「どうしたんですか?」
「あ、いや、別に」

 ただでさえ、女子と話すことに免疫が無いのに、いきなり高嶺の谷口をあてがわれたのだ。上手くやれという方がどうかしている。どうやって二の句を継ごうか、一人あたふたしていると、ポンと肩に手が乗った。

「おい、坂本。席替われ。交替」

 そこに立っていたのは、美鈴をつけ狙うイケメン隊員の一人、ながと管制班の桑野二曹だった。てめえ何やってんだ? と言わんばかりの、有無を言わさぬ迫力。

 これはある意味、良い助け舟かもしれない。元々自分には無理目の彼女だ、荷が重い。そう思い、言われるままに立ち上がりかけたのだが。

「ダメです。あたし、今から坂本三曹とおしゃべりするんですから」
美鈴は立ち上がりかけた坂本の袖を引っ張ると、座るように促し、桑野を睨みつけた。


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