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雪の降る街で 第十二章 「追憶」 ③

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この作品はフィクションです。実在の人物団体事件出来事とは一切関係ございません。


第十二章 「追憶」 ③


 万代島埠頭への道は二本。国道113号線と信濃川沿いの市道の二手に分かれて突き進む。

 まもなく仲木戸が立て籠もるアイビスタワーを直に望む。そうなれば向こうからは丸見え、もう全速力で突っ込む必要もない。

「速度落とせ。ここから先はこれまでに無い状況に遭遇する可能性がある。ヒット・アンド・アウェイで行くわよ。無理はしないで」

 恐らくもう、無傷では済まない。

「二号車、菊名、了解! 貴女の下で戦えて幸せでした!」
「三号車、南野、了解! 正義は我らにありだ! とことん行くぜ!」
「四号車、大口、了解! 必ず生きて還りましょう!」

 杞憂だった。彼らもしっかりと状況を理解している。

 藍は頷くとモニター画面を睨んだ。

「ジンさん。コウ君。今まで本当にありがとう。貴方達に出会えて、あたしは幸せでした」

 偽らざる本心。

 今、話せるうちにこれだけはどうしても二人に伝えておきたかった。

「おいおい、水くせえな。これからもずっと一緒だろ?」
「ですよ。もう一度、みんなで富士山拝みましょう。スキーの約束、忘れてませんよね?」

 照れ臭そうに返してくる二人。

「そうだったね。スキー覚えなくっちゃね」

 藍は笑いながら涙を拭うと、気持ちを切り替えた。

 あと少しでタワーが立つ万代島埠頭に差し掛かる。その時だった。 

「三号南野! 敵車両発見! って、嘘だろ……あれはっ!!」

 次の瞬間、三号車の無線が途切れた。

「三号車!! 南野一曹!?」

 撃破された? 冷たいものが背中を伝う。

「三号車被弾!! 敵はっ、敵は米軍のエイブラムスです!!!」

 えっ? 

 大口の報告に藍が耳を疑う。

 M1A2エイブラムス。

 米陸軍が誇る、世界最高峰の主力戦車。突如出現した強敵に戸惑うも、今はその理由を考えている暇など無い。

「三号車健在! かすっただけのようですが、無線をやられた模様!」

 良かった、生きていた。

「何両いる!?」
「二両確認! 一両そっちに行きました!」
「よし! コウ君、あの陸橋の下で待機して。菊名曹長、あたしが囮になる。頼んだわよ」
「しかし!」
「大丈夫、あたしの砲手と操縦手は凄いんだから。知ってるでしょ?」
「分かりました。ジンさん、コウ! 俺らの姫を頼んだぜ?」

 菊名の物言いに相原が舌打ちする。

「おい、誰に物言ってんだ? 菊名」
「ホントっすよ。俺のドラテクに敵う奴なんか居ませんって」

 二人の反応に藍の口角が上がる。

 四号車が補足した敵戦車の情報はGPSを通じてそのままC4Iシステムにリンクされ、モニター画面上に現れる。徐々に縮まっていく間合い。

「今よ! コウ君!」
「うっしゃ! ゲロ袋忘れないで!」

 光一は一気に加速すると敵戦車の前に躍り出た。

 こちらに気づいたエイブラムスが照準を合わせてくるところを、光一が巧みなスラローム走行で翻弄する。

―ッ!!!」

 二号車の一二〇ミリ滑空砲が火を噴く。

「命中!」

 会心の直撃弾と思われたが。

「敵戦車健在!」
 
 くっ! 

 やはり演習とは違う。

 お互い第四世代の最新鋭戦車同士、しかも米軍のエイブラムスは乗員の生存性を極限まで高めるための設計が施されており、簡単に撃破は出来ない。

 正にヘビー級ボクサーの殴り合い。相手より一発でも多くの砲弾を撃ち込むだけだ。

「ジンさん照準!」
「隊長! 後方よりさらに二両出現!」

 囲まれた!?

「みんな落ち着いて! 一〇の専売特許はスラローム射撃よ!」

 予想外の敵の出現にパニックに陥りかけた配下達を引き戻す。

 落ち着きさえ取り戻せば練度は今やこちらが上のはず。仲間を信じ、目の前の敵を撃破するだけ。

「撃ッ!!」

 命中! 

 だが劣化ウランプレートに覆われた避弾径始の傾斜装甲は強固だった。

 やはり容易に敵の装甲を破ることは出来ない。逆にエイブラムスの一二〇ミリ滑空砲が炸裂する。

 ガアアン!!!

 衝撃が三人を襲う。間一髪、側面を掠っただけだが凄まじいまでの威力。

「コウ君! 懐に飛び込んで!」
「うああああああっ」

 光一の渾身の操車にエイブラムスの砲身がぶれる。

「今よ!」
「ヤロウ! 仕舞いだ!!」

 相原がトリガーを引く。

 至近から放たれた徹甲弾APFSDSはエイブラムスの砲塔の付け根に命中すると、そのまま貫通し内部で炸裂した。

 断末魔。火柱が上がり、砲塔が吹き飛ぶ。だが、安堵には早い。

「みんなは!?」
「藍ちゃん! 菊名がやばい!」

 潜望鏡を回すと、藍を守るため新手の二両を引き付けていた二号車が挟まれている。

「反転するわよ! ジンさん、掩護射撃!」
「おう!」

 群を抜く相原の腕前。光一の鋭い反転を物ともせず、確実に的を捉えた。

 命中箇所は側面装甲。

 超高速で着弾したAPFSDSがユゴニオ弾性限界を超え、火柱が上がる。

 停止する敵戦車。 

「撃破!!」
「やった! ジンさん!」

 残るは菊名の二号車が相対する一両。

 一対一の格闘戦となれば機動力と自動追尾照準に長けた一〇式が有利だった。

 二号車は見事な操車で敵の隙を突いて背後を取ると、最も脆弱な後部装甲にAPFSDSを撃ち込んだ。

 爆発炎上するエイブラムス。

「隊長、助かりました!」
「お礼を言うのはこっちよ。大口一曹! そっちの状況は!?」
「何とか仕留めましたが履帯をやられました。自走不能です」

 三号車は無線をやられ、四号車は擱座。どうやらここまでだ。

「分かった。まだ敵がいるかもしれないわ。すぐ脱出して。菊名陸曹長、彼らの回収をお願い。三号車にも帰投するよう伝えて頂戴」
「了解!」

 藍は頷くと、傍らの折り畳み式八九式自動小銃を手に取った。

「ジンさん、この子一号車をお願い。街はほぼ制圧したとはいえ、護衛が二号車だけだと心配だわ。一緒に野営地に戻ってあげて」

 弾丸をセットしながら相原に指示を出す。

「おいおい。何するつもりだ、藍ちゃん」

 無線越しの弾薬装填音に驚いた様子の相原。

「決着を付けに行く。止めても無駄よ」

 相原はふーっと息をつくと、微笑んだ。

「あいつらなら大丈夫だ。それより藍ちゃんを一人にしておけるかよ。なあ、コウ」
「はい。ここまで来たら最後まで一緒です」
「ジンさん……、コウ君……」

 これは自分の戦い。巻き込みたくない。だが、この二人はきっと許してくれないだろう。

「分かったわ。一緒に行きましょう」

 曇天の下に聳え立つ超高層ビル。

 全てに決着をつける。この戦いにも、そして自分自身にも。

 その先にあるのは果たして破滅か、絶望か、はたまた一縷の希望か。それが運命さだめであれば受け入れる覚悟は出来ている。

 藍は口を真一文字に結ぶと、ハッチに手を掛けた。


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あとがき

 最後の最後で、まさかの、米陸軍のM1A2エイブラムスとの戦車戦闘勃発でした。

 なぜここに米軍がいたのか? はい、もちろん内緒です💦

 そしていよいよ、仲木戸のところへ向かう藍。
 彼女を待ち受ける運命は果たして?

 次回より第十三章「終幕」、11月27日(木)に掲載予定です。
 
 エピローグも含めてあと6回、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです🙇‍♀️