お茶室を作れるかもしれない②
前回の続きです
「痛んだ柱があるから、一度見に来てほしい」
と言われた。
よくある修理の話だと思っていた。
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後日、現場に行くと、
そこには埃をかぶった古い茶室があった。
問題の柱は「床柱」だった。

その床柱が、虫に食われていて
中はスカスカになっていた。
見た目は立っているが、
中身はもう持っていかれている状態だった。
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そして、その方は茶道の師範だった。
なるほどと思った。
この茶室は、ただの古い部屋じゃない。
長年使われてきた場所だったんだと分かった。
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ここで仕事の話になる。
依頼はこうだった。
「この柱を直してほしい」
「できれば壁は壊さずに」
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正直、一瞬止まった。
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床柱はただ立っているわけじゃない。
周りの塗り壁や天井、床の間と一体で納まっている。
簡単に抜き替えできる場所じゃない。
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しかも丸太の柱。
一本一本がその場所に合わせて納まっている。
同じものは存在しない。
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それを壁を壊さずにやる。
しかも塗り壁を傷めずに。
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かなり難しい仕事になる。
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頭の中で段取りを考えた。
どこから触るか。
どうやって外すか。
そもそも外せるのか。
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普通にやるなら一回バラす。
それが一番確実だと思った。
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するとその方が言った。
「難しそうなら、虫食いのあとを埋めてくれればいいよ」
「パテで埋めて塗装でもいい」
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え?
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それでいいのかと思った。
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確かにそれならすぐ終わる。
パテで埋めて、色を合わせて、
見た目だけ整える。
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でもそれは、
“直した”と言えるのか。
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床柱はただの柱じゃない。
空間の印象を決める場所。
言ってしまえば、茶室の顔だと思っている。
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そこを塗装で仕上げる。
見た目は綺麗になるかもしれない。
でも間違いなく浮く。
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お客さんは気にしないかもしれない。
「とりあえず子綺麗になればいい」
その感覚も分かる。
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でも、自分は気になる。
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それを分かっていてやるのか。
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その場では、
「一度持ち帰らせてください」
「見積もりを出します」
そう伝えて帰ってきた。
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帰り道、ずっと考えていた。
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簡単に終わらせるか。
ちゃんとやるか。
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そして、決めた。
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ちゃんとやろう。
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床柱を入れ替える。
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もちろんリスクはある。
材料費も安くない。
柱は1本数万円から数十万円
失敗すれば無駄になる。
壁を傷めれば、塗り直しになる。
余計なコストも発生する。
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全部、自分に返ってくる。
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それでも。
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あの空間に対して、
中途半端な仕事はしたくないと思った。
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こういう仕事をやりたかったはずだ。
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壊して作るだけじゃなく、
残して活かす仕事。
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その覚悟があるのか、
試されている気がした。
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まだ正式に受けるかは決まっていない。
見積もりもこれから。
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でも、やるなら逃げない。
失敗すれば自腹を切って弁償すればいい。
それくらいの覚悟をしないと高級な材料は触れない。
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そう決めた。
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続く。
