『ゴールド ―境界の国―』第8話「春の治療室」山奥さん&まなつさん編
今回はこちらのイベントに参加させていただきます🌳
山奥さんのテーマは「自然」。🌳🌲🌳🪵💧💦
『ゴールド ―境界の国―』の世界で描く、FFさんバージョンの物語です。
どうぞ楽しんでいただけたら嬉しいです💓

本編の中にまなつさんの
おにぎりイベント🍙が出てきます。
イベントが気になる方はこちら💁♀️

『ゴールド ―境界の国―』
第8話「春の治療室」山奥さん&まなつさん編
その日、天衡舘には珍しく慌ただしい空気が流れていた。

普段は静かな廊下を、何人もの職員が行き来している。
記録板が次々と更新され、足音が絶えない。
JAU・ゴールドは立ち止まった。
「何かあったんですか」
近くにいた職員へ声をかける。
だが返事はない。
皆、どこか焦っていた。
その時だった。
廊下の向こうから、人が運ばれてくるのが見えた。
黒い衣。
見慣れた姿。
JAU・ゴールドは目を見開いた。
「……山奥さん?」
思わず声が漏れる。
誰よりも崩れないと思っていた人だった。
その山奥さんが、静かに運ばれていく。🚑
周囲のざわめきが耳に入る。
「過労らしい」
「ありえない……」
「天衡舘の管理者だぞ」
JAU・ゴールドはただ、その背中を見ていた。
初めてだった。
世界を支えている人が、人間に見えたのは。
均衡を守るために、感情を切り捨て続けた結果……。
山奥さんは、自分自身を壊しかけていた。
春の風は、森の国だけ少し違っていた。
柔らかいのに、静かだった。

木々の間を抜ける風は葉を揺らし、小さな花びらを空へ運んでいく。
森の国には治療室がある。
身体だけでなく心も整える場所だった。
その日、森の国には珍しい来訪者がいた。
天衡舘管理者。
ゴールド保持者。
山奥さん。
各国の均衡を管理する存在。
そんな人間が今は窓際に座っていた。
数日前。
各国巡回の途中で倒れた。
だが、山奥さんは仕事を辞めなかった。
本人は認めていないが、誰が見ても過労だった。
「珍しいですね」
声がした。
薬草を抱えた女性が立っている。🌿
まなつさんだった。
「天衡舘の人が倒れるなんて」
「倒れたわけではない」
「過労です」
「違う」
「皆そう言います」
まなつさんは笑った。
山奥さんは黙った。
言い返せなかった。
「薬です」
小さなカップが置かれる。
「苦そうだ」
「苦いですよ」
「飲みたくない」
「子どもですか?」
「違う」
少しだけ笑い声が漏れる。
その笑い声に、山奥さんは少しだけ驚いた。
いつから、自分はこうして誰かと話すようになったのだろう
夜。🌙
目を覚ますと、奥に明かりが見えた。💡
近づく。
まなつさんが机に向かっていた。
薬草が並んでいる。
細い指先で薬を作っていた。
「まだ起きていたのか」
まなつさんは顔を上げる。
「あ、ごめんなさい」
「あと少しだけなんです」
そう言って笑う。
山奥さんは黙っていた。
指先が少し震えていた。
顔色も良くない。
笑っている。
でも疲れている。
その瞬間だった。
なぜか、視線が離れなかった。
無理をしている。
なぜか、そんな考えが浮かんだ。
国ではない。
制度でもない。
目の前の、この人が……。
「休め」
少し強く言っていた。
まなつさんは驚いた顔をする。
「……優しいんですね」
山奥さんは答えられなかった。
優しい。
そんな言葉を言われたことがなかった。

翌朝。
山奥さんは治療室の外に立っていた。
腕を組み、何かを考えている。
まなつさんは不思議そうに見る。
「どうしたんですか?」
山奥さんは数秒考えた。
「もし、自由に住む場所を選べるなら……君はどこへ行く」
まなつさんは少し驚いたあと、小さく笑った。
「急ですね」
少しだけ考える。
「水の国かな」
「どうしてだ」
「好きな人と、幸せに暮らしたいからです」
山奥さんは黙る。
まなつさんは笑った。
「私の行きつけのお店には絵が飾られているんです」🖼️
「コンテストで一位になった、おにぎりの絵。」🍙✨
「あの絵が、人を呼ぶんです。」
「帰った時に『おかえり』って思える場所なんです。」
風が通り抜ける。
山奥さんは静かに水面を見た。
その時、自分の胸の中で何かが少しだけ動いた気がした。
世界の均衡ならすぐ答えられる。
でも今は違う。
「……君は休みの日、何をしている」
「ふふふ」
まなつさんは少し笑った。
「散歩とか、本を読んだりですかね」
「あと、水の国へ絵を見に行ったり」
「和田さんと食事したり」🍽️
「好きなんです。あそこって、心まで静かになる感じがして」
山奥さんは少し黙った。
「……和田さんとは、よく会うのか」
「はい。時々ですけど」
「優しい方ですから」
山奥さんは湖へ視線を向けた。
「……そうか」
短い返事だった。
その横顔を見つめながら、まなつさんはふっと笑う。
「もしかして……少しだけ気になりました?」
「違う」
間髪入れずに返事が返ってきた。
「ふふふ」
「でも、山奥さんだってカワムラさんと仲が良いじゃないですか」
山奥さんは一瞬だけ言葉を失う。
「……それと、これとは違う」
「何が違うんですか?」
「……説明は難しい」
その不器用な返事に、まなつさんは思わず笑った。
山奥さんも小さく息をつく。
「……少しだけ、気になっただけだ」
春の風が二人の間をやさしく通り抜けた。
「なら、行くか」
「……え?」
「君も療養中だろう」
「私も治療中だ」
「休息は必要だ」
「効率は悪くない」
沈黙。
数秒後。
まなつさんは吹き出した。
「ふふ……」
「何だ」
「それって誘ってます?」
山奥さんは完全に止まった。
数秒。
さらに数秒。
「……そうなるのか?」
森の国に笑い声が響いた。
数日後。
二人は水の国へ来ていた。

湖の上には長い橋が浮かび、水路の脇には小さな店が並んでいる。
風は静かで、川の音だけが聞こえていた。
人々も急いでいない。
誰も焦っていない。
ただ静かに時間を過ごしていた。
「不思議ですね」
まなつさんが言う。
「何がだ」
「頑張り続けなくてもいい場所って」
山奥さんは周囲を見る。
「皆、なぜそんなに急がないんだ」
まなつさんは笑った。
「急がない時間を大切にしてるんですよ」
「何もしないことをしてるんですよ」
山奥さんは理解できなかった。
自然の力か……。
水路の脇には、小さな灯りが水面に映っていた。
船は静かに流れていく。
この世界では、それが当たり前で不思議な心地よさがあった。
皆が急がない。
誰かと競わない。
ただ、ゆっくり時間を過ごしている。
まるで大人だけが、貴重な時間を満喫している国みたいだった。
まなつさんは橋の手すりに触れながら、小さく笑った。
まなつさんの耳にはイヤリングが揺れていた。
昼に見た彼女とは違う静けさが、その横顔にあった。
「時間が止まるような気がして、好きなんです」
「……なぜだ」
「水の国って穏やかで、時間もゆっくり流れている気がするから」
「頑張り続けなくても、少しだけ休んでいい気がするんです」
「立ち止まる時間も、悪くないって思えるんです」
山奥さんは黙った。
隣を見た。
笑っていた。
春の風が髪を揺らしていた。
その顔を見て思った。

世界を守ることは知っている。
でも、この人の隣にいる時間だけは、どうしてこんなにも静かなんだろう。
守りたい。
理由はまだ、自分でも分からなかった。
なぜか、まなつさんを放っておけなかった。
行きつけの店に立ち寄り、二人は並んで、おにぎりの絵を眺めていた。
隣では、一人の女性が絵を見つめている。
腰には、小さなハサミが揺れていた。
「金色に塗ってもいいですよね」
女性が優しく尋ねる。
何処かで見たような気がした。
まなつさんは微笑んだ。
「もちろんです。ゴールドが好きなので、むしろそうしていただけたら嬉しいです。」
壁には、さまざまな絵が飾られていた。
かわいい絵。
かっこいい絵。
思わず笑ってしまう絵。🖼️
それぞれに、描いた人の想いが宿っている。
山奥さんは静かに店内を見渡した。
「……ここは、癒やしの場所なのかもしれない」
その一言に、まなつさんは嬉しそうに頷いた。
店を出ると、春の風が二人をやさしく包み込む。
花びらは静かに舞い、水の国の時間は今日もゆっくりと流れていた。
外では春の風が吹いている。
花びらが静かに舞っている。
その頃、遠く離れた場所でJAU・ゴールドは各国巡回を続けていた。
誰もまだ知らない。
世界を動かしてきた男が。
たった一人の人間に、心を動かされていたことを。
春の風は、静かに誰かの世界を変え始めていた。
(山奥さん編 第8話 終)

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noterゆらり(ゴールド|境界の国)🪶
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