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”配慮”ではなく Part 2 ~特性の正しい理解と適切な対応を~

Part 1からの続きです。


厚意と善意が苛む逆説

 社会モデルとしての障害理解がある職場の場合です。上司、同僚もaccommodationを理解して環境調整に協力的。むしろ職場は厚意と善意に満ちている。
 ところが、そのような職場にあっても、なお、苦しんでいる人がいる。一体、どういうことか?それは、環境調整により、順調に就労できているけれども、同僚からの”気遣い”に追い詰められてしまうパターンです。説明が必要ですね。
 例えば、同僚が声をかけてくれる。職場で孤立しないように気遣ってくださっているのでしょう。それは大変ありがたいことです。しかし、当人にしてみれば、声をかけられてもどのように受け応えすれば良いのかわからない、戸惑ってしまうのです。対人スキルの低下という障害特性のために起こる現象です。
 帰り支度の際、残した作業がないか、ミスはないか、忘れ物がないか、必死にチェックしているときに、親しげに声をかけられてパニックに陷ることもあります。注意のリソースが限られているために、複数同時対応(業務の完了のチェック・帰り支度と、障害のために苦手になってしまった対人対応を同時に進める)ができないのです。注意のリソースを使い切ったところでフリーズしてしまうと言えばわかりやすいかな。このような場合、静かにそっと、見守っていただけると良かったですね。
 環境調整の時点で上司・同僚にはこの点もご説明し理解を得ているのだけれど、高次脳機能障害は外見からはわかりにくい障害、多くの方は”見た目は普通”だから、周囲はつい、”普通に”接してしまう。つまりその方の障害特性を失念しがちです(*)。
*逆に、障害者と聞くと、障害だけに目がいきがちになる点にもご留意ください。障害はその人の人生の一要素にすぎません。障害者である前に一人の個人なのですから。
 こんなケースもありました。今日は別室に移動しての会議の予定。ところが、当日、同僚が”気遣って”くれて、移動せずに自席でミーティングできるようにスケジュールを変更してくれた。しかし、”部屋を移動して会議に出席する”ために、前日から綿密に周到に準備してきた。移動するスケジュールを完璧に作って出勤したところ、急な予定変更に対処できずパニックに陥った。急な予定変更など予定外の突発する事態に対処できないという障害特性のためです。できるだけ予定通り、急な変更や突発的な事態を避けられると、落ち着いて業務を遂行できるでしょう。
 上司や同僚は、なにかにつけ気遣ってくれるのだけれど、その”気遣い”が、障害特性とマッチしないために、かえって本人を追い詰めてしまうことがある、そのような実態をご理解いただけるとよい。

配慮ではなく、特性の正しい理解と適切な対応を

 要は、周囲の人達の気遣いは大変ありがたいけれども、せっかくの気遣いが、当人が望む”対応”とはずれていることがストレスを引き起こしているということでしょう。
 周囲の方に望むことは、まず、当人の特性を正しく理解していただくこと、そのうえで、適切な対応をしていただくことです。これがaccommodationです。私達は属人的な”配慮”を求めているのではありません。
 周囲の方々は「”障害のある方”だから困っているだろう。」と、”察して”、”気遣い”をしてくださっていることはよく理解しています。感謝しています。でも、障害と言っても内容はさまざま、特性は人それぞれです。
 ある方が”障害”という言葉からイメージする内容が、私達の高次脳機能障害という状態と一致するとは限りません。一般に障害者と言われて思い浮かべるイメージは、例えば車椅子を使っている人であったり、あるいは、白杖を持っている人であったり、それぞれのイメージがあるのではないでしょうか。それぞれの人が持つ”障害””障害者”のイメージから、私達の高次脳機能障害の困りごとを察して(推測して)、何かと配慮してくださっている。そのような状況があるように思います。ありがたいことです。しかしそれはあくまでそれぞれの方の思い浮かべる障害像であって、かならずしも、当事者が求めている対応、障害特性にマッチした対応とは限らないのです。

具体的明示的に

 我々支援者は、障害という抽象的な表現ではなく、本人の特性を具体的に職場や周囲の人に伝え、それに対する適切な対応方法を周囲に指導していく姿勢が大切です。
 「障害に対応してください。」といった抽象的表現にとどまらず、その「障害」の内容、その人の特性とそれに対する適切な対応方法を具体的明示的に伝えていく。その特性に対して、周囲の人(環境側)に”特性の正しい理解と適切な対応”をしていただくことです。個人的属人的な”配慮”や”気遣い”、”思いやり”ではないことを理解していただくことが必要なのです。

ワーディングが招く誤解を超えて

 現在、すでに”合理的配慮”という言葉は一定の市民権を得ており、筆者としては、この言葉を使うのをやめようと言っているわけではありません。言葉狩りをしようというのではないのです。
 ワーディングは行動を規定します。合理的”配慮”という言葉遣いが、本来の”調整”ではなく、個人的属人的な”気遣い”をイメージさせる結果、周囲の人の行動を規制してしまう。この記事では、そのリスクを指摘しておきたいだけです。
 合理的配慮という日本語訳が持つイメージと原語であるaccommodationの本来の語義である”調整”とのズレを意識し、合理的配慮という言葉の指し示す実態が、環境調整・設定・構造化であることが社会に正しく理解されることを願っています。それが、特性の正しい理解と適切な対応の実践であり、結果として、誰もが参加できる社会に変わっていく道筋だと考えているのです。

付記

*狭義の”合理的配慮義務”からは離れますが、”気遣いのすれ違い”は配偶者や家族間でも見られる事象です。いや、むしろ、親密な間柄だからこそ、愛情があるからこそ、かもしれません。
 厚意と善意、愛情からの気遣いがかえってストレスになってしまう。そのような場合は、要望を具体的明示的に伝えて、お互いの望ましい対応になるようすり合わせることが、ストレスなく、日々、ハッピーに過ごすコツと言えます。

*厚意と善意による配慮に基づくストレスの話はわかりにくいかもしれません。フランスのTVドラマ「アストリッドとラファエル」は、自閉症の犯罪学者アストリッドと対照的な性格のラファエル警視のコンビが難事件怪事件を解決する推理ドラマ。
 ラファエル警視の"善意の気遣い”が、徐々に”特性の正しい理解と適切な対応”変わることにより、アストリッドが”参加”と”自立”に向かうプロセスが描かれています(特に第一シーズンの全10話)。筆者がそのような眼でみているから、そう見えるだけかもしれないけれど、ご覧になるとこの記事の理解の助けになる、かもね。

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