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「最近ボーっとしている」は薬のせい?—抗コリン薬が認知FIMを下げる理由

この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮しています。

薬剤師がFIMを動かすシリーズ #3

「名前が出てこない」
「今日の日付がわからない」
「トイレの場所を間違える」

こうした症状が、
リハビリ期間中に目立ってくることがあります。

実際に、PT・OTそしてSTさんからも、

「最近、指示が入らないんだよねー・・・。なんでだろう?」
「最初のころはもっと指示が入っていたと思うんだけど・・・」

と、相談とまではいかない
情報共有がくることがあります。

「認知症が進んでいるのかも・・・」

そう思われがちですが、
その前に確認してほしいのが
抗コリン薬の使用状況です。

前回の記事では、睡眠薬による過鎮静とFIMへの影響を取り上げました。

今回は、認知FIMに直結する
「抗コリン作用」
に焦点を当てて、
薬剤師としての評価と、
介入のポイントをまとめてみようと思います。



■ 抗コリン作用とは?

抗コリン作用とは、
神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑える作用です。

アセチルコリンは、
脳内で記憶・学習・注意力などの
認知機能に関与する
重要な神経伝達物質です。

そのため、抗コリン作用のある薬を使うと、
次のような症状が現れてくることがあります。

認知症の悪化と思われやすい、抗コリン作用による影響
  • 記憶障害(新しいことを覚えられない)

  • 注意力低下(集中できない、ぼんやりする)

  • 見当識障害(時間・場所が分からなくなる)

  • 実行機能障害(計画立てや判断が難しくなる)

これらはすべて、
FIMの認知項目(理解・表出・社会的交流・問題解決・記憶)に直結する症状です。


■ どの薬が抗コリン作用を持つのか?

回復期リハ病棟でよく見る抗コリン作用を持つ薬を、作用の強さとともに整理してみましょう。

① 強い抗コリン作用を持つ薬(要警戒!)

  • 抗パーキンソン薬:アーテン(トリヘキシフェニジル)、アキネトン(ビペリデン)など

  • 過活動膀胱治療薬:ベシケア(ソリフェナシン)、ポラキス(オキシブチニン)など

  • 第一世代抗ヒスタミン薬:レスタミン(ジフェンヒドラミン)、ポララミン(d-クロルフェニラミン)など

② 抗コリン作用を「サブ的」に持つ薬(見落とし注意!)

本来の目的は抗コリン作用ではないものの、
副次的に強い作用を持つグループです。

  • 三環系抗うつ薬:トリプタノール(アミトリプチリン)、アナフラニール(クロミプラミン)など

  • H2受容体拮抗薬:ガスター(ファモチジン)など(特に高齢者で認知機能低下が報告されています)

ざっくりまとめるとこんな感じ。

■ 認知FIMへの影響

日本病院薬剤師会のガイドラインでも、
「抗コリン負荷(Anticholinergic Burden: ACB)」が紹介されています。

一つひとつの薬の作用は弱くても、
それらが重なる(重複する)ことで認知機能に深刻な悪影響を及ぼすという考え方です。

回復期リハでの認知FIMへの影響は次の通り。

  1. 「問題解決」の低下:リハのスケジュールや更衣の手順が覚えられない。

  2. 「社会的交流」の低下:会話が噛み合わない、感情が不安定になる。

  3. 「表出・理解」の低下:自分の意図を伝えられない、セラピストの指示が伝わらない。


■ 入院時に薬剤師が確認すること

薬剤師が関与すべきチェックポイントを整理すると、次の3点かなと思います。

① ACBスコアの意識

複数の抗コリン薬が
併用されていないかをチェック。
特に「胃薬(H2ブロッカー)」「鼻炎の薬」
「過活動膀胱」
の組み合わせはあるあるです。

私がよく遭遇するのは、過活動膀胱の治療薬。
入院前から何年も(一番長かったのは10年以上!)継続されているケースもあります。

最近では抗コリン作用の少ない薬もありますが、
長期にわたり飲んでいる場合は、やはり抗コリン負荷の高い薬が多い印象です。

② 認知症治療薬との競合

アリセプト(ドネペジル)などの
コリンエステラーゼ阻害薬を飲んでいる一方で、
抗コリン薬を飲んでいるという「打ち消し合い」
が起きていないか確認しましょう。

イメージするとこんな感じ。
「増やす」と「ブロックする」の綱引き状態

③ 急性期からの漫然投与

急性期での一時的な興奮や頻尿に対して開始された薬が、そのまま継続されていないか確認が必要です。

  • 膀胱留置カテーテルが抜けた後も、評価なしで抗コリン薬が続いている

  • 急性期でのせん妄状態に一時的に開始した抗精神病薬が、落ち着いた今も継続されている

このような状況は、たまに遭遇します。


■ 医師への提案例

抗コリン薬の影響が疑われるとき、
私は次のように提案しています。

「患者さんに認知FIMの伸び悩みが見られます。
服用中の〇〇(抗コリン薬)が
ACBスコアを高めており、
認知機能に影響している可能性があります。
より抗コリン作用の少ない△△への変更、
または中止を検討することで、
認知FIMの改善が期待できると考えられます。」

「FIMが〇点上がった!」という華々しい結果はまだ経験していませんが、それでも「なんか最近オーダー入るようになったよね♪」というリハさんからの声をきいたときは嬉しくなりました。

でも、治療上中止できないこともあります。
提案しても、すべてが通るわけではありません。

それでも、患者さんを継続的にみていくなかで
いつかくる見直しのタイミングを計ることは、
とても大切だと思っています。

セラピストや看護師の声をききながら、
少しずつ進めてみましょう。

■ まとめ

  • 抗コリン薬は脳内のアセチルコリンを抑え、認知FIMをダイレクトに下げる。

  • ACB(抗コリン負荷)の視点を持ち、薬の「重複」を見つけるのが薬剤師の役割。

  • アリセプト等との「作用の競合」は必ずチェックする。

  • 医師には「認知症の進行」ではなく「薬剤性の可逆的な低下」として提案する。

「最近ぼーっとしている」
その原因が薬であれば、
改善できる可能性があるかもしれません。

次回(#4)は、リハビリを物理的に止めてしまう「薬剤性下痢(PPI等)」について解説します。

▶︎リハ薬剤についてのシリーズはこちらから


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