見出し画像

その傾眠、睡眠薬のせいかも—回復期薬剤師が見る過鎮静とFIM

この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮しています。

薬剤師がFIMを動かすシリーズ #2

午前のリハビリが始まる時間なのに・・・

受け答えがはっきりしない。
うまく動けない。
体に力が入らない。

PTからこんな風に相談されたことはありませんか?

「最近眠そうにしていることが多いんですよね。
なんかボーっとしているし」

その傾眠、睡眠薬の副作用かもしれません。

「リハ薬剤」の視点からいうと、
過鎮静は「FIMが動かない」最大の隠れた原因のひとつです。

今回は、回復期リハ病棟で特に頑繁に遷遇する
「睡眠薬による過鎮静」に絞って、
薬剤師としての見方と、
介入のポイントを整理してみようと思います。



■ なぜ睡眠薬が問題になるの?

回復期リハ病棟に入院してくる患者の多くは、
急性期病院または在宅からの移行です。

環境や病状の変化からくる「不眠」への対処として、急性期で開始された睡眠薬が、そのまま継続されていることは少なくありません。

日本病院薬剤師会の「回復期病棟における薬剤師のためのかかわり方ガイド(2024年)」でも、
回復期病棟に入院する患者は平均7種類以上の薬剤を服用しており、催眠鎮静薬・抗不安薬はPIMs(潜在的に不適切な薬物)として使用頻度が高い薬剤のひとつとして挙げられています。

https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20240201-1.pdf

夜にしっかり睡眠をとって、
日内リズムを整えることはもちろん大事。
そのために睡眠薬を使用することも必要です。

問題は、
「夜、眠れればいい」という目的で出された薬が、翌朝のリハビリ時間まで残ってしまうこと。


■ 薬の種類と「リハへの影響度」

睡眠薬にはいくつかの種類があります。
回復期の文脈でリハへの影響が特に大きいのは次の2系統です。

多くの薬が、持ち越しや過鎮静の原因となります。

① BZD系・BZD受容体作動薬(いわゆるベンゾジアゼピン系・類似薬)

代表薬としては次のようなものがあります。

  • ハルシオン(トリアゾラム)レンドルミン(ブロチゾラム)=BZD系

  • マイスリー(ゾルピデム)=非BZD系

  • デパス(エチゾラム)=BZD系と同様の作用 など

これらは最も問題になりやすいグループです。
デパス(エチゾラム)は厳密にはBZD系とは異なる構造(チエノジアゼピン系)ですが、GABA受容体への作用は同等。

実務上はBZD系と同様のリスクがあると考えていいと思います。

マイスリー(ゾルピデム)は非BZD系ですが、
同じGABA受容体に作用するため、
高齢者での持ち越し・筋弛緩のリスクに差はありません。

GABA受容体に作用することで
鎮静・催眠効果を発揮しますが、
筋弛緩作用・記憶障害・翌朝への持ち越し
(持越し効果)が問題になります。

特に高齢者では薬の代謝が遅いため、
翌朝のリハビリ時間に
まだ薬効が残っていることも多々あります。

日本睡眠学会も、BZD系は「高齢者では認知機能低下、健忘、転倒・骨折などの副作用があるため第一選択薬から除外されている」と明記しています。


② 抗ヒスタミン系(OTC・一部処方薬)

代表薬:レスタミン(ジフェンヒドラミン)など

風邪薬や市販の睡眠補助薬に含まれる成分で、
強い眠気を引き起こします。

入院中に市販の薬を使うということはあまりありませんが、
注意はしておきたいですね。


■ 過鎮静がFIMに与える影響

回復期リハ病棟薬剤師のかかわり方ガイドでは、
「不眠のタイプに対して適正な睡眠剤の使い分けができておらずリハビリテーション中に傾眠を訴えるケース」がリハの進行を妨げるパターンとして明示されています。

過鎮静がFIM低下につながるメカニズムは
主に3つ。

  • 訓練参加の質低下:傾眠により集中力が落ち、PTの指示が入りにくくなる

  • 転倒リスクの上昇:ふらつき・筋弛緩により、歩行訓練が安全に行えない

  • 活動量の低下:午前中のリハを途中で切り上げる、自主練習ができない

過鎮静は、
FIMの「移動」「認知」の両方を同時に下げる。
だからこそ、薬剤師が早期に気づくことが大事。

これらが重なることで、
FIMの移動項目・認知項目の両方が
伸び悩む状況が生まれます。


■ じゃあ、薬剤師はどう評価するか

私が入棟時に特に意識して確認するのは、
次の4点です。

① 薬の種類と半減期

半減期が長いほど
翌朝への持ち越しが起きやすい。
超短時間型(ハルシオン)でも
高齢者では要注意。

② 服薬タイミングと覚醒時間の関係

就寝前に服用している薬が、
午前のリハ開始時間(9時前後)に
まだ残っているかどうかを時系列で確認する。

③ 使用期間と量の変化

急性期からそのまま継続されている
ケースが多く、
増量されていないか確認が必要。

④ PT・看護師からの情報

「リハ中に眠そう」
「夜間は寝ているのに朝起きられない」
という情報は、過鎮静を疑う重要なサイン。

患者からだけでなく、他職種の「眠そう」を拾おう。

■ 医師への提案—「リハの言語」で伝える

過鎮静が疑われるとき、
私が心がけている伝え方を紹介します。

「副作用が出ています」
→ではなく、

「この患者さん、午前のリハで傾眠が続いています。この睡眠薬の持ち越し効果が影響している可能性があります。服用タイミングを早める、または半減期の短い薬に変更することで、FIMの改善につながる可能性があると思います」

具体的な代替案まで
一緒に提案するのがポイントです。

たとえば、

  • BZD系→オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ・デエビゴ)への切り替え提案

  • 就寝前21時服用→19〜20時に早める提案(翌朝の持ち越しを減らす) 

  • 原則「頓用化」を提案し、連日投与から離脱できるか検討

これらは一つの案です。
施設や患者さんによって、
最適な方法を模索することが必要だと思います。

2026年改定で
FIM利得の経営的重要性が増した今、
「この一手でFIMが動く可能性がある」
という伝え方は
以前より届きやすくなっています。

よく遭遇する状況別に、
医師への提案フレーズをまとめました。

明日からそのまま使える形で並べているので、
必要な場面でぜひ拾ってみてください。

医師への提案フレーズ集—「リハの言語」で伝える

このフレーズは「副作用」ではなく
「FIM改善の機会」として伝えるのがポイント

医師は「リハを進める味方」として、
薬剤師の提案を受け取りやすくなります。


■ まとめ

  • 回復期リハ病棟での傾眠は、睡眠薬の過鎮静が原因のひとつとして必ず疑うべき

  • BZD系・非BZD系は高齢者で持ち越し効果・筋弛緩・認知機能への影響があり、PIMs筆頭格

  • 過鎮静はFIMの移動項目・認知項目の両方を抑制する

  • 介入の鍵は「半減期の確認」「タイミングの見直し」「オレキシン受容体拮抗薬への切り替え提案」

  • PTや看護師からの「眠そう」という一言を、薬と結びつけられるのが薬剤師の役割


「眠そうですね」
この一言を、私はとても大事にしています。

PTさんや看護師さんが何気なく口にする
「最近眠そう」
「ボーっとしている」
—これは、薬剤師にとって
過鎮静を疑う最も重要なサインです。

リハ職や看護師は、
患者さんの覚醒度を一日中、
最も近くで観察しているプロフェッショナル。

その観察を「薬と結びつける」のが、
薬剤師の仕事だと思っています。

回復期リハ病棟は、薬を「足す」場所ではなく、
リハの効果を最大化するために
薬を「見直す」場所。

特に睡眠薬は、
急性期から漫然と続いていることが多く、
退院後の在宅生活にも
そのまま持ち越されやすい薬剤です。

今このタイミングで一度立ち止まり、
「この薬、本当に今の患者さんに必要か?」
と問い直すことが、FIMだけでなく、
退院後の転倒予防・認知機能の維持にもつながっていきます。

この記事は薬剤師に向けて書いていますが、
PT・OT・ST、看護師のみなさんにも、
ぜひ「眠そう」のサインを
薬剤師に届けてもらえたらうれしいです。

チームで「FIMを動かす」ために、
薬の視点をもう一つ仲間に加えてみてください。

次回(#3)は「抗コリン薬と認知FIM」に絞って解説しようと思います。


▶回復期リハ薬剤の実践ノートはマガジンにまとめています。
よかったら読んでみてください。

いいなと思ったら応援しよう!

ママ薬剤師HONO よろしければ応援お願いします!いただいたチップはオロナミンCの購入費としてモチベーションと活力アップに使わせていただきます✨